高知県公文書開示審査会答申第63号

公開日 2009年02月27日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第63号

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諮問第63号


第1 審査会の結論

  教育委員会が、「校長・教頭任用候補者選考審査面接審査日程表(平成9年度、10年度、11年度実施)」について部分開示と判断したことは妥当である。
  また、「校長任用候補者選考審査に係る論文課題について(通知)(平成9年度、10年度、11年度実施)」については、部分開示処分の撤回によって異議申立ての利益が失われている。

第2 異議申立ての趣旨

本件異議申立ては、異議申立人が平成12年4月17日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成9年度、平成10年度、平成11年度実施県立学校管理職登用に関する資料(実施要項、選考基準、審査問題、集計表を含むすべてのもの)」の開示請求に対し、教育委員会(以下「実施機関」という。)が行った下記の(1)及び(2)の公文書(以下併せて「本件公文書」という。)についての部分開示決定のうち、(1)の公文書(以下「課題通知書」という。)については非開示としたすべての部分の開示を、(2)の公文書(以下「日程表」という。)については非開示とした部分のうち、所属校、性別並びに管理職に登用されている者の氏名の開示を求めるというものである。

 (1) 校長任用候補者選考審査に係る論文課題について(通知)(平成9年度、10年度、11年度実施)

 (2) 校長・教頭任用候補者選考審査面接審査日程表(平成9年度、10年度、11年度実施)

第3 実施機関の非開示決定理由等

実施機関が、決定理由説明書、意見陳述並びに意見書で主張している非開示決定の理由等の主な内容は、次のように要約できる。

 (1) 高知県立学校校長・教頭任用候補者選考審査(以下「選考審査」という。)について

  校長の採用並びに教員の採用及び昇任は、いわゆる競争試験ではなく、教育公務員特例法第13条第1項に基づき選考により行われており、高知県の場合、校長・教頭任用に関する教育長の選考については、選考審査実施要項により実施している。
 校長については、教頭又はこれに相当する職に2年以上在職している者、教頭については、20年以上教育に関する職にあるもので、主任等の経験者から本県の管理職にふさわしい適性や能力を具備する者を選考することとなっている。この選考による採用、昇任は、次年度の欠員などが生じた場合にのみ限定して行われ、合否を決定する競争試験とは異なるものである。
 校長については、課題論文と面接審査、教頭については、筆記審査、課題論文及び面接審査を実施して選考している。
 なお、事務局職員においては、日常の業務を通じて日々接触する中で本人の人物、資質、能力、適性等を審査を行う以上に十分把握している。
 (2) 高知県情報公開条例を一部改正する条例(平成10年3月30日条例第5号)により改正する前の高知県情報公開条例(以下「改正前の条例」という。)第6条第8号及び高知県情報公開条例を一部改正する条例(平成10年3月30日条例第5号)により改正した後の高知県情報公開条例(以下「改正後の条例」という。)第6条第5号イ該当性
  実施機関は、これまで課題通知書は審査問題であり、当該審査問題を開示すると、受審者がそれのみに対応した対策をとることを助長し、管理職としてふさわしい適性や能力を選考しようとする選考審査制度を阻害する他、問題作成上の支障も生じ、今後実施する選考事務の適正な執行に著しい支障を生じると判断し、本号に該当すると考えてきた。
 しかし、諮問第57号に対する平成12年10月10日付け答申の中で、課題通知書については開示すべきとの答申を受けており、現在係争中の教員採用候補者選考審査問題との関連も含めて検討した結果、次のように判断した。
 教員採用候補者選考審査の選考審査問題は、行政不服審査法第4条第1項第11号にいう「学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分」に直結する選考資料を得るための重要なものであり、選考資料の全てといっても過言ではない。
 一方、管理職選考審査問題は、より多面的な評価に努めるため、受審者のこれまでの勤務実績の要素に加えて選考の判断を補完する資料を得ることを目的として作成されている。
 以上のことから、選考審査の持つ重みに軽重はないが、条例の原則開示の趣旨にできるだけ沿うよう、開示することの支障はあるものの、その影響が比較的少ない本件論文課題については、受審者に通知し在宅で作成させていることなどから、開示することが適当であるとの判断に至った。
 (3) 改正前の条例第6条第2号及び改正後の条例第6条第2号該当性
  日程表に記載されている所属校、氏名並びに性別は、校長又は教頭の選考審査に係る個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができると認められ、かつ、ただし書のいずれにも該当しない。
 なお、所属校、氏名並びに性別は、開示すると受審者が選考審査を受けているという事実の他に、当該受審者が管理職に任用されていない場合は、任用されなかったという事実が明らかになるため、保護すべき個人情報である。また、任用されている場合であっても、選考審査を一度受審してから任用されるまでに何年もかかることがあり、任用されるまでにかかった年数も個人情報であると認められるので、任用されていることをもってして当該個人情報を開示する理由にはなり得ない。

