臨時部課長・出先機関長会議での知事の話(県政改革について)

公開日 2007年12月06日

更新日 2014年03月16日

臨時部課長・出先機関長会議での知事の話(県政改革について)

平成13年9月17日

 皆さんおはようございます。
 今日は実はそこの下の段に降りて話をしようと思いましたが、マスコミのマイクがあって全部持つのは大変ですのでこのまま上で話をさせていただきます。ただちょっと力を入れて話をするために、上着はとらしてもらって、腕もまくって話をさせてもらいたいと思います。

 改めまして、皆さんおはようございます。毎日のお仕事大変ごくろうさまでございます。さて、皆さん方の中には、今日は、知事から一連の事件に対しての報告、総括が聞けるんじゃないかとか、また改革に向けての何か指示があるのではないか、そんな思いをもってらっしゃる方もおられるのではないかと思います。

 けれども今日は報告や総括のため、また何かの指示のために皆様方に集まっていただいたわけではありません。そうではなくて、今回の一連の事件をきっかけに県庁の職員一人ひとりが自主性をもって考えることのできるような県庁をつくっていく、それによってこの10年言ってきた意識改革というものをもっと身に付いた本物のものにしていきたい、そのスタートの日が今日なんだという思いを皆さん方にお伝えしたいと思って、今日はお集まりをいただきました。

 といいますのも、これまでにも不祥事というのはいっぱいありました。またその都度さまざまな対策が立てられてきました。が、その対策のほとんどは、事務の形を変え、また形を整えることによって再発を防止をしていこうというものでした。言い方を変えれば、マイナスになったものをゼロにしていくというような考え方で、結果的には出張旅費の事務改革などに代表されるように、やる気のある職員がかえって何か仕事にやりにくさを感じる、といったような窮屈な改革になってきたのではないかと思います。

 しかもその際にとられた手法は、上で決まったことが下に伝えられていくというトップダウンの方式でしたから、下の側におられる方は、ますます支持待ち型になってしまいましたし、また上で決まったことだからしょうがない、という言い訳をして、自らの考え、判断を逃避をしてしまう、そんな無責任な体質さえ広がったのではないかと思います。

 このとことは、皆さま方も胸に手を当てて考えたときに、心当たりがあるのではないかと思いますが、このように上からの指示を伝えていくというだけでは、どんな取り組みも考え方も、職員一人ひとりの身についたものにはなっていきません。

 逆に、下から議論を積み上げるというボトムアップも、ただ単に担当の人たちが実質的に決定をして、それを上の者が追認をするというだけでは、みんなで渡れば怖くない式のお役所独特の非常識だとか、また古い枠組みの中での前例主義が積み重ねられていくだけで、そこには新しい時代の変化に伴う価値観も、また戦略も盛り込まれないことになります。

 このように、ただ単に上から指示を伝えていくだけ、また下から議論を積み上げていくだけではなくて、双方向に意思の疎通ができる、やりとりが出来るような組織にしていかなければいけません。このことは私自身が10年間の経験で、最も切実に感じたことの一つでございます。

 実は、先日、関西生産性本部の皆様方が高知にお見えになったとき、ある大企業の方が、社長一人が旗をふってもちっとも組織は動いてはいかない。しかし、その次のクラスの人たちが気づいて、そして動き出したときに組織は変わり始めたという話をされていて、その通りだろうなというふうに思いました。

 それだけに、今回、庁議、調整会議のメンバーの皆さん方が、私からの指示を受けてということではなく、自ら今回の事件を自分の問題として考え、自主的に議論した。そして長い長い議論の結果、改革に向けての決意をまとめられ公表されたということは大変素晴らしいことですし、またとても心強く思っています。

 ただ、庁議、調整会議のメンバーの皆さんが、折角まとめられた決意というものもそこに長い時間をかけた意義、またその内容に込められた意味というものが、課室長や出先機関長の皆さん、ひいては職員の皆さんお一人おひとりに伝わらなければ、理解をされなければ大きな動き、大きな流れにはなっていきません。

