高知県公文書開示審査会答申第142号

公開日 2009年02月24日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第142号

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諮問第142号


第1 審査会の結論

 高知県警察本部長が、「車載型レーダスピードチェッカーES−8H02取扱説明書(交通取締用パトカー高知800さ2190号のもの)」を部分開示とした決定は、妥当である。

第2 審査請求の趣旨

 本件審査請求は、審査請求人が平成16年7月9日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号)に基づき行った開示請求に対し、高知県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成16年8月10日付けで行った「車載型レーダスピードチェッカーES−8H02取扱説明書(交通取締用パトカー高知800さ2190号のもの)」(以下「本件公文書」という。)の部分開示決定(実施機関が非開示とした部分については別表1記載のとおりである。)を不服として、審査請求人が実施機関の上級庁である高知県公安委員会に対して行ったものであり、当該決定を取り消し、非開示部分の開示を求めるというものである。

第3 実施機関の部分開示決定理由等

 実施機関が決定理由説明書及び意見陳述で主張している部分開示決定理由等の主な内容は、次のように要約できる。
1 本件公文書は、車載型レーダスピードチェッカーES−8H02の取扱説明書として、使用者に対し、当該測定機器の性能、取扱方法等を説明するために作成されたものであり、別表1のとおり、安全上のご注意、1 概説、2 性能、3 速度測定の原理、4 動作説明、5 取扱方法、6 測定前点検で構成され、表紙等をあわせて35ページからなっている。
2 高知県情報公開条例の一部を改正する条例(平成17年高知県条例第14号。以下「改正条例」という。)により改正する前の高知県情報公開条例(以下「旧条例」という。)第6条第1項第3号及び第4号該当性について

(1) 旧条例第6条第1項第3号該当性について
 本件公文書のうち、「図4.2-1 速度測定系統図」(別表1の番号【6】)は、これを公にすることにより、製造会社の回路設計手法が明らかとなり、その結果、その設計手法を模倣することで同レベルの機器を他社が製造できるなど、旧条例第6条第1項第3号に定めた事業者の競争上の地位を害す
るおそれがある情報であるため非開示とした。

(2) 旧条例第6条第1項第4号該当性について
 本件公文書のうち、「2 性能 2.1 電気的性能」に記載された、「(1) 送受信周波数」、「(6) 測定速度範囲」、「(7) 測定可能距離(中型乗用車)/感度切替」、「(9) 測定確度の数値」、「(10) 測定表示の数値」(別表1の番号【1】~【5】)及び「5.7 取り扱い上のお願い 5.7.2 測定時のお願いのうち(6)の項」(別表1の番号【7】)には、測定性能に関する内容、測定上の注意等が記載されており、これらを公にすることにより、速度取締りの手法等が明らかとなり、その結果、同違反の取締り活動が阻害され、又は適正に行われなくなるなど、旧条例第6条第1項第4号に定めた公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報であるため非開示とした。
また、対抗措置をとられることにより、違法又は不当な行為が容易になり、その結果、今後の道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図ることを目的とする交通違反の取締り業務に支障を及ぼすおそれがあるため非開示とした。

3 交通取締りの目的等

速度取締りに代表される交通取締りは、道路における危険を防止するとともに、交通の安全と円滑を図ることを目的に、交通規制や交通ルールを担保するために実施するものである。
 そして、交通取締りの事故抑止力の中心は、取締り全体からドライバーが感ずる威嚇力であり、この威嚇力を一定水準に維持しておくためには、取締手法等を秘密にして、「どこで取締りをしているか分からない」等という心理的作用をドライバーに抱かせる必要もある。全ての取締方法や取締場所等を明らかにしたならば威嚇力がなくなってしまい、効果的な取締りができなくなる。
 また、「正確な測定」ということについては、開示とした速度測定の原理、操作方法、車両の設置方法等によって一定、明らかになっていると理解する。

