高知県公文書開示審査会答申第86号

公開日 2009年02月27日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第86号

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諮問第86号


第1 審査会の結論

 知事は、「平成12年度厚生科学特別研究事業 知的障害者更生相談所業務に関する実態調査」について、開示しないこととした部分のうち、「1 組織・体制」の「8 職員体制」の「(2)更生相談所業務に携わる医師の配置状況等について」の「卒後臨床経験年数」欄及び「(3)知的障害者福祉司等の配置状況等について」の「資格2(採用時資格)」欄の情報を除き、開示すべきである。

第2 異議申立ての趣旨

本件異議申立ては、異議申立人が平成14年5月8日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「H12年度厚生科学特別研究事業、法改正に伴う身体障害者更生相談所及び知的障害者更生相談所のあり方に関する研究 知的障害者更生相談所業務に関する実態調査(控)」の公文書開示請求に対し、知事(以下「実施機関」という。)が行った「平成12年度厚生科学特別研究事業 知的障害者更生相談所業務に関する実態調査」(以下「本件公文書」という。)の公文書部分開示決定の取消しを求めるというものである。

第3 実施機関の部分開示決定理由等

実施機関が、決定理由説明書及び意見陳述で主張している部分開示決定の理由等の主な内容は、次のように要約できる。

 (1) 本件公文書について

 本件公文書は、国の補助事業である厚生科学特別研究事業の一環として、平成13年2月16日付けで全国身体障害者更生相談所及び知的障害者更生相談所協議会会長から依頼のあったアンケート調査に対し、本県の更生相談所である高知県立療育福祉センターが提出した文書の控えである。

 本件公文書には、知的障害者更生相談所の組織、体制あるいは所管区域の状況、更生相談所の状況など、更生相談所の全般的な業務内容が記載されている。

 また、知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号。以下「法」という。)第12条により、都道府県は知的障害者更生相談所を設置しなければならないこととなっており、職員の資格等については、その要件が国の通知により定められている。

 (2) 条例第6条第1項第2号該当性について

 職員の個人のEメールアドレス、所長の実務経験、医師の卒後臨床経験年数及び更生相談所経験年数並びに知的障害者福祉司等の配置状況における非常勤・嘱託職員の知的障害者更生相談所経験年数、業務経験年数及び資格については、個人に関する情報であって、かつ、ただし書のいずれにも該当しない。

 なお、知的障害者福祉司等の配置状況において、非常勤・嘱託職員のみを非開示としたのは、当該業務に携わる非常勤・嘱託職員が1人のみであることから特定の個人を識別できるためであり、兼任常勤職員についても知的障害者更生相談所経験年数等の経歴や資格に係る部分は個人情報であるが、当該業務に携わる兼任常勤職員が複数おり、特定の個人を識別できないため、開示したものである。

 (3) 条例第6条第1項第6号ア該当性について

 職員の個人のEメールアドレスは職務に使用されるものであり、Eメールアドレスを開示すると職務以外のダイレクトメールや悪質なEメールなどが送付されることが、既に公開されている所属のEメールアドレスに送信されていることからも十分予想され、職員の通常の業務の円滑な執行に著しい支障があることが明白であることから、本号に該当する。

 所属のEメールアドレスの公開については、メールによりいろいろな御意見や御提案をいただくために必要なことであるが、個人のEメールアドレスに業務以外のメールが送信されることになると、所属のEメールアドレスと違い、個人がメールに対するストレスを抱き、業務に支障を及ぼすことも十分に考えられる。   

第4 異議申立人の主張

 異議申立人が異議申立書で主張している異議申立ての内容は、次のように要約できる。

 非開示とした部分は、条例第6条第1項第2号及び第6号アに該当しない。
 他県の知的障害者更生相談所の多くは開示している。

第5 審査会の判断

(1) 知的障害者更生相談所について

 知的障害者更生相談所は、知的障害者の福祉に関する業務を行うため、法第12条により、都道府県にその設置が義務付けられているものであり、高知県立療育福祉センターは、知的障害者更生相談所としての機能のほか、障害児・者のために総合的な支援を行うためのいくつかの機能を併せ持つ機関として、平成11年4月1日に設置されている。

 また、知的障害者更生相談所の職員の構成及び資格については、法第14条に知的障害者福祉司の資格要件が定められているほか、昭和35年厚生省社会局長通知(知的障害者更生相談所の設置及び運営について。以下「局長通知」という。)により、職員の構成、所長、ケースワーカーの資格等が定められている。

 (2) 本件公文書について

 本件公文書は、平成13年2月16日付けの、全国身体障害者更生相談所長協議会会長ほかの連名による身体障害者更生相談所・知的障害者更生相談所実態調査に対し、実施機関が回答した調査票の控えである。

 本件公文書のうち、実施機関が非開示とした部分は、以下の部分である。

  (1)調査回答者のメールアドレス

  (2)「1 組織・体制」の「8 職員体制」の「(1)所長の勤務形態等」の実務経験の年数

  (3)「1 組織・体制」の「8 職員体制」の「(2)更生相談所業務に携わる医師の配置状況等について」の卒後臨床経験年数及び更生相談経験年数

  (4)「1 組織・体制」の「8 職員体制」の「(3)知的障害者福祉司等の配置状況等について」の非常勤・嘱託職員の知更相経験年数、業務経験年数等(常勤本務)、資格1(知更相での任用資格)及び資格2(採用時資格)

