暮らしに役立つ海洋深層水

1985年に科学技術庁アクアマリン計画モデル実証地域として、室戸での海洋深層水の研究が始まって以来、水産、医療、食品、エネルギー利用まで、非常に幅広い分野で研究が展開されています。

そして、その利用実績の中から、

  • 水産分野では、生物を飼育しやすいこと
  • 発酵食品分野では酵母が元気になる、発酵が終了した後も酵母が死滅しないこと
  • 食品の素材の持ち味を引き出すことができること

等々の成果も報告されています。

水産分野

まず、水産分野のうち、生物分野では、海洋深層水の低温安定性、無機栄養塩に富むこと、清浄性によって、マコンブ、カジメ、アオサや小さな藻類等の海藻の陸上での培養が容易になりました。

海洋深層水を用いて非常に小さな藻類を連続培養し、その海藻類でカキ、アワビ類を飼育する試験も行っています。

アワビの飼育

アワビの飼育
:高知県海洋深層水研究所

海藻の培養

海藻の培養
:高知県海洋深層水研究所

トラフグの飼育

トラフグの飼育
:高知県海洋深層水研究所

魚介類を飼育する場合、水温を調整しやすく、水量を豊富に与えることができ、通常よりも早い成長、成熟が得られます。

ヒラメでは、良質・病原性フリーの受精卵が得られ、放流種苗生産用として水産関係機関へ事業用として提供することができるまでになりました。

メダイ、トラフグ、キンメダイ等の飼育、成熟試験も実施していますが、温度管理が容易なことから、魚類の成熟がコントロールしやすく、この方面での利用価値も期待されています。

次に、漁場の肥沃化についてです。

研究所では、取水した深層水は利用した後、研究所の前の海に戻していますが、そこでの潜水調査の結果、周辺は全体的に磯焼け状態であるのに対し、研究所の利用水が流れる地点周辺は、テングサを始め、様々な海藻が生い茂り、ウニ、カニなどの生物も多く見られます。このことから深層水による沿岸海域の肥沃化の可能性が見いだされています。

放水された海洋深層水は、ある程度薄まりながらも、海の底に沈み込んで海底や岩礁のくぼみなどにとどまり、こうした現象を生み出していると考えられます。

また、潮の流れなどにもよりますが、日量900トンの放水量で、放水の効果が把握できる範囲は約1,500メートルにわたると考えられる結果が得られています。

今後、効果的な放水方法、深層水をとどめておくための構造物等、放水技術を検討することで、深層水による安定的な藻場の造成、岩礁域での磯根資源を再生し、漁場の生産性が向上することを期待します。

医療分野

医療分野では、従来から海水浴がアトピー性皮膚炎の改善に効果があるいわれていることををヒントに、研究が行われました。 特に、海洋深層水は沿岸の海水に比べ、格段にきれいですから、その効果も期待されます。

1994年から3年間、高知医大(現在の高知大学医学部)などを中心に、通常の治療にあわせて、深層水を治療に用いる研究が行われたのですが、有効が6割を超える臨床結果が得られました。

また2002年からは海洋深層水の長期飲用が人体にどのような影響を与えるかを医学的に検証する調査が高知医大(現在の高知大学医学部)で行われました。

高知県内3箇所の老人保健施設などの協力を得て、飲用及び調理に使う水を全て海洋深層水(脱塩したもの)に置き換えた生活を半年間程度継続し、調査した結果、 長期間飲用を続けても臓器などへの悪影響がないことのほか、便通が良くなる、貧血が改善される、免疫力が向上する、血流が改善されるなどの健康増進効果が確認されました。

このことは日本臨床検査医学会といった全国学会などでも報告されています。

工業分野

1989年に研究所が開設されて以来、漁業・生物分野や工業製品分野での基礎的な研究、利活用への応用研究などを続けていましたが、室戸海洋深層水を用いた実際の商品づくりにチャレンジしてもらおう、ということで1995年の10月から企業などへの深層水の供給を始めました。

県の工業技術センターが中心となり、高知県特産のユズと深層水をミックスした飲み物を試作開発したのが商品化のさきがけとなり、続いて深層水のミネラルに着目したミネラルウォーター(ボトルドウォーター)、酒、しょう油、干物、豆腐、パン、化粧品など多様な商品作りに用いられ始めました。

豆腐ではキメが均一化し、保水性が増すため、豆腐本来の美味しさが引き立てられたといったことや、化粧品に用いると、しっとり感が得られ肌になじむ、使用感に優れた商品化につながった、などの報告があります。

また、酒やしょう油、パンなどの発酵食品分野では、深層水を用いると発酵が促進され、風味が増し、酒のアルコールの量も多くなるといった効果が得られています。

特に酒に関しては、高知県と企業との共同研究により、海洋深層水が酵母の負の作用を緩和し、発酵に重要な遺伝子を活性化させることを突き止めました。つまり深層水を使うと香りが良く美味しいお酒ができるメカニズムを遺伝子のレベルで科学的に解明することができた訳です。

海洋深層水を使用して何らかの優位性を科学的に立証された商品だけが室戸海洋深層水の供給を受けられる仕組みになっています。また、そのことが室戸海洋深層水の現在のブランド力に繋がっているといえます。

まとめ

この様に、室戸海洋深層水は、多様な分野で様々な利活用が図られています。今後の研究成果によれば、さらにその分野も広がっていくでしょう。

一方で、深層水がどう作用して食品が美味しくなるのか、なぜ健康に良いと言われるのかをきちんと科学的に解き明かしていく、メカニズムの解明も我々の大切な仕事です。