高知県公文書開示審査会答申第146号

公開日 2009年02月27日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第146号

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諮問第146号


第1 審査会の結論

 高知県警察本部長が、「平成14年度の警察本部刑事部捜査第一課の事件捜査で宿泊を伴う出張の旅費に係る県費旅行命令(依頼)簿、旅費計算書、旅行終了報告書、請求明細書、領収書(証)及び搭乗券」を部分開示とした決定は、妥当である。

第2 審査請求の趣旨

 本件審査請求は、審査請求人が平成17年6月3日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った開示請求に対し、高知県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成17年7月8日付けで行った「平成14年度の警察本部刑事部捜査第一課の事件捜査で宿泊を伴う出張の旅費に係る県費旅行命令(依頼)簿、旅費計算書、旅行終了報告書、請求明細書、領収書(証)及び搭乗券」(以下「本件公文書」という。)の部分開示決定を不服として、審査請求人が実施機関の上級庁である高知県公安委員会に対して行ったものであり、当該決定を取り消し、非開示部分の開示を求めるというものである。

第3 実施機関の部分開示決定理由等

 実施機関が決定理由説明書及び意見陳述で主張している部分開示決定理由等の主な内容は、次のように要約できる。
 1 本件公文書について
 (1)旅費は公務のための旅行者に対して旅行中の費用を償うことを目的として金銭給付されるものであり、本件公文書は公費による旅費支出に関して作成された、警察活動内容を支出面から表した文書である。
 (2)本件公文書は、捜査第一課の事件捜査で宿泊を伴う出張における旅行者の氏名、用務、旅行期間、目的地、用務地、泊数、宿泊先、宿泊年月日、到着日、出発日、旅行合計額、領収書等といった情報が記載されているが、これらは、捜査対象地域や捜査月日及び捜査活動等の時期が推認される月日などが分かる情報であって、捜査等の活動に密接に関連して、捜査活動の実態を反映しているものであり、単独で、あるいは他の公開情報と組み合わせることによって警察活動の全容が明らかになる。
 2 条例第6条第1項第2号該当性について
 本件公文書の非開示とした情報のうち、旅行者の氏名及び印影については、警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記載されており、条例第6条第1項第2号ただし書ウの実施機関が定める公務員の氏名(高知県警察本部長が管理する公文書の開示等に関する規程(平成14年高知県警察本部告示第1号)により実施機関に適用される高知県公安委員会が管理する公文書の開示等に関する規則(平成14年高知県公安委員会規則第3号)第2条に規定する公務員の氏名)であるため非開示とした。
また、非開示とした旅行者の住所及び電話番号については、条例第6条第1項第2号の特定の個人を識別することができる情報であって、かつ、ただし書のいずれにも該当しないことから非開示とした。
 3 条例第6条第1項第4号該当性について
 本件公文書に記載された情報のうち、用務、旅費額、差引支給額、旅行期間(旅行命令期間)、目的地(用務地)、泊数、旅費合計額、交通費、交通費計、日当計、宿泊料計、宿泊地、宿泊先、宿泊月日、到着日、出発日、発行日、利用明細、利用額及び領収額欄の各情報は、捜査対象地域、捜査月日等の捜査内容を明らかにするものであり、作成年月日、決裁年月日、特別承認等年月日、口頭命令年月日、旅行完結年月日及び報告年月日の各情報は捜査活動等の時期が推認されるものである。これらのうち非開示とした部分は、平成20年7月現在においても捜査継続中の事件に係る情報であり、これらを公にすると、被疑者等の事件関係者自らが知り得る情報とを比較・分析することにより、犯罪捜査活動等の活発さが明らかになるとともに、その進展状況が推測され、その結果、被疑者等の事件関係者により、逃亡や証拠隠滅等の対抗措置を講じられるおそれがあるなど、条例第6条第1項第4号に定める犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがある情報であるため、非開示とした。
 4 条例第6条第2項該当性について
 条例第6条第2項は、非開示情報であっても、開示することに優越的な公益があると認められる場合には、開示するものとすると定められている。
本件公文書において条例第6条第1項第4号に該当するとして非開示とした情報は、現に捜査活動を継続している事件に係るものであり、捜査活動に密接に関連した情報であることから、これらを公にすると、被疑者の逃亡や証拠隠滅等といった対抗措置を講じられ、被疑者の検挙に支障が生じるおそれがある。
したがって、原則公開の情報公開制度の下においても、高い秘匿性が求められている情報であり、条例第6条第2項にいう開示することに優越的な公益がある情報とは認められないので、非開示とした。
 5 その他
 本件公文書は旅費に関する会計文書であり、捜査のノウハウが記録されたものではないが、その内容は捜査活動に密接に関連した情報であることから、本件公文書の開示・非開示の判断に当たっては、県民の知る権利と開示することによる捜査への支障等を比較衡量し、条例の各規定の趣旨や文理に従って厳格に判断している。

