アジア生産性機構地域経済活性化視察・研修セミナー(知事講演)

公開日 2007年12月06日

更新日 2014年03月16日

アジア生産性機構地域経済活性化視察・研修セミナー(知事講演)

平成13年11月5日(月曜日)高知新阪急ホテル

 皆様、こんにちは。ご紹介をいただきました高知県知事の橋本でございます。
 本日は、APO(アジア生産性機構)のセミナーを高知で開催をいただきまして、誠にありがとうごさいます。

 また、今回の研修と視察を実施いただきました田島事務総長をはじめ、APOの関係の皆様方に心から感謝を申し上げたいと思います。と同時に、アジア・太平洋の国々から、このセミナーにご参加をいただきました参加者の皆様方に、心から歓迎を申し上げたいと思います。

 今日私に与えられましたテーマは、「高知県における産業振興の取り組み」ということでございますけれども、その話を始めます前に、その前提として、高知県の置かれております現状並びにいくつかの指標について少し触れさせていただきたいと思います。

 まず高知県の地理的な条件でございますけれども、高知県は面積の84%が森林という、全国47の都道府県がありますが、その中でも最も森林の比率の高い県でございます。裏を返せば、それだけ工場の用地などに使う平地の土地が少ないということになります。

 しかも、東京ですとか大阪といった大都市、大きなマーケットから遠く離れているという距離のハンディキャップを抱えております。つまり製品を運ぶ際、物流のコストがかかるということになります。このため自動車や電気など、組み立て加工型の産業が中心でございました国の高度経済成長の波に乗りおくれた県でございます。

 この結果、産業の中に占めます2次産業の比率が相変わらず低い水準にございますし、また製造品の出荷額も47の都道府県のうち下から2番目という状況にございます。

 こうしたことが県の税金の収入がなかなか伸びないという原因にもなりますし、また若い人たちから見ますと、自分たちが働きたいと思う職場が少ないということから、県外に人が出て行く。それによって人口が減少するということにもつながっております。

 このため、県内の企業の力を強めて雇用の場を広げていくということは、県にとりましても最も大切な課題でございますけれども、これまで日本の経済を支えてまいりました、組み立て加工型の産業が東南アジアの諸国との賃金コストの格差などを理由にどんどん国外に生産拠点を移しておりますので、単なるコスト競争という視点ではなくて、別の視点から地域の産業振興を考えなければいけないと思っています。

 ということで、今日は情報化の活用、また高知工科大学という地元の大学の活用、さらには海洋深層水など、地域の地元の資源の活用といったことをテーマに、本県の産業振興への取り組みをご紹介してみたいと思います。

 まず情報化の活用でございますけれども、我が高知県は全国でも最も早く情報化に取り組んだ県の一つでございまして、1997年から2001年、今年までの5カ年の情報化の計画を立て、この中で福祉や教育や防災など9つのプロジェクトを設けて、さまざまなモデル的な実験に取り組んできました。この結果、県内の情報関係の企業もだんだんと力をつけてきていると思います。

 例えば、経済産業省の統計を見ますと、毎年、情報関連の企業の売上高が前年に比べてどれだけ伸びたかという数字がございますが、1997年、高知県が情報化の計画をつくって以来この5年間を見ますと、高知県の場合多いときには28.9%、少なくとも数%という伸びになっております。

 また、1事業所当たりの年間の平均の売上高も、直近の数字で、6億1,800万円余りでございまして、全国24位という数字になっています。先ほど申し上げましたように経済力が弱く、製造品の出荷額は全国で下から2番目、つまり46番でございますので、こうした中で情報関連企業の1事業所当たりの売上高が全国24位というのは、そこそこ健闘していると言えると思います。

 また、これは別のお役所の統計でございますが、1999年、一昨年の9月から今年の3月までに、ソフト関係のIT関連企業の事業所がどれだけ増えたか、その比率を1年間に換算をした数字がございますが、これを見ますと高知県は20.7%、全国平均は11.8%でございますので、全国の平均を大きく上回って全国9位という数字になっております。

 しかし、こうした情報関連企業の取引先、取引の相手を見てみますと、経済の力が弱いということから、製造業や金融機関の比率は大変低うございまして、逆に県庁など官庁自治体からの発注ですとか、また大手のベンダーの下請の比率が高くなっております。

