産業連関表の見方

 1.産業連関表とは
 2.産業連関表の構造
 3.産業連関表の見方
 4.用語の説明


1.産業連関表とは

 産業連関表とは、一定の期間(通常1年間)に一定の地域(例えば高知県内)で行われた産業活動の実態を、その生産物(財貨・サービス)の取引を通じて一覧表にまとめたものである。そして、経済諸部門間の取引のうち産業部門間の取引を表す部分が中心となるので、産業連関表と呼ばれている。
 なお、産業連関表は、考案者の名をとってレオンチェフ表とも呼ばれ、また、後で述べるように、各産業の投入(Input)と産出(Output)を示しているので、投入産出表(IO表)とも呼ばれている。

 この産業連関表により、次のことを知ることができる。
  ① 各産業が商品の生産活動を行うに当たって、どの産業からどれだけ原材料を購入しどれだけの所得を生じたか。
  ② 各産業の生産物が、どの部門(産業または最終需要)に、どれだけ販売されたか。
 特に、産業連関表は、所得統計には含まれていない産業間の取引を含んでおり、生産活動の全容を明らかにしているところに特色がある。
 しかし、産業連関表は、このような経済の実態観察だけを目的としたものではなく、むしろ、この表をもとに、ある商品に対する需要の変動が全産業に及ぼす影響を、間接効果を含めたいわゆる波及効果の形で計算することが可能であり、このことが産業連関表が作成、利用されている理由でもある。


2.産業連関表の構造

 平成7年高知県産業連関表を縮小したものを示すと、第1表のとおりとなっている。

(1)列(タテ)と行(ヨコ)
 表を縦方向に見ると、それぞれの列(列部門)は、商品の買い手を示し、表の上端(表頭)にはその部門名が記されている。
 表を横方向に見ると、それぞれの行(行部門)は、商品の売り手を示し、表の左端(表側)にはその部門名が記されている。

(2)投入と産出
 縦の列ごとの内訳を見ると、その列部門(例えば、1次産業)が、どの産業(各行部門)の生産物をどれだけ買ったかを知ることができる。
 また、表の左側に位置する生産者(産業)の列には、産業の生産物の購入(中間投入)とともに、給与や利潤など(粗付加価値)が下側に記載されており、下端に記載されている生産額の内訳となっている。
 言い換えれば、縦の列は、その産業の生産物の費用構成を示していることになる。
 産業など列部門が生産物を購入することを「投入」と呼ぶ。

 横の行ごとの内訳を見ると、その行部門(例えば、1次産業)の生産物が、どの産業(各列部門)にいくら売られたかを知ることができる。
 また、産業に原材料などとして売られた(中間需要)以外に、個人の消費や設備投資に向けられた(最終需要)ものが、表の右側に記載されており、需要額の内訳となっている。
 言い換えれば、横の行は、その産業の販路構成を示していることになる。
 産業など行部門が生産物を販売することを「産出」と呼ぶ。

 需要の総合計額から移輸入額を差し引くと、生産額と一致し、縦横のバランスがとれていることを示す。


3.産業連関表の見方

(1)投入と産出
 産業連関表の具体的な見方を、第1表によって説明する。
 まず、1次産業の縦の列を見ると、1次産業の生産物について、投入構造(生産構造)を読み取ることができる。

 次に、1次産業の横の行を見ると、1次産業の生産物の産出構造(需要構造)について読み取ることができる。


(2)投入係数と移輸入係数

 産業連関表は、上述のようにそれ自体が、商品(生産物)の取引実態を明らかにする表として有用であるばかりでなく、産業間の取引に注目して、そこに記録されている数値を加工することにより、さらに多様な分析が可能となる。
 そこで、各産業の投入額をその産業の生産額で割れば、各産業が1単位の商品を生産するに当たっての費用構成を示す割合を得ることができる。これを投入係数という。
 第1表から得られる投入係数は、第2表のとおりである。

 第2表では、1次産業が生産を行う場合に、1単位(例えば1億円)の生産物を作るためには、1次産業の生産物が 0.1093単位(1,093万円)、2次産業の生産物が 0.1693単位(1,693万円)、3次産業の生産物が 0.1659単位(1,659万円)、それぞれ原材料などとして必要になり、雇用者所得や営業余剰などとして 0.5554単位(5,554万円)が見込まれることになる。

産業連関分析では、各部門の投入量は、その部門の生産量に比例するとの仮定をおき、例えば生産量が2倍になれば、使用される原材料の投入量も2倍になることになる。
 また、相対価格の変化、同一部門内での商品構成(プロダクト・ミックス)の変化、技術構造の変化など、投入係数を変化させる要因はあるが、投入係数は短期的に安定していると仮定し、投入係数が各産業の生産水準と独立に技術的な係数として固定されている。
 投入係数を事前に決定していることで、分析が可能となる。


 産業連関表では、この投入係数が決定的に重要な役割を果たすが、いま一つ重要な係数は、第3表に示す移輸入係数(移輸入率)である。
 特定の産業に対する最終需要は、中間需要を誘発し、需要が需要を生む形で各産業へ波及していくが、実際には需要の一部は県外・国外からの移輸入によって賄われるので、最終需要及びこれを起点として誘発される中間需要の全てが県内生産に波及するわけではない。
 従って、需要の波及過程で、県内生産に波及する部分と移輸入に波及する部分とは、区別しておくことが必要であり、このために必要となるのが移輸入係数である。
 移輸入係数の定義の仕方はいろいろな方法があるが、一般的には県内需要額に対する移輸入額の比率として算出される。

