(1)低温安定性
(2)無機栄養塩に富む
(3)清浄性
(4)熟成性
(1)低温安定性
海洋深層水の水温は季節を通じて年中ほぼ一定です。
室戸岬周辺の表層水の水温は約15℃~30℃ですが、深層水の取水深度(374メートル:アクア・ファーム)の水温は約9℃、汲み上げてくる間に暖められ、陸上では10℃から12℃程度になります。
こうした特性は、熱エネルギーとしての活用の可能性があり、古くから海洋深層水の利活用に取り組んでいるハワイでは、発電に生かす研究なども行われてきました。(1974年~)
室戸市にあるアクア・ファームでは、この海洋深層水の低温安定性を生かした冷暖房設備が稼働しています。また、県立海洋深層水共同研究センターでも冷房設備が稼働しています。
また低い水温は、高知県のように比較的暖かい地域でも、キンメダイやサンゴといった深海性の生物や、低水温を好むヒラメなどの育成を可能にしました。
こうした低温安定性を生かした漁業利用や、熱エネルギーを利用したシステム開発の研究なども各地で進められています。
(2)無機栄養塩に富む
この特性を「富栄養性」としてしまうと、人にとって栄養があるような印象を与えますので、正しく理解してもらうためには「無機栄養塩に富む」という説明が適当でしょう。
これは、海の生き物の源となる植物プランクトン(おもに、葉緑素を持つ微小の単細胞植物である珪藻)の栄養源となる「チッ素」「リン」「ケイ酸」が豊富であるという意味です。海洋深層水には、表層水の約5~10倍の無機栄養塩類が含まれています。
海の生産力の源になっている基礎生産者は、植物プランクトンや海藻ですが、海中深くでは、浮遊することができる植物プランクトンが唯一の基礎生産者になります。
海中では植物プランクトンがチッ素、リン、ケイ酸などの栄養素をせっせと消費して生息しています。そして、この植物プランクトンをエサにする様々な動物プランクトンが集まり、またこれをエサにする小魚、さらに大型の魚が集まってくるという食物連鎖がおきています。
ところがこの植物プランクトンは、海面に届く光量の1%以上の光がないと生活できません。(光合成ができない)これがほぼ水深100メートルあたりまでとされています。
外洋の澄んだ海でも水深150メートル以下では光量は1%以下といわれています。これ以上の深さでは植物プランクトンは光合成ができない休眠状態となりますから、栄養素は植物プランクトンによって消費されずに下の深い層へと沈んで蓄積します。
この深い層の海水、つまり海洋深層水はこれらの栄養素の貯蔵庫の役割を担っているのです。
室戸岬周辺では湧昇という形で、この栄養素を豊富に含んだ深層水がわき上がり、海の恵みの豊かな海域となっているのです。
(3)清浄性
清浄性-「きれいさ」を表すには「物理的清浄性」、「生物学的清浄性」、「化学的清浄性」がありますが、室戸海洋深層水はいずれの清浄性にも優れています。
物理的清浄性
物理的にきれいだということは、浮遊物、懸濁物が少ないということです。
室戸岬周辺では見た目は表面の海水もきれいですが、深層水と表層水をろ過してみると大きな差があります。
深層水研究所には深層水の取水施設の他に、水深0.5メートルの表層水の取水施設もあります。表層水のろ過槽は、1年近く経つと大掃除をしなければなりませんが、深層水の方はほとんど汚れません。
また、海水を淡水化する逆浸透膜を使った装置でも、表層水の場合には、すぐに目詰まりを起こします。
事業用に表層水を淡水化する場合は、淡水化装置の約3倍の前処理装置(薬注、凝集、沈殿、ろ過装置など)が必要といわれていますが、深層水の場合には、簡単な膜ろ過のみで直接機械へ通しても、1年間連続運転できます。
海洋深層水のミネラルウォーター(ボトルドウォーター)が多数商品化されるに至った要因の一つには、この物理的にきれいだということもあります。
生物学的清浄性
海水汲み上げ装置で最も問題になるのは付着生物の繁殖です。一般に、海水取水装置では、取水管内に付着生物が繁殖することで、管の抵抗が増し、取水不能になることが多いそうです。ろ過槽の清掃や保守にもコストがかかります。
しかし、室戸海洋深層水の取水装置は、1989年に使用開始以来、連続使用してきましたが、その間、迷入生物を除去する装置を追加する工事を行った他は、故障することもなく、修理も行っていません。これまでノーメンテナンス、ノートラブルです。
プランクトンや微生物が少ないことも大きな意味があります。
海産クロレラなど特別なプランクトンを培養する場合に安定して培養することができるからです。
