高知県公文書開示審査会答申第81号

公開日 2009年02月27日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第81号

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諮問第81号


第1 審査会の結論

 教育委員会は、部分開示とした「平成13年度県立学校事務職員の出勤簿」について、非開示とした部分のうち、出勤の押印、出張、代休、職免、指定、振休、振出の表示及びこれらを月別に集計した部分は開示すべきである。

第2 異議申立ての趣旨

 本件異議申立ては、異議申立人が平成13年10月11日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成13年度県立学校事務職員出勤簿(全)(臨時及び非常勤は除く)」の開示請求に対し、教育委員会(以下「実施機関」という。)が部分開示決定を行った「平成13年度県立学校事務職員の出勤簿」(以下「本件公文書」という。)の非開示部分の開示を求めるというものである。

第3 実施機関の部分開示決定理由等

 実施機関が、決定理由説明書及び意見陳述で主張している部分開示決定理由等の主な内容は、次のように要約できる。

1 高知県情報公開条例等の一部を改正する条例(平成14年3月29日条例第6号)による改正前の高知県情報公開条例(以下「旧条例」という。)第6条第2号該当性について

本件公文書は、従来のとおり、出勤の押印等の職務の遂行に係る情報を開示すると、病気休暇等の長期間の休暇取得や休職など特定の個人に関する情報が識別できるだけでなく、新聞報道等の情報と結び付けることにより、懲戒処分を受けた者の氏名を特定することができることとなる。

現時点で出勤簿を開示することは、懲戒処分の期間が満了し、犯した非違行為を反省して職務に復帰し、精励している懲戒処分者に対し、重ねて社会的制裁を加えることとなる。

したがって、本件公文書の出勤状況に関する内容については、個人のプライバシー保護の観点から、本号に該当するため、非開示とした。

なお、長期休暇等の場合、承認した時点で出勤簿に記入していることから、開示請求した時点以後の記入も当然あり、その部分についても非開示としている。

2 教職員の懲戒処分の公表について

教職員に対する懲戒処分については、従来から県民等にも知らせる公益上の必要があるとの判断から公表してきており、基本的にはこの考え方に変わりはない。

しかし、懲戒処分は、それ自体で当該教職員の責任を問い、あるいは反省を促す措置として完結している。いたずらに個人名など個人情報を明らかにすることは、結果として当該教職員に対し過重な社会的制裁を加えるおそれがある。また、平成13年10月1日に高知県個人情報保護条例が施行されることから、9月に行った懲戒処分者については、個人のプライバシー保護等を勘案し、氏名の公表をしなかった。

このことについて、県議会や県民の方々から意見もあり、条例及び高知県個人情報保護条例の趣旨を踏まえ、知事部局、警察本部と意見交換し、法律家の意見や他県の事例も参考にしながら、「高知県公立学校教職員の懲戒処分の公表について」を定め、平成13年11月30日以降の処分から適用することとした。

なお、この基準は、平成13年9月に行った懲戒処分者に対しては、遡及しての適用をしないこととしている。

第4 異議申立人の主張

異議申立人が異議申立書、意見書及び意見陳述で主張している異議申立ての主な内容は、次のように要約できる。

1 本件公文書の開示の意義について

実施機関は、本件公文書において従前は開示してきた部分を、個人情報保護条例を引き合いに出して非開示とした。これは、地方公務員法第29条により処分された公務員を、プライバシーの保護を理由に県民の目から隠そうとするものである。また、これは情報公開条例と個人情報保護条例が並立する中で、情報公開条例を劣後的に扱う前例を作り、県民の知る権利を侵害する、基本的に誤ったものであり、情報公開制度を空洞化させるものである。

   本件公文書を公開することにより、県民の監視とチェックがなされ、不祥事や不正経理を防止することができるので、県民の立場から県政改革を進めるうえでも、部分開示とした処分の取消しを行うことが重要である。

2 旧条例第6条第2号該当性について

(1) 出勤簿の開示については、私的部分を除いて開示できるというのが常識である。国の情報公開法の運用も、その基準で開示を許容している。国の情報公開審査会は、出勤簿全体の非開示に対し、職務遂行の内容に関する部分は、非開示対象とはならないと指摘し、出勤簿に記載された職名や氏名、出勤の押印、出張・研修の表示については、「職務遂行の内容に係る情報に該当する」として開示すべきだと判断している。

    本件では実施機関は、年休や病気休暇等の個人の情報が含まれており、長期休暇の理由が識別できる等として本号を適用している。しかし、同じ教育委員会の組織である県立図書館については、別の開示請求に対し、病気等の休暇日数などは非開示としたが、出勤日の押印など、出勤簿の主要な部分は開示している。

