高知県公文書開示審査会答申第160号

公開日 2010年04月28日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第160号

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諮問第160号


第1 審査会の結論

監査委員が本件異議申立ての対象となった公文書について非開示とした決定は、妥当である。

第2 異議申立ての趣旨

本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成20年12月2日付けで高知県情報公開  条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「県監査委員が県警の捜査費について特別監査を行った『監査結果報告書』(平成18年2月22日)にある、平成17年11月28日から平成18年1月26日にかけて362人(捜査員302人、管理職員60人)に対して実施された聞き取り調査結果」(「以下「本件公文書」という。)の開示請求に対し、監査委員が平成20年12月12日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。

第3 実施機関の非開示決定理由等

 監査委員が決定理由説明書及び意見陳述で主張している本件非開示決定理由等は、以下のように要約できる。
1 監査に至った経緯
 監査委員は、県議会の請求及び県知事の要求に基づき、平成12年度から平成16年度までに高知県警察本部(以下「警察本部」という。)及び高知警察署(以下「高知  署」という。)で執行された13,789件の捜査費について特別監査(以下「本件特別監査」という。)を実施し、その際、捜査費を執行した捜査員302人及び会計職員・管理職員60人に対する聞き取り調査を行った。
 この聞き取り調査は、警察本部の職員の立会を認めず、捜査員及び会計職員・管理職員(以下「捜査員等」という。)と監査委員側の一対一の面談により実施することとした。
2 本件公文書について
 監査委員は、本件公文書として以下の文書を特定した。
(1) 捜査員別執行状況(平成12年度~平成16年度)(全所属)(以下「公文書1」という。)
 公文書1は、平成12年度から平成16年度までの間に、警察本部及び高知署において執行されたすべての捜査費13,789件の調査項目ごとの執行状況一覧表である。
 公文書1は、県警から提出された捜査費の執行状況一覧表及び監査委員事務局職員が警察本部及び高知署に出向いて行った実地監査(書類監査)をもとに監査委員事務局が作成したものであるが、後述の公文書2、公文書3、公文書4をもとに聞き取り調査の判定結果を手書きで記入しているため本件公文書に該当する。
(2) 捜査費執行状況票(個別票)(以下「公文書2」という。)
 公文書2は、公文書1から対象となる捜査費13,789件について、1件ごとに作成した個別票である。
 公文書2自体が本件公文書ではなく、公文書2のうち、監査委員及び監査委員事務局職員がこの票をもとに捜査員から聞き取りを行い、聞き取った内容や心証を手書きで記載しているものについては、本件公文書に該当する。
(3) 捜査費執行職員の職歴(関係職員に対する聞き取り調査結果票)(以下「公文書3」という。)
 公文書3は、捜査員302人の平成11年度から平成16年度までの職歴を聞き取り、調査票に記入したものであり、本件公文書に該当する。
(4) 捜査員(又は元捜査員)総括的事項(以下「公文書4」という。)
 公文書4は、捜査費について、捜査員302人から聞き取った総括的な調査票であり、この調査結果の一部は、「監査結果報告書」の第5「1捜査員に対する聞き取り調査について」に記載されている。
 公文書4は、捜査員302人から聞き取った内容及び手書きで心証等を記載しており、本件公文書に該当する。
(5) 会計職員に対する聞き取り調査結果表及び会計職員聞き取り調査結果一覧表(以下「公文書5」という。)
 公文書5は、県警の会計職員9人から聞き取った調査結果表及び一覧表であり、この調査結果の一部は、「監査結果報告書」の第5「2管理職員及び会計職員に対する聞き取り調査について」に記載されている。
 公文書5は、会計職員9人から聞き取った内容を記載した調査結果表及び一覧表であり、本件公文書に該当する。
(6) 関係職員に対する聞き取り調査結果表及び関係職員聞き取り調査集計表(以下「公文書6」という。)
