公開日 2007年12月07日
更新日 2014年03月16日
第2回全国コンピテンシー研究交流会知事挨拶
平成14年10月15日(火曜日)職員能力開発センター
皆様こんにちは。ご紹介をいただきました高知県知事の橋本でございます。
本日は、第2回全国コンピテンシー研究交流会が開かれるわけですが、去年の第1回に比べて、多くの自治体の方々にご参加をいただいたということで、大変嬉しく思っております。と同時に、全国からお越しの方々、ようこそ高知県においで下さいました。心から歓迎を申し上げたいと思います。
今日は、高知県が実施した経験等の報告に続きまして、三重県さんと富士ゼロックスさんの方からもご発表があるということでございますが、高知県は、三重県や岩手県などとともに、「行政経営品質の向上」という取り組みを進めております。
では、その「行政経営品質とは何か?」ということでございますが、僕は知事になって、というのは11年前のことですが、それ以来、ずっと「職員の意識改革」ということを呼びかけ続けてきました。で、それはそれなりに一定の効果があったと思いますが、知事がただ単に上から下へ「意識改革だ。意識改革だ」という言葉を流しても、それだけではなかなか意識が変わっていくわけではありません。
例えばということで、ちょっと比喩を使わしてもらいますと、西洋医学的な外科手術の手法で、どこか組織に悪い所があった時、その悪い部分を抜き出したとします。そうすると一時期は病気は良くなりますけれども、組織としての体質そのものが変わっていませんと、また別の所でしばらく経つと同じような病気が起きてくるということになります。
ですから、そういう外科手術的なことも、ある時は必要ですけれども、そうではなくて、日頃から漢方薬を飲み続けて、段々体質を変えていく。そんな東洋医学的な手法という意味合いで取り組んだのが、この「行政の経営品質の向上」という仕組みでございました。
具体的には、各課・室、また出先の現場の事務所毎に、「自分達は、まず県民サービスということが一番の仕事だ」という基本に立った上で、それでは「そのお客さんは?自分達にとってのお客さんは誰だろう?」「そのお客さんのためにどういうことができているだろう?」「またそのニーズをどうつかんでいるだろう?」「その目標を達成するためにどんなリーダーシップがとられてるだろう?」というようなことを、職場で議論をしていきます。
そして、その職場の議論を通じて、自分達の組織、職場の持っている弱さ・弱点だとか強さに気づいていく。そして、その弱みを克服し、強みを伸ばしていくような目標を立てて、それに向けての色んな取り組みをしている。
そのように、職場でのみんなとの議論の中からの「気づき」ということを一番大切にした仕組みでございます。いわば、組織的かあるいは個人的な意識改革かということで言えば、組織ぐるみでの意識改革ということを、先ほど言った東洋医学的にジワジワと効くというやり方で取り組んでいるのが、この行政経営品質でございます。
これに対して、今日この研究交流会のテーマでございます「コンピテンシー」というものは、職員1人1人の能力を高めていく、それによって意識を変えていく、意識改革に繋げていくというねらいのものではないかと受け止めています。と言いますのも、自分自身「コンピテンシー」という言葉を聞いて、まだそう長い年月が経っているわけではございません。また、まだまだ充分理解ができているわけでも、たぶん無いだろうと思います。
皆さん方もきっとそうだと思いますけれども、最初に「コンピテンシー」という言葉を聞いた時に、すぐ「これはこういう意味だ」ということがお分かりになった方はいないと思いますし、今も「何だろう?」と、こう思い続けながら、上司に言われたか、ご自身がそういう意欲を持たれたかで、この場におられるんじゃないかと思いますが、僕もその「コンピテンシー」という言葉を聞いて色々考えてる内に、「こういうことかな?こういう所に従来の考え方との違いがあるかな」ということに、それこそ気づき始めました。
1つは、従来の研修との違いでございますが、例えば、従来型の自治体の研修。この建物もかつては自治研修所と言っていましたけれども、その時の研修というのは、課長ならば課長になった後、その職に就いた人を集めて「課長研修」という形で、座学で色んな講義を聴かせるというやり方でした。
