高知県公文書開示審査会答申第69号

公開日 2009年02月27日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第69号

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諮問第69号


第1 審査会の結論

知事は、押収された「上申書」の案を含む起案文書(以下、「本件公文書」という。)が還付されたときは、本件公文書を開示すべきである。

第2 異議申立ての趣旨

  本件異議申立ては、異議申立人が平成13年2月13日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「モード・アバンセ融資(高度化資金)に関する高知県の被害届関連資料」の開示請求に対し、知事(以下「実施機関」という。)が本件公文書を非開示とした処分を取り消し、本件公文書の開示を求めるというものである。

第3 実施機関の非開示決定理由等

 実施機関が、決定理由説明書及び意見陳述において主張している非開示決定理由等の主な内容は、次のように要約できる。

 (1) 本件公文書について


  本件公文書の件名については、異議申立人の公文書の開示請求に対する公文書非開示決定通知書では「モード・アバンセ融資高度化資金に関する高知県の被害届関連資料」と記載していたが、審査会へ提出した諮問書及び決定理由説明書からは「上申書」という具体名を記載するようにしている。このように件名の記載は異なっているが、開示請求の対象となった公文書は、実施機関が高知県警察本部(以下「県警」という。)に「上申書」を提出するための意思決定を行う起案文書であり、回議書と「上申書」の案文で構成されている。

   「上申書」は、平成13年2月9日に県警に対して提出しており、実施機関は保有していない。公文書の開示請求のあった時点では、実施機関は「上申書」を起案した際の本件公文書を保有していたが、平成13年3月10日に県警に押収されており、未だ還付されていない。


 (2) 原決定時の非開示理由について
 本件公文書は、地方自治法第100条に基づき高知県議会に設置された「特定の協業組合に対する融資問題等調査特別委員会」(以下「百条委員会」という。)の調査結果や当時の県の融資担当職員等の証言により、百条委員会のメンバーが県警に対し、協業組合モード・アバンセ(以下「特定の協業組合」という。)の代表理事らを詐欺等で告発したことに基づき、県警及び高知地方検察庁(以下「検察庁」という。)が捜査中であった事案に関するものである。
  したがって、原決定時には本件公文書を開示することにより、犯罪の捜査に支障を生じるおそれがあると認められ、高知県情報公開条例の一部を改正する条例(平成13年高知県条例第11号)により改正する前の条例(以下「改正前の条例」という。)第6条第4号に該当すると判断した。
 (3) 意見陳述の時点での判断について
 「上申書」は、特定の協業組合の代表理事等に係る詐欺罪の裁判の証拠書類となっており、告訴状と同じ性格を持ち、刑事訴訟法第53条の2に規定されるように訴訟に関する書類及び押収物であることから、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)が適用されず、開示請求の対象とならない。
  本件公文書は、県警に押収されたままであり、上記の「上申書」と同様に開示請求の対象にならない。
  裁判の継続中に本件公文書が還付された場合は、「訴訟に関する書類及び押収物」ではなくなるが、「上申書」の内容と同一のものであり、本件公文書を開示すると、「上申書」の公開と同じ効果をもたらすことになり、刑事訴訟法第53条の2の立法趣旨に著しく反することになる。
  したがって、高知県情報公開条例の一部を改正する条例(平成13年高知県条例第11号)により改正後の条例(以下「改正後の条例」という。)第6条第4号の公訴の維持に該当することから非開示と判断する。
  なお、実施機関が県警に問い合わせた結果においても、「上申書」は刑事訴訟法第53条の2に該当し、情報公開法を適用されない文書であり、また、当該「上申書」と同じ内容の本件公文書を開示すると捜査に支障があるとの回答があった。