 公文書6は、県警の管理職員である警察本部課長、統括補佐及び高知警察署長、副署長、課長の51人から聞き取った調査結果表及び集計表であり、この調査結果の一部は、「監査結果報告書」の第5「2管理職員及び会計職員に対する聞き取り調査について」に記載されている。
 公文書6は、県警の管理職員51人から聞き取った内容を記載した調査結果表及び集計表であり、本件公文書に該当する。
(7) 捜査員別執行状況(平成12年度~平成16年度)(全所属)(以下「公文書7」という。)
 公文書7は、公文書1の手書きで記入した判定結果をパソコン入力したものであり、公文書1と同じ内容のものである。
(8) 捜査費執行状況(総括表)(以下「公文書8」という。)
 公文書8は、捜査費13,789件について1件ごとの最終調査結果一覧表である。
 公文書8は、公文書7に聞き取り調査結果の判定理由等を加えたものであり、本件公文書に該当する。
(9) 監査結果理由別一覧表(以下「公文書9」という。)
 公文書9は、「監査結果報告書」の第6「3判断」に記載されている1)支出の実体がないと判断するもの85件、2)支出が不適正と判断するもの115件、3)支出が不自然で疑念のあるもの3,178件の計3,378件を導き出すために、1件ごとに理由別に整理した一覧表である。
 公文書9は、公文書8に聞き取り調査結果の判定理由等を具体的に整理したものであり、本件公文書に該当する。
3 非開示とした理由について
(1) 本件特別監査の実施に当たっては、警察本部長に対して、謝礼金・謝礼品を交付した、あるいは飲食を提供したとする捜査協力者及び情報提供者に直接面接して、その事実を確認できるようにすることを強く要請する一方、領収書を含む支払証拠書類をマスキングなしで全面的に開示することを再三にわたって要請した。
 にもかかわらず、最後まで諾することにならず、本件特別監査に当たっては、捜査員等に対する聞き取り調査を重視せざるを得なくなった。
(2) 本件特別監査において極めて重要となった捜査員等の聞き取り調査は、個人が特定されるような報告書にはしない、県警にも聞き取りした内容は一切明かさないとの前提でなければ、捜査員等の協力が得られないし、ましてや、真実を明らかにしてくれることは期待できないと判断し、そのことを捜査員等に確約したうえで実施したものである。
 公文書4の冒頭には、「ここでお聞きしたあなたのお答えを、他の職員等に漏らしたり、監査報告書にそのまま記載することはありません。」と記載してある。
 したがって、捜査員等の聞き取り調査結果をとりまとめた本件公文書を開示すると、調査に協力した捜査員等との信頼関係を裏切ることになるばかりでなく、今後の定期監査等における捜査費の監査について、捜査員等の協力が一切得られなくなることはもとより、類似事案の監査の実施にも重大な支障が生じるおそれがあるため、本件公文書は、条例第6条第1項第6号アに該当する。
(3) 一般論としても、監査委員の職務権限は地方自治法(昭和22年法律第67号)第199条に規定されているが、監査委員制度運営の精神あるいは監査機能行使の方針は、不正又は非違の摘発を旨とする点にあるのではなく、行政運営の指導に重点が置かれるべきとされている。こうしたこともあって、監査に当たって執行機関あるいは関係人が監査に応じない、あるいは協力しない場合であっても、強制力をもって従わせる機能は付与されていない。
 したがって、捜査費の監査に当たっては、捜査員等の協力なくしては監査を有効ならしめることが困難である。

第4 異議申立人の主張

 異議申立人が異議申立書、意見書及び意見陳述で主張している異議申立ての主な内容は、以下のとおりである。
1 聞き取り調査結果(捜査員等の陳述)の一部は、「監査結果報告書」の中で公表されており、少なくとも「監査結果報告書」に記載されたレベルでの開示はなされるべきである。
 「捜査員らが特定されない範囲」での開示を求めている。個人が特定されなければ、捜査員らに不利益が生じるおそれはないし、監査委員が捜査員らの信頼を裏切ることにもならないと考える。
 また、個人が特定されなければ、監査委員が心配する「類似する監査にも重大な支障が生じるおそれ」もないし、「捜査員らの協力が得られなくなり、監査委員の責務を果たせなくなる」こともないと考える。
2 聞き取り調査結果は公共(県民)の財産であり、監査委員の所有物ではないと考える。
 聞き取り調査結果は、私たちが税金で雇っている公務員である監査委員が、税金を使って集めた情報にほかならず、それは私たちの情報である。

