第6回自治体トップフォーラム知事講演「新しい行政システムをめざす高知見の改革」

公開日 2007年12月06日

更新日 2014年03月16日

第6回自治体トップフォーラム知事講演「新しい行政システムをめざす高知県の改革」 (平成13年2月22日)

 今日は自治体トップフォーラムにお招きをいただいて誠にありがとうございます。この2月という季節は高知県にとってはプロ野球のキャンプの季節でございます。今西武、ダイエーそれに阪神、三球団が高知でキャンプをはってくれていますけれども、毎年この3つのチームを慰問で訪問します。これが実は私にとって若干悩みの種でございました。
 と申しますのも、私は花粉症がございますので、だいたいこの2月にキャンプ地巡りをした時にどっかで花粉症が発症するというのが例年の例でございました。ところが今年は1番周囲の環境からいって花粉症にかかりやすい、西武のキャンプに行った時に雨が降っておりましたので、これは良かったなと思ったんですが、一昨日高知の方で大きな風が吹き、そして今日は東京で随分風が吹いて、たぶん花粉が舞っていると思いますので、私の目や鼻や口のセンサーがぴりぴりっときております。
 ですから、少しその方に気が取られてうまい話が出来ないかもしれませんけれども、その点はお許しを願いたいと思います。

 早いもので、僕も知事になって今年で10年目ということになります。その10年前に知事になりました時に県庁の職員の人にまず訴えかけたことは、意識改革の必要性ということでございました。
 具体的には県庁というのはサービス機関だ、サービス業だ。だからもっともっとサービス精神に溢れた仕事ぶりをしていこうというようなこと、また仕事をするときにはその事業の費用対効果というものをきちんと考えてやっていこう、さらには補助金を上から下へ流していくと、そういうような仕事の組立方ではなくて自分のもっている持ち場、分野でマーケティングをして、それをもとに下から上に事業を積み上げていく、そんな考え方がとれないだろうかというようなことを訴えかけてきました。
 併せて情報公開でございますとか県民に開かれた県政とかさまざまな改革を心がけてきたつもりでございます。
 しかしまだまだ組織全体としてダイナミックな変革の動きにはなっておりません。そこでなんとかこの変革の流れというものをもっと大きく確かなものにできないか、そういう思いで取り組み始めたのが行政システム改革というものでございます。
 と言いますと、従来言われている行政改革と行政システム改革の間にどんな違いがあるのですかというようなご質問をよく受けます。その時私は次のようなご説明をしております。

 それはこれまでの行政改革というのは県庁ならば県庁の中の改革だけでした。行政システム改革というのはもちろん県庁の改革ということもありますけれども、それだけではなくて県庁と市町村、県庁とNPO、また県庁と県民といったような関係を見直していく、例えば県庁と県民の間であれば官と民の役割分担を見直して、新しい県庁と県民のパートナーシップをつくっていく、そういうことが行政システム改革ではないかということを申し上げております。
 と言いますのもこれまでは行政の側は公共的なことは、プロである私たちにお任せ下さいよという仕事の仕方をしてきました。それがだんだんおごりにもつながり、またお上意識にもつながってきた面もあると思います。一方住民の方々も公共的なことは行政にお任せをすればいい、そういうおんぶにだっこの依存意識というものが広がってきてだんだん行政と住民の間が疎遠になったんではないかと思います。
 しかし、お互いより良い地域社会を作っていきたいという思いに変わりがあるわけではございませんので、もう一度この官と民の役割というものを見直して一緒に新しい公共サービスを作り出していく、そんな新たなパートナーシップをつくっていくということが行政システム改革の1つの目標ではないかということを思っております。

 それと同時にこれまでの行政改革というのは県庁ならば県庁の組織というものを組織改革したら、また10年なり20年なり同じ仕組みでやっていくというのが常識でございました。これに対して行政システム改革というのは絶えず時代や環境の変化というものを受けとめて自ら変わっていく、そういう力を組織の中に作っていく、そこが行政システム改革の違いではないかと思っています。
 今申し上げた絶えず外の変化というものを感じ取って自ら変わっていく力を組織の中に作っていくこの1つの手だてとして取り組んでおりますのが、今日1つご報告したいと思いました行政の経営品質向上システムというものでございます。
 これはこのフォーラムを主催してらっしゃる社会経済生産性本部が1995年から始められております日本経営品質賞というもの。この考え方、審査基準というものを基本にしたものでございますが、そもそも経営品質といってもなかなか行政におられる方々にはぴんとこないという面があろうかと思いますので、私なりの解釈を少しご披露したいと思います。

