高知県における言語としての手話の普及等の推進に関する条例 令和6年12月26日高知県条例第58号 手話は、音声言語とは異なる語彙や文法体系を有し、手や指、体の動きや表情などにより視覚的に表現される独自の言語である。また、手話は、聞こえる人にとっての音声言語と同様に、音声が聞こえない、あるいは聞こえにくい人にとって、思考、感情及びコミュニケーションの基盤となる母語であって、日常生活や社会生活を営む上で必要不可欠なものとして、大切に育まれてきた。 しかしながら、過去には、口の形を読み取り、意思を発音し、又は発声する口話法による意思疎通が推し進められ、手話の使用が制約された時代もあった。 その後、障害者の権利に関する条約において、言語には手話その他の形態の非音声言語が含まれることが明記され、また、障害者基本法(昭和45年法律第84号)においても、言語には手話が含まれることが明記されている。 また、本県においても、令和6年に、全ての県民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しながら共生する社会の実現を目指して、障害のある人もない人も共に安心して豊かに暮らせる高知県づくり条例(令和6年高知県条例第2号)を制定した。同条例では、手話を言語と位置付け、基本理念として、全ての障害のある人が、手話をはじめとする障害特性に応じた意思疎通のための手段について選択の機会が確保されるとともに、情報の取得及び利用のための手段について選択の機会の拡大が図られなければならないとされたところである。 しかしながら、手話が言語であることに対する認識が十分であるとは言えず、地域社会において、手話を日常的に使うろう者は、外出時や就労する際、母語とする手話を安心して使用したり、災害時に必要な情報を取得したりすることができないなど、日常生活の多くの場面で、不安や不便さを感じている。加えて、ろう者の家族も、地域社会における手話への理解不足や手話を習得する機会の不足等から、ろう者と同様に様々な場面で不安や悩みを抱えている。 このような背景を踏まえ、言語としての手話の認識の普及、手話を習得する機会の確保その他の手話を使用しやすい環境の整備を図り、ろう者を含む全ての県民が、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる地域社会を実現するため、この条例を制定する。 (目的) 第1条 この条例は、手話が言語であるという認識に基づき、手話の普及等に関し、基本理念を定め、県の責務、県民及び事業者の役割等を明らかにするとともに、手話の普及等に関する施策の基本となる事項を定め、もって、ろう者を含む全ての県民が共生することのできる地域社会を実現することを目的とする。 (定義) 第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 (1) ろう者 聴覚障害のある人のうち、手話を使用して日常生活又は社会生活を営む者をいう。 (2) 手話の普及等 言語としての手話の認識の普及、手話を習得する機会の確保その他の手話を使用しやすい環境の整備をいう。 (3) 手話通訳者等 手話通訳者その他の手話を使用することができる者をいう。 (基本理念) 第3条 手話の普及等は、ろう者を含む全ての県民が相互に人格と個性を尊重し、手話が意思疎通を行うために必要な言語であるとの認識の下に、図られなければならない。 (県の責務) 第4条 県は、基本理念(前条に規定する基本理念をいう。以下同じ。)にのっとり、ろう者及び手話通訳者等の協力を得て、手話の普及等に必要な施策を策定し、及び推進する責務を有する。 2 県は、基本理念に対する県民の理解を深めるために、必要な啓発を行うものとする。 (市町村との連携) 第5条 県は、基本理念に対する県民の理解の促進及び手話の普及等に当たっては、市町村と連携を図るものとする。 (県民の役割) 第6条 県民は、基本理念にのっとり、手話が言語であることを認識し、手話に対する理解を深めるとともに、県又は市町村が実施する手話の普及等に関する施策に協力するよう努めるものとする。 (事業者の役割) 第7条 事業者は、ろう者に対しサービスを提供するに当たっては、基本理念にのっとり、手話が言語であることを認識し、手話その他の方法により、意思疎通を図り、必要な情報を取得することができるよう配慮するものとする。 2 事業者は、その雇用するろう者が働きやすい環境の整備に努めるものとする。 3 事業者は、県又は市町村が実施する手話の普及等に関する施策に協力するよう努めるものとする。 (手話の普及等に関する基本的施策の策定及び推進) 第8条 県は、障害者基本法第11条第2項の規定により策定する高知県障害者計画において、手話の普及等に関する基本的施策(以下この条において「基本的施策」という。)を定め、これを総合的かつ計画的に推進するものとする。 2 県は、前項の規定により基本的施策を定め、及び推進するに当たっては、知事がろう者、手話通訳者等その他の関係者の意見を聴くための協議の場を設けるものとする。 3 県は、知事が前項の協議の場から聴取した意見を踏まえて基本的施策の方針、素案その他これらに類するもの(以下この項において「方針等」という。)を作成するものとし、障害者基本法第11条第5項(同条第9項において準用する場合を含む。)の規定による高知県障害者施策推進協議会条例(昭和47年高知県条例第1号)第1条に規定する高知県障害者施策推進協議会への意見聴取は、当該方針等について行うものとする。 (手話を学ぶ機会の確保) 第9条 県は、市町村その他の関係機関(以下「市町村等」という。)、ろう者及び手話通訳者等と協力して、県民が手話を学ぶ機会の確保に努めるものとする。 2 県は、市町村等、ろう者及び手話通訳者等と協力して、手話を必要とする人が乳幼児期からその家族等と共に手話を学ぶ機会の確保に努めるものとする。 3 県は、手話に関する研修の実施等により、その職員が基本理念を理解し、手話を学習するための取組を推進するものとする。 (手話を用いた情報発信) 第10条 県は、ろう者が県政に関する情報を速やかに取得することができるよう、必要に応じて、情報通信技術を活用して手話を用いた情報発信を行うものとする。 (手話通訳者等及びその指導者の確保、養成等) 第11条 県は、市町村等と連携して、手話通訳者等及びその指導者の確保、養成並びに手話技術及び専門性の向上に対する支援を行うものとする。 (学校における手話の学習等) 第12条 県は、聴覚障害のある人のうち手話を必要とする者が通学する学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校及び同法第124条に規定する専修学校(高等課程を置くものに限る。)をいう。以下この条において同じ。)において、当該手話を必要とする者が手話を学習し、手話により教育が受けられるよう、当該学校の教職員の手話に関する技術の向上のために必要な支援に努めるものとする。 2 県は、学校の児童、生徒等及びその保護者に対して、手話を使用した教育に関する相談その他必要な支援に努めるものとする。 3 県は、学校において基本理念及び手話に対する理解を深めるため、市町村等、ろう者及び手話通訳者等と協力して、手話に関する啓発その他必要な支援に努めるものとする。 (事業者への支援) 第13条 県は、事業者が行う手話の普及等に関する取組に対して、情報提供その他の必要な支援を行うものとする。 (手話に関する調査研究) 第14条 県は、ろう者及び手話通訳者等が手話を守り、発展させるために行う手話に関する調査研究及びその成果の普及に協力するものとする。 (財政上の措置) 第15条 県は、手話の普及等に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。 附則 この条例は、公布の日から施行する。