したがって、本件処分の根拠は、自らの従前の実例までも無視した非常識なものであり、許されるものではない。

    また、請求時点以後の記録がない部分(11月~12月)までも非開示とする、全国に例のない珍奇な決定をしている。これは、開かれた教育という方針と、情報公開を、県政改革の主軸としている高知県政を歪めるものである。

(2) 実施機関は、部分開示の理由について、懲戒処分等の事実が特定できる可能性があるとし、本件公文書の部分開示については、実質的には非開示と同様の決定をしている。

懲戒処分は、公務上の不適正を認めて、公務に就くことを禁止したもので、出勤に係る公的情報であり、一私人の私的情報ではあり得ない。

    公務員の違法な行為の再発を防ぐには、密かに行う身内をかばう傾向の強い処分よりも、情報を県民に知らせ、判断を仰ぐことこそ、最も有効である。

3 教職員の懲戒処分の公表について

教育委員会は、従来、私生活上のささいな酒気帯び運転でも公表し、厳しい懲戒処分をしてきたが、今回の事例については、職員のプライバシーを理由に非公表とし、県議会で厳しい批判を受けたが反省せず、その後、停職処分以上の処分者は公開するなどという新基準を出した。この基準から見ても本件処分は不当で、実施機関は自己矛盾に陥っている。

また、これらの公表基準は、全く合理的根拠がないものであり、行政機関が主観的に自らに都合の良い公開基準を定めるなどということは、情報公開の精神とは無縁のものである。

4 旧条例第6条本文ただし書該当性について

 条例では、開示対象外の公文書でも、公益上の理由から開示することを容認している。本件は、この公益との比較衡量が全くなされておらず、原則公開の条例の運用原則を無視し、公務員の違法行為による公的処分を、実施機関の幹部の場当たり的な手法で、県民のチェックから遠ざけ、囲い込む不当な処分である。

 本件に係る事案について考慮しても、違法行為をした公務員の存在を明らかにすることこそ、県民が付託した公務に忠実な行政機関の責務である。

第5 審査会の判断

1 本件公文書について

(1) 本件公文書は、平成4年12月24日付け教育委員会訓令第6号「高知県立学校職員服務規程」第7条により、別記第1号様式として定められた「出勤簿」であり、職員は所定の時刻までに出勤し、自ら押印しなければならないとされている。また、昭和39年1月6日付け38学発第6号「出勤簿の整理方法及び様式の改正について(通知)」及び平成7年3月27日付け6教高第1398号「学校週5日制の実施に伴う県立学校教職員の週休日及び勤務時間の割振り等について(通知)」等に基づき、出張、年休、病休、特休、産休、代休、職免、停(停職)、指定、振休、振出などの用語により出勤簿への記入整理を行うこととされている。

(2) 本件公文書は平成13年4月1日以降に作成され、本件請求は平成13年10月11日になされたものであることから、非開示理由の適用に当たっては、旧条例第6条が適用される。

2 旧条例第6条第2号該当性について

 本号は、個人のプライバシーを最大限に保護するため、特定の個人を識別することができると認められる情報は、原則として開示してはならないとするものである。

   また、本号に規定する「特定の個人を識別することができると認められる」とは、住所や氏名のように特定の個人を直接識別することができる情報のほか、人々に広く知れ渡っている情報等、容易に入手し得る他の情報と結び付けることにより、間接的に特定の個人を識別することができる場合も含むと解される。

   ただし、本号ただし書は、個人のプライバシーを侵害しないことが明らかな情報及び公的責任を明らかにする必要があると認められる情報は、開示することとしており、本号ただし書ウに規定する、公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該者の職名及び氏名については、県民に対する説明責任を果たすため、開示することとしている。

(1) 実施機関は、従来のとおり出勤の押印等を開示すると、病気休暇等の長期間の休暇取得や休職など特定の個人に関する情報が識別できるだけでなく、新聞報道等の情報と結び付けることにより、懲戒処分を受けた者の氏名を特定することができることとなると主張している。

一方、異議申立人は、出勤の押印、出張・研修の表示など、職務遂行の内容に関する部分は開示すべきだと主張している。また、懲戒処分は、公務上の不適正を認めて、公務に就くことを禁止したもので、出勤に係る公的情報であり、一私人の私的情報ではあり得ないと主張しているので、以下検討する。

(2) 本件公文書には、所属、職名、氏名、出勤簿の期間、平成13年4月1日から平成14年3月31日までの月日の欄、出勤の押印、出張、代休、職免、指定、振休、振出の表示、摘要欄(前年に請求できた年次有給休暇の日数、前年に与えられた年次有給休暇の日数、年次有給休暇の残日数、繰り越しできる日数、本年に請求できる年次有給休暇の日数)、年休、特休などの表示及び病気休暇など長期に及ぶ休暇等の期間を表す表示並びにこれらを月別に集計したものが記載されている。