 それは何かと言いますと、経営品質といってもそれは製品だとかサービス、その品質を良くしていくということではなくて、逆に絶えず、良い製品、良いサービスができてくるような経営またその組織の仕組みを作り上げていく、これが経営品質の向上ということではないかと思っております。
 つまりこの日本経営品質賞というように賞という名前はついていますけれども単に表彰するというだけではなく、その基本になっている審査基準にあわせて少しずついろんな仕組み仕事の仕方を改善していくことによって、私たちであれば行政サービスそのものの質を高めていくというのがこの取り組みの本質ではないかということを思っています。
 が、やはり企業から出てきた考え方ですから、いきなり行政の中に当てはめられるかなというような声も県庁の中にもいっぱいありました。が、僕自身はこの経営品質ということを聞いたときにあまり違和感は感じませんでした。

 と言いますのは、誰が自分達の仕事の対象か、お客さんかということをとらまえて、そのお客さん仕事の対象が求めているニーズというものをまたつかんでいく、また今の時代の変化、環境の変化というものをどのように感じているだろうか、そしてそれに基づいてどんなビジョンを作っているだろうか、さらにそのビジョンを遂行していくために、どういう仕事の組み立て方をしているだろうか、今、申し上げたようなことが実はその経営品質向上のシステムの基本なんですけれども、こういう考え方は企業経営であろうと、行政の経営であろうと1つも変わるところはないんじゃないかと思ったから、私自身は違和感を感じませんでした。
 けれども企業で出来上がった審査基準というものをいきなり行政の中にそのまま持ち込んだのでは、多分経営とか品質ということにあまり慣れていない公務員にとってはなんとも違和感があって拒絶反応が出てくるんじゃないかということを思いましたので、いきなりその組織全体で取り組んでいくというやり方ではなく、まず公募型のプロジェクトチームを作って、その中でどうやって行政の中に落としこんだらいいかを検討して貰おうと思いました。
 で、実際には行政システム改革室という担当の課と、今、申し上げたプロジェクトチーム、それに社会経済生産性本部のスタッフの方、一緒になってどういう形で行政の中の経営品質というものを考えていくか、この検討をしてもらいました。

 その結果、まずキーワードとして職員の気づきということを上げました。つまりその取り組みをしていく中で職員が自然に気づいて何かの行動に移していく、こういう気づきということを重要視して県庁の組織としては細胞にあたる課や室それに事務所、そういう職場単位でこの自己点検を審査基準に基づく自己点検をしていこうということを考えました。
 またその時に、このセルフアセスメントという横文字になります自己点検を限られた職員が勝手に評価し点検をするのではなくて、その職場全体で取り組んでいこうということにしました。
 もう1つ県庁という組織はなんか失敗をしたら減点をされるという減点主義で動いています。そうではなくて少しでも改善の目標を上に上げてそしてそれに向かって進んでいく加点主義のシステムにしていこうとしました。こういうことを基本にして高知県、行政経営品質向上シートというものをつくりました。
 これは先ほど申し上げましたこの社会経済生産性本部が作られました経営品質のその審査基準というものを基に作っておりまして、7つのカテゴリーにそれぞれ5つずつの質問がございます。7つのカテゴリーというのは先ほど申し上げた自分達の仕事の相手、お客さんは誰だろう、そのニーズをどうやってつかんでいるだろう、また時代の変化をどのようにつかみ、それに合わせてどんなビジョンをたてているかうんぬんといったことでございます。計35問の質問を6つのランクに分けて自己点検をしていきます。

