たい肥のススメ

公開日 2021年06月08日

1 たい肥とは

 たい肥とは、一般に、植物や樹木、食品の残渣(生ゴミなどを含む)のほか、家畜排せつ物などの有機物を微生物により発酵等の反応を経て完全に分解した産物で、その分解過程をたい肥化と言います。
 たい肥は、主に従来から米や野菜などの栽培に利用されてきましたが、化学肥料が普及するに従い次第に使われることが少なくなっていました。しかし、近年、無農薬や低農薬のものを求める健康志向の高まりと共に、化学肥料に依存しない栽培方法としてたい肥を使うことが見直されるようになりました。
  このため、本県では、このような考え方を軸に、たい肥を用いた土作りを基本に、環境への負荷をできるだけ抑えて永続的な農業が可能となるような環境保全型農業を進めています。

2 たい肥の種類

1)生ゴミたい肥
 一般
家庭や企業から排出される生ゴミを堆肥化したもので、家庭用生ゴミたい肥化容器を用いたものはコンポストと呼ばれることがあります。
2)バークたい肥
 樹木の皮の部分(バーク)からできたもので、一般に土壌改良資材(地力を増進させる資材)として用いられますが、肥料成分は少ないです。
3)家畜ふんたい肥
 現在、最もたい肥化が進んでおり、牛や豚、鶏など家畜の排せつ物を基に作られています。かつては家畜排せつ物の不適切な処理が地下水汚染など環境へ大きな影響を与える懸念があったことから、平成16年に家畜排せつ物法が完全施行されて、適切な施設で適切に処理することが義務付けられました。

3 家畜排せつ物のたい肥化

 畜産農家では、牛や豚、鶏といった家畜を多く飼育しているため、毎日多くの排せつ物が生じます。
 家畜の排せつ物そのものは産業廃棄物として適切な処理が義務付けられていますが、これを適切な方法により処理することでたい肥とすることができ、良質なものは耕種農家などに販売することで畜産農家の一定の収入となります。
 家畜排せつ物は、野積みや素掘りによる不適切な処理を行うと、地下水の汚染や悪臭の発生などを引き起こす可能性があることから、不適切な処理を禁じて適切な処理を行うよう畜産農家に対し法律(家畜排せつ物法)が義務付けされました。
 現在、家畜排せつ物を利用したたい肥の多くは牛のもので、各畜産農家がそれぞれの処理施設でたい肥化を行っています。
 豚を多数飼育している農家では、飼育管理に使用する水と排せつ物が混ざるためその処理がたい肥化よりも汚水浄化施設の方が効率的であることから、各農家で浄化処理施設を構えて行っています。         

4 たい肥のメリットとデメリット

1)メリット
・作物の生育に適した土壌には、水もちが良く水はけが良いという通気性と保水性を両立させることのできる構造(団粒構造と言います)が必要であり、この構造はたい肥中に含まれる腐植質と呼ばれる成分によって作られます。
・たい肥中に含まれる腐植質は肥料もちも良く、また、施肥することで化学肥料にはないアンモニアやカルシウム、カリウムなどの陽イオンを保持する力(陽イオン交換容量と言います)が高まります。
・たい肥を用いることにより、土壌中に様々の有用な微生物やミミズなどが増えることで、病害虫菌の発生を抑制することができます。
・たい肥中に含まれている様々な物質は、土壌中の化学的変化に対して緩衝能を持っているため、安定した土壌作りに有効です。

2)デメリット
・微生物による発酵等の反応が十分でない未完熟のたい肥は、施肥を行った場合、土壌中で有機物の分解が進む結果、酸素障害を起こし作物や土壌生態系に大きな影響を与えます。
・未完熟なたい肥は、未分解の有機物が多く残っているため、微生物による分解が進む中で窒素が消費されるため土壌の窒素飢餓を引き起こし、作物の生育に支障が生じます。
・さらに、発酵等の反応が十分でないため、その際発生する熱が低く、たい肥内に雑草の種子が少なからず残存することがあり、このため施肥後に雑草の繁茂を許す可能性があります。 
・たい肥化が未完熟な家畜排せつ物の場合、メチルメルカプタンやアンモニア等の悪臭が発生して周辺地域へ影響を及ぼすことがあり、特に一般住宅地に近い場合は苦情を寄せられる可能性があります。