 こうしたことから、今後も県庁など、自治体の仕事、事務をアウトソーシングしていくことによって、また今後進んでまいります、電子自治体、自治体の電子化にいち早く取り組むことによりまして、こうした県内の情報関連の企業、またおうちの中で、スモールオフィス、ホームオフィスという形で、ソフト関係の仕事をしていくSOHOの人材の養成と底上げに努めていかなければいけないと思っています。

 しかし、今申し上げましたような下請的な業務だけではなかなか独自のソフトの製品を持った企業が育ってまいりません。そこで県内の企業に独自のソフトの製品を持ってもらうような仕組みがつくれないかということを今検討をしています。

 それはどういう意味かと申し上げますと、今は県が発注をし、民間の企業と共同でシステムを開発いたしましたとき、そのときできます著作物の著作権は県が占有する、県が持つことになっております。つまりそうした著作物の著作権を民間の企業が再利用するということを、全くこれまでは考えておりませんでしたし、県の規則そのものもそうした再利用を認めない形になっておりました。

 そこで、この規則を改めまして、こうした場合に、つまり県と民間の企業が共同開発した場合には、その著作物の著作権、またそこからビジネス特許などを申請して、特許権が得られた場合、その特許権を民間の企業に占有してもらって、その権利をもとにさまざまなビジネスをしてもらえる仕組みがつくれないかと考えています。

 なぜこういうことを考えたかといいますと、それは2年ほどかけて取り組みました、県庁の中のあるシステムのダウンサイジングがきっかけでございました。これまでの常識でございますと、ダウンサイジングをするときは、コントローラーもアプリケーションもすべて全部取りかえるということになります。

 ところが、高知県庁にはシステムエンジニアの専門化がおりませんでした。つまりそういう常識がございませんでしたので、せっかくのアプリケーションを捨ててしまうのはもったいない。だからアプリケーションは残して、クライアントサーバーにそれを落とし込んでもらえないだろうかというような注文を出しました。

 そうしましたら、それを受けた民間の企業が努力をされて、そういうやり方ができるようになりましたし、その結果、従来のコントローラーもアプリケーションも全部取りかえるやり方に比べまして、仕事の期間も大幅に短くなり、またかかった費用も大幅に削減をされました。

 そこで、こうした新しいビジネスモデルをビジネス特許として申請できないかということを、今検討をしています。今、日本の国内ではビジネス特許の申請が大変増えておりまして、申請から公表まで1年半ぐらいかかるのではないかといわれていますけれども、こうした形でビジネス特許の特許権が取れましたら、その権利を今申し上げた、民間の企業に持ってもらって、その権利をもとに高知県以外の地方公共団体でございますとか、また大手のベンダーと、ビジネス、取引をしていただいたらどうかということを考えております。

 といったことで、情報化を活用した産業興しの一端をお話をさせていただきましたが、この分野は文字どおりの日進月歩、大変地域間の競争も激しい分野でございますので、これからも例えばブロードバンド化に対応することによって、県内の情報関連の企業が仕事がしやすい環境をつくっていかなければいけません。

 それと同時に、既存の企業、情報関連の企業だけではない、さまざまな企業の経営革新への活用という意味も含めて、情報通信の技術を持った人材の育成が大きな課題になっていると思います。

 ということで、今度は次の話題でございます。高知工科大学という地元の大学を活用した産業興しに話を移したいと思いますが、私が知事に就任をいたしました10年前には、この高知県には工科系の大学、また大学の工学部が一つもございませんでした。

 けれども、これからの経済の流れということを考えてみますと、単なるコスト競争では東南アジアの国々にかなうはずはございません。ですから、もっと付加価値の高い商品の開発、またビジネスモデルの開発ということが必要になります。

 また、そのためにはそうした技術の開発、システムの開発のできる技術の拠点が、またそうした技術を担っていける人材養成の場が地方にも必要だと考えまして、県が土地と建物は提供、整備をする。そしてあとは学校法人という形で私立で大学を運営していく。

 日本では、これを公設民営といっておりますが、そうした手法で立ち上げましたのが、高知工科大学でございます。大学の創設は1997年4月。この3月春に初めての卒業生を社会に送り出したばかりの若い大学でございますけども、既に2年前から大学院がスタートし、また去年の4月からは、企業と共同で研究していく場でございます「連携研究センター」というものもスタートしております。