 先ほど申し上げましたように職場ごとみんなで議論をしていくことによって自分の職場の持っている強み、また逆に弱み、足りないところは何だということが分かります。気づきます。それに基づいて今度はその審査基準の次のランクをまた目指していこう。そのために何をすればいいだろうということを議論することによって、自然にこの県庁の中のシステム改革というものが進んでいくのではないかということを考えました。
 このようなその自己点検の仕組みということの他に県庁の組織改革を進めるやり方というのは当然あっただろうと思います。例えば外部からいきなり、ここが間違ってるよといって指摘をしてもらって改善をしていく、医学に例えれば西洋医学的な外科手術の方法というのも当然あっただろういう風に思います。
 しかし、県庁という組織の体質そのものが改善をされていないのに、いきなり外から外科手術をすればその部分の病変だけは取り除けるかもしれません。けれどもまた同じような病気が別のところに出てくるんじゃないかと思いました。
 そこで3,4年かけてその漢方薬を飲む東洋医学の手法でじっくりと体質改善をしていきたいという風に考えました。それが今申し上げた自己点検、セルフアセスメントというものを中心にしたシステムづくりでございました。
 西洋医学の方法に比べれば、少し即効性に欠けるかも知れない、しかしそうやってじわじわと末端の職員にいたるまでがこの経営品質ということを考え、その意味を理解する中で大きく県庁の組織そのものが変わっていくのではないかということを思いました。

 もう1つこの自己点検の仕組みというものを取り入れたきっかけは、高知県庁が割と風通しのいい職場だ、上下の関係の風通しがいいといわれる、その土壌を利用しようと思ったことがあります。
 というのは高知県庁には各県から交流の職員として派遣で来てくださる方々がおられます。去年、その他県から来ておられる職員の方々とお話をした際に、ご自分の県庁と高知の県庁と何か文化の違いで気づいたことがありますかというお話をしました。
 そうしたらある県から来ておられる方が、自分の県ではその組織の中での上下関係がきちっとしていて、職場の中で直接課長さんと話をするようなことはない。仕事をするときは、平の職員は必ず係長に、係長は補佐に、補佐は課長にというようなそういうかたちが出来上がってしまっている。これに対して高知の県庁では日頃から平の職員の人も課長さんと気軽に話しているので、その上下の風通しの良さにびっくりしたという話をしておられました。
 それと同時にその方は自分の県庁の仕事の仕方は上からの指示サイン通りにきちんきちんとやっていくので、野球に例えれば高校野球みたいなものだ。これに対して高知県の仕事の仕方は平の職員が自分の判断でボールぎみの球でも思いっきり振っていると、大リーガーみたいで当たれば恐いなと思ったというような話をしておられました。これに対しては、大リーグみたいだっていうのは実はお世辞で本当は草野球か早起き野球だって言いたかったんじゃないかという陰の声もあります。

 このように上下の関係が非常に風通しがいい、そういうことを利用して先ほど申し上げたように職場単位で、管理職から平の職員までが一緒になって議論していく、そして自己点検をしていくということが出来るんじゃないかと、そういう意味で、その高知県庁の土壌を上手く活用したシステムになっていくんではないかなということを思いました。
 こうした形でその自己点検ということをすると同時に外部の評価というものを取り入れ、それに対する表彰の制度というものも併せて作りました。こうすることによって表彰されたところは、なんか良いやり方をしたんだな。それをみんなで勉強していく、ベンチマーク、良いところ取りとこう言いますけれども、そういうことを勉強することによってまた県庁全体のレベルが上がっていくんではないかなということを思っております。
 このような形で98年にまず施行してみてそして99年、2000年と、今度は全部の200程ございます職場でこのセルフアセスメントというものを試しに行ってまいりました。
 そこでこういうセルフアセスメントというものを職員のみなさんがどんな風に受けとめ評価をしているのかなというアンケート調査をしました。そうしましたら職場の共通認識が広がっていった。また職員相互の理解が深まったというプラスの面の評価ももちろんありますけれども、やっぱり企業の考え方を行政に入れてもなかなか馴染めないねという当然予想されたような声も出てきました。