 投入係数と移輸入係数とを利用することによって、最終需要の生産誘発額を逐次繰り返し計算によって追求することができるが、実際の産業連関分析では次に示すように投入係数と移輸入係数から計算される逆行列係数を利用する場合がほとんどである。


(3)逆行列係数 − 産業間の波及効果の係数 −

 すべての生産は、最終需要によって規定される。すなわち、中間財の生産は、直接的には最終需要を充たすために行われるものではないが、その生産物が最終需要財の生産のために使用されているという意味で、間接的には最終需要を充たすために、生産が行われているといってよい。

 例えば、1次産業の生産物に対し、新たな最終需要が1億円発生した場合、この結果として、1次産業の生産額が1億円多く生産されただけで全てが終わるわけではない。
 1億円の生産をあげるためには、そのための原材料を新たに必要とすることになり、これらの原材料を生産する産業の生産額も増加し、さらにこれらの原材料を生産するための原材料がまた新たに必要となる……という連鎖反応が進行することになるのである。

 この過程を投入係数表をもとに再現すると、次のようになる。

 まず、1次産業の生産物に対する当初の需要1億円に対して、第2表の1次産業の投入係数をかけることにより、生産のための原材料等の必要額が求められる。

   1次産業 1億円×0.1093=1,093万円
   2次産業 1億円×0.1693=1,693万円
   3次産業 1億円×0.1659=1,659万円    合計 4,445万円

 次に、新たに生じた原材料の生産に対してさらに、その原材料の必要額をそれぞれの産業の投入係数をかけることにより求める。

  1次産業の需要 1,093万円に対して、1次産業の投入係数をかける。
   1次産業 1,093万円×0.1093= 119万円
   2次産業 1,093万円×0.1693= 185万円
   3次産業 1,093万円×0.1659= 181万円 小計 485万円

  2次産業の需要 1,693万円に対して、2次産業の投入係数をかける。
   1次産業 1,693万円×0.0569= 96万円
   2次産業 1,693万円×0.3241= 549万円
   3次産業 1,693万円×0.2277= 385万円 小計 1,030万円

  3次産業の需要 1,659万円に対して、3次産業の投入係数をかける。
   1次産業 1,659万円×0.0030= 5万円
   2次産業 1,659万円×0.1124= 186万円
   3次産業 1,659万円×0.2023= 336万円   小計  527万円
                               合計 2,042万円

 …以後、需要額に投入係数をかける作業が、金額が0になるまで続く

 このように、投入係数をかけ続けることによっても波及効果を求めることができるが、その結果を数学的な処理により、あらかじめ計算したものが、逆行列係数である。
 逆行列係数を使用することにより、1単位の最終需要が生じた場合の各産業が受ける生産波及効果の度合(倍率)を捉えることができる。

 第4表では、生じた需要は全て県内生産で賄われるという考えで、投入係数のみを使用した場合の波及効果を求めているが、実際の経済では、需要のうち一定の部分が移輸入で賄われる。
 そこで、投入係数と移輸入係数を使用して求めた開放経済型の逆行列係数が第5表である。

 この開放経済型の逆行列係数(第5表)を、封鎖経済型の逆行列係数(第4表)と比較すると、係数が小さくなっていることが分かる。このことは、その差だけ生産の波及効果が県外に流出していることを意味している。
 したがって、現実の開放経済のもとで分析計算に利用する場合は、開放経済型の逆行列係数のほうがより実態的であるということができる。


4.用語の説明
  使われている用語について、簡単に説明する。

投入、産出
 生産や生活のために、財貨やサービス(商品)を購入、消費することを投入(Input)、商品の販売を産出(Output)と言う。

財貨、サービス
 産業連関表で扱っている商品(生産物)は、大きく財貨とサービスに分けられる。
 財貨とサービスの分け方は、考え方によって多少の相違があるが、商業や運輸といった流通経路を通って消費者にわたる有形の商品が財貨、役務の提供などの無形の商品がサービスである。

中間需要、最終需要
 需要のうち、原材料などとして他の商品の生産のために加工、消費されるものが中間需要、生活のうえでの個人消費(家計消費)や、建物、機械などの設備投資が最終需要である。
 県内では消費されないと言う意味で移輸出も最終需要である。

中間投入、粗付加価値
 生産物を作る(生産活動)ために、購入した原材料等を加工、消費したり、サービスの提供を受けたりするが、その費用を中間投入という。
 また生産物を他へ販売する金額と中間投入額には差があるが、その差を粗付加価値といい、人件費(雇用者所得等)や減価償却費に充てられ、残りがあれば利益となる。
 中間投入と中間需要は同じものである。

投入係数、逆行列係数
 生産物ごとに1年間の生産額とその費用の内訳を構成比にしたものが投入係数であり、1年間の費用構成を表すとともに1個の商品にも援用できる。
 投入係数を使用して計算した波及の倍率が逆行列係数である。県内生産物に対する1単位の需要が直接・間接に引き起こす各産業の生産量(生産額)の大きさ(倍率)を表す。

特化係数
 ある産業の県内産業全体に占める構成比が、同じ産業の全国での構成比の何倍になるかを示したもの。
 高知県で、その産業が全国平均よりどれだけ特化しているかを示す。

自家用自動車輸送、事務用品
 この2つは、各産業の経費をひとまとめにしたもので、産業と並べて数値などが掲載されているが、いずれも産業ではない。
 各産業で使用する自社の自動車関係の経費と、文具など事務用の消耗品の経費である。


  
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