第4 異議申立人の主張

異議申立人及び補佐人が異議申立書及び意見陳述で主張している異議申立ての主な内容は、次のように要約できる。

 (1) 

  これまで何回となく校長・教頭の不祥事が起きており、そのたびに「なぜそんな人物が登用されたのか」と疑問が出されている。教育現場においても、独善的で協調性に欠けたり、リーダーシップが発揮できない者がいることも教職員や保護者から指摘されている。実施機関は、「なぜ、この人が校長・教頭になったのか」県民に説明する責任があるはずである。そのための方法の一つとして選考審査の透明性が確保されなければならない。
ところで「教職員の人事と学校運営」(編著、教職員人事問題研究会)には、「校長は学校の組織の最高責任者として、学校の組織の維持発展のためにすべての事務を総括するということである」と記されている。また、管理職の職務の重要性については、「今後の地方教育行政の在り方について」(中央教育審議会答申、平成10年9月)、「学級経営をめぐる問題の現状とその対応」(平成12年3月学級経営研究会・研究代表吉田茂国立教育研究所所長)、「養成と採用・研修との連携の円滑化について(第3次答申)」(教育職員養成審議会平成11年12月)などにおいて指摘されているように、学校の管理職に求められている資質は非常に重要である。したがって、県民にとって学校運営の責任者である校長及びそれを補佐する教頭にどのような人物が選ばれるかは重大な関心事である。
 どのような選考方法によって選考されるかは公開され、広く県民の多様な目で検証されるべきであり、そうすることによって「県民の県政に対する理解と信頼を深め、もって県民参加による公正で開かれた県政を一層推進する」(条例第1条)ことになる。
 (2) 改正前の第6条第8号及び改正後の条例第6条第5号イ該当性
  本号に該当するには、事務事業の実施の目的が失われ又は当該事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生じることが客観的に明白でなければならないが、実施機関の非開示理由には、どのような支障をきたすか具体的、個別的かつ明白な説明がない。
 受審者は、いくつかの出版社から出版された管理職選考審査対策の本を購入して参考にしながら論述することもできるので、実施機関が主張するように論文課題を開示することにより「それのみに対応した対策を助長し、管理職としてふさわしい適性や能力を選考しようとする選考審査制度を阻害する」ことにはならない。
 また、課題通知書は、受審者の手元に届き、回収はされないし、受審者に対して守秘義務も課せられておらず、第三者が知ることは容易である。更に、受審者でない者が論述したものを提出することが可能であり、受審者本人が論述したものかどうかをチェックできない。
 非開示とされた部分は、論文のテーマであり、教員採用候補者選考審査の教職教養・専門教養の筆記試験のような多岐にわたる出題ではないので、問題作成上の支障は考えられない。
 なお、愛媛県においては「県立学校長・教頭登用選考試験問題及び配点基準」(平成11年度実施分)は全部公開されており、その中に論文審査問題も含まれている。
 よって、実施機関のいう理由には根拠が無く、本号には該当しない。
 (3) 改正前の条例第6条第2号及び改正後の条例第6条第2号該当性
  非開示とされた所属校、氏名並びに性別のうち所属校と性別は、特定の個人を識別することができる情報ではないので本号に該当しない。
 氏名については、開示すると当該個人が選考審査を受けたことがわかることになり本号に該当する。しかしながら、これらの氏名のうち既に管理職に登用されている者は、高知県教育関係職員名簿(高知県教育委員会事務局編)等で明らかになっているので、全ての氏名を非開示にすることにはならない。
 高知県立学校校長・教頭任用候補者選考審査実施要項には、選考審査を免除される者が示されており、高知県教育委員会事務局の職員等が選考審査を免除される。教育委員会事務局職員になるためには任用試験は行われず、地域指導主事など多くの指導主事が選考もなく人事異動により任用され、管理職への選考審査を免除されているのが実態であり、このことについて現場では不公平感や管理職登用への不信感がある。
  これを解決するためには、選考審査制度を見直す必要があるが、既に登用されている管理職が選考審査を受けたのか又は免除されたのかを明らかにすることは、学校現場はもとより県民の関心事であり、選考審査に対する信頼を得るためにも必要である。登用された者の氏名のみが開示されるのであれば、当該者に不利益が生じることは考えられず、選考審査の公平性の担保とするため開示すべきである。
 (4) 納税者の権利
  公立学校の校長・教頭が、どのような内容と方法によって選考され、そのためにどのように税金が使われているのかを知ることは、納税者としての権利でもある。
 (5)個人情報保護条例との関係
  本県では、いまだ個人情報保護条例が制定されておらず、プライバシー権の積極的側面といわれる「本人の自己情報コントロール権」を保障し得ていない現実がある。そのような中で、条例に基づき請求された本件公文書について、客観的事実に関する情報を非開示とすることは許されず、部分開示の可能性を含めて十分検討されるべきである。