 またこういう事をして何か効用があったかないか、ということを4段階ほどでアンケートをしてみました。そうしましたらかなり手間暇がかかったけれどもその労力に見合うだけのものはあったねというようなプラス評価の答えと、やぁもう労力だけ余計な仕事が増えてあんまり効用はなかったというマイナス評価が県庁全体ではだいたい半々の結果でした。
 だいたいこういうアンケートをすれば、知事の顔も立ててまぁまぁ良かったと答えときゃいいだろうという風な意識もたぶん働くだろうと思いますので、実際には本当に効用があったと思っている職場はまだまだ少ないのではないかと思います。
 しかし先ほども言いましたように、漢方薬を飲む、それによって体質改善をしていこうという手法をとっておりますので、始めて1年2年で効用を感じるということには逆にならないんじゃないか、そういう意味であれば、じっくりこういう取り組みを進めることによって、少しでもいい薬を漢方薬を飲んでるんだなということを意識してくれる職員を増やしていきたいなということを思っています。
 そのような職員も確かにだんだんと増えてきています。例えばある保健所の次長さんは、自らこの経営品質ということを勉強されて、分かりやすい解説集を作ってくださいました。また別の職場では経営品質に係わるさまざまなトピックスを集めてシリーズで経営品質ニュースという風なものを出してくれた職員もいます。このような職員の力、下からの盛り上がりというものをこれからどれだけ幅広い職場に広げていくかということが大きな課題ではないかと思っています。

 そこで去年の7月からこうした流れを輪として広げていくその中心的な役割を担う人として、先ほどのセルフアセスメントと自己点検という言葉を繰り返して使えば、そのセルフアセスメントのリーダー役になっていく人としてアセッサーという人の養成をしてきております。
 が、これも従来の行政のやり方ならば、上から主管課の課長補佐などに頼んでその役割をやってもらうということになりますが、それではもう形からはいる形式主義に陥ることは目に見えています。
 そこでこれも公募型をとりました。そうしましたら22人管理職から一般の職員まで含めて応募をしてくれました。そして、そのうちどうしても仕事の関係で研修が充分に受けられなかったという方を除いて17人の人にそのリーダー役のアセッサーのチームを作ってもらい、先ほど申し上げた外部審査のチームにも入ってもらって審査員の役も勤めてもらいました。
 かなりそういう人も育ってきました。こういう芽も是非大切にしていきたいと思っています。それと同時に今申し上げたような意欲を持った職員をどれだけ引き出していくか、またその人たちが活動しやすい環境の場づくりをしていくか、さらに、そういう人たちの活動というものをきちんと評価をしていくような仕組みをつくっていくかということが私に課せられた仕事ではないかなということを思っております。

 また先ほどもちょっと申し上げましたようにこの自己点検と同時に外部評価の仕組み、それによる表彰の仕組みも作っております。
 そこで西暦2000年去年の年度には8つの職場がこの外部評価に手をあげてくださいました。しかしまだまだまず勉強してみようという段階でございますので、この評価の点数からいうと200点から300点。日本経営品質賞の基準から言えばCランクぐらいのところでございます。
 ところがこのCのレベルの解説を見てみますと一定改善が様々な分野で定着をしはじめているというような評価になっていますので、まだ始めて1年数ヶ月具体的に始めて1年数ヶ月ということを考えれば、それでもまずまずそこそこの出来かなという風に少し手前勝手な解釈をしています。
 それと同時にこうやって1年数ヶ月でCランクまできましたよ。Cレベルまできましたよということを共通認識にして、また県庁全体のレベルアップにつなげていければなということを思っております。

 以上が高知県で取り組んでおります高知県の行政経営品質の向上システム、その経過と自分の思いでございますけれども、先ほど申し上げたキーワードの気づきということで言いますと、私自身この3年間の経過の中でいくつか気づいたことがございます。
 というのはその1つはこの経営品質の向上システムというのは、企業よりもむしろ行政にとって必要なシステムではないかなということでございました。と言いますのは企業には利潤を上げるとか営業成績を上げるといったように数値目標で示せる目標というものがはっきりしておりまして、それをする為にどう考え何をすればいいかという基準は割と作りやすい面がございます。