第4 審査請求人の主張

 審査請求人が審査請求書及び意見書で主張している審査請求の主な内容は、次のように要約できる。

1 公文書開示請求の目的

 公文書開示請求の目的は、複雑な道路環境や設置物、自然界にある電磁波等取り巻く環境は様々で複雑である中、レーダ測定機器によるスピード取締りは、予測される環境に対応した機械であることは推測できるが、測定を行うのは人間であり、設置や扱いも人間である。従って、個々のスピード取締り事案において、担当者が適切に確認作業を行っていたかどうかは問題であり、その判断材料として、本件公文書の公開を申し立てる。
 警察は、今日の交通取締りに不満不信を抱いている運転者が多数いることを、無視することなく、真剣に考えるべきである。信頼される警察、信用される取締りを目指すならば、本件公文書を公開し、取締りが適切に行われていることを示すことが当然と考える。

2 審査請求の理由

 警察は、本件公文書を開示しない理由として、交通取締りは、道路の危険防止、交通の安全と円滑を図ることを目的としており、本件公文書が公開されると、交通取締り業務に支障をきたすとしている。
 非開示とした部分の中で、「2 性能 2.1 電気的性能」のうち「(1) 送受信周波数」や「図4.2−1 速度測定系統図」などは、取締りに対する対抗措置に利用され、取締り活動の阻害や、ひいては人命、身体、財産の保護に影響があることは理解できる。
 しかし、「(6) 測定速度範囲」、「(7) 測定可能距離(中型乗用車)/感度切替」、「(9) 測定確度」及び「(10) 測定表示」の数値については、「公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす」という情報に繋がる数値とは思えない。むしろ取締りの適正を確認する上の重要な情報であり、公開することにより、警察当局の目指す「国民の信頼と支持をうる指導取締り」に繋がるものと思う。
 「5.7 取り扱い上のお願い 5.7.2 測定時のお願い」のうち(6)の項については、「測定を避ける場所についての記載」であり、開示することにより取締りの場所が明らかになるとの説明を受けた。しかし、本当にその場所を回避して測定しているのか、測定者の独自の解釈で行われ、第三者が検証すると、測定場所の形状が、避けるべき場所と、類似している場所である可能性も予想される。
 このため、公開したとしても、道路の広範な距離と形状から、個々の測定場所が特定されるのは不可能に近いため、スピード測定が、適切な場所で公正に行われていることを運転者に理解させれば、逆に、安全運転への抑止力に繋がるものと考える。このため、これらの情報は公開されるべきと考える。
 また、条例第1条には、県政に対する理解と信頼を深めるために文書公開が行われると明記されており、信頼される公正な取締りが行われていることを検証するためにも、情報を公開すべきである。
 理想とする交通行政が何かを考えれば、運転者を納得させる取締りが行われることが、その第一歩と考える。その方法の一つが情報の開示であり、このためにも本件公文書の公開を求める。

第5 審査会の判断

 平成17年4月1日に改正条例が施行されたが、本件は旧条例に基づきなされた処分に対する審査請求であるため、当審査会は旧条例に基づき、本件審査請求を審議することとする。

1 本件公文書について

 本件公文書は、高知県警察が速度違反取締りにおいて使用する「車載型レーダスピードチェッカーES−8H02の取扱説明書」であり、松下電器産業株式会社が作成し、高知県警察本部長が取得し、保有しているものである。
 本装置は、警察にのみ納入されるものであり、この取扱説明書が一般に出回ることはない。

2 旧条例第6条第1項第3号該当性について

 実施機関は、本件公文書のうち「図4.2-1 速度測定系統図」(別表1の番号【6】)について、旧条例第6条第1項第3号に該当する情報であると主張するので以下検討する。
 本号は、法人等又は事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報は、非開示とすることを定めたものである。
 また、本号ただし書は、人の生命、身体等を保護するため必要がある情報は開示することとしたものである。
 「図4.2-1 速度測定系統図」については、レーダ測定機器による速度測定の回路を示した系統図が記載されており、その系統図は、本装置の設計に関わる基本的な考えを表したもので、製造会社が独自に開発した内部技術情報に当たるものということができる。従って、これを公にすると技術盗用のおそれがあり、他社でも本装置と同水準の装置開発が可能になる。
 このことから、旧条例第6条第1項第3号に定めた、事業者の競争上の地位を害するおそれのある情報に該当し、非開示が妥当と判断する。