第5 審査会の判断

1 本件公文書について
 監査委員は、地方自治法第98条第2項及び第199条第6項に基づく県議会の請求及び県知事の要求を受けて、平成12年度から平成16年度までの警察本部及び高知署で執行された13,789件の捜査費について、特別監査を実施した。
 本件公文書は、本件特別監査の実施に際して監査委員が捜査員302人、会計職員9人、管理職員51人に対して行った聞き取り調査結果を記録した文書である。
 本件公文書は、捜査員からの聞き取り調査結果票(公文書2、公文書3、公文書4)とこれらを集計した一覧表(公文書1、公文書7、公文書8、公文書9)及び会計職員・管理職員からの聞き取り調査結果表とその集計表(公文書5、公文書6)から構成される。
 なお、監査委員は、本件特別監査の結果について、平成18年2月22日付けで「監査結果報告書」にまとめて公表している。
2 条例第6条第1項第6号ア該当性について
(1) 条例の規定及び事務事業に関する情報について
 条例第6条第1項第6号アは、県又は国等の機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、「監査、検査、取締り、試験、入札、交渉、渉外、訴訟その他すべての事務事業若しくは将来の同種の事務事業の実施の目的が失われ、又はこれらの公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずるもの」に該当することが明らかなものについては、非開示とすることを定めている。
 まず、本件公文書は、本件特別監査において作成されたものであるから、本号にいう県の機関が行う「事務事業に関する情報」が記録されている公文書に該当する。
 また、本件特別監査の「監査結果報告書」は、すでに公表されている。
 そこで、本件公文書について、開示することにより、将来の監査事務の実施の目的が失われ、又はその公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずるものに明白に該当するかどうかを以下検討する。
(2) 本件公文書に記録されている情報について
 本件公文書に記録されている情報は、その内容及び性質からみて、1)捜査費の執行状況を記録したもの(以下「捜査費執行情報」という。)、2)聞き取り調査の内容を記録したもの(以下「聞き取り情報」という。)、3)監査委員等の心証又は判定結果を記録したもの(以下「心証・判定情報」という。)の3つに分類することが可能である。
 公文書1には、捜査費の執行状況一覧表(すなわち捜査費執行情報)及び監査委員による手書きの判定結果(すなわち心証・判定情報)が記録されている。公文書7は、公文書1中の手書きの判定結果をパソコン入力したものであり、公文書1と全く同じ内容のものである。公文書8は、公文書7に聞き取り調査結果に基づく具体的な判定理由等(すなわち聞き取り情報)を加えたものである。公文書9は、公文書8から疑念があるものを抽出し、監査委員の心証(すなわち心証・判定情報)を加えたものである。公文書2には、捜査費1件ごとの執行状況(すなわち捜査費執行情報)、捜査員から聞き取った内容(すなわち聞き取り情報)及び監査委員等の心証(すなわち心証・判定情報)が記録されている。公文書3には、捜査員から聞き取った職歴(すなわち聞き取り情報)が記録されている。公文書4には、捜査員から聞き取った内容(すなわち聞き取り情報)及び監査委員等による手書きの心証(すなわち心証・判定情報)が記録されている。公文書5には、会計職員から聞き取った内容(すなわち聞き取り情報)が記録されている。公文書6には、管理職員から聞き取った内容(すなわち聞き取り情報)が記録されている。
(3) 本件公文書中の捜査費執行情報及び聞き取り情報について
 捜査費執行情報は、県警から提供された情報をもとに捜査費の執行状況を取りまとめたものであり、当然県警も同じ情報を保有しているため、支払日時、支払金額、勤務状況等のどれをとっても聞き取り調査の対象となった捜査員個人が特定される可能性が極めて高いといえる。
 また、聞き取り情報は、捜査員等から聞き取った内容を聞き取り調査の対象者又は捜査費ごとにそのまま記録したものである。
