高知県公文書開示審査会答申第83号

公開日 2009年02月27日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第83号

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諮問第83号


第1 審査会の結論

教育委員会は、非開示とした「学校における体罰に関し平成13年11月30日付けで職員を処分した件について、学校(地教委)からの報告書」について、別紙「非開示情報一覧」の「非開示とすべき情報」に記載された情報を除き、開示すべきである。

第2 異議申立ての趣旨

 本件異議申立ては、異議申立人が平成13年12月3日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「学校における体罰に関し職員を処分した件について、学校(地教委)からの報告書、処分を協議した教委の記録」の開示請求に対し、教育委員会(以下「実施機関」という。)が行った決定のうち、非開示決定を行った「学校における体罰に関し平成13年11月30日付けで職員を処分した件について、学校(地教委)からの報告書」(以下「本件公文書」という。)の非開示部分の開示を求めるというものである。

第3 実施機関の非開示決定理由等

実施機関が、決定理由説明書及び意見陳述で主張している非開示決定理由等の主な内容は、次のように要約できる。
1 高知県情報公開条例等の一部を改正する条例(平成14年3月29日条例第6号)による改正前の高知県情報公開条例(以下「旧条例」という。)第6条第2号該当性について
 本件公文書は、職員の懲戒処分を決定するための資料であり、懲戒処分に関する事項が記載されており、被処分者個人の内心に関する情報、処分対象となった非違行為の内容等、内容全体が個人に関する情報である。これらの記述内容により特定の個人を識別することができると認められるものであって、かつ、ただし書のいずれにも該当しないことから非開示とするものである。
 また、被処分者である該当職員の個人に関する情報はもとより、被害者の生徒についても、個人の生活状況等の個人に関する情報が含まれており、記述内容により特定の個人を識別することができると認められるものであるため、開示されるべきではない。
2 旧条例第6条第6号ア該当性について
 本件公文書は、職員の懲戒処分を決定するための資料となるものであり、その内容が開示されることになれば、事情聴取を行うべき関係者への心理的な負担を増大させる結果、ありのままの事実が聴取できなくなることが容易に予想され、調書の作成にも支障を生じる。こうしたことは、今後の懲戒処分に関する事実調査及び公正な処分の決定に著しい支障を生じるため非開示とする。
3 旧条例第7条該当性について
 異議申立人は、個人に関する情報が十分に保護されるよう最大限配慮することを考慮したとしても、少なくとも部分開示が可能であると主張している。しかしながら、懲戒処分に係るものは、被処分者個人の内心に関する情報、処分対象となった非違行為の内容等、内容全体が個人に関する情報でもあり、被処分者である該当職員の個人に関する情報のほか、被害者の生徒個人の生活状況等の、個人に関する情報が含まれていることから、記述内容により特定の個人を識別することができると認められるため、開示されるべきではない。
 また、他県の部分開示の状況も考慮し、部分開示できる方法を検討しているが、現在のところ、部分開示できるまでに至っていない。