第5 審査会の判断

 (1) 本件公文書について

ア  非開示理由の適用について
  本件公文書は、平成9年度、平成10年度並びに平成11年度に実施された校長・教頭任用候補者選考審査(以下「選考審査」という。)に関する文書であり、各年度の課題通知書と日程表である。
  非開示理由の適用に当たっては、平成9年度と平成10年度実施の課題通知書及び平成9年度実施の日程表は、平成10年9月30日以前に作成した文書であるから改正前の条例第6条が、平成11年度実施の課題通知書及び平成10年度と平成11年度実施の日程表は、平成10年10月1日から平成13年3月31日までに作成された文書であるから改正後の条例第6条が適用される。
イ  非開示とされた部分について
  実施機関が改正前の条例第6条第8号及び改正後の条例第6条第5号イを適用した課題通知書は、校長の任用候補者選考審査受審者宛てに論文の課題を通知した文書であり、文書の記号番号、日付、差出人(高知県教育長)、標題、通知文、論文課題、提出期限、提出先、その他の事項が記載されており、非開示とされた部分は論文課題である。
 実施機関が改正前の条例第6条第2号及び改正後の条例第6条第2号を適用した日程表は、選考審査の受審者ごとに面接時間を割り振った実施機関の内部資料であり、面接年月日、場所、受審番号、所属校、氏名、面接時間、集合時間が記載されており、平成9年度と平成10年度実施の分には、上記の項目に加えて性別が記載されるとともに備考欄が設けられている。
 このうち、非開示とされた部分は、所属校、氏名、性別である。また、平成11年度実施の日程表(教頭分)の下欄に4行の非開示とされた部分がある。
(2) 課題通知書について
  本件の課題通知書のうち平成11年度実施の課題通知書は、諮問第57号に関わる異議申立ての対象となった公文書の一部をなしていた文書であり、当該課題通知書について審査会は平成12年10月10日付けの答申で改正後の条例第6条第5号イには該当しないと判断した。
  この答申を受けた実施機関は、「3 実施機関の非開示決定理由等」にあるように、開示することが適当であるとの判断に至り、本件異議申立人に対して平成12年5月1日付けで行った部分開示決定のうち、課題通知書の論文課題を非開示とした決定を撤回し、当該部分について平成13年2月16日に改めて開示の決定を行い開示しているので、異議申立ての利益が失われている。
 