第4 異議申立人の主張

  異議申立人が異議申立書、意見書及び意見陳述において主張している異議申立ての主な内容は、次のように要約できる。

 (1) 改正前の条例第6条ただし書の適用について

  本件公文書は、特定の協業組合の代表理事らによる高知県中小企業高度化資金詐取事件に関して百条委員会の告発に対応して、実施機関が提出した「上申書」(被害届)である。
 同協業組合に対する融資に関しては、同協業組合の関係者の詐取及び県幹部職員の背任として県議会から告発が行われた県政史上空前の不祥事であり、不良債権の発生等により県民が不当な負担を負わされる危険が現実のものとなっている県民全体にとって切実な問題である。
  この融資事件に関しては、通常条例で非開示対象となっている企業情報も公開されており、本条ただし書の公益上の理由があるときは開示するという規定からしても当然のことであるが、本件公文書に関しては公益との比較考量が全くされておらず不当な処分となっている。
  本件公文書は、形式的に実施機関が県警に提出した詐欺の被害届であり、特定の協業組合への融資事件に関して実施機関が外部に出した唯一の文書である。高知県政史上空前の不祥事である融資事件に関して実施機関は、独自の組織的調査をせず、知事本人が関係者に事情聴取した内容も公表されていない。
  したがって、本件公文書は、実施機関がこの詐欺事件をどう見ているのかという実施機関の姿勢を知る上で重要であり、県民に対する説明責任を全うするためにも公開が必要であり、開示することに公益性があるので改正前の条例第6条ただし書を適用し、開示することは当然の措置である。
 (2) 改正前の条例第6条第4号該当性について
  実施機関の決定理由説明書が提出された後に、県議会では百条委員会の報告の承認が行われた。また、県の幹部職員の背任罪及び特定の協業組合の幹部の詐欺罪の各公判が開始され、上記公判での検察官の冒頭陳述及び証拠の開示により、本件の違法性は明白になった。
  以上のように、犯罪の捜査は終了し、決定理由説明書にいう「捜査中」ではなくなっており、犯罪の捜査に支障が生ずるおそれはない。
  また、平成13年10月12日の検察側の冒頭陳述の際、検察官が「上申書」を読み上げた事実及び検察側冒頭陳述要旨が新聞に掲載されたことからしても本件公文書の内容は既に公になっている。
実施機関は、本件公文書を開示すると、犯罪捜査の何をどう阻害するのか具体的な説明をすべきであり、県民の納得がいく理由でない限り非開示は許されない。
  更に、非開示情報であっても、時期によって非開示の理由がなくなったときは公開できることが認められているにもかかわらず、これにも全く触れておらず条例の精神に反した処分である。
 (3) 本件公文書が押収されたという実施機関の主張について
  実施機関は、本件公文書が押収されていると主張するが、「上申書」の控えであるにすぎない本件公文書を検察当局が押収する理由はない。
 仮に、他の文書と混じって押収されたとしても、事情を話せば実施機関に還付されるのは容易であり、不存在であることは非開示理由の根拠とならない。
 (4) 委員の忌避について
  公文書開示審査会の岡村会長は、背任罪の被告となっている元副知事の弁護人に選任されている。同人が本件公文書の審査に参加するのは公正さに反するので忌避を申し立てる。

第5 審査会の判断

 (1) 本件公文書について

  実施機関の主張によると、本件公文書は、百条委員会のメンバーが特定の協業組合の代表理事らを詐欺罪等で告発したことに関連する文書であって、実施機関が県警に対して「上申書」を提出するための意思決定を行う起案文書であり、回議書と「上申書」の案文で構成されている。
 また、本件公文書は、平成10年10月1日から平成13年3月31日までに作成された公文書なので、非開示理由の適用に当たっては、改正前の条例第6条各号が適用される。
 (2) 経緯について
平成13年2月9日 実施機関は県警に「上申書」を提出した。
同年2月13日   異議申立人は本件公文書の開示請求を行った。
同年2月26日   実施機関は本件公文書の非開示決定を行った。
同年3月4日    「上申書」に係る詐欺罪で3名が起訴された。
同年3月6日    異議申立人は本件処分について異議申立てを行った。
同年3月10日   本件公文書が他の公文書とともに県警に押収された。
同年3月13日   実施機関は本件非開示処分について当審査会に諮問を行った。
同年5月10日   「上申書」に係る詐欺罪の初公判が開かれた。
同年7月2日    「上申書」に係る別件の詐欺罪で3名が追起訴された。
同年12月13日  上記の両詐欺罪に関し、平成13年11月28日に3名のうち2名に対して言い渡された判決が確定した(残りの1名は公判中)。
 (3) 改正前の条例第6条第4号該当性について

