令和7年10月14日 県立文化施設、公社等外郭団体に関する議論を巡ってーーー私の所感

公開日 2025年10月14日

 令和7年の9月定例県議会では、県立文化施設のあり方やこれに関連した公社等外郭団体の改革が大きな論点となりました。これに先立って、特に県立文化施設の指定管理者決定に際しての公募方式導入の是非について、県外在住の研究者の方々が口火を切る形で地元紙の報道でも熱心な問題提起が展開されました。こうした過程で、私の考えは県議会本会議や定例の記者会見などで申し上げてきましたが、一部の論点については、私自身の考えを必ずしも十分にお知らせする機会を得られないまま、一方的にご批判をいただく形になってしまったと感じる部分がいくつかあります。ついては当欄をお借りして、私自身の考えを補足的に発信させていただきたいと思います。
 

令和7年10月
高知県知事 濵田省司
 

【はじめに】

 今回の県立文化施設等をめぐる公社等外郭団体の改革についての私の基本的な考え方は、9月定例県議会の初日に議案の提案説明で述べたとおりです。まだお目通しいただいていない方のために、以下引用します。
 

人口減少の克服に向け、県民所得の向上を目指す民間事業者の取り組みを先導するためには、県立文化施設等においても、より付加価値の高いサービスを提供し、職員の所得向上を図ることが期待されます。
 しかしながら、現在、美術館、博物館などの県立文化施設等の管理者として、公募を経ずに県から直接指定された財団等の運営には、職員給与の上限や剰余金の県への納付など、県による厳しい制約が課せられています。
 その結果、運営努力により増収となった場合でも、財団等の判断でこれを職員の処遇改善に充てることができないほか、そもそも財団等に、自主事業により増収を図ろうとするインセンティブが働かない仕組みとなっています。
 この制約は、財団等が無競争で県立施設の運営権を付与されるという、いわば特権的な地位を利用して、県が直営で運営する場合以上の報酬や利益を享受することは適当でないという考え方に立って課せられてきたものです。
 今回、こうしたあり方を見直し、財団等の運営に関する自由度の向上と直指定から公募への切り替えを一体として行うことにより、財団等が付加価値の高い自主事業の展開により増収を図ることを通じて、職員の所得向上を実現することができる道を開くこととしました。
 なお、今回の見直しは、指定管理業務の基本部分は主として県からの管理代行料収入で賄い、県民や利用者の皆さんに低廉な負担で良質な文化に親しんでいただく機会を保障する、という考え方を変更するものではありません。
 見直しの目的は、自主事業の実施と利益処分に関する自由度を増し、財団等の創意工夫を促そうとすることにあります。したがって、利益処分の際に財団等の判断により、職員の処遇改善だけではなく、自主事業の拡大といった使途に充てることを何ら妨げるものではありません。
 また、公募により指定管理者が変更となる場合、施設運営の専門性や継続性を確保するための措置が必要ではないかとのご意見もいただきました。この点については、公募に当たり現在勤務している職員の雇用の継続を条件付けるなどの手法により、各施設等の実情に応じて対応することとします。
 本年度末で現行の指定管理期間が満了となる高知城歴史博物館については、山内家から県への宝物、資料の寄贈等が行われた際の経緯を踏まえ、指定管理者の業務から宝物、資料の管理等に係る業務を除外した上で公募を行うことが適切であると判断し、今議会に関連の条例議案を提出しております。
 今後、県において、有識者による懇談会を新たに設け、各団体がより付加価値の高いサービスを企画立案することを含めて、自律性向上のための計画を策定し、実行するための支援を行います。
 こうした一連の見直しにより、県立文化施設等が県民や利用者の皆さんに、より良質で満足度の高いサービスを提供することにつなげたいと考えます。

 

