「地方の実情にあった公共事業の推進」に向けたシンポジウム

公開日 2007年12月07日

更新日 2014年03月16日

「地方の実情にあった公共事業の推進」に向けたシンポジウム

平成14年7月26日(金曜日)日本海運倶楽部 国際会議場

【司会】
 本日は大変お忙しい中、ご来場いただきまして、まことにありがとうございます。ただいまより、「地方の実情にあった公共事業の推進」に向けたシンポジウムを開会いたします。

 本日のプログラムをご紹介いたします。本日は2部構成になっておりまして、第1部は上智大学教授、小幡純子さんを講師にお迎えして、「地方分権と公共事業」をテーマにご講演いただきます。休憩を挟みまして、「地方の実情にあった公共事業の推進」をテーマにパネルディスカッションを行います。閉会は午後3時30分を予定しております。

 皆様、最後までごゆっくりとご聴講ください。
 それでは、上智大学教授、小幡純子さんをお迎えして、「地方分権と公共事業」をテーマにご講演いただきます。小幡さんは現在、上智大学の教授として行政法を専攻しておられ、また地方分権推進委員会専門委員、地方制度調査会委員、PFI推進委員会委員などの各種委員も歴任されておられます。
 それでは、小幡さんよろしくお願いいたします。皆様、どうぞ拍手でお迎えください。(拍手)

【小幡】
 ただいま、ご紹介いただきました上智大学の小幡でございます。本日は私は基調講演というお役目を授かっておりますが、実はその後パネルディスカッションでそうそうたる知事様方がお控えになっていらっしゃいますので、私は基調講演として20分弱お時間をいただいて、あとはパネルディスカッションでの熱のこもった議論に譲りたいと思っております。

 私、今ご紹介いただきましたが、行政法を専攻しておりまして、おそらく今回のシンポジウムで「地方の実情にあった公共事業の推進」というテーマからすると、私は20世紀末の地方分権推進法に基づくいろいろな地方分権改革、地方分権推進委員会の地域づくり部会の専門委員をしておりまして、まさに地方分権そのものにかかわらせていただいたというところと、

 もう一つ、公共事業といえば道路が一番先にイメージされますけれども、旧建設省時代から道路審議会の環境のほうで専門委員をやっておりまして、今も国交省の社会資本整備審議会の委員におりますので、地方分権と公共事業ということについては、一応両方についてかかわるようなお話をこの基調講演でさせていただくということになろうかと思います。最初に申しましたように、パネルディスカッションがございますので、前座的に、全体的なイメージ等をお話しさせていただきたいと思います。

 昨今、公共事業といいますと、皆さんご承知のとおり、大変、逆風状態でございます。財政が悪い、公共事業というのはそもそもむだが多いのではないか、むだをなくすべきであるということで、世の中の風潮では、公共事業に対して批判的な目が向いているという現状がございます。

 他方で、実はこれにどういうふうに乗っかるかというのはひょっとするとおもしろいことになるかもしれませんが、地方分権というのはまた別の要素として公共事業のむだをなくすという意味合いも実は持ち得るものでございます。地方分権というのは、まさに地方の自己決定をしていこうということでございますので、その地方の自己決定という部分で、公共事業のむだをなくすような選択もいろいろできてくるのではないかというと、これをセットにしますと、これからの時代、まさに「地方の実情にあった公共事業の推進」というのは非常に時期に合った進め方になってくるのではないかという、まずイメージとして総論的にそういうことが言えるのではないでしょうか。

 地方分権についてお話ししておきたいと思います。1990年に、非常に膨大な地方分権の一括法が制定されまして、地方自治法ももちろん変わるし、さまざまな、たくさんの諸法律、電話帳何冊分と言われるようなたくさんの改正がなされました。皆さんご承知のように、トピック的にいえば機関委任事務が廃止になったということになりますけれども、それと同時に国と地方がどういうふうな役割分担で進んでいくべきかということを地方自治法の中にもきちっと原則論を書いて、これからの役割分担をしっかりしていこうというメッセージを送っております。

 それからもう一つ大きいことは、国庫補助負担金という、国から地方に対して負担金とか補助金というものがたくさんございますが、これを整理して合理化していこうという一つの大きな目標がございました。国から地方への補助金というのは、もちろんすべてそれが悪いというわけではないですが、場合によっては、その補助金があるがために地方の自立を妨げるという可能性が実はございます。

 よく言われるのは補助条件。補助金を渡すから、こういうふうな条件でやりなさいという形で、補助条件で縛られるということが自立性を阻害するのではないかということでございます。公園の三種の神器などというのはよく言われる言葉でして、滑り台と砂場とブランコの三種があれば公園であるという形で、全国どこでも公園にはその三種の神器があるというふうに公園は広がっていったと言われております。そういうふうな形で公園をつくるということを条件とするから、そういうふうな全国均一な公園ができるということが言われます。

 地方分権推進委員会の委員で、座長をしていらした神野先生は、子供にお小遣いをあげるときに現金であげるか、図書券であげるかの差であるというふうに例えられましたけれども、図書券でもらえば本しか買えない、お金をもらえば自由にできるという差があるということでございます。