 監査委員によれば、本件特別監査における捜査員等への聞き取り調査は、個人を特定するような報告書にしない、聞き取り内容は一切明かさないと確約したうえで、警察本部の職員の立会を認めず、捜査員等と監査委員側の一対一の面談により実施されたとのことである。
 地方自治法は、監査委員の職務権限として、「監査委員は、監査に必要があると認めるときは、関係人の出頭を求め、若しくは関係人について調査し、若しくは関係人に対し帳簿、書類その他の記録の提出を求め」ることができるものと定めているが(第199条第8項)、関係人がこれに応じない場合においてこれを強制することはできないとされている。また、地方自治法は、監査委員に対し監査結果に関する報告の関係機関への提出及び公表を義務づける一方で(第199条第9項)、職務上知り得た秘密について監査委員の守秘義務を定めている(第198条の3第2項)。それゆえ、本件特別監査におけるように、監査委員が監査事務の遂行に当たって、聞き取り調査の対象となった捜査員等の個人及び聞き取り内容をそのまま公表しないことを前提に、捜査員等に聞き取り調査への協力を依頼することも、監査委員の裁量として当然予定されているというべきである。
 そして、本件公文書中の捜査費執行情報及び聞き取り情報が開示されることになれば、監査委員が調査対象者個人及び聞き取り内容をそのまま公表しないとした趣旨に抵触し、調査対象者との信頼関係が著しく損なわれ、今後の監査事務において調査対象者から協力が得られなくなることは十分予測される。
 したがって、本件公文書中の捜査費執行情報及び聞き取り情報は、本号アに該当すると認められる。
(4) 本件公文書中の心証・判定情報について
 心証・判定情報は、捜査員等から聞き取り調査を行った際の監査委員等の心証を記録したもの及び聞き取り調査後に監査委員が捜査費ごとに判定を行った結果を記録したものである。
 地方自治法は、監査委員に対し監査結果に関する報告の関係機関への提出及び公表を義務づけるほか、監査委員は、監査結果に関する報告に添えて意見を提出することができると規定したうえで(第199条第10項)、監査結果に関する報告の決定又は意見の決定は「監査委員の合議によるものとする。」と定めている(第199条第11項)。この「合議」は、全監査委員が協議し、最終的に意見が一致することを意味するとされており、それゆえ、監査事務の遂行に当たっては、合議における監査委員の自由かつ適正な意見交換の保障が当然必要となる。
 そして、本件公文書中の心証・判定情報が開示されることになれば、監査委員の合議の詳細な内容が明らかとなり、監査委員の自由かつ適正な意見交換が妨げられ、将来の監査事務の実施に著しい支障をもたらすことは明らかである。
 したがって、本件公文書中の心証・判定情報は、本号アに該当すると認められる。

第6 結論

 当審査会は、本件非開示決定について具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成21年2月6日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成21年3月5日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。
平成21年6月2日
(平成21年度第1回第一小委員会)
・ 実施機関からの意見聴取及び諮問の審議を行った。
平成21年6月29日
(平成21年度第2回第一小委員会)
・ 異議申立人からの意見聴取、実施機関からの意見聴取及び諮問の審議を行った。
平成21年8月3日
(平成21年度第3回第一小委員会)
・ 実施機関からの意見聴取及び諮問の審議を行った。
平成21年9月7日
(平成21年度第4回第一小委員会)
・ 諮問の審議を行った。
平成21年11月4日
(平成21年度第5回第一小委員会)
・ 諮問の審議を行った。
平成22年2月23日
(平成21年度第2回公文書開示審査会)
・ 諮問の審議を行った。
平成22年4月23日 ・ 答申を行った。

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