第4 異議申立人の主張

異議申立人が異議申立書、意見書及び意見陳述で主張している異議申立ての主な内容は、次のように要約できる。
1 本件公文書の開示の意義について
 体罰は学校教育法第11条で禁止されている。現在の高知県では、文部科学省への統計的報告以外に、まれに報道で取り上げられた場合(訴訟等)でしか、体罰等の学校内での不法行為(教育破壊行為)はオープンにならないのが実際であり闇に隠された事例も多いと推測できる。事実調査の手法や、被害生徒や加害者への事情聴取や、保護者の意見の反映、 職場での集団的取組みの状況が公開され、経過が明らかにならなければ、学校長等が事実経過を自己の都合の良いように歪めるとか児童生徒の被害を過少に描く危険を招きかねず、体罰の再発を防止できない。
 審査会等の判断も含め、体罰に関する情報公開の実態や傾向が全く学習されていない。体罰報告書は、1988年に埼玉県で個人名を除き詳しい加害状況や事件後の対応経過が、学校名を含めて公開されており、これ以後、90を超える自治体で、体罰報告書をはじめとする各種の体罰情報(処分・措置関係文書や事情聴取記録等)が公開されている。
 東京都品川区での本件同様の非開示処分に関して、「事務事業に支障を生ずるものでない」として、東京地裁で非開示処分取消の判決が下りている。この判決は平成9年に東京高裁でも開示妥当として判決が出ている。
 全国の公開事例で個人の権利の侵害や教育行政にどのように支障が生じたのかを点検し、具体的に説明することが本件判断の基礎であり、また条例運用の原理原則であるが、実施機関はこの点に何も触れておらず、説明責任を果たそうとしていない。
2 旧条例第6条第2号該当性について
(1)本件公文書の記録は、学校における公務執行に係る内容であることを否定する者はおらず、公務執行に関する情報は公開するのが原則である。
「職員の内心の問題である」として、公務上の失敗を隠すことは、教訓を引き出し、県民全体の課題にすることを回避し、身内意識から自己保身の風潮を組織的にバックアップすることになり、「やみ融資事件」で厳しく指摘された情報公開の徹底による県政改革・職員意識変革の課題に背反する悪質な姿勢である。
(2)実施機関は、非開示理由として、本件公文書は懲戒処分に係るものであるとの見解を強調しているが、これも本末転倒の言い訳である。処分基準等客観的に評価できるものがない一方、「親が恐縮していた」等の理由で処分を軽くするとか、警察に届けられたり、マスコミに報道されれば処分が重くなる等、恣意的な処分が横行する中で、処分の適正さを社会的に担保するためにも、処分理由は明らかにされる必要がある。
3 旧条例第6条第6号ア該当性について
(1) 他の地方公共団体の答申例では、「事実調査や公正な処分に支障を生ずるなどの理由について教育委員会は指揮・監督権を行使して正確な報告を指示するなどの措置によって調査の正確性を確保することは十分可能である」とされているので、事実調査が困難になるなどという弁解は、職務上の責務を放棄したものである。
(2)実施機関が根拠としてあげた本号アは、「情報公開事務の手引」によれば、「実施の目的が失われ、又は著しい支障が生ずる」、「不当に阻害される」、「協力関係又は信頼関係が著しく損なわれる」ことが客観的に明白でなければならないものであり、単におそれがあるというだけではこの号を適用することはできないものである。
4 旧条例第7条該当性について
 公開に際して部分開示という運用の可能性に触れていないが、少なくとも部分開示は可能であり、全面非開示処分は不当である。

第5 審査会の判断

1 本件公文書について

(1)本件公文書は、平成13年11月16日付けで、平成13年10月19日に体罰があった中学校を所管する、地域の教育委員会(以下「地教委」という。)から高知県教育長に提出された「報告書」と題する文書である。

 「報告書」は全部で12枚で12ページから成り、報告書の本文(以下「報告書本文」という。)に、体罰があった中学校長からの報告書、本人からの顛末書、校舎配置図及び体罰を受けた生徒の診断書を添付して提出されている。

  1、2ページ目は、報告書本文であり、地教委の対応が月日ごとに記載されている。

  3から7ページ目は、体罰があった中学校長から地教委の教育長あてに出された「行き過ぎた生徒指導(体罰)についての報告書」と題するものである。

  8から10ページ目は、体罰を行った教諭から地教委の教育長あてに出された「顛末書」と題する文書である。

  11ページ目は、体罰が起こった中学校の校舎配置図である。

  12ページ目は、体罰を受けた生徒の負傷の状態についての、医師の診断書である。

  なお、本件公文書には、ページ番号はないが、当審査会において便宜的にページ番号を付し、本答申で「ページ」として示した。

(2)本件公文書は平成13年4月1日以降に作成され、本件請求は平成13年12月3日になされたものであることから、非開示理由の適用に当たっては、旧条例第6条が適用される。

2 旧条例第6条第2号該当性について

   本号は、条例第3条後段の「個人に関する情報が十分に保護されるように最大限の配慮をしなければならない。」との規定を受け、原則公開の情報公開制度の下にあっても、特定の個人を識別することができる情報は、原則非公開とすることを定めたものである。

  これは、個人のプライバシーを最大限に保護するため、プライバシーであるか否か不明確である個人に関する情報も含めて、特定の個人を識別することができると認められる情報は、本号ア、イ、ウに該当する情報を除き開示してはならないとするものである。