これに対してコンピテンシー型の能力開発は、課長になりたい人、所属長を目指す人に対して、「課長になるため、所属長になるためには、これこれこういう能力が必要ですよ。また、こういう意欲、こういう意識が必要ですよ」ということをメニューでお示しをする。
これを専門用語では「ディクショナリー」という言葉が使われていますが、そういうメニューをお示しをし、それを目指して能力を開発し、その一定開発できたという評価の方々を人事的に配置をしていく、そこに大きな違いがあるのではないかと思います。
ですから、このディクショナリーと言われる、課長ならば課長に求められる色んな能力の面、ここに先ほど言いました行政経営品質の基本的な考え方を重ね合わせていけば、その組織ぐるみの漢方薬的な行政経営品質という意識改革の手段と、1人1人の職員の意識改革・能力開発ということとが重なり合っていくのではないかということを感じました。
もう1つ、従来の考え方、価値観との違いは何か?と言いますと、従来、県の職員なり、各自治体の公務員に求められる力ということを考えてみますと、色んな問題が起きた時に、それを上手く、「丸めていく」と言うと表現が悪いかもしれませんけれども、まとめ上げていく、調整能力ということが非常に高く評価をされていたと思います。
また、職員の方々が、何年かに1度職場を替わっていきます。ですから、専門性ということよりも、どういう職場に行っても通用するような、オールラウンドのゼネラリストとしての力というものが評価をされてきたと思います。で、こういう調整能力だとか、ゼネラリストとしての力というものは、これから全て否定されるという意味では勿論ありません。
けれども、それだけではなくて、これからはより専門性を持つ、または専門性に意欲を持つような職員が求められてくるのではないかということを思いますし、また、調整力ということで言えば、それだけではなくて、今、与えられた問題を考える中で、あるべき姿から新しい政策を提言をしていく。
また、これまでの仕事の仕組み、やり方というものを変えていくことを提言していけるような、そういう、調整から一歩出た力を持った職員が求められてくるのではないか。そういう職員の能力を高めていくためには、このコンピテンシーという手法は欠かせないのではないかと思いました。
もう1つ、先ほども申し上げましたように、このコンピテンシー型の能力開発というのは、所属長なら「所属長に求められる能力は、これこれです。これをまず身につけて下さい」ということを提示をします。
そして、それを身につけた方を人事上に配置をするということになりますから、組織としても一定の能力を持った人を、その人に相応しい職場に、まさに適材適所で配置をしていくことができるということになりますし、1人1人の職員にとってみれば、「自分が最初の内は色んなことを学びたい。だけど、一定の職に就いてからは、こういう分野でこんな仕事をしていきた
い」ということを思った時、「その職に、その地位に就くには、この能力を身につけて下さい。こういう意識を持って下さい」というメニューが提示をされていれば、それを能力開発の研修で身につけて、その地位に昇ってその仕事をしていくという、人生設計というか、仕事をしていく上での設計プログラムが立てられるのではないか。
こんな意味で、組織にとっても、個人個人の職員にとっても、双方にメリットというか、プラスのあるシステムではないかということを感じました。
では、本県ではどういうやり方を?ということでございますが、昨年度、課長などの所属長を目指す人達のコンピテンシーの能力開発を行いました。実際には、まず、その所属長を目指す人達に手を挙げて応募をしてもらいます。その手を挙げた人達に基礎的な科目の講義を受けてもらって、その講義を元に改善のテーマということを立ててもらって、その改善のテーマを職場毎で実践的に進めていく企画書を作ります。
その企画を基に、それぞれの職場で数カ月間それを実践をしていくわけですけれども、その改善のテーマ、実践のテーマはご自分の職場だけに限ったものでも良いですし、また各職場に共通のものでもかまいません。
なぜこのように職場での実践ということをやるか?と言いますと、それによって成果としてのコンピテンシーを客観的に測っていくこともできますし、またその企画の目標に到達できてるかどうかということも客観的に測っていくことができるからでございます。
最終的な評価ですけれども、最終的な評価は、その受講生の方々が、それぞれの職場で実践をしたことを評価者の皆さんの前でプレゼンテーション、説明をしていく。そして、それを聞いた評価チームの人達と質疑をして、最終的な評価を決めていくということになります。
