高知県公文書開示審査会答申第171号

公開日 2012年10月03日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第171号

諮問第171号


第1 審査会の結論

 教育委員会が「高知地方裁判所平成22年6月18日判決書 高松高等裁判所平成22年11月8日判決書」について非開示とした部分のうち、原告の年齢、原告の生年、講師の生年を非開示とした決定は妥当である。

第2 異議申立ての趣旨

 本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成23年10月3日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「高知地方裁判所平成22年6月18日判決書 高松高等裁判所平成22年11月8日判決書」(以下「本件公文書」という。)の開示請求に対し、教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成23年10月11日付けで行った部分開示決定のうち、原告の年齢、原告の生年、講師の生年を非開示とした決定の取消しを求めるというものである。

第3 実施機関の部分開示決定理由等

 実施機関が決定理由説明書及び意見陳述で主張している本件部分開示決定理由等の主な内容は、以下のように要約できる。
1 本件部分開示決定の理由
(1) 条例第6条第1項第2号該当について
講師の生まれた年については、学校が出している学級通信や教員紹介などの文書から、講師を特定することができる可能性がある。近年の中学校は地域に開かれた学校を目指しており、それらの文書を広く公開しており、また、市町村教育委員会などにおいて掲示されている。そのことから、講師が特定されると原告が通う中学校が特定され、原告の年齢から学年が特定されると、学級数が少ない学校では、保護者など学校に関係する者であれば、開示した情報とあわせることで、原告を特定される可能性があるため、これは条例第6条第1項第2号ただし書のいずれにも該当せず、非開示とする。
(2) 裁判所での訴訟記録の閲覧について
裁判所の訴訟記録の閲覧については、閲覧を希望する事件の事件番号や当事者名で特定していなければ、閲覧を拒否され、また、裁判所での訴訟記録の閲覧が閲覧請求権の濫用として拒否される場合があることから、条例第6条第1項第2号ただし書ア「法令により何人も閲覧できるとされている情報」には該当しないため、非開示とする。

第4 異議申立人の主張

 異議申立人が異議申立書及び意見書で主張している本件異議申立ての主な内容は、以下のように要約できる。
1 条例第6条第1項第2号本文該当性について
(1) 非開示部分のうち、原告の年齢、原告の生年、講師の生年について、これらを開示することによって個人が識別できるとは言えない。他の非開示処分と併せれば、原告の年齢、原告の生年、講師の生年のみ開示しても、そのような情報によって特定の個人を識別できるとは言えない。
(2) そして、上記の情報は、本件公文書(中学校の生徒が講師からみだらな性行為を受けたことの慰謝料請求を一部認容した民事訴訟判決の判決書)の事例判断として有する価値に含まれる。すなわち、上記判決においても、原告の年齢を慰謝料の要素として考慮しているし、講師の生年や両者の年齢差も慰謝料の事情として考慮されていると考えられるので、これらを非開示とすることは、本件公文書の価値を低下させるものである。したがって、本件公文書の価値を維持する上でも、上記の非開示部分については開示されるべきである。
2 ただし書該当性について
(1) ただし書アに該当すること
ア 該当性
本件公文書は、民事訴訟の判決なので、民事訴訟記録として、何人も閲覧できる(民事訴訟法(平成8年法律第109号。以下「法」という。)第91条第1項)。したがって、条例第6条第1項第2項ただし書アの「法令等の規定により何人も閲覧できるとされている情報」に該当する。
イ 決定理由の説明内容
この点、決定理由説明書では、(1)閲覧を希望する事件の事件番号や当事者名で特定していなければ閲覧を拒否される、(2)訴訟記録の閲覧が閲覧請求権を濫用として拒否される場合がある、ことを理由にただし書アに該当しない旨説明するが、失当である。
ウ 説明内容は根拠がないこと
まず、「法令等の規定により何人も閲覧できるとされている情報」であっても、閲覧のために対象を特定する必要があるのは当然である。これは閲覧を拒否されるかどうかという問題ではなく、閲覧の手続きとして対象を特定する必要があるというだけの問題である。閲覧する対象を特定できない場合には、いかなる文書を閲覧させればいいのか不明なのだから、文書保管者において閲覧させようがないというだけの話であり、拒否されるわけではない。
次に、裁判所の訴訟記録の閲覧が閲覧請求権の濫用として拒否される場合があるというが、法の規定上そのような制限は一切無い(法第91条)。明らかに閲覧請求権の濫用と認められるときは閲覧を拒むことができるという見解も存在はするが、閲覧の理由を明らかにする必要がない以上、閲覧請求権の濫用を理由とする拒絶はほとんど不可能であるし(秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法2』(日本評論社、第2版、2006年)223頁)、そのような例外は法に規定されていないので、「法令等の規定により何人も閲覧できるとされている」ことに変わりはない。また、明らかに閲覧請求権の濫用と認められるときは閲覧を拒むことができるという見解も、具体的に想定しているのは「不必要に大部なまたは多数の謄本や証明書を請求し、特にこれを訴訟追行以外の他の目的(たとえば広告、選挙運動)のために使用しようとする場合」である(兼子一ほか『条解民事訴訟法』(弘文堂、第2版、平成23年)376頁)。本件の請求はそのようなものではないので、この点でも当たらない(付言すれば、本件の開示請求は異議申立人の業務の参考及び研究のためであり、みだりに他人に見せる意図はない。)。
(2) ただし書イに該当すること
また、民事訴訟の判決言渡しは公開の口頭弁論期日で行われ(日本国憲法(昭和21年憲法。以下「憲法」という。)第82条第1項)、判決言渡しは判決書に基づいてなされる(法第252条)。したがって、判決書である本件公文書は、公表を目的として作成されたものだから、そこに記載された各非開示情報も、「公表を目的として作成した情報」として条例第6条第1項第2号ただし書イにも該当する。