 (3) 条例第6条第1項第2号該当性について

 本号は、条例第3条後段の個人に関する情報が十分保護されるように最大限の配慮をしなければならないとの規定を受け、原則公開の情報公開制度の下にあっても、特定の個人を識別することができる情報は、非開示とすることを定めている。

 これは、個人のプライバシーを最大限保護するため、プライバシーであるか否か不明確な個人に関する情報も含めて、特定の個人を識別することができると認められる情報は、本号ただし書ア、イ、ウに該当する情報を除き非開示とするものである。

 実施機関は、職員の個人のEメールアドレス、所長の実務経験、医師の卒後臨床経験年数及び更生相談所経験年数並びに知的障害者福祉司等の配置状況における非常勤・嘱託職員の知的障害者更生相談所経験年数、業務経験年数及び資格については、個人に関する情報であって、かつ、ただし書のいずれにも該当しないと主張しているので、以下、個々に本号該当性について検討する。

  (1)メールアドレス

 実施機関の説明によれば、職務に利用されるEメールアドレスには、各所属に与えられるEメールアドレスと、職員個人に与えられるEメールアドレスがある。

 非開示としたEメールアドレスは、メールアドレス欄に記載されたものであり、記入者欄に氏名が記載された職員個人に与えられたEメールアドレスであるから、確かに個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができると認められる。

 しかしながら、当該Eメールアドレスは、職務に利用するために与えられているものであり、職務の遂行に係る情報であると認められ、ただし書ウに該当する。

  (2)所長の実務経験の年数

 所長の実務経験の年数欄は、知更相経験年数と、うち現職経験年数、社会福祉現業従事年数と、うち福祉事務所での年数、児童相談所での年数等を記載する様式となっており、これらはいずれも個人の経歴に係る情報である。また、所長の氏名は本件公文書に記載されていないが、所長の氏名は高知県職員録等において公表されているものである。

 したがって、所長の氏名は特定されるものであることから、当該個人に関する経歴は、個人に関する情報であると認められる。

 しかしながら、実務経験の年数はいずれも公務員としての職務上の経歴を示すものであり、当該職員の公務員としての職務上の経歴については、これまでに発行されている高知県職員録を見ていけば得られる情報である。したがって、所長の実務経験の年数は、公表が予定された情報であると認められ、ただし書イに該当する。

  (3)医師の卒後臨床経験年数及び更生相談経験年数

 卒後臨床経験年数は、医師としての臨床経験年数であり、当該医師に公立の医療機関以外における臨床経験があった場合、その経験年数も含めて記載するものであるから、公務員としての経歴であるとは限らない。したがって、公務員の職務の遂行に係る情報であるとは認められない。さらに、医師の臨床経験年数は、法令等の規定により何人も閲覧できる情報ではなく、また、公表を目的として作成又は取得した情報であるとも言えない。

 したがって、卒後臨床経験年数は、個人に関する情報であって、ただし書のいずれにも該当しない。

 一方、更生相談経験年数は、公立の機関である更生相談所での業務経験年数を示すものであって、高知県職員録等により公表され、又は公表が予定されている情報である。

 したがって、更生相談経験年数は、個人に関する情報であって、ただし書イに該当する。

  (4)知的障害者福祉司等の経験年数、資格について

 知的障害者福祉司等の配置状況等についての部分は、該当する職員個人ごとの、勤務形態、専門的担当領域、知更相経験年数、業務経験年数等、知更相での任用資格、採用時資格、個人的資格の保有状況及び職務に占める知更相業務の割合の欄等からなる。そのうち、実施機関が非開示とした部分は、勤務形態が「非常勤・嘱託」の職員についての知更相経験年数、業務経験年数等、知更相での任用資格及び採用時資格の欄の情報である。

 実施機関が主張するように、開示されている勤務形態にチェックをする欄を見ると、「非常勤・嘱託」の職員は1人しかいないことが分かる。したがって、氏名の記載はないが、非常勤・嘱託職員も含めて公務員の職名及び氏名は公開する取扱いとしていることから、当該「非常勤・嘱託」職員は他の情報と照合することにより識別される。また、非開示とした部分はいずれも経験年数や資格について記載する部分である。


 したがって、非開示とした部分は、個人に関する情報であると認められるので、以下、個々にただし書該当性について検討する。


 ア 「知更相経験年数」の欄は、職種として「福祉司」又は「CW」のチェック欄を選択し、さらに経験年数を記載する様式となっているが、実施機関はチェック欄及び年数を非開示としている。

 知的障害者更生相談所での職種及び経験年数は、高知県立療育福祉センターが毎年作成している業務概要書や事務分担表を見ていけば得られる情報であり、公表が予定された情報であると認められ、ただし書イに該当する。