病原性微生物が少ないことも重要です。深層水を使って育てた親魚や、その親から取った卵、また深層水で培養したプランクトンを食べて育った稚魚は病原体に汚染される確率が低く、この面での深層水の重要性はますます高まると思われます。
食中毒の原因となる細菌等が少ないことも、食品に使う場合に大変重要です。室戸海洋深層水は、一般細菌のほか病原性大腸菌など10種類の細菌の検査でも、結果はすべて陰性でした。また、人の病原性ウィルスの検査結果も陰性でした。
室戸海洋深層水の総生菌数は表層水の10分の1から100分の1という結果が報告されています。
化学的清浄性
環境汚染物質にさらされている心配が少ないという面での清浄性も重要です。特に室戸岬周辺には大きな川や工場もなく、陸水や大気からの汚染の影響は全くないといえます。
食品、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎の治療、化粧品、タラソテラピー、いずれの分野でも、この点に大きな期待が寄せられています。
研究所で取水している深層水については、ダイオキシンやPCB、有機塩素化合物、有機スズなどいわゆる環境汚染物質30物質以上について測定した値は、すべて0.03ピコg/l以下でした。ちなみに水道水の水質基準は1ピコとなっています。
(4)熟成性
海洋深層水が長い年月をかけて熟成された海水であるという点にも科学の光が当てられつつあります。
室戸海洋深層水の起源は、オホーツク、アラスカ付近の北太平洋から潜り込みを開始し、北太平洋の中層を循環してきた「北太平洋中層水」であることが、ほぼ確かになりました。
室戸海洋深層水は表層水に比べpHが低いこと(pH7.8前後)、有機物が少ないことから、室戸海洋深層水は表層水から切り離されてから長い年月が経過していることが明らかであり、熟成された海水といえます。
深層水は表層水に比べて「べとついた感じ」があまりしませんが、これは有機物が少ないことによるものではないかといわれており、分子の構造に差があるのではないかという研究もされています。
項目 | 海洋深層水 | 表層海水 | |
---|---|---|---|
一般項目 | 水温(℃) | 10.8~12.3 | 16.5~24.0 |
pH 酸性度 | 7.98 | 8.15 | |
DO 溶存酸素 (mg/L) | 7.80 | 8.91 | |
TOC 有機炭素 (mg/L) | 0.962 | 1.780 | |
溶解性蒸発残留物 | 40750 | 37590 | |
Mアルカリ度 | 114.7 | 110.5 | |
主要元素 | CL-塩化物イオン(%) | 2.237 | 2.192 |
Na ナトリウム (%) | 1.080 | 1.030 | |
Mg マグネシウム (%) | 0.130 | 0.131 | |
Ca カルシウム (mg/L) | 456 | 441 | |
K カリウム (mg/L) | 414 | 399 | |
B 臭素 r(mg/L) | 68.8 | 68.1 | |
Sr ストロンチウム (mg/L) | 7.77 | 7.61 | |
B ホウ素 (mg/L) | 4.44 | 4.48 | |
Ba バリウム (mg/L) | 0.044 | 0.025 | |
F フッ素 (mg/L) | 0.53 | 0.56 | |
SO4-(mg/L) | 2833 | 2627 | |
栄養塩類 | NH4- アンモニア (mg/L) | 0.05 | 0.03 |
NO3- ショウ酸 (mg/L) | 1.518 | 0.081 | |
PO4- リン酸 (mg/L) | 0.177 | 0.028 | |
Si ケイ素 (mg/L) | 1.89 | 0.32 | |
微量元素 | Pb 鉛 (μg/L) | 0.102 | 0.087 |
Cd カドミウム (μg/L) | 0.028 | 0.008 | |
Cu 銅 (μg/L) | 0.153 | 0.272 | |
Fe 鉄 (μg/L) | 0.217 | 0.355 | |
Mn マンガン (μg/L) | 0.265 | 1.313 | |
Ni ニッケル (μg/L) | 0.387 | 0.496 | |
Zn 亜鉛 (μg/L) | 0.624 | 0.452 | |
As ヒ素 (μg/L) | 1.051 | 0.440 | |
Mo モリブデン (μg/L) | 5.095 | 5.555 | |
菌数 | 生菌数(個/ml) | 10の2乗 | 10の3乗~10の4乗 |
(出典:高知県工業技術センター研究報告No.25)