 そこで、この後開かれる各部局ごとの部課長、出先機関長の会議の際には、庁議、調整会議のメンバーの皆さん方には、どういう思いで、長い県庁生活の中のどんな反省を元に今回のこの決意がまとめられたのか、そのことをご自分の体験も交えて赤裸々に是非部下の皆さん方にもお話をしていただきたいと思いますし、また課室長、出先機関長の皆さん方もそこで語られた体験や反省というものを、自分自身が共有できるかどうか、共感できるかどうか、ということを十分に議論をし合っていただきたいと思います。

 というのも、このように決意というものが表明をされ、またその中で一定の取り組みが示されますと、とかく役所の習性として次は何か具体的な対策をという、つまり形をつくるという、形を整えるということに流れがちです。しかし、形を整えると、そういう仕組みづくりでは、本当の意味での意識改革、県庁改革には繋がっていきませんし、ただ単なる対策防止の改革に終わってしまいかねません。

 もちろん再発の防止は大変重要なことです。しかし、それだけにとどまらず今回の事件をきっかけにして、今県庁の中にある古い体質、また悪しき体質というものをもう一度見つめ直し、そして一人ひとりがそのことに気づいていく。その作業から本当の意味の意識改革が始まるのではないかと思いますし、またそうした思いが今回の庁議、調整会議のメンバーの皆さんの決意の中に込められているのではないかと思います。

 ですから、繰り返しになりますけれども、ただ単に受け身のしくみづくりの改革だけではなくて、今回のこの事件をきっかけに、意識改革、本当の意味での県政改革を進めていくんだ、そのスタートの日が今日なんだということを是非一人ひとりの職員の皆さんにご理解をいただきたいと思います。

 ただ、その一人ひとりの職員の皆さんが、今回の事件をどう受けとめているか、また庁議、調整会議のメンバーの皆さんの決意をどう受けとめているか、その受け止め方はさまざまというよりも、バラバラといった状況ではないかと思います。そこで今回のことに関連をして、自分自身が聞いた意見、声というものを、少し今後の議論のために整理をしておきたいと思います。

 その一つは、今回の事件の事実経過をもう一度きっちりと説明をしてほしい。またその中で本当の原因は何だったのか、そのことが明らかにされない限り、それに対応する対応策というものもでてこないのではというご意見です。これに対しては本当の対応策というけれども、ただ単に再発防止というものを考えるだけでは、それは意識改革という本来の県政改革につながらないという、少し別の次元の問題点があることは先ほども申し上げました。

 そのことは横に置くといたしまして、何かあるんじゃないかとおっしゃる職員の皆さんが多分感じておられることは、今回の事件でも、そこに関わった幹部の職員と特定の団体、個人との間に、もっと隠された事実があるのではないか、何か利害を伴うような関係があるのではないか、そういう思いがあるんではないかと思います。確かに、そうした事実行為を刑事責任として、民事責任としてどう判断をするか、これは評価が分かれています。

 しかし私が知る限り、今明らかになっている事実以外の全く隠された事実があるような事例はないと思います。そうした中で、私は県が知り得た、そうした事実経過ということを基に、またその中で問題点だと思うものを自分なりにまとめて県政フォーラムなり、また県のホームページなりの中で、公表をしてまいりました。

 ですから、今日冒頭にも、今日は報告また総括をお伝えをする場ではないということを申し上げましたが、確かに何かまだあるんじゃないか、何かすっきりしないなと思う職員がおられることは十分にわかります。

 しかし、そうした職員の皆さん方も、そのことだけに捕らわれるのではなく、今わかっている事実の中から、何が学べるのかということを是非考え、それをどうすれば県政改革につなげていけるのかいうことをお考えをいただきたいと思いますし、そうした思いが私は今回の決意の中に盛り込まれているのではないかと受けとめています。

 また次に、今申し上げました第一の点と関わりますけれども、今回の事件は商工労働部で起きた事件だ。だから自分たちは直接関係がい。それなのに県庁全体の反省の輪に巻き込まれるのは大変迷惑だ。そういう思いを持っていらっしゃる職員も大勢おられることと思います。確かに今回の事件は商工労働部の中で起きた事件です。しかも、一定の特異性、特質性を持った事件です。