 イ 「業務経験年数等(常勤本務)」の欄は更に、身更相、児童相談所、福祉事務所、施設病院及びその他の欄に区分されており、それぞれにおいての業務経験年数を記載し、更に、職種として、身更相、児童相談所及び福祉事務所については「福祉司」又は「CW」のチェック欄を選択、施設病院については「MSW」のチェック欄を選択する様式となっているが、実施機関はチェック欄及び年数を非開示としている。

 実施機関は、公務員の職務の遂行に係る職名及び氏名を非常勤職員等も含めて公開する取扱いとしていることから、年数を記載する欄は、慣行として公にされ、又は公にすることが予定されており、公表しても社会通念上、個人の権利利益を侵害するおそれがないと認められ、ただし書イに該当する。

 ウ 「知更相での任用資格」の欄は、「社福主事2年以上」「大学で大臣の指定科目を修め卒業」「養成校卒業」「前各号に準ずる者」のチェック欄からなるが、これは知的障害者福祉司の資格要件を定めた法第14条の分類である。なお、「知的障害者福祉司等」にはケースワーカーも含まれるが、ケースワーカーの資格は、局長通知により、「イ 知的障害者福祉司又は社会福祉主事の資格を有する者、ロ 前号に準ずると認められる者」とされている。

 知更相での任用資格については、当該所属で職務を行うにあたり必要な資格について、上記法令等により定められたものである。これを開示すれば、大学卒業等の経歴に関する情報が明らかとなるが、卒業した大学名等まで記載したものではない。また、当該職員が知的障害者福祉司等として勤務する以上、チェック欄のいずれかに該当していることは明らかであり、また、職務を行う上で、いずれかに該当していることが必要なものである。

 したがって、知更相での任用資格は、公務員が当該職務を行うにあたって必要とする資格についての情報であり、公表することを前提として提供された情報であると認められ、ただし書イに該当する。

 エ 「採用時資格」の欄は、「福祉職」「心理職」「一般行政職」「その他」のチェック欄を選択し、「その他」の場合はチェック欄を選択した上で、具体的に採用時資格を記載する様式となっているが、実施機関はチェック欄及び「その他」の具体的に記載する欄を非開示としている。

 採用時資格は、当該職員を高知県職員として採用した際の職種を示すものであり、これを開示すれば、当該職員が福祉職、心理職等の専門職として採用されたのか、また、一般行政職として採用されたのか等が明らかとなる。

 また、採用時の資格は、当該職員が現在行っている職務と必ずしも密接な関連を有するものであるとは認められず、公表を目的として作成又は取得した情報であるとも言えない。したがって、採用時資格はただし書のいずれにも該当しない。

 (4) 条例第6条第1項第6号ア該当性について

 本号は、県又は国等が行う事務事業のうち、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正、円滑な執行ができなくなり、ひいては県民全体の利益を損なうことになる情報は、非開示とすることを定めたものである。

 実施機関は、非開示としたメールアドレスについて、職員の個人のEメールアドレスは職務に使用されるものであり、Eメールアドレスを開示すると職務以外のダイレクトメールや悪質なEメールなどが送付されることが、既に公開されている所属のEメールアドレスに送信されていることからも十分予想され、職員の通常の業務の円滑な執行に著しい支障があることが明白であると主張する。

 高知県ホームページにおいて公開されている所属のEメールには、いくつかの所属について確認したところ、確かに職務以外のメールが送付されているが、その件数は限られたものであった。

 また、職員個人のEメールアドレスをホームページ上で公開している都道府県にも確認したところ、職員個人のEメールに職務以外のメールはほとんど送付されていないということであった。

 これらの状況を踏まえると、職員個人のEメールアドレスを開示することにより、ダイレクトメールや悪質なメールが送付されるおそれはあるものの、職員の通常の業務の円滑な執行に著しい支障が生ずることが客観的に明白であるとまでは言えない。


 したがって、実施機関の主張は認められない。


 (5) その他

 なお、「1 組織・体制」の「8 職員体制」の「(3)知的障害者福祉司等の配置状況等について」のうち「個人的資格の保有状況」の欄は、実施機関は開示しているが、開示することにより、当該職員が特定の資格を持っている、あるいは持っていないことが明らかになるものであり、この欄は「知的障害者福祉司等」に特に必要とされている資格の有無を記載する部分ではないので、公務員の職務遂行に係る情報であるとは言えない。

 また、「採用時資格」欄のうち4を除く部分についても実施機関は開示しているが、4以外の職員についても、開示しているそれぞれの経験年数と職員録や業務概要書等を見比べれば、個人を識別することは可能である。

 したがって、これらの情報は条例第6条第1項第2号に該当し、本来非開示とすべき情報である。

第6 結論

 当審査会は、本件公文書を具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成14年6月10日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成14年9月3日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。
平成16年1月26日
(平成15年度第9回第三小委員会)
・ 実施機関の職員から意見聴取を行った。
・ 諮問の審議を行った。
平成16年2月27日
(平成15年度第11回第三小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成16年3月22日
(平成15年度第12回第三小委員会)
・   諮問の審議を行った。
平成16年4月27日
(平成16年度第1回公文書開示審査会)
・   諮問の審議を行った。
平成16年7月15日 ・ 答申を行った。

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