  また、本号に規定する「特定の個人を識別することができると認められる」とは、住所や氏名のように特定の個人を直接識別することができる情報のほか、人々に広く知れ渡っている情報等、容易に入手し得る他の情報と結び付けることにより、間接的に特定の個人を識別することができる場合も含むと解される。

(1)実施機関は、懲戒処分に係るものは、被処分者個人の内心に関する情報、処分対象となった非違行為の内容等、内容全体が個人に関する情報であり、また、被処分者である該当職員の個人に関する情報はもとより、被害者の生徒についても個人の生活状況等の個人に関する情報が含まれるため、記述内容により特定の個人を識別することができると認められるため、開示されるべきではないと主張している。

  一方、異議申立人は、本件公文書の記録は、学校における公務執行に係る内容であるから公開するのが原則であるにもかかわらず、職員の内心の問題であるとして公務上の失敗を隠す実施機関の姿勢は、情報公開の徹底による県政改革・職員意識変革の課題に背反する悪質なものである。また、実施機関は、本件公文書は懲戒処分に係るものであるとの見解を強調しているが、処分の適正さを社会的に担保するためにも、処分理由は明らかにされる必要があると主張しているので、以下検討する。

(2) 本件公文書には、作成者である地教委の教育長、当該学校長名及び体罰を行った当該教諭の職、氏名などの職務の遂行に係る情報があり、また、当該教諭の懲戒処分につながった事件の概要などの情報が具体的に記載されている。

  戒告、停職などの処分は、地方公務員法第29条の規定に基づき行われる懲戒処分である。一般的に、これらの懲戒処分については、処分を行う任命権者の行為は職務遂行情報である。しかし、処分を受ける側からすれば、原因となった行為が職務に関係するしないにかかわらず、処分を受けたこと自体は、被処分者個人の資質や名誉にかかわる当該個人固有の評価に関する情報というべきものである。

  本件公文書に含まれる教育長、校長の職名及び氏名並びに教諭の氏名及び行った体罰の内容は、職務遂行上の情報ではあるが、処分を受けた教諭の識別につながる情報であることから、非開示とすべきである。

  また、本件公文書は、地教委から高知県教育長に提出された報告書であり、地教委や中学校の対応等についても記載されている。これらの情報は、体罰があったことに対し、地教委や中学校が、どのように対応したかを記載したものであり、職務の遂行に係る情報であって、懲戒処分につながる情報ではない。したがって、上に述べた個人を識別することができる情報を除き、本号に該当しない。