3 旧条例第6条第1項第4号該当性について

 実施機関は別表1の番号【1】~【5】及び【7】の情報について、旧条例第6条第1項第4号に該当すると主張するので以下検討する。
 本号は、開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報は、非開示とすることを定めたものである。本号に該当する情報については、その性質上、開示・非開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的、技術的判断を要するなどの特殊性が認められることから、実施機関の第一次的判断を尊重し、その開示又は非開示を決定しようとするものである。もとより、実施機関の第一次的判断は、実施機関の裁量を無制限に認めるものではなく、合理性を持つものとして許容される限度内のものでなければならない。
 当審査会は、実施機関の判断が合理性を持つものとして許容される限度内のものであるか否かについて判断するものである。
(1) 「2 性能 2.1 電気的性能」のうち、「(1) 送受信周波数」について(別表1の番号【1】)
当該情報は、本装置による速度取締活動を行う際の周波数の情報であり、公にすることによって、取締りに対する盗聴、妨害電波の発信等で取締りに対する対抗措置を講ぜられることとなり、取締り活動に支障が生ずるおそれがある。
(2) 「2 性能 2.1 電気的性能」のうち、「(6) 測定速度範囲」、「(7) 測定可能距離(中型乗用車)/感度切替」、「(9) 測定確度の数値」及び「(10) 測定表示の数値」について(別表1の番号【2】、【3】、【4】、【5】)
当該情報は、実際に測定する距離、測定可能な速度等のレーダ測定機器の性能に関する情報であり、公にすることにより、速度違反取締りの可能範囲が明らかになり、同違反取締り等の活動に支障が生ずるおそれがある。
(3) 「5.7 取り扱い上のお願い 5.7.2 測定時のお願いのうち(6)の項」について(別表1の番号【7】)当該情報は、レーダ測定機器の使用場所に関する情報であり、公にすることにより、速度違反取締り活動が阻害され又は有効に行われなくなり、取締りの活動に支障が生ずるおそれがある。以上のことから、旧条例第6条第1項第4号に定める、公共の安全と秩序の維持に支障を生ずる情報であると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められるので、いずれも本号に該当するとして、非開示が妥当と判断する。

第6 結論

 当審査会は、本件公文書を具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、別表2のとおり。

別表1

該当条項
公文書の構成 実施機関が非開示とした部分 番号 該当頁
安全上のご注意
1.概説
 1.1概要
 1.2特長
 1.3構成
2.性能
 2.1電気的性能


 


 2.2機械的性能
 2.3使用条件
3.速度測定の原理
 3.1ドップラ効果
 3.2移動時における速度測定
   の原理
 3.3方向識別
4.動作説明
 4.1送受信部
 4.2本体部
 4.3 操作部
 4.4 プリンタ部
5.取扱方法
 5.1 各部の取付位置
 5.2 各部の名称
 5.3 自車速度の校正
 5.4 操作方法
 5.5 記録紙の交換方法
 5.6 車両設置方法
 5.7 取り扱い上のお願い
6.測定前点検
 6.1 構成数
 6.2 機能点検







2.1電気的性能のうち、
 (1)送受信周波数の数値
 (6)測定速度範囲の数値
 (7)測定可能距離(中型乗用車)/感度切替の数値
 (9)測定確度の数値
(10)測定表示の数値

 

 

 

4.2 本体部図のうち
  4.2-1 速度測定系統図









5.7 取り扱い上のお願い
 5.7.2 測定時のお願いのうち
     (6)の項








【1】
【2】
【3】
【4】
【5】








【6】









【7】





















10









25








6条1項4号
6条1項4号
6条1項4号
6条1項4号
6条1項4号








6条1項3号









6条1項4項

別表2

年月日

処理内容

平成16年10月22日 ・ 諮問庁から諮問を受けた。
平成16年11月5日 ・ 諮問庁から決定理由説明書を受理した。
平成16年11月24日 ・ 審査請求人から決定理由説明書に対する意見書を受理した。
平成19年12月4日
(平成19年度第5回第二小委員会)
・ 実施機関の意見聴取並びに諮問の審議を行った。
平成20年2月5日
(平成19年度第6回第二小委員会)
・ 答申案の検討及び諮問の審議を行った。
平成20年3月28日
(平成19年度第4回公文書審査会全体会)
・ 答申案の検討及び諮問の審議を行った。
平成20年5月29日
(平成20年度第1回公文書審査会全体会)
・ 実施機関の意見聴取、答申案の検討及び諮問の審議を行った。
平成20年7月8日 ・ 答申を行った。

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