第5 審査会の判断

1 本件公文書について
本件公文書は、平成20年10月11日付けで中学生に対するみだらな行為等を行った公立中学校臨時講師に係る懲戒処分がなされた事件に関わり、女子生徒及びその母親が原告となって高知県に対して損害賠償請求を求め、それに対して下された2つの判決、すなわち(1)高知地方裁判所平成22年6月18日判決、(2)高松高等裁判所平成22年11月8日判決の判決書である。本件開示請求に対して実施機関は、部分開示をしたが、異議申立人はその非開示とされた部分のうち、中学生である原告の年齢、原告の生年、講師の生年の開示を求めている。
2 条例第6条第1項第2号該当性について
(1) 条例第6条第1項第2号本文該当性について
条例第6条第1項第2号本文は、個人に関する情報であって、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができると認められるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」については、本号ただし書に該当する場合を除き非開示とすることを定めている。
本件公文書には、事件当時中学生であった原告が、臨時講師からみだらな行為を受けた内容及びその周辺情報が詳細に記載されており、原告を特定できる可能性のある情報は、秘匿する必要性が極めて高いことから、非開示とされる条例第6条第1項第2号の個人情報への該当性を検討する際には、被害者、関係者の利益を十分配慮し、より慎重な判断が求められる。原告の年齢、原告の生年が開示されれば、本件公文書に詳細に記載された他の情報と照合することにより、原告が特定される可能性がある。
また、講師の生年については、本件公文書に詳細に記載された他の情報と照合することにより、また、実施機関が主張するように、公開されている学校の学級通信や教員紹介などの文書から、講師が特定される可能性がある。
そして、講師が特定されれば、原告が通う中学校が特定され、学級数が少ない学校では、保護者など学校に関係する者であれば、原告の年齢・生年が開示されると、原告が特定される可能性が否定できない。
よって、原告の年齢、原告の生年、講師の生年は、条例第6条第1項第2号の特定の個人を識別することができると認められる情報に該当する。
(2) 条例第6条第1項第2号ただし書該当性について
条例第6条第1項第2号ただし書ア及びイは、「法令等の規定により何人も閲覧できるとされている情報」、「公表を目的として作成し、又は取得した情報」については、個人に関する情報であっても、個人のプライバシーを侵害しないことが明らかな情報として、開示することを定めている。
実施機関は、裁判所の訴訟記録の閲覧については、閲覧を希望する事件の事件番号や当事者名で特定していなければ、閲覧を拒否され、また、裁判所での訴訟記録の閲覧が閲覧請求権の濫用として拒否される場合があることから、条例第6条第1項第2号ただし書ア「法令により何人も閲覧できるとされている情報」には該当しないため、非開示とすると主張する。
一方、異議申立人は(1)閲覧する対象を特定できない場合には、文書保管者において閲覧させようがないというだけで、拒否されるわけではない。(2)法には、裁判所の訴訟記録の閲覧を閲覧請求権の濫用として拒否できると規定されていないので、「法令等の規定により何人も閲覧できるとされている」ことに変わりはない。(3)本件公文書は民事訴訟の判決なので、民事訴訟記録として何人も閲覧できる(法第91条第1項)ため、条例第6条第1項第2項ただし書アの「法令等の規定により何人も閲覧できるとされている情報」に該当し、また民事訴訟の判決言渡しは公開の口頭弁論期日で行われ(憲法第82条第1項)、判決言渡しは判決書に基づいてなされる(法第252条)ため、判決書である本件公文書は、公表を目的として作成されたものだから、そこに記載された各非開示情報も「公表を目的として作成した情報」として条例第6条第1項第2号ただし書イにも該当すると主張しているので、以下この点について検討する。