(3)上の解釈を基に、本件公文書について、個々に本号該当性の検討をする。

 ア 1、2ページ目の、地教委から高知県教育長あての報告書本文
 この報告書本文には、当該中学校で起きた体罰に関し、地教委が対応した内容が、月日の順に記載されている。内容としては、体罰は行わずに生徒指導を充実させることを協議するよう指導したこと、このような問題が起きた場合の対処法について指示したこと、体罰を受けた生徒宅に訪問し、対応したことなどが記載されている。
 報告書本文に記載された情報のうち、地教委名、地教委の教育長名及び印影、体罰があった中学校名、校長名、体罰を行った教諭名及び生徒名の事項などは、当該教諭及び生徒の識別につながる情報であり、本号に該当する。
 イ 3から7ページ目の、中学校長から地教委の教育長あての「行き過ぎた生徒指導(体罰)についての報告書」
 この報告書には、体罰が起きた概略について、当該中学校長が報告した内容が記載されている。内容としては、教諭の反省の様子、家庭訪問してお詫びをしたこと、地教委への報告や保護者へのお詫びが遅れたこと、今後の学校の取り組みについて職員会で話し合い、体罰がないよう確認したことなどが記載されている。
 この報告書に記載された情報のうち、地教委の教育長名、中学校名、校長名及び印影、当該教諭の氏名、当該中学校の教諭名、当該中学校の行事名、生徒の氏名などは、当該教諭及び生徒の識別につながる情報であり、本号に該当する。
 また、この報告書には、体罰を受けた生徒に関する情報や、保護者の言動や内心の状況が記載されている。これらの情報を開示すると、体罰を受けた生徒の日ごろの行動や言動及び保護者の言動等が明らかになる。
 この生徒が体罰を受けた状況の概要は、新聞で報道されていることから、これらの情報を開示すると、体罰を受けた生徒及び保護者が識別される可能性がある。したがって、個人の権利を保護する観点により、本号に該当する情報と認められる。
 ウ 8から10ページ目の顛末書
 この顛末書は、体罰による生徒の負傷について、体罰を行った教諭が、地教委の教育長に報告するために作成した文書である。顛末書には、中学校名、教諭名、体罰が起きた具体的な場所、事実経過、保護者への対応の経過などが記載されている。
 この顛末書に記載された情報のうち、地教委の教育長名、中学校名、当該教諭の氏名及び印影、体罰が起きた具体的な場所、当該中学校の教諭名、当該生徒の氏名、当該中学校の行事名などは、当該教諭及び生徒の識別につながる情報であり、本号に該当する。
 また、この顛末書には、体罰を受けた生徒に関する情報や、保護者の言動や内心の状況が記載されている。これらの情報を開示すると、体罰を受けた生徒の日ごろの行動や言動及び保護者の言動等が明らかになる。
 この生徒が体罰を受けた状況の概要は、新聞で報道されていることから、これらの情報を開示すると、体罰を受けた生徒及び保護者が識別される可能性がある。したがって、個人の権利を保護する観点により、本号に該当する情報と認められる。
 エ 11ページ目の校舎配置図
 この校舎配置図は、体罰が起こった中学校の校舎配置図である。これを開示すると、体罰があった中学校が特定されることとなる。中学校が特定されると、他の情報と組み合わせることにより、懲戒処分を受けた教諭及び生徒を容易に識別することができることとなる。
 したがって、校舎配置図の情報は、当該教諭及び生徒の識別につながる情報であり、本号に該当する。
 オ 12ページ目の診断書
 この診断書は、体罰を受けた生徒の負傷の状態についての、医師の診断書である。診断書には、生徒の氏名や、負傷の詳細な事項が記載されており、本号に該当する。
 したがって、別紙「非開示情報一覧」の「非開示とすべき情報」に記載された情報は、個人に関する情報であり、本号に該当し、かつ、ただし書のいずれにも該当しないと認められる。
3 旧条例第6条第6号ア該当性について
  本号は、県又は国等が行う事務事業のうち、開示することにより、実施の目的が失われ、又は公正若しくは円滑な遂行に著しい支障を生ずること等が客観的に明白である情報は、非開示とすることを定めたものである。
  実施機関は、職員の懲戒処分を決定するための資料となる本件公文書を開示すると、事情聴取を行うべき関係者への心理的な負担を増大させる結果、ありのままの事実が聴取できなくなることが容易に予想され、調書の作成にも支障を生じ、今後の懲戒処分に関する事実調査及び公正な処分の決定に著しい支障を生ずるとして、本号の該当性を主張している。
  しかしながら、本号は、行政の透明性を高めるため、県等の事務事業に関する情報は、開示することにより、実施の目的が失われ、又は公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずること等が客観的に明白である情報に限り、非開示とすることを定めたものである。
  被処分者本人への事情聴取が一定の権限を持った組織として行われるものであることを考えた場合には、その聴取が任意であるからといって、開示が前提となると、ありのままの事実を聴取できなくなるという実施機関の主張については、より具体的な支障の説明が必要である。
  しかし、実施機関の主張は、事情聴取における一般的な支障を述べるにとどまっており、事情聴取における事実の調査及び公正な処分の決定に対する具体的な支障や、著しい支障を生ずることについて十分な説明がなされていないことから、この主張だけでは本号の該当性を認めることはできない。

第6 結論

当審査会は、本件公文書を具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成14年1月23日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成14年4月10日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。
平成14年4月30日 ・ 異議申立人から決定理由説明書に対する意見書を受理した。
平成15年4月23日 
(平成15年度第1回第三小委員会)
・ 実施機関及び異議申立人の意見陳述並びに諮問の審議を行った。
平成15年6月18日 
(平成15年度第2回第三小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成15年8月6日 
(平成15年度第3回第三小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成15年9月24日 
(平成15年度第4回公文書開示審査会)
・   諮問の審議を行った。
平成15年11月17日
(平成15年度第6回第三小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成15年11月28日 
(平成15年度第6回公文書開示審査会)
・   諮問の審議を行った。
平成16年2月25日 ・ 答申を行った。

別紙「非開示情報一覧」[EXCELファイル/42KB]


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