 ただ、今回の事件の中で、問題点として指摘をされた特定の団体との関係、ここでは同和団体との関係ですけれども、これを他の各部局、そして課室、出先の機関が担当しておられる業界や団体との関係に置き換えてみたときにどうでしょうか。もちろん事件として立件されるかどうかという大きなレベルの差はあります。

 しかし、ご自分達が相手にしている業界や団体の利益ということが優先をされ、県民お一人おひとりの利益ということが後回しになっていないか、つまり、公平、公正な行政という面で見つめ直すべき点があるのではないか、という点では、私は数多くの反省点があるのではないかと思います。そのような意味で、今回の問題、この県庁の中にある体質の問題というのは、何も商工労働部に限ったことではないと、私は受けとめています。

 また、このことを別の事例で考えてみたいと思いますが、一連の外務省の不祥事の中で、自分がまじめに仕事に取り組んでいると思っている外務省の職員の方は、一部のロジ担、また一部の不心得な総領事のやったことによって、自分たちまでが同類として十把ひとからげにされる。これは大変迷惑だと考えていらっしゃると思います。

 しかし、国民はそうは受け止めていません。多くの国民は、この問題は外務省全体にある体質だとうけとめています。だからこそ、その外務省職員とけんかをしている。対立している。役人と対立をしている外務大臣にあれだけの国民の支持、支援が集まっているんです。

 そのことをぜひ、皆さんがたにも考えてみていただきたいと思います。では今、県と県民の皆さんの間の関係はどうかといえば、県民の皆さんも外務省を見るのと同じような目線で県庁を見てはいないかと思います。

 つまり、今回の事件は、商工労働部にある体質が問題だったのではなくて、県庁全体の体質に問題がある。私は多くの県民の皆さんはそう受け止めておられるだろうと思います。ですから、皆さん方にも今回のことは商工労働部の問題だ。だから自分は関係ない。他人事だというのではなくて、今回の問題をきっかけに県民の皆さんの目線から見たときに、やはりゆがんだ体質というものが自分たちの仕事に、職場にないかどうかということを、ぜひもう一度見つめ直していただきたいと思うんです。

 この点、今回の庁議、調整会議のメンバーの決意は、やはり商工労働部の問題ではないかという意識を長い長い議論の中で乗り越えて、そして共通の認識にたったというところに大変重要な意義があると思っています。このことを是非、皆さん方にも知っておいていただきたいと思います。

 もう一つ、今回の決意は庁議、調整会議のメンバーが上で決めたことだから、また上からきたことはそのままやっていればいい。こういう受け止め方、声もあるのではないかと思います。そうおっしゃるのであれば、その前に、今回の決意というものを真摯に読みとって、そこに何か足りないものはないだろうか、またそこに無用なもの不要なものが含まれてないだろうか、ということを是非お一人おひとり考えていただきたいと思います。

 つまり、皆さん方が自主的に今回のことを自分の問題としてとらえ、考えたときに、この庁議、調整会議のメンバーの皆さんの決意と同じ共通認識にたてるかどうか、ということをぜひお一人おひとりの頭の中で考えてみていただきたいと思います。

 さらに、もう一つ、3ヶ月間も議論してこの程度か、これぐらいの抽象的な内容しかないのかといった声も多分あろうかと思います。が、私はそうした声はいささか認識不足だと思います。と言いますのも自分も県政フォーラムの中でいくつかの事例をお話をいたしましたように、対応策、具体策というものはいろいろと挙げることができます。

 しかし、その具体策を挙げたとたんに、対応策というものは単なる再発防止の形を整えるだけの仕組みづくりになってしまう、ということは目に見えています。そうではなくて、今回の問題をきっかけに、本当の意識改革を、県政改革を進めていくというところに目標がある。それが今回の決意に込められているということを是非皆さん方にもくみ取っていただきたいと思います。