 このうち大学院の中には業を起すという意味の起業家、つまりアントレプレナーを育成するコースがございまして、ここはスタンフォード大学などとも交流、提携をしておりますし、既に液晶関係の会社などを立ち上げる大学院生も出てきております。

 また、この大学院のコースは現役のビジネスマンや、企業の経営者などにも受講していただくようにしております。このため土曜・日曜の開講にしておりますし、東京と大阪にも教室を設けまして、東京、大阪のビジネスマンがテレビ会議のシステムで、一緒に受講できるようにしております。

 また今後は、大学院だけではなくて、学部にございます5つの学科の中にもこうした起業家を育成するコースをつくることによって、大学の中からベンチャービジネスの芽をぜひ育てていきたいと思っております。

 もう一つの「連携研究センター」のほうは既に20の企業が共同研究という形でこのセンターに入っておりまして、既に部屋が満杯、部屋が足りないという現状になっています。ここで行われている研究の幾つかをご紹介してみたいと思いますが、その中にコンニャクという植物性の食材を使って、ひき肉と同じような食感の食材をつくろうという研究グループがございます。

 この研究は、今ちょっとした理由で少し停滞しておりますけれども、既に試作品はできておりまして、私もそれを食べてみましたら、ハンバーグと同じような、いい食感のものができておりました。このコンニャクという食材はもともと大変健康にいい、ヘルシーな食材でございますので、うまくいけばヘルシーでしかも狂牛病の心配もない、コンニャクバーガーがつくれるのではないかというのが、このグループの夢でございますが、それがうまくいくかどうかは私は責任は持てません。

 また、先ほども申し上げましたように、高知県は日本でも一番森林の率の高い県でございますが、家を建てるための木材、これを育てるために途中で若い木を間引いてまいります。この間引いた木をどう活用するかということが大きな課題になっております。

 そこで、このセンターの中にいる研究者はヒノキのエキスを使って、これを自動車の排ガスの処理の装置、また室内の空気清浄の装置として使えないかという研究をしております。これは広島の企業との共同研究でございますが、既に試作品もできておりまして、今後倉庫や、また工場などで使うフォークリフトに取りつけるものがつくれないかと、そんな研究をしております。

 もう一つ、全く別の分野、視点でございますけれども、高知県は人口の中に占める65歳以上のお年寄りの比率、高齢化の比率が全国でも2番目に高い高齢化の先進県でございます。そこで、ある県内の企業と研究者が一緒になって、この高齢者向けの新しい形の特殊なお風呂がつくれないかという研究を進めております。

 といいますのも、例えば車いすに乗られたお年寄りの場合、従来のお湯を使ったお風呂ですと、施設の職員などの負担が大変かさんでなかなか気軽にお風呂に入るということができません。そこでこの新しいタイプ、方式のお風呂はお湯を使うのではなくて、ウレタンの細かい粒を使って、それで体を洗うという仕組みになっています。

 具体的に言いますと、車椅子に乗ったお年寄りが、そのまま首だけ出すような形で箱の中に入ります。そうしますとそこに石けんの液が出てきて、その後暖かい蒸気が吹き出して、その力で細かいウレタンが箱の中を飛び回って、体に当たって体を洗うという仕組みでございます。

 こう言いますと、とても機械的に聞こえますし、居心地が悪いのではないかというふうに思われるかもしれませんが、私も実験台になってこのお風呂に入ってみましたら、意外と暖かくてしかも痛みもなくてとても居心地のいい、気持ちのいいものでございました。これも既に福祉用の機器として、またエステ用の機器として大手のメーカーから引き合い、提携の話が出てきております。

 ということで情報化の活用、また地元の大学の活用の話を終えて、次に地元の資源の活用に話を移したいと思います。まず海の資源として、海洋深層水という地元の資源を取り上げてみたいと思います。

 この海洋深層水というのは、県の東部にございます室戸市の沖合の、海底320メートルのところからくみ上げております深い層の海の水でございますが、表層の表面のほうの海の水に比べまして、大変温度が低く、しかも安定しておりますし、それだけ科学物質や雑菌などに汚されていません。