 これに対して私たち行政の仕事というのはなかなか数値目標で計りにくいという面があります。そういう仕事の中で、しかし住民の皆様方の満足度を高めていくために、また、自分達の仕事の質を高めていくために何をすればいいかというときに、この経営品質の審査基準というものは大変役に立つ目標ではないかということを思いました。
 それと同時に今行政の仕事というのは次にステップアップ、上を目指していこうという時になかなか数値目標は作りにくいということを言いました。
 また企業とは違って法律だとか制度とか仕組みという、割とそれに従っていれば大丈夫という分かりやすい基準があります。これも従来のようにその法律や制度、仕組みに従って仕事をしていればそれで事足りた、またそういうことがきちんとやっていける職員がいい公務員だという時代であればそれですんだと思います。
 もちろんそういう知識、一定の常識というものはもちろん必要でございます。しかしこれからはそれだけではなくて、最初の意識改革ということで申し上げましたように自分の持っている分野、その職場でマーケティング、市場調査をして、そこから出てきた課題を基に事業を組み立てて、むしろ法律や制度、仕組みの今持っている問題点を変えていく、またはそれを変える提案をしていく、そんな変える力を持った職員が求められている時代ではないかと思います。
 ということから言うと、まさにこの経営品質の審査基準、経営品質の向上システムというのは、こういう新しい時代に必要な公務員、組織を作っていく上で必要な仕組みではないかなということを思いました。そういう意味でむしろ企業よりも行政にとって、より必要な仕組みになってきているのではないかということを感じています。

 少しこの行政の経営品質の向上システムの話が長くなりましたけれども、行政システム改革の目標として、この絶えず変わっていく力を内部に持つということと同時に、県庁の中の改革だけではなくて、県庁と県民の間の関係を変えていく。公と民の新しいパートナーシップをつくっていくのがもう一つの目標だということを申し上げました。その面での取り組みをいくつかご紹介させて頂きたいと思います。
 1つは県民参加の予算づくりのモデル事業というものでございます。これはどういう事業かと言いますと、県内に税務事務所が5つございます。この事務所ごとに5つのブロックに分けて、それぞれの地域で10人ほどの県民に出ていただいて、何回も何回も議論をする中で、0から白紙からアイディアも出し、そして予算も作り上げていただくという事業でございます。
 従来本県でも県民からアイディアを頂く、提案を頂くということはやっておりましたし、そういうことはいろんな自治体で試みられていると思いますが、0から住民に予算を作っていただくというのは珍しい試みではないかと思います。

 その目的はいくつかございますが、1つは県民の皆さんに0から事業を作り上げていただくことで、単にアイディアを頂くのとは違って、その事業の仕組みとか事業の進め方そのものにも県民の皆さんのニーズが反映をされるようになるのではないか、またそうすることによって同じような事業であっても、うーんこういう違いがあったのかということをまた県の職員が気づいてくれるチャンスになるのではないかということを思いました。
 それと共に予算の歳出、また歳入ということは自治の基本でございます。けれどもなかなか住民の方にはそういうことは分かりませんし、感心もお持ちになる機会がありません。そこでこうやって0からその予算というものを組み上げて頂く、そういう経験をしていただくことによって、歳入歳出とか予算の持つ難しさというものも認識をしていただく、それがまた住民自治の見直しにつながっていくのではないかということを思いました。
 確かにそれに参加をされた住民県民の皆さん方からは、そのことによって税の重みというものを改めて感じた、また、予算といってもただ要望すればいいというだけではなくていろいろ難しいことがあることを感じたといったような前向きな評価も頂きました。
 一方で、県の職員からはそうやって住民に集まってもらって議論しても結局は子どもに関することとか環境だとか観光だとかそういう事業ばっかりだし、またそもそももう県でやってきた事業の繰り返しばっかりだというような批判が出ます。

 これに対して僕が県の職員に言っているのは、もし本当にこれまで県がやってきたのと同じような事業が出てきているのだとしたら、こういう事業に参加をしてくれて熱心に議論をしてくれる住民はもちろん意識の高い人です。その意識の高い人たちがこういう事業があったらいいなと思うような事業、それを本当に県がこれまでやってきたのであれば、その意識の高い住民さえ、そういう事業を県がやっているっていう事を知らなかった。そのことそのものに気づくべきではないか、そのおかしさはどっから出るかということを考えるべきではないかということを言っています。
 と共に、実際には同じように県庁の職員には見えても、机の上で予算書を作る事業と県民の皆さんが組み立てる事業ではその事業を進めるプロセスだとか仕組みで違いがあることがいっぱいあります。そういうことも是非気づいてほしいなということを県の職員には言っております。
 一方県民の側からも一部の県民の皆様方からは、県民参加といっても一握りの県民が集まってそうやって議論する。それは少し県民参加と言うのには大袈裟で、県庁の自己満足ではないですかというご批判もあります。
 これもまた一理あると思います。けれども批判をして、また批判をおそれて何もしないでいたのでは何も変わりません。少しづつこういう地道な努力を積み重ねることによって県と県民との間の距離というものを縮めていければなということを思っております。