憲法第82条は、裁判の公開に関する規定であり、同条第1項において、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と規定している。また、法第91条は訴訟記録の閲覧等に関する規定であり、同条第1項において、「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。」と規定している。
しかし、訴訟記録の閲覧は、法第91条第2項において、「公開を禁止した口頭弁論に係る訴訟記録」は、当事者及び利害関係者に限って閲覧を請求することができ、同第92条第1項において、「訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」場合等については、閲覧又は謄写の請求は当事者に限定されている。
また、情報公開制度上においては、公開決定された公文書は閲覧または視聴にとどまらず、その写しの交付を受けることができるところ、裁判所での訴訟記録の謄写については、法第91条第3項において、「当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、訴訟記録の謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は訴訟に関する事項の証明書の交付を請求することができる。」と規定していることから、当事者及び利害関係人以外の第三者は、訴訟記録の謄写等を認められてはいない。
以上のことから、法第91条等の規定があるからといって、条例第6条第1項第2号ただし書ア及びイに該当するとは言い難い。
よって、非開示とした原告の年齢、原告の生年、講師の生年は、条例第6条第1項第2号本文に該当し、かつ、ただし書のいずれにも該当せず、異議申立人の主張は認められない。
3 本件公文書には、本人にとって秘匿性の高い情報が具体的で詳細に記述されている。よって、今後、同様の公文書における条例第6条第1項第2号の個人情報への該当性の検討の際には、より慎重に判断することを当審査会として具申する。

第6 結論

 当審査会は、本件部分開示決定について以上のとおり検討した結果、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断したので、答申する。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成23年11月1日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成23年11月8日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。
平成23年11月11日

・ 異議申立人から異議申立一部取下書を受理した。

平成23年12月16日
(平成23年度第3回第二小委員会)

・ 実施機関から意見聴取を行った。諮問の審議を行った。
平成24年1月11日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。

平成24年2月13日
(平成23年度第5回第二小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年3月23日
(平成23年度第6回第二小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年4月23日
(平成24年度第1回第二小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年5月14日
(平成24年度第1回公文書開示審査会全体会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年6月26日
(平成24年度第2回公文書開示審査会全体会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年7月10日
(平成24年度第3回公文書開示審査会全体会)

・ 諮問の審議を行った。
平成24年7月24日 ・ 答申を行った。

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