 しかも栄養価が高く、そしてミネラルの微量元素がバランスよく含まれているという性質を持っております。さらに湿り気を保つ、潤いを保つといったような機能。また、味をまろやかにするといった機能にもすぐれていますし、皮膚病などにも一定の効果があるといった研究成果も出ております。

 さらに、太平洋の陸地の周りの海底をものすごい年月をかけてほかの海水と混じらずに回っているその深海の潮流、流れがあるということそのものが、大変神秘的で物語性があると思いましたので、私は知事になって間もなくこの海洋深層水の話を聞いたとき、これは物になる、高知県の資源として売り出せるのではないかということを思いました。

 ところが、魚の養殖ですとか昆布の養殖ですとか、水産関係の研究を除いては何年たってもなかなか目に見えた成果が出てまいりません。そこで6年ほど前のことですけれども、この深層水を自由に使ってもらっていろいろものづくりに生かしてもらおう、そんなことで企業への分水、水を分けるということを始めました。

 そうしましたら、飲料水ですとか、お酒、調味料、またパンやお豆腐、さらには化粧水に至るまで、さまざまなものづくりが進んでまいりました。こうしたことから、地元の室戸市では去年の4月から全国でも初めて、深層水をくみ上げて企業に商業用で販売をしていく給水施設を設備をいたしましたし、また、そうしたことで深層水を利用している企業は現在110社に上っております。

 また、2000年去年1年間の深層水関連の商品の売上高も105億円になりました。また、ミネラルウォーターや化粧品など、企業も5つほど工場を立地しておりまして、地元の雇用も100人を超えるまでになっております。

 ただ、このように海洋深層水が全国から注目を集めますと、それに目をつけた競争相手が次々出てくることは避けられません。実際、既に富山県など幾つかの県で深層水の活用が始まっておりますので、今後この室戸の海洋深層水の科学的な特性などを明らかにすることによって、その差別化を図ること、またこの室戸の海洋深層水という名前のブランド化を図ることが、大きな課題ではないかと考えています。

  ということで、海の資源について触れましたので、次に山の資源、木のことについて少し触れさせていただきたいと思いますが、先ほどから繰り返しておりますように、本県は日本でも一番の森林県でございますので、この、木の活用というのは大変大きな課題でございます。地元の資源としての木の活用というときには、木そのもの、木材そのものの活用という意味もございますけれども、木を加工する技術、資源としての技術の活用という意味ももう一つございます。

 そのような意味で、木を活用する技術の一例をお話をさせていただきますと、県内にはライフル銃などの台座を加工する、木の加工の技術がございます。といいますのも、県内に主にアメリカ向けにライフルなど銃器を輸出している会社があるからでございます。

 この会社と県の工業技術センターが連携をいたしまして、何か新しい商品がつくれないかということの検討をいたしました。その結果出てまいりましたのが、木を使った自動車のハンドルでございます。といいましてもこれは、県内の木材を使ったのではなくて、南洋材を使っております。けれども既に大手の自動車メーカーに採用されておりまして、またこの分の雇用もかなりの数を生み出すことができております。

 しかし、こうした木の技術の活用ではなくて、木そのものを資源として活用する、ものづくりをしていくということを考えますときには、競合する既存の商品、つまりは鉄を使ったり、また石油化学製品を使ったりするそういう製品と比べて、大変コストが割高になるという大きな壁を考えていかなくてはなりません。

 一、二例を挙げますと、例えば県内の森林組合がつくっております木の机がございます。これは集成材といいまして、薄く切った板を幾つか張り合わせたそういう木材を使ってつくっておりますけれども、その机の上の台から、枠組み、さらには引き出し、キャビネットまですべてを集成材でつくった事務机は、高知県庁が仕入れている価格が、一つ91,350円でございます。これに対して従来のスチールの、鉄製の事務机は、高知県庁の仕入れ価格で23,100円でございますので、つまり4倍近い開きがあるということになります。

 また、県内の企業が、木を非常に薄く切ってそれを3枚重ねて、それをプレス加工することによって、パーティー用のお皿だとか、またスーパーなどで商品を載せるトレーなどをつくっておりますが、これも今スーパーで使われております石油化学製品、発砲スチロールを使ったトレーに比べますと、価格が10倍ぐらい開いております。

 このように日本の国内では木材製品を考えるとき、価格の高さということが大きな壁になるのですけれども、この壁を乗り越えるための一つのキーワードが、このセミナーのテーマでもございます、「環境との調和」「環境への配慮」ということではないかと思います。

