エコデザイン学会連合セミナー知事講演(グリーン購入について)

公開日 2007年12月06日

更新日 2014年03月16日

エコデザイン学会連合セミナー知事講演(高知県グリーン購入基本方針)於:千葉幕張メッセ

平成13年9月5日

 今日はエコデザイン学会連合のセミナーに講師としてお招きをいただきまして、誠にありがとうございました。
今日いただきました題は「高知県でのグリーン購入の基本方針」というようなことでございますが、あまり事務的なことを事細かくお話をしても仕方ないと思いますので、グリーン購入のことを中心にして、県の考えている環境対策なども含めて、少しの時間お話をしたいと思います。

 皆様方もご承知のとおり、グリーン購入が正式に法的に位置づけられましたのは、この春からということでございますが、高知県がグリーン購入ということを意識をし始めましたのはもう少し前のことでございました。
 というのは、平成9年に県の「環境基本計画」をまとめまして、その翌年、平成10年の7月に「環境保全率先行動計画」という、なんか舌がもつれてしまいそうな長い計画をつくったんですが、この中で「グリーン購入」というのを明確に言葉としては位置づけておりました。

 ただ、その当時はまだ、「率先行動」といっても、「グリーン購入」といっても、県の職員もピンとこないという時代でございましたから、計画はつくったものの実行はまだまだ、というのが現実でございました。
 それがだんだん実行としても身につき始めましたのは、県庁の本庁舎でISOの14001を取るという取り組みを始めた頃からではなかったかと思います。

 これは平成11年度のことでございますが、今申し上げましたように、本庁舎でISOの14001を取るという宣言をいたしました。といいますのも、こういう取り組みによって、県庁全体、また職員全体に環境問題への意識づけを徹底できるのではないかと思いましたし、また、行政が率先して取り組むことによって、県内の企業など民間の皆さん方にもそういう意識を持っていただけるのではないかと思ったからでございます。

 結果として、昨年の2月に、県の本庁舎などで14001の認証を取得をすることになりましたけれども、この過程、環境マネジメントシステムなどに取り組むなかで、県庁の職員の中にも、ゴミの分別でございますとか、省エネ、そういう意識がだんだんと根づいてきたと思います。
 結果として見てみましても、先ほど言いました「行動計画」をまとめる以前の平成9年度と、昨年度、平成12年度を比べますと、コピー用紙の購入量は33%、水道の使用量がおよそ20%、また、電気の使用量がおよそ15%ほど、削減をされておりますし、これを金額ベースで当てはめてみますと、4000万近い削減ということになります。

 そこで、グリーン購入の方に話を戻しますけれども、国が法としてきちんと位置づけました。このことを受けまして、県でもこの4月に基本方針をつくりまして、4月、5月、6月、3ヶ月間を試行、試みの期間といたしました。そして、7月から実施計画をまとめて、具体的な取り組みを進めています。
 つまり、高知県としてもまだまだ具体的な取り組みが始まったばかり、これからというところでございますが、グリーン購入にはまず、そのグリーン購入の対象となる品目は何かということを決める手続きがございます。この点は、基本的には国の品目をそのままリストアップをしております。つまり、コピー用紙とか印刷用紙といった紙類、また、文房具、机、椅子といった備品、さらにはOAの機器ですとか、公共事業、こういうものの101品目を国はあげておりますが、これをそのままリストアップいたしましたうえ、県独自の項目といたしまして、たいへん小さい話ではございますが、名刺と、それから胸につけるネームプレートを入れて103品目としております。

 この名刺とネームプレートは、いずれも仕事に使うものということで、高知県の場合には公費で支給をしておりますが、名刺につきましても、再生紙などだけではなくて、高知県は一番全国でも森林の多い県、森林県でございますので、間伐材を使った台紙がございます。この間伐材を使った台紙などをこうした意味合いでグリーン購入の品目に含めております。

 また、名札も、従来、プラスチックの名札を人事の方で新入の職員に渡すということをしておりましたが、これももう少し何か検討できるのではないかということで議論をいたしました。というのは、先ほども言いましたように、高知県は全国でも一番の森林県でございますので、これまでにも、「木に親しむ」、また「木を活かし、木を育てる」、こんなことをキャッチフレーズにした「木の文化県構想」という政策を進めております。その中で、この木の問題を取り扱う森林局の担当職員は、胸の名札に間伐材の名札を使っておりました。そこで、人事と森林局の方で話をして、今後新しく名札をつくっていく、購入していく場合には、この間伐材の名札を使っていこうということで、このネームプレートもグリーン購入の品目として加えております。