【「文化の意義とは?「文化で稼げ」は暴論ではないか?」との意見について】

 今回の問題で最も強いご批判をいただいたのは、県はそもそも文化の意義を理解しているのか、文化についてビジョンを持っているのか、そして文化の世界に収益追求を持ち込むのはおかしいのではないか、という点でした。
 県ではかねてより県の方針として「文化芸術振興ビジョン」を掲げていますし、私自身は次のように考えています。
 文化は心の豊かさと生きがいを与えてくれる営みです。自分以外の人生を追体験して驚きや発見、癒しや活力をもたらし、生きる喜びを与えてくれます。だから人々はお金を払っても文化を手に入れようとします。民間の美術館や博物館も多いですし、音楽や書籍は日常的に経済取引されています。だとすれば、そもそも文化で稼ぐ、収益を上げること自身が否定されるものではないと思います。
 しかしながら、経済的に弱い立場の方々を含めて、全ての住民の皆さんが無料ないし低廉な負担で良質な文化を享受できることが望まれます。そうした環境を整えるのが文化行政や公的な文化施設の役割なのだと考えています。
 今回の改革はこうした文化行政や公的な文化施設の基本的なあり方を何ら変更しようとするものではありません。現在、県立施設の運営費のうち入館料等で賄えているのは2〜3割程度にすぎません。残り7〜8割は県の一般財源(県民の皆さんにお支払いいただいた税金)で支えています。このように運営費の主たる部分は県の一般財源で負担するという原則は維持した上で、施設の自主事業による収入を今より増やし、その増収分を職員の処遇改善や施設が本来やりたかった新規の文化振興事業等に使えるようにしたい、というのが今回の改革の狙いです。言い換えますと、そもそも施設に「稼げ」といってもそれで県の財政負担を減らそうという話ではないのです。県立の文化施設も民間事業所と同じ目線で汗をかいて収入を増やし、それによって文化予算のパイを増やして民間事業所なら当たり前にやっている職員のボーナスの上積みや新規事業による県民サービスの向上に充てましょう、ということなのです。

 

【「具体的にどうやって稼げというのか?」との意見について】

 県立の施設ではすでに目一杯の経営努力をしている、具体的に何をやってさらに稼げというのか、というお声も聞きます。
 この点については新たに「県立施設運営活性化懇談会」を開催して、民間事業所の経営者や有識者の方々のお知恵を借りたいと思っていますが、私自身が見聞きしたことや報道された実例などからそのイメージ、ヒントとして持っているのが次の3つです。
 例えば2月ごろ開催される牧野植物園のラン展。東京や大阪ではそれだけで千円、二千円といった入場料で開催されているような看板企画です。これを企画展化して通常の展示とは別料金をいただくことにしてはどうでしょうか?その間は温室に入れなくなるとすれば常設展を半額くらいに値下げしてもいいのではないかとも思います。
 県立美術館ではかつてジブリ展を開催して大盛況だったようですが、学芸員さんたちの間ではそういう収益拡大路線には懐疑的な意見が多いようにもお聞きします。そうした高収入の見込める企画ばかりやるべきというつもりはありませんが、それは邪道と言って忌み嫌うのではなく、時々はその種の企画もやって、その収益を、文化芸術的な価値は高いが集客のあまり見込めない、でも学芸員さん一押しの企画展の無料開催に充てたらどうでしょうか。
 のいち動物園の夜の動物公園「のいちdeナイト」。県民サービスとして従来の入園料のみで実施しているようですが、室戸市の廃校水族館の合宿企画を見習って、大幅アップグレードのうえで有料企画にトライしたらどうでしょう。「有料にすると経済的に厳しい家庭の子が参加できない」という意見もあるようですが、有料にしたうえで低所得の方々への対策は別に考えることは可能ではないでしょうか。世の中全体が高付加価値のサービスの創出を競う時代です。無料のサービスにこだわり過ぎると「安かろう悪かろう」の罠にはまってしまうのではないかと危惧します。
 過日全国紙の地元版に投稿されたむろと廃校水族館の若月館長の心意気には感銘を受けました。県立施設の管理者の方々にも、自分たちよりも優れた運営ができる管理者がいたら教えてほしい、というくらいの自負を持って、県民、利用者の方々を喜ばせるための創意工夫を凝らしてほしいと思います。「文化は非営利」を理由に前例を過剰に重視したり、集客・収益を軽視するのではなく、県民、利用者の皆さんが今何を求めているかを常に考え、その満足度を高めるような運営を期待してやみません。