   以下、これらの情報について、開示とすべきもの、非開示とすべきものの判断をする。

ア 平成13年4月1日から平成14年3月31日までの月日の欄は、1の(1)で述べた訓令等に基づき、出勤簿に押印、整理を行うための欄を示すものである。

出勤の押印は、職員が当該日に出勤して通常の担当業務に従事していたことを示すものである。

出張の表示は、職員が当該日に勤務場所を離れて用務先に出向き、所要の業務に従事していたことを示すものである。

代休の表示は、承認を受けて、授業日と休日を繰り替えて授業を行い、休日に勤務時間が割り振られた場合における、当該休日に代わる日として指定された日を示すものである。

職免の表示は、当該職員の職務上の教養に資する講習、講義等を受講する場合等に、職員があらかじめ任命権者又はその委任を受けた者の承認を受けて、職務に専念する義務を免除されていたことを示すものである。

指定の表示は、月2回の学校週5日制の実施に伴い、指定された週休日等を取得していたことを示すものである。

振休の表示は、週休日等の振替え等により、週休日等となっていたことを示すものである。

振出の表示は、週休日等の振替え等により、勤務していたことを示すものである。

これらの表示及び月別に集計したものは、職務の遂行に係る情報と認められることから、開示すべき情報であると判断する。

イ 摘要欄(前年に請求できた年次有給休暇の日数、前年に与えられた年次有給休暇の日数、年次有給休暇の残日数、繰り越しできる日数、本年に請求できる年次有給休暇の日数)は、職員の年次有給休暇の日数に関する事項を記載したものである。

年休の表示は、年次有給休暇を取得していたことを示すものである。

病休の表示は、承認を受けて病気休暇を取得していたことを示すものである。

特休の表示は、承認を受けて特別休暇を取得していたことを示すものである。

停(停職)の表示は、地方公務員法第29条による懲戒処分として、停職の処分を受けていたことを示すものである。

なお、停職などの懲戒処分については、処分を行う任命権者の行為は職務遂行情報である。しかし、処分を受ける側からすれば、原因となった行為が職務に関係するしないにかかわらず、処分を受けたこと自体は「職務の遂行」ではなく、被処分者個人の資質や名誉にかかわる当該個人固有の情報というべきものである。

これらの表示及び月別に集計したものは、個人に関する情報であると認められ、本号に該当し、かつ、ただし書のいずれにも該当しないと認められることから、非開示とすべき情報であると判断する。

(3) これに対し、実施機関は、2の(1)のとおり主張している。

ア 病気休暇等の長期間の休暇取得や休職については、上で述べた判断のとおり、個人に関する情報であり、これらを非開示とし、出勤の押印や出張などの職務の遂行に係る情報を開示した場合、確かに、当該本人が何らかの休暇等を取得していること及びその期間を推測することはできると思われるが、休暇等の具体的な内容までは判別できないことから、それを理由として、職務の遂行に係る情報を非開示とすることは認められない。

イ 情報公開条例は、何人にも公文書の開示請求権を認めており、一般に、(2)で判断したとおり、職務の遂行に係る情報である、出勤の押印、出張、代休等の表示及びこれらを月別に集計した部分は、そもそも条例の趣旨から、非開示とすることはできないものである。現実に実施機関は、他部署の出勤簿の開示請求に対し、これらの職務に係る情報を開示している。

   したがって、今回の開示請求において、本件公文書の職務の遂行に係る情報を開示すると、新聞報道等の情報と結び付けることにより、懲戒処分を受けた者が特定される可能性があるとしても、そのために、請求の対象となった公文書全体の、職務の遂行に係る情報を非開示とすることはできないものである。

   以上により、本件公文書については、(2)で判断したとおり、出勤の押印、出張、代休の表示等の、職務の遂行に係る情報は、開示すべきである。

第6 結論

当審査会は、本件公文書を具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成14年1月18日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成14年2月15日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。
平成14年3月29日 ・ 異議申立人から決定理由説明書に対する意見書を受理した。
平成15年 1月27日
(平成14年度第1回第三小委員会)
・ 実施機関及び異議申立人の意見陳述並びに諮問の審議を行った。
平成15年 2月10日
(平成14年度第2回第三小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成15年3月18日
(平成14年度第3回第三小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成15年 4月30日
(平成15年度第1回公文書開示審査会)
・   諮問の審議を行った。
平成15年6月3日 ・ 答申を行った。

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