 ただ、そうは言いましても、今回の事件をきっかけに、様々な職場の皆さん方とお話をする中で、特に、若い職員の皆さん方とお話しをする中で、こうした仕組みだけは作ったほうがいいんじゃないかと感じたことがあります。それは職員の皆さんが仕事の中で不安や疑念を感じたとき、しかもそれがラインの中で受け止められないとき、それを補完をするための仕組みです。

 例えばある職員の方とお話しをしていたときに、同じ部局のよその課、隣の課が行った誤った行政処分、それを受けてその案件に関わる次の行政処分を担当をさせれられた。その前の誤りを追認するのはおかしいので、これは否定をすべきだという起案をしたら、上司から隣の課のミスがばれてしまう。そのことおもんぱかってか、これを追認しろと言って書き直しをさせられたと、そんなお話もございました。

 また、こうした事件をきっかけに、若い職員の皆さんからも今、自分がやっている事業を本当にこのまま進めていっていいんだろうか、大変な不安を感じる、といった率直な声が私に寄せられることも増えてきました。さらに今回の事件に関係した職員の方からは、今振り返ってみればそれぞれのターニングポイントがあり、またそれぞれのターニングポイントで、そこに疑問を感じ意見を言った職員がいた。けれども結局は、事業は粛々と進んでしまった。このような指摘も受けました。

 こうしたことから考えてみますと、ただ単なる再発防止という意味ではなく、県民の皆さんへの公平で公正な行政を実現をしていくという視点から、さらには、これからの時代を担っていく県庁の職員の皆さんに、仕事のしやすい職場をつくっていくという視点から、私は職員の皆さんが自分の仕事に疑念や不安を感じたときにそれを受け止めていくバイパス、補完機能というのは絶対に必要ではないかということを感じています。

 ということで、いま職員の皆さんに働きやすい環境をということを申し上げました。が、今回の一連の事件を踏まえての県庁改革はただ単に形を整える改革ではなく、つまり、あれをしてはいけない、これをしてはいけない、という窮屈さが増すだけの受け身の改革ではなくて、本当に時代を担う若い職員が仕事のしやすい改革になっていかなくてはいけないと思います。

 それと同時に、これまでの枠組み、前例の中でものを考えるのではなくて、日々変わる県民の皆さんのニーズに応えていく職員を養っていける。言い方をかえれば、予算やまた事業の枠組みだけで、枠組みの中だけでそれをそつなくこなしていく職員ではなくて、小さいとは言えども白いキャンバスに自ら汗をかいて絵を描いていける。そういう職員を養っていくことがいま求められていると思います。

 そのことによって県民の皆さんの満足度を上げていく。また県民本意の県政というものを実現をしていく。このことが県民の皆さんが求めている本当の県政改革ではないかと思いますし、その出発点、萌芽と言うものが、今回の庁議、調整会議のメンバーの皆さん方の決意にこめられていると私は受け止めています。

 ですから繰り返しになりますけれども、ただ単に形を整えるだけの再発防止を考えるのではなくて、これをきっかけに是非意識改革、本来の意味での県政改革を進める今日がそのスタートの日だということを、改めて職員お一人おひとりに是非実感をしていただきたいと思います。私は今回の一連の事件を受けて、県政の最高責任者として一定の責任をとってきました。

 が、私が本来取るべき責任は、また県民の皆さんに負っている責任は、本当の意味での意識改革を進めることでないかと思っています。そのことによって、県の職員の一人ひとりが自主性を持って考えることの出来る、そういう風土を県庁に根付かしていきたいと思いますし、またさらには、日々の仕事に安住するのではなく、いつも明日の仕事を考えられるようなそういう県庁に、県政に変えていきたいと思います。

 ピンチのあとにチャンスありと言うことを昔から言います。今がマイナスをゼロにするだけではなく、それをプラスに転じていく大きなチャンスではないかと感じています。知事になって十年が経ちました。道半ばという思いもいたします。

 しかし、私はこの闘いから自ら手を引く、自ら退くことは絶対にいたしません。そうした意欲、そうした意志というものを今回の庁議、また調整会議のメンバーの皆さん方が込めてくださった決意から私自身が感じ取った、ということを最後に申し添えて私からの話を終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。

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