 

【施設運営の専門性・継続性、そのための雇用の確保について】

 今回の問題で次に大きな論点となったのは、指定管理者選定プロセスへの公募制導入により、管理者が交代することとなった場合、施設運営に必要な学芸業務などの専門性や継続性が確保できるのか、という点です。端的に、現在従事している職員の雇用が失われるのは困るという率直な意見もありました。
 この問題については、そもそも指定管理者制度が一定の期限を切って管理者に指定するという制度になっていますので、この制度を使う以上は専門性や雇用の連続性は必ずしも担保されないという点に注意が必要でしょう。
 このため、今回の改革案を6月県議会に提示した時点では、専門性や雇用の連続性の確保に配慮するために、指定管理者の選考基準の設定に際してこれらの要素の配点の比重を顕著に高めることにより対応するという考え方をとっていました。しかしながら、8月のパブリックコメントや関係団体との意見交換を通じて、関係者のこの点に関する懸念が極めて大きいという判断を経て、最終的には、必要な場合には、現在雇用されている職員の継続雇用を公募の際の条件として付する措置も講じるという方針を決めました。さらに今年度末で現行の指定管理期限が切れる高知城歴史博物館については、県が山内家から宝物資料などの寄贈を受けた際に特別な経緯があったことを重視して、公募対象とする管理業務の範囲から宝物資料の管理などの業務を除外し、それらの業務は引き続き土佐山内記念財団に委ねることを可能とするための条例改正を行ったところです。

 

【「場当たり的、拙速、混乱を招いた」との意見について】

 こうした県の対応が場当たり的、拙速で関係者に混乱を招いたとのご批判もいただきました。
 しかし、県立施設と外郭団体の問題については昨年の2月定例県議会の本会議質疑で問題提起があって以降、県の担当部局で継続的に検討を続けてきたものです。その上で、今回の見直し案をいったん本年6月県議会に報告した後、パブリックコメントを経て9月県議会で最終方針を報告し関連議案をお諮りするという丁寧な手順を踏んで進めてきました。
 前述のように業務の専門性や雇用の連続性の確保のための措置の具体的な中身について、6月県議会段階から技術的な変更を加えたことは事実ですが、公募方式への切り替えを行うという原理原則の部分では一貫した対応をとってきました。また具体的な措置内容の変更も、関係者との協議を踏まえて、先方の主張に最大限歩み寄るという観点から決断したものであり、関係者との間で誠心誠意協議を行ったことの証であると考えています。関係者から多くの、また強い意見を受けながら当初の方針から一歩も踏み出さないというような硬直的な対応に終始することの方が非難に値するのではないでしょうか。

 

【指定管理者制度以外の選択肢について】

 今回の問題で、県外在住の研究者などから、「高知県の公募方式移行は周回遅れの議論」だとして、文化施設の運営方式としては一部県直営化(学芸員などの公務員登用)や地方独立行政法人化などを検討すべきとの意見も出されているようです。
 高度な研究機能を追求する国立の研究施設や「象牙の塔」とも言われる大学ならば文化や学術の専門性の追求、言い換えれば研究者が自分のやりたい基礎研究を極められるようにサポートすることが組織としての使命(ミッション)かもしれません。また、大阪市の美術館のように、施設としても地域としても既に一定レベルに達していてその安定継続が命題となった組織なら、職員の雇用の安定を重視して独立行政法人化する選択肢もあるのかもしれません。

 

【おわりに】

 私は、県立文化施設は一義的には県民、利用者への文化の普及が使命(ミッション)だと考えます。そして、高知県では施設としても地域としても現状維持に甘んじるのではなくさらなる発展を志向すべき段階にあるのだろうと思います。だとすれば、県立の文化施設では、専門性に過度にウェイトを置くのではなく、県民や利用者の気持ちにさらに寄り添って、そのニーズに応えていくべきではないでしょうか。そのためには、引き続き指定管理者制度の下で、その本来的な趣旨に沿って、公務員ではできない民間の創意工夫を活かした住民サービスの向上に軸足を置いた運営を進めていくべきだと信じています。(了)


 

《本件に関するお問い合わせ》
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