 また、グリーン購入ということでは、購入をする品物がグリーン購入の基準に達しているかどうかということを示す基準がございますが、この基準は基本的に国の基準に従いました。
 併せて、毎年度、毎年度、実施計画をつくっていくわけでございますが、この実施計画の中に掲げます目標の達成率、これは基本的には100%の達成をめざしております。

 といいますのも、グリーン購入の対象になっている品目の場合には、今申し上げましたグリーン購入に当たるという基準をクリアーをしている、そういう商品がほとんどの分野でつくられておりますので、よほどの事情がない限り、グリーン購入ができなかったということはあり得ないと思ったからでございます。
 逆に、もし、今申し上げました目標達成率100%が達成できないときには、なぜ達成できなかったかということを説明をする説明責任が行政には負わされているのではないか、ということを思いました。

 実は、昨日も、森林関係でございますが、同じような環境関係のセミナーがございまして、その会に出席をしておりましたら、そこにおられました別のパネラーの方が、「このグリーン購入はやはり情報公開というのが大切なポイントではないか。」ということをお話をされ、「グリーン購入が実際どれだけ進んでいるのか、これを監視をしていく、チェックをしていく、グリーンウォッチ、グリーンウォッチャーを育てていくことも大きな課題だ」ということを指摘をされていました。

 そのとおりだと思いますし、県でもこのグリーン購入を始めるに当たりまして、グリーン購入ネットワークとリンクをしたグリーン購入単独の県のホームページというものを立ち上げまして、グリーン購入が実際どれだけ進んでいるか、その実績を四半期ごとに外に向けても公表をしていくことにしております。と同時に、今申し上げましたように、達成率が目標の100%いかなかったときには、何故いかなかったのかということをきちんとこういうページを通じて外にも説明をしていきたいと思っています。

 というと、非常にかっこよく聞こえますけれども、その一方で、車など一部の品目は、目標達成率100%というふうな明確な目標を掲げずに、「調達に努める」という曖昧な表現を使っております。
 といいますのも、今申し上げた車に関して言えば、例えば土木事務所などで使っております業務用の軽自動車、いわゆる箱バンに関しましては、グリーン購入の基準を満たした車をつくっているメーカーが今のところ一社しかございません。本来のグリーン購入の趣旨は、一社でもそういう製品をつくっていれば、それを買う、というのが本来であろうと思います。けれども、車はなにぶん相当のお金がかかりますので、もうちょっと競争原理が働いてからということで、その目標達成率を明記することを見送っております。

 ですが、先ほども申し上げましたように、毎年度、毎年度、実施計画ということを立ててまいりますので、今申し上げましたような点は、来年度、また実施計画を見直すときには当然検討課題になると思いますし、これだけグリーン購入ということの意識が進んできておりますので、他のメーカーでも、今の例えば箱バンなどに関して言えば、グリーン購入の基準を満たした商品が、車が、生産をされるようになるのではないか、と思っています。

 このように、グリーン購入ということが進む中で、さまざま、こうした分野での新しい商品づくりが進んでくるのではないかと思いますが、これに対する行政の立場は、ただ単にグリーン購入の買い手、購入先として、そういう新しい商品開発の動きを見守っている受け身の立場ではなくて、これは新しいビジネスチャンスである、新しい地域の産業振興のチャンスであるというふうに捉えて、積極的にそのことに関わっていく、そんな姿勢も求められるのではないかと思いました。

 ただ、そのためには、行政だけではなくて、企業の方なども含めた、いっしょに検討していく組織が必要でございます。そこで、わが県では、去年の9月に、先ほど司会をしておられました寺尾さんが事務局をしてくださっておりますけれども、産・官・学・民が連携をいたしました「高知エコデザイン協議会」というものを立ち上げております。

 具体的には、県内の中小の企業の皆さん方が中心になっておりますけれども、これに行政の関係者、また研究者、消費者、さらには農林水産など一次産業の関係者も含めた方々が会員になって、今申し上げたようなエコデザインの商品開発ということだけではなくて、このグリーン購入、グリーンコンシューマーというふうな意識がどうすれば土壌として広がっていくのか、そのようなことを調査研究をしていきたいと思っています。