 といいますのも、大量生産を大量消費で回していく、支えていくそういう仕組みが地球の温暖化ですとか、地球環境の問題で行き詰まってまいりました。これにかわって、これからはライフサイクルアセスメントという言葉に表現されますように、それぞれの製品が生産、消費、そして廃棄に至るまでそれぞれの段階で環境にどういう負荷を与えるかということをきちんと評価をしていかなければいけない時代になってまいります。

 こういう時代には、木を使った製品は環境への負荷が少ないという意味からも、また資源循環のサイクルに非常に寄与するという意味からも、とてもすばらしい素材ではないかと思います。

 が、それだけに先ほど申し上げました日本国内の特殊な事情かもしれませんけれども、木を使った場合大変コストが高い。この克服をしていかなければいけませんので、そのためにはまずコストを下げるための技術開発ということが欠かせません。

 それと同時に、環境に対する消費者の意識を変えてもらう。また最終消費者だけではなくて、原材料を買う、製品を買う消費者としての企業の、環境に対する意識を変えてもらうことによって、こういう環境に優しい製品の市場を広げる、マーケットを広げる。それでコストを下げていくということも、大切な視点ではないかと思います。

 このようなことから、今、日本では国も地方も挙げて、この4月から、「グリーン購入」という名前で政府や地方、県がさまざまな製品を調達、購入をするときには環境に優しい商品を買うということを義務づけていく制度が始まりました。こういう制度をより効果的にしていくために、県内の企業や、また行政や、そして研究者や、民間の消費者も入っていただいてつくりましたのが「高知エコデザイン協議会」でございますし、そのことにつきましては、今日の午後西山会長からもお話があると思います。

 このように日本の国内でも環境に対する試みは、まだまだスタートしたばかりといっていいのではないかと思いますけれども、APO加盟の国々、また加盟国以外で今日来ていらっしゃる国々にとっても、今後こうした環境への配慮というのは、欠かせない課題になっていくのではないかと思っています。

 ということで、今日は高知県における産業振興の取り組みということから、今回のこのセミナーのテーマでもございます「環境との調和」ということにも少しお話を広げて、幾つかの話題を紹介させていただきましたが、ここで締めくくってまとめてみますと、高知県はさまざまな事情から2次産業という面では遅れた県、経済的に弱い県でございます。

 しかし、そうした中にも、皆様方に今回のセミナーでご視察をいただきますニッポン高度紙工業でございますとか、また技研製作所といったようにそれぞれの分野で日本一のシェアを持っておりますキラリと光る企業も幾つかございます。

 また、そうした企業の歴史を振り返ってみますとき、そこにビジネスチャンスのとらえ方、ヒントが隠されているのではないかと思います。といいますのはニッポン高度紙工業が日本一のシェアというよりも、世界一といったらいいと思いますが、シェアを持っております商品は、電解コンデンサー、コンデンサーの絶縁紙でございます。これは欧米諸国の絶縁紙に比べて、大変ごみが少ないという特徴を持っておりますが、そこには高知県でずうっと培われてきました土佐和紙、手すき和紙の伝統的な技術が生かされております。

 また、技研製作所が日本一のシェアを持っております商品はサイレントパイラーといいます、振動や騒音を出さずにくいを打っていく機械でございますが、従来のパイラー、くい打ち機は大変な振動と騒音を出しておりました。このため、その振動と騒音に怒った工事現場の近くの人が包丁を持って、そのくい打ち機のオペレーターの人を追いかけたという出来事があって、それが、この会社がサイレントパイラーを開発したきっかけだといわれております。こんなエピソードからも必要は発明の母という言葉を改めて思い起こします

 つまり、その時代が求めているものは何か、また消費者が求めているものは何か。その必要性、ニーズというものを十分考え、そのニーズと地域にある技術の資源、また地域にある自然の資源を結びつけていくことによって、そこにそれぞれの地域の、また産業の芽が育っていくのではないかということを感じます。

 それと同時に、このセミナーのテーマでございます「環境への配慮」「環境との調和」ということは、近い将来、まさに時代の必要性、ニーズになってさまざまなビジネスチャンスの母、生みの母になるのではないかということを最後に申し添えまして、私のスピーチを終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

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