(3) 改正前の条例第6条第2号及び改正後の条例第6条第2号該当性について
ア 条例の規定の趣旨について
  本号は、条例第3条後段の「個人に関する情報が十分に保護されるように最大限の配慮をしなければならない。」との規定を受け、原則公開の情報公開制度の下にあっても、特定の個人を識別することができる情報は、原則非公開とすることを定めたものである。
 これは、個人のプライバシーを最大限保護するため、プライバシーであるか否か不明確な個人に関する情報も含めて、特定の個人を識別することができると認められる情報は、本号イ、ロ、ハに該当する情報を除き開示してはならないとするものである。

イ 


  日程表に記載された氏名は、個人に関する情報であり、特定の個人を識別できるのは明らかであり、本号本文に該当するので、以下ただし書に該当するかどうか検討する。
日程表は、何人も閲覧できるとする法令上の規定はなく、ただし書イに該当しないことは明らかである。
 次に、ただし書ロの該当性についてであるが、異議申立人は、日程表に記載された氏名のうち管理職に登用された者の氏名については、当該氏名が高知県教育関係職員名簿等で明らかになっていることから、全ての氏名を非開示にすることにはならないと主張する。
 しかしながら、日程表は、公表を目的として作成した情報、個人が自主的に公表した資料から何人でも知り得る情報、公にすることが慣行となっている情報のいずれでもなく、高知県教育関係職員名簿等で当該氏名が明らかになっているとしても、選考審査を受けたか免除されたかは公表された情報とは認められないので、ただし書ロに該当しないと判断する。
 改正前の条例第6条第2号ただし書ハの該当性についてであるが、異議申立人は、管理職に登用された者が選考審査を受審したか又は免除されたかを明らかにすることは、選考審査の公平性を保つ上で重要な問題であるので、登用されたものについては氏名を開示することが必要であると主張する。
 しかしながら、日程表は法令等の規定による許可等に際して作成された文書ではないので改正前のただし書ハの前段に該当しない。
 また、日程表に記載されているのは公務員の氏名であるが、選考審査に係る被評価者の情報であり、受審者の職務の遂行に係る情報に含まれる氏名に該当するものではないので、改正後のただし書ハにも該当しない。
 したがって、日程表の氏名は本号本文に該当し、かつ、ただし書のいずれにも該当しない。


ウ 


  所属校、性別については、異議申立人は特定の個人を識別できる情報ではないので本号に該当しないと主張するが、他の情報と結びつけることにより、間接的に特定の個人を識別することができると認められ本号本文に該当し、かつ、ただし書のいずれにも該当しない。

第6 結論

当審査会は、本件公文書を具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成12年7月7日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成12年8月7日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。
平成12年9月1日 ・ 異議申立人から決定理由説明書に対する意見書を受理した。
平成12年12月25日
(平成12年度第15回第一小委員会)
・ 実施機関及び異議申立補佐人の意見陳述を行った。
平成13年2月1日
(平成12年度第17回第一小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成13年2月19日
(平成12年度第19回第一小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成13年3月21日
(平成12年度第21回第一小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成13年5月31日
(平成13年度第2回第一小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成13年6月21日
(平成13年度第4回第一小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成13年7月24日
(平成13年度第1回審査会)
・   諮問の審議を行った。
平成13年8月27日 ・ 答申を行った。

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