第4 審査請求人の主張

 審査請求人が審査請求書、意見書及び意見陳述で主張している審査請求の主な内容は、次のように要約できる。
 1 条例第6条第1項第2号該当性について
 警部補以下の階級にある警察官の氏名を職員の地位だけを根拠に一律非開示としているが、公務の執行に係る職員の氏名を職階だけで線引きして非開示とする客観的・合理的根拠は認められない。
本件公文書によれば警部が実名で公開され、その指揮下で同行した警部補の氏名を秘匿するという無意味な矛盾した判断が横行しているのは不当である。また、2号ただし書ウに「当該公務員の氏名を公にすることにより、当該公務員の権利利益を不当に侵害するもの」とあるが、侵害の内容が警察職員としての特性による「生命や身体の安全に関わる」ことが問題になるのであれば5号を適用すべきであり、警部補以下を一律にこの対象とする根拠はない。
常に、証拠を基に活動している警察機関が証拠も示さず主観的判断を押し付けることは不合理であるし、許されない。
 公安委員会規則は、自治体側の判断を拘束し、警察情報を聖域化する大きな誤りをもたらす欠陥を条例に強要したもので、規則が条例に優先するという行政の原理原則に反することは許されない。
 2 条例第6条第1項第4号該当性について
 本件公文書は、作成されてから3年経過した旅費という会計文書であり、その性質上、各項目も抽象的類型の表記に過ぎず、犯罪の予防等に直結するものは数少ないといえる。
 3年前の旅行先や旅行命令日等を開示することにより、被疑者の逃亡や証拠隠滅等に悪用され、対抗措置を講じられるなどといった実施機関の判断には因果関係が認められない。また、本件公文書の開示により証拠隠滅が図られる根拠がどのような具体性を有しているか説明が必要だが、「捜査中」との紋切り型の処分理由であり許されない。
 更に実施機関が公表している平成14年度に認知した重要犯罪の検挙率(78%~90%)と比較して、非開示件数の割合の多さに不審を覚え、また、平成17年当時にこのように多くの未解決事件を捜査第一課が抱えていたのか非常に疑問がある。
 仮に捜査継続中であっても、旅費関係書類の開示が捜査に支障をもたらす程度は一律ではなく、捜査上致命的支障であるとは言い難いことから、一律非開示は間違いであるとともに、3年間という時間の経過を考慮し、非開示部分を最小限に絞るべきである。
 3 条例第6条第2項該当性について
 実施機関において空出張の旅行命令簿を作成して公費の不正支出が行われているとの警察関係者からの内部通報等があるなかで、根拠が不明瞭な一律非開示はその中に不適正支出が隠されている可能性があることから、本件公文書の開示を、県民の公益に沿って請求したものである。しかし、実施機関は、条例第6条第2項にいう公益性との比較検討を全く示していない。
 また、本件公文書とは別に開示された捜査第一課の県費旅費予算差引簿に記載された支払月日、支出金額等に合致する予算執行がないなど矛盾がある上、予算差引簿では支払月日が明らかになっているにもかかわらず、本件公文書では旅行期間等を非開示とするなど、合理的根拠が認められない。
 したがって、本件での非開示処分は、県民の警察行政における公金支出についての県民の知る権利を無視し、独善的かつ官僚的な特権意識に偏った判断であることから、直ちに本件公文書を開示すべきである。
 4 その他
 実施機関の主張する非開示理由は、条例の文面を言い換え、焼き増しした程度であり、個別事案についての説明が全くなく非開示処分の理由として説得力がない。
 実施機関は、説明責任を果たし、文書1件毎に非開示理由を示すべきである。