 また、今申し上げた、県と県民との新しいパートナーシップということで重要なポイントになるのは情報公開とか透明性とか説明責任といったことでございます。
 ですから高知県では予算編成にあたっても秋に各部局から財政課に対して概算要求が出されます。その段階でその概算要求のメニューを全部県のホームページに出して県民の皆さんに公表をする、また意見もお伺いをするというようなことをしております。
 と同時に、今よく言われる事業評価のシステムにもこの県民への説明責任ということにウェイトをおいた仕組みづくりを進めております。
 というのは事業評価にはたぶんいろんな手法があると思いますけれども、事業にかかるコスト、そこから得られる効果というようなものを点数で表示をしていくとしますと、道路なら道路とか、河川なら河川という同じ事業の中であれば、その比較をして優先順位を決めることは割とたやすいと思います。
 しかし、同じ、例えば土木部の中の仕事であっても道路というような割と事業効果の見えやすいものと、50年に1度、100年に1度に備える河川の事業とを同じ事業評価で比べるということはこれ自身も難しくなります。いわんや河川の事業と教育のようなソフトの事業を同じレベルで評価をしていくということはほぼ不可能になります。
 ということから高知県ではこの事業評価ということを考えるときに県民の皆さんに十分説明がなされているか、また理解できるような説明になっているかということを大きなポイントにしています。

 具体的には、いろんな事業をする時にこういうニーズがあるといって説明するわけですが、そのニーズがどこのあるのかということ、その実証から始まって、それを実現をしていくための事業としていくつかの選択肢がたぶんあるはずです。
 その選択肢のうちでどうしてこのやり方をとったのかという説明。それによってどういう成果を目標にしているか、またいつ頃を目標にしているか、またその実現の可能性はどうかというようなことについて県民の皆さんにきちんと説明が出来ているかどうか、このことを事業評価の基準にした事業評価の仕組みづくりをしております。
 と言いましてもなかなか簡単にいくものではございません。今は予算全部事業全部ではなくて特別枠という一定限られた事業についてやっておりますが、それでもなかなかその理念は浸透いたしませんので充分な説明にはまだまだなっていないのではないかと思います。
 けれども先ほども言いましたマーケティング市場調査、そういうような技術もつけていくことによってこの事業評価の仕組みのレベルアップも進めていきたいというようなことも思っております。

 以上県で進めております行政システム改革ということについてお話をさせていただきましたが、このようにスラスラと話すとなんかもの凄く上手くいってるなと、高知県は随分進んでいるなという風にたぶん思われるのではないかと思いますが、隣の芝生は青いと、こう昔から申します。
 自分で実際にやっていきますと県庁の中でもまた県庁の外でも、そんなことやってなんの効果があるんだと、具体的にどういう効果があったか言ってみろと自己満足に過ぎないじゃないかというようなご批判がいっぱいあります。
 しかしご批判が多いということは、それだけ関心が強いことの裏返しではないかと少し開き直りに聞こえるかも知れませんけれども、そう受けとめてこれからもそのご批判にきちんと説明責任が果たせるような行政システム改革というものを進めていきたいと思っています。
 そういう中で県庁の職員が行政の経営品質ということを一人一人意識するようになった、また県の事業というものは全て県庁がその企画立案をして県庁が実施をしていくという従来の固定観念、その呪縛から解き放すことができたらその時に県と県民との関係というのも大きく変わって新しい住民と県とのパートナーシップができる、またそこに新しい住民自治ができていくのではないか、そういうことを是非目指していきたいと思います。
 ということで頂いたお時間がきましたのでこれで報告を終わらせていただきます。どうもご静聴ありがとうございました。

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