5 良質なたい肥

 良質なたい肥を作るには、一定の目安となる理化学的条件が必要です。主なものは次のとおりです。

1)水分
・条件のなかで最も重要な要素であり、60~70%程度が最適と言われています。これは、「微生物の活動をしやすくする」ことや「積み上げ時に崩れ落ちないようにする(この方式を堆積式と言い、発酵させる際は積み上げます。)」ことなどが理由です。
・従って、水分が低すぎれば微生物活動が抑制され、水分が高すぎれば積み上げることが困難となるばかりか、通気性が悪くなり発酵がうまくいかなくなることがあります。また、ある程度高く積み上げることで発酵熱の保温効果も期待でき、この熱により有害な微生物や雑草種子も抑えることができます。
2)pH(水素イオン濃度)
・一般に、土壌が酸性化(pHの低下)すると、土壌中の有用微生物の働きが悪くなり、作物の生育に支障が生じると言われています。
・堆肥のpHの基準値は5.5~8.5であり、5.0を下回ると土壌が酸性となります。
3)C/N比
・たい肥中の炭素と窒素の割合を示すもので、値が高いと窒素量が少ないことを意味します。このため値が大きすぎるたい肥は窒素飢餓を起こしている可能性があり、肥料としてはよくありません。
・基準値は、20以下とされています。
4)アンモニア態窒素と硝酸態窒素割合
・アンモニアは、たい肥化のはじめに発生しやすく、多量になると悪臭や作物生育阻害の原因となるため、少ない方がよいです(成分としてアンモニア態窒素が少ない)。
・硝酸態窒素はアンモニアからでき、硝酸態窒素割合とは、たい肥中に含まれる無機窒素のうち硝酸態窒素が占める割合を示し、この値が大きいほどよいとされます。       

6 良質なたい肥を作るポイント

 良質なたい肥を作るうえでの基本は、完熟すなわち、たい肥化させるもののなかの有機物(正確には易分解性有機物と言います)をできるだけ分解させることで、分解させるには中に含まれる微生物を利用した発酵という反応が効果的です。
 発酵には好気的発酵と嫌気的発酵がありますが、通常は好気的発酵により行われ、反応に酸素を必要とします。従って、たい肥を効率的に発酵させるには、空気に触れない底の部分のたい肥を常に空気に触れさせることが必要です。
 たい肥化の方法には幾つかありますが、全国的に最も普及している方法は、たい肥を積み上げて空気を通しながら発酵させる堆積式というもので、発酵を持続させるには頻繁な撹拌(切り返しと言います)を行う必要があり、規模が大きい場合、普通、ショベルローダーなどの機械を用います。
 発酵が始まると、発酵に伴う熱(凡そ70℃)が発生し、この熱によって有害な微生物や寄生虫卵、雑草の種子などを抑えます。
 また、発酵に最も必要な条件は水分であり、60~70%にすることが重要です。家畜排せつ物は尿成分も含まれているため、そのままでは水分過多の状態であることから、通常はオカクズやモミガラなどを適度に混ぜることで水分を調節します。  

 完熟したたい肥は悪臭がなく、触れても手にベト付き感がありません。
※たい肥のことについて知りたい、あるいは興味がある、使ってみたいと思われる方は、最寄りの県農業振興センターまたは、県家畜保健衛生所までお問合せ下さい。

 

この記事に関するお問い合わせ

高知県 農業振興部 中央家畜保健衛生所

所在地: 〒781-1102 高知県土佐市高岡町乙3229番地
電話: 088-852-7730
ファックス: 088-852-7733
メール: 160903@ken.pref.kochi.lg.jp

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