 実は、私がそのエコデザイン協議会の名誉会長ということになっておりますけれども、名誉会長の仕事は、時たまこうやって語り部として皆様方にお話をするぐらいでございまして、特段のことをしているわけではございません。実際のところは、寺尾さんをはじめ県内の企業の方々が極めて前向きに取り組んでいただいておりまして、非常に心強く思っております。
 また、県内の企業の皆さん方のこのエコデザインの面での活躍ぶりは、先ごろダイヤモンド社から出ました本の中にも、『循環型社会の「モデル」がここにある』という高杉晋吾さんの書かれた本でございますが、この中にもかなりのボリュームで書いていただいておりますので、ご興味のある方は是非読んでいただきたいと思います。

 で、こういうような取り組みを進めてまいります中で、何が大きなネック、課題かと言えば、やはりコストの問題ではないか、ということを思います。
 といいますのも、このエコデザインに関わる環境製品というのは、どちらかというとやはりコスト高、割高というのが常識になっている面があるからでございます。
 例えば、先ほど、高知県では「木の文化県」という政策を進めているということを申し上げましたが、そうした取り組みの中で、木を使った、間伐材などを使ったさまざまな商品づくりが進んでおります。例えば、四万十川の中流域にございます大正町という町の森林組合が、間伐材を集めた集成材を使った事務机をつくっております。大変いい事務机でございまして、私のいる知事室の隣の秘書課にも取り入れておりますが、こうしたものをもうちょっと県庁の中にいっぱい入れていこうじゃないかということを言ったときに、相当の議論になりました。

 といいますのも、従来使っておりますスチールの事務机は1つ23,100円くらいでございます。これに対して、この集成材の事務机は91,350円、なんと4倍近い値段がしております。このために、このことを議論したときに、「確かに木を使う、また環境にやさしい製品を使うということはとてもいいことだけれども、一方で、財政が厳しくなって、財政構造改革、そういうことから県民のサービスも削っていく、そんなときに、通常の大体の商品と4倍も開きがあるものを買って、果たして県民の理解が得られるだろうか」こういう議論になりました。

 また、もう一つ例を挙げますと、県の東部に馬路村という、これも中山間地域の村がございまして、ここの第3セクター、「エコアス」という会社ですが、この第3セクターが、間伐材を使ったトレイ、あの生鮮食料品などをのせるトレイだとか、間伐材のお皿などをつくっております。この商品を見たときに、話を聞いたときに、私はこれはとても面白いなと思いました。というのは、もし県内の量販店なり商店なりが、すべて発泡スチロールのトレイをやめて、間伐材のトレイになれば、これはもう相当のPR効果もあるし、また、さらに大きなビジネスチャンスにもなるんじゃないかと思ったからでございます。

 といっても、もちろん価格の開きはあると思いましたから、まあ若干の部分は商店また量販店にも持っていただき、足りないところを行政が支援をしていく、というようなスキームが、仕組みがつくれないか、そんな皮算用をはじきました。ところが、単価を聞いてみますと、発泡スチロールのトレイは大体2円ぐらいで1枚できます。これに対して、このエコアスの間伐材のトレイは、まだ仕事を始めたばかりということもあるんですけれども、1枚30円ほどかかっておりましたので、とても今申し上げたような皮算用は成り立たないな、ということになりました。

 今申し上げたのはほんの一例でございますが、このようにエコデザインということを考えてまいりましたときに、この「コストの壁」というのはかなり大きな課題であろうと思います。ですから、このコストを下げていくために、まず第一にはいろんな工夫をする、技術開発をしていくということが欠かせない課題であろうと思います。
 例えば、先ほど例に挙げました大正町の森林組合の集成材の事務机で言えば、今はすべての部分をその集成材でつくっているわけでございますが、そうではなくて、上の天板など枠組みだけ集成材でつくって、中のキャビネットは別のメーカーさんと組んでつくる、というふうな工夫が当然必要ではないか、ということを思いますし、またこの例に限らず、技術革新によってコストを下げていけるという分野も数多くあると思います。