  本号は、開示することにより、犯罪の捜査等の公共の安全の確保と秩序の維持に支障を生ずるおそれのある情報は非開示とすることを定めたものである。

 実施機関は、本件公文書は県警及び検察庁が捜査中であった事案に関するものであったため、これを開示すると原決定当時は捜査に支障を生ずるおそれがあったと主張する。
  原決定当時に本件公文書を開示した場合に捜査に支障を生ずるかどうかについては、本件公文書が上記(2)の経緯のとおり県警に押収されており、その内容を確認できないので、審査会としては判断することができない。
 なお、現段階においては、詐欺罪で起訴された被告人3名のうち2名については平成13年12月13日に判決が確定し、残る1名は公判中であって、犯罪の捜査は終了しているので、開示したとしても犯罪の捜査に支障を生ずるおそれがあるとはいえず、本号に該当しないと認められる。
  しかしながら、本件公文書は、上記(2)の経緯のとおり押収され未だ実施機関に還付されていないので、これを開示することはできない。

 (4) 実施機関のその他の主張について


  実施機関は、本件公文書は、県警に押収されたままであるため、公文書の開示請求の対象にならないと主張する。
  この主張の趣旨は、刑事訴訟に関する書類及び押収物については情報公開法の適用をしないという刑事訴訟法第53条の2の規定に基づき「上申書」については情報公開法が適用されない文書であるのと同様に、本件公文書についても改正後の条例第17条第3項の規定により条例が適用されず、開示請求の対象にならないと主張していると解される。
 改正後の条例第17条第3項の規定は、刑事訴訟に関する書類及び押収物については条例の規定を適用しないというものである。この規定の押収物とは、捜査機関が強制的な権限に基づいて押収、保管するものであり、その適正な確保は司法判断によりなされるべきものである。
  したがって、改正後の条例第17条第3項の規定により条例の適用除外となる押収物は、県警などの捜査機関である実施機関が保管しているものであって、仮に当該押収物の控えの文書が押収された側の実施機関に保管されていたとしても、その控えの文書は、条例の適用除外とはならない。このため、本件公文書は公文書の開示請求の対象にならないという実施機関の主張は認めることができない。

 また、実施機関は、改正後の条例第6条第4号に規定されている「公訴の維持」についてを適用し、公判中に本件公文書が還付された場合、本件公文書を開示すると公訴の維持に支障があるとの主張をしている。
  しかしながら、改正後の条例第6条各号が適用される公文書は、平成13年4月1日以後に作成され、又は取得された公文書であり、本件公文書の非開示理由の適用に当たっては、上記(1)で述べたとおり改正前の条例第6条各号が適用されるので、改正後の条例の規定を適用した実施機関の主張は認められない。

 (5) 異議申立人の主張について
  異議申立人は、本件公文書を押収されているという実施機関の主張に対して、「上申書」の控えにすぎない本件公文書を検察当局が押収する理由はなく、仮に他の文書と混じって押収されたとしても、事情を話せば実施機関に還付されるのは容易であると主張する。
  しかしながら、本件公文書は現に県警に押収され、検察庁に引き継がれていることが認められる。また、当審査会の要請を受けた実施機関が検察庁に対し、本件公文書の還付の可否について照会したところ、検察庁の答えは、還付請求があればその時点で検討し、可否を回答するとのことであった。
 したがって、現段階で本件公文書が容易に還付されるものかどうかの判断はできない。
  以上(3)で述べたとおり、本件公文書は、改正前の条例第6条第4号に該当せず、また、(4)で述べたとおり、実施機関のその他の主張も認められない。更に、実施機関は、改正前の条例第6条第4号を除く各号のいずれの主張もしていないことから、改正前の条例第6条第4号を除く各号に該当し、非開示とすべき情報は含まれていないと解される。したがって、本件公文書が実施機関に還付されたときには、非開示にする理由はないものと認められるので当該公文書を開示すべきである。

第6 結論

当審査会は、高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成13年3月13日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成13年3月29日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。
平成13年10月31日 ・ 異議申立人から決定理由説明書に対する意見書を受理した。
平成13年12月3日 
(平成13年度第7回第二小委員会)
・ 実施機関の職員から非開示決定理由等を聴取した。 
・ 異議申立人及び補佐人の意見陳述を行った。
平成13年12月27日 
(平成13年度第8回第二小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成14年2月6日 
(平成13年度第9回第二小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成14年2月21日 
(平成13年度第5回公文書開示審査会)
・   諮問の審議を行った。
平成14年5月14日 ・ 答申を行った。

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