この評価チームには、県庁の中の人だけではなくて、県庁外の専門家・講師にも入っていただいておりますけれども、これは勿論、評価の客観性を高めるということが1つございますが、それと同時に、まだまだコンピテンシーというものが始まったばかりですから、県庁の中だけでは十分な評価の力が無いという現実もございます。
先ほども申し上げましたように、昨年度は所属長、課長ですとか、出先の事務所長だとか、そういう立場を目指す人達の能力開発をいたしました。応募をしてくれた人は40数名でございます。
この40数名の方々の中には、僕も日頃から職場でよく見ている人達が多数いましたし、また、全般的な印象から言えば、とても県庁の改革ということにも意欲を持ち、またそれぞれの仕事ということにもきちんとした目的意識を持った職員が数多くいたと思いますが、それにも関わらず、外部の講師の方のお話を伺いますと、グループでのワーキングなどを通じて見ている
と、まだまだ、その企業感覚というのは単に「営利を目的とした」という意味ではありませんけれども、「経営的な感覚というものが薄いんじゃないか。特に、仕事に対するスピードが要求される時代に、スピード感覚というものが非常に薄いのではないか」というようなご指摘も伺いました。
また、この意識調査などをした結果を外部の講師の方に見ていただきますと、「まだまだこの集団では、全体としての意識改革というのは難しいんじゃないか」というような評価もいただきました。
つまり、私から見れば、もうかなり意識と意欲を持った職員の人達が応募をしてくれていますけれども、それでも外部の方から見ると、まだまだ公務員的なぬるま湯の発想から抜け出ていないという落差があるんではないかなということを感じました。
また、実際に各職場での実践例の結果を聞いてみますと、せっかく、なかなか良いテーマで実践の企画に取り組んだんだけれども、結局は職場の仲間の理解が得られなかったというような話もありました。
が、その一方で、臨時職員の方々も含めて、その職場の人達が「うん、こういうことだったらば、うちだけではなくて県庁全体でこういうテーマで取り組めば良いのにね」というような共感の声をもらったというものもありますし、また、そういう様々な実践を進める中で、これまであった不信感が取り除かれたりとか、お互いのコミュニケーションが深まったりというような、良いお話しも色々ありました。
ということで、今年は所属長というだけではなくて、課長補佐、出先の事務所の次長、更には班長さんのコンピテンシー能力開発ということを進めていますし、また、各分野別の能力開発ということも試みに始めています。
今、お聞きをいたしますと、このコンピテンシーに取り組んでいる自治体が全国で6つあるということで、これから取り組もうとされている自治体も10あるということを伺いました。が、まだまだこのコンピテンシーというのは、始まって日の浅いものでございます。
将来的には、こういうものが人事の評価ですとか、給与の制度にも連動していくということが考えられますけれども、まずは、このコンピテンシーの能力開発の内容というもの、また客観性というものを高める、そのための努力が必要ではないかと思っています。
例えば、先ほどから言っております、本県で取り組んだ所属長を対象にした昨年度の能力開発のプログラム、9項目ございますが、これに加えてマーケティングリサーチというふうな項目を加えるべきではないか。こんなご提言もいただいています。
こういうような様々なご意見・ご提言というものを入れながら、より良い形のコンピテンシーというものを、是非、伸ばしていきたいと思いますし、また、そのことによって、この分野での、高知県が少しでも先進県として、良い事例を全国に情報発信していければということを思っております。
今日お越しの皆さん方は、まさに新しい形の自治体というものを目指し、また職員の能力開発というものを目指し、そのことに関心を持ってご参加をいただいた皆さんだと思います。是非、皆さん方からも高知県の取り組み等について、色んなご意見をいただきたいと思いますし、また皆さん方もこの場で色んなことを感じとっていただければと思います。
そういうお互いのやり取りの中から、今日のこの研究交流会が実りの多いものになることを心から願いまして、私の、少し長くなりましたけれども、冒頭のご挨拶とさせていただきます。
どうか、これからもよろしくお願いいたします。ありがとうございました。