 また、コストが高くなっている理由の一つは、釈迦に説法でございますが、こうした分野の需要がなかなか広がっていない、マーケットができていないということでございますので、まあコストとのもちろん鶏が先か卵が先かという議論もございますけれども、もう少しマーケットを広げていくために、消費者はもちろんですけれども、原材料としてそういうものを買う企業の皆さん方の意識を切り替えていっていただく、そのためのいろんな仕組みをつくっていくということも一つ大切な視点であろうと思います。

 また、さらに、今申し上げたようなことを進めていくために、行政として税制をどうしていくのか、規制緩和をどうしていくのか、さらに補助の仕組みをどうしていくのか、まあこのようなこと、つまり技術革新や工夫でコストを下げる、そして意識改革で需要、マーケットを広げる、それを行政の規制緩和、補助などの施策で支える、というような3つの点が大きなこれからの課題ではないかと思っています。

 が、そのためには、行政だけでも企業だけでもなかなか進まない。また、消費者にも入っていただかなければいけない。そういう意味合いで立ち上げたのが、先ほど申し上げましたエコデザイン協議会でございます。是非、こうした協議会を通じて、今申し上げた3つのテーマにも取り組んでいきたいと思いますし、そういう中から、新しいビジネスが、商品が出てきて、それが高知県の環境ブランドになっていけばな、というような夢も抱いております。

 が、このようなことを進めてまいりますときに、研究者、また企業の皆さん方にひとつ注意をしていただきたいなと思うことがあります。それは何かと言いますと、グリーン購入ということが始まりましたので、「環境にやさしい」というキャッチフレーズがつけば、それで販路が広がるのではないかという、安易なというと失礼ですが、安易な思いからいろんな商品をつくる。が、結果として、ライフサイクルのトータルのコストで見たら、決して安くない、環境への負荷も少なくない、というようなものができる可能性もあるんじゃないか、ということでございます。

 具体的には、例えば再生紙にしてもですね、印刷のインクを分離をするためにかなりの油をたく、これが本当に環境にやさしいか、ということをおっしゃる方もいますし、研究者の方の中には、そうやってリサイクルにかけるエネルギーということを考えたときに、バージンの素材を使った方がはるかに環境への負荷が低いような例もあるんじゃないか、こういう主張をされる方々もいっぱいおられます。

 もちろん、今申し上げたようなことは、それぞれの製品、また作り方、製法によっても事情は違う、それぞれのいろんな事情があるとは思いますが、そうしたことは、行政の担当者である私たちも、また特に一般の消費者の皆様方にはなかなかわかりません。将来的には、こういうことをきちんと見極めるようなNPOのグループ、団体が出てくるということが我が国でも必要だと思いますが、そういう状況になるまでは、やはり企業の皆さん方、研究者の皆さん方にこういうことを意識して取り組んでいただかないと、グリーン購入、グリーン購入と言いながら結果としては何だったんだろう、というようなことが言われかねないのではないかということを思います。

 と、いささか生意気というか口幅ったいことを言いましたが、ついでにもう一つ口幅ったいことを言いますと、大量生産、大量消費ということで日本の高度成長は支えられてきました。この大量生産、大量消費で物をまわしていく使い捨ての思想というのをもう少し見直さないと、いかにグリーン購入と言っても資源循環型の本当の意味での社会はつくれないのではないかという気がいたします。
 といいますのも、大量生産、大量消費での使い捨て、このサイクルがそのまま生きていますと、グリーン購入といっても、結局そのグリーン購入の品を大量に購入してどんどん捨てていく。そこにかかわるエネルギーを考えれば、ライフサイクルのコストで、結果的にはあまり環境への負荷を低くできないというような事態が生じかねないからでございます。

 つまり、グリーン購入ということに安住をしてしまうのではなく、その言葉でなんか安心をしてしまうのではなくて、もう一度、物の買い方なり、その使い方なりということを見直していくことも必要ではないかな、と思います。
 この点、日本には昔から「足るを知る」というような言葉がございますけれども、こうした日本人的な考え方というものをもう一度見直していけば、やがて日本は世界に誇れるような資源循環型の社会をつくっていけるのではないか、また、そういうふうになってくる、その時代になれば、グリーン購入とかいうことをわざわざ言わなくても、自然にそういうことが進んでいくのではないか、というようなことを思っています。

 いささか最後は大げさな、また煙に巻くような形になりましたけれども、だいたいいただいた20分という時間が過ぎましたので、これで私からの報告を終わらせていただきます。
 どうもご静聴ありがとうございました。

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