第5 審査会の判断

  1 本件公文書について
 本件公文書は、平成14年度の警察本部刑事部捜査第一課における県費旅費関係書類のうち、事件捜査で宿泊を伴う出張を特定して、抜き出したものであり、財務会計システムにより出力された旅行命令(依頼)簿及び旅費計算書に、支出の根拠を示すための領収書(証)などが添付され、1旅行ごとにまとめて綴じられた、374枚である。
 2 条例第6条第1項第2号該当性について
 実施機関は、本件公文書で非開示とした情報のうち、旅行者の氏名、住所、電話番号及び印影について、条例第6条第1項第2号に該当する情報であると主張するので以下検討する。
 本号は、条例第3条後段の個人に関する情報が十分に保護されるように最大限の配慮をしなければならないとの規定を受け、特定の個人を識別することができると認められる情報は、非開示とすることを定めている。
 これは、個人のプライバシーを最大限保護するため、プライバシーであるか否か不明確な個人に関する情報も含めて、特定の個人を識別することができる情報は本号ただし書のア、イ及びウに該当する情報を除き、非開示とするものである。
 本号ただし書ウの規定は、職務遂行に係る地方公務員の氏名は開示することを原則としつつ、犯罪捜査に携わる捜査員の氏名が開示されると、本人やその家族に危害が加えられるおそれがあるなど、当該公務員の氏名を公にすることにより当該公務員の個人の権利利益を不当に侵害するおそれがあるものとして、実施機関が定める公務員の氏名を開示しないこととしたものであり、非開示とする公務員の範囲の決定を実施機関に委ねることを相当とする趣旨であると解される。
 したがって、本件公文書のうち、警部補以下の階級にある警察官の氏名及び印影については、実施機関に適用される高知県公安委員会規則により、本号ただし書ウの実施機関が定める公務員の氏名に該当し、非開示と認められる。
 また、旅行者の住所及び電話番号については、条例第6条第1項第2号の特定の個人を識別することができる情報であって、かつ、ただし書のいずれにも該当しないことから、非開示と認められる。
 3 条例第6条第1項第4号該当性について
 実施機関は、「用務、旅費額、差引支給額、旅行期間(旅行命令期間)、目的地(用務地)、泊数、旅費合計額、交通費、交通費計、日当計、宿泊料計、宿泊地、宿泊先、宿泊月日、到着日、出発日、発行日、利用明細、利用額、領収額欄、作成年月日、決裁年月日、特別承認等年月日、口頭命令年月日、旅行完結年月日及び報告年月日欄」の非開示部分について、条例第6条第1項第4号に該当する情報であると主張するので以下検討する。
 本号は、開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報は、非開示とすることを定めたものである。本号に該当する情報については、その性質上、開示・非開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的、技術的判断を要するなどの特殊性が認められることから、実施機関の第一次的判断を尊重し、その開示又は非開示を決定しようとするものである。もとより、実施機関の第一次的判断は、実施機関の裁量を無制限に認めるものではなく、合理性を持つものとして許容される限度内のものでなければならない。
 当審査会は、実施機関の判断が合理性を持つものとして許容される限度内のものであるか否かについて判断するものである。
 本件公文書のうち、「用務、旅費額、差引支給額、旅行期間(旅行命令期間)、目的地(用務地)、泊数、旅費合計額、交通費、交通費計、日当計、宿泊料計、宿泊地、宿泊先、宿泊月日、到着日、出発日、発行日、利用明細、利用額及び領収額欄」の非開示とした部分並びに「作成年月日、決裁年月日、特別承認等年月日、口頭命令年月日、旅行完結年月日及び報告年月日欄」の非開示とした部分について、審査請求人は実施機関が公表している平成14年に認知した重要犯罪の検挙率と比較して非開示件数の割合が多いと主張するが、それらの部分は、いずれも現在も捜査継続中の1件の同一未解決事件に係る情報であり、捜査活動における捜査対象地域、捜査月日、捜査活動の時期が推認できる情報が記録されており、開示した場合、被疑者等の事件関係者がこれらの情報を入手すると、事件関係者のみが知り得る情報等と当該情報を照合・分析することによって、犯罪捜査活動の地域や活発さが明らかになり、被疑者の逃亡や証拠隠滅等の対抗措置を講じられるおそれがあることから、今後の犯罪捜査等に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
 このため、これらを開示すると犯罪の捜査等に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには合理性があり、相当の理由があると認められるので、本号の規定に該当するとして、非開示が妥当であると判断する。
 4 条例第6条第2項該当性について
 同項では、公文書の開示請求に対して、非開示情報であっても、開示することに優越的な公益があると認められる場合には、開示するものと定められている。
審査請求人は、予算差引簿と本件公文書との間に予算執行上の矛盾があると主張しているが、当審査会において実施機関に確認したところ、実施機関の旅費の支出については、1件の旅行命令簿に係る旅費を都度支出する方法のほか、複数件の旅行命令簿に係る旅費をまとめて支出する方法を取っており、その支出命令を行った日及び支出命令金額を予算差引簿に記載していることから、予算差引簿に記載された日付及び旅費額と本件公文書に記載された日付及び旅費額とは必ずしも合致する仕組みとはなっていないものである。
 よって、審査請求人が主張するように予算差引簿と本件公文書との支出状況について矛盾があるとまでは言えないことから、当審査会で条例第6条第1項第2号及び第4号の該当性を認めて非開示とした部分について、条例第6条第2項にいう「開示することに優越的な公益がある」情報とは認められない。

第6 結論

 当審査会は、本件公文書を具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成17年9月16日 ・ 諮問庁から諮問を受けた。
平成17年10月11日 ・ 諮問庁から決定理由説明書を受理した。
平成17年11月7日 ・ 審査請求人から決定理由説明書に対する意見書を受理した。
平成20年7月30日
(平成20年度第1回第二小委員会)
・   実施機関の意見聴取、審査請求人の意見聴取及び諮問の審議を行った。
平成20年9月4日
(平成20年度第2回第二小委員会)
・ 諮問の審議を行った。
平成20年11月7日
(平成20年度第3回第二小委員会)
・ 諮問の審議を行った。
平成21年2月19日
(平成20年度第2回公文書審査会全体会)
・   答申案の検討及び諮問の審議を行った。
平成21年4月30日 ・   答申を行った。

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