 ともすれば補助金というのは、そういうふうに条件をつけてあげるということになりやすいものですから、そこの補助金の条件を緩やかにしてメニュー化していくとか、あるいは一つの目的で渡すわけですけれども、実際上はほかの目的のほうが必要性が高くなったらそちらのほうに転用を認めるとか、従来、それが非常に厳しかったわけですけれども、そういうふうに緩やかな運用にしていこうということが地方分権推進委員会の勧告の中に盛り込まれております。

 ただ、私の属していた地方分権推進委員会というのは、第1次から第4次までの勧告、第5次の勧告、そして最後の最終的な報告をいたしましたが、やはり国庫補助負担金も含めて、どうも財源問題は不十分に終わったのではないかという評価もなされておりまして、その後、財源問題にもっと踏み込まなければいけないという形で、地方分権改革会議ということで引き継がれてございます。地方分権改革会議に私は直接はかかわっておりませんけれども、ともかく地方分権の流れの中で、一たん改革は終わったけれども、本質的にまだまだ課題がたくさんありますから、継続的に行うべきである。

 そこで地方分権改革会議を含めて、もう一つ、非常に大きな課題だと思って浮かび上がりましたのが、財源問題もあるんですが、根底には事務事業のあり方、公共事業でいえば、公共事業のやり方をこういうふうにやりなさい、こういうやり方でなければいけないというふうに細かく義務づけし過ぎてはいないかという問題意識が実は浮かび上がってまいりました。

 これは、別に補助金というのにかかわりませんで、およそ世の中にはいろいろな基準がございますが、そういう基準をナショナルミニマムということで、これは必要であるということで立派なものにどうも基準をつくり過ぎているのではないか。そうすると、基準に合わないと法令違反になりますので、合わさざるを得ない。そうするとコストが高くなるという問題が実はかなり大きく浮かび上がってまいりました。そうすると財源もそうですが、そこの事務事業の縛り方にメスを入れなければいけないということになります。

 最近出ました地方分権改革会議の報告では、ナショナルミニマムからローカルオプティマムへという標語があります。従来、ナショナルミニマムといって頑張ってきたわけですが、ここら辺でそろそろローカルオプティマムへと。それぞれ地方が選んだ基準でいいじゃないかというふうに方向性、かじを大きく変えていこうではないかというメッセージが、地方分権改革会議の6月17日の中間報告の中に盛り込まれております。

 公共事業というところに戻ってまいります。例えば、地方が道路をつくりたいと思います。公共事業について道路特定財源の問題も含めまして、道路は多過ぎないかとか、もういいじゃないかとか、そういういろいろな議論が上がっておりますが、地方に行けば行くほど車社会になっているというのは公知の事実でございまして、公共交通がない分、車に頼る部分は当然多うございます。

 そうしますと、車の所持数は多いですし、公共交通が届かないところは自家用車等を使わざるを得ない。そうなると道路は極めて大事になってくるということでございます。ですから、地方において道路をつくりたいと思うというのはまさに自己決定でありまして、特にどこをつくるかということについてパブリック・インボルブメントといいますか、住民参加等々を含めて、より透明な採択をしていけば、自己決定で道路をつくるという選択肢は決して世の中からそれ自身を批判されることではないと思います。

 ただ、世の中の公共事業批判は、何かコストが高くないかという問題がそこにございましょう。道路をつくりたいのであればつくればよろしいわけですが、より効率的につくってほしいということになります。そうなったときに、先ほどの事務事業のあり方、やり方についての基準が少し厳しくないですかという話にまた戻ってくるわけでございます。

 例えば道路法の定める基準、道路構造令とかございますけれども、それが非常に立派なものになり過ぎていないか。地域の実情に応じて道路整備を弾力的に進めていきたいという観点からすると、少し柔軟さが足りないとかいう問題が生じてくるわけでございます。

 下水道でも同じでございまして、下水道法の下水道というのが、非常に立派な、お金のかかるものになり過ぎていないか、もうちょっと簡単に、何もしないよりはよいという観点から、少し基準を緩めてはどうかと、いろいろな選択肢を住民に選択させるというシステムのほうがよろしいのではないかと私はよく言っております。道路にも同じようなことが言えるのかもしれません。

 国家賠償法2条の公の営造物の設置管理の瑕疵という、要するに道路で何か事故が起きたら責任はどうなるかというのを大もとで――というのが私の助手論文は実はそれでございまして、そんなに立派でない道路をつくって何かあったら、すぐ損害賠償、国家賠償の問題になるのではないかというふうな技術の完璧主義があるということもよく存じております。

 ただ、技術基準を緩めて、すぐ事故になるとか、訴訟になるとかいうのは考え過ぎでございまして、道路の場合は利用者がいるわけですから、道路ユーザーにこういう道路ですという形できちっと情報を開示してあげる。ここは狭い道でも、ないよりは通したほうがよいじゃないか、そのかわり、ここは狭いから気をつけて通らなければいけないという形の情報開示を進めることによって、損害賠償責任等の問題はクリアできるのではないかという気がしております。

 国家賠償法2条では、通常有すべき安全性というんですけれども、その通常有すべき安全性というのは、その道路なり、高速道路だったらこれぐらい、しかし山のほうのやっとつくった道ならこの程度でいいじゃないかということは当然考えられるわけです。

 公共事業のむだのところでよく指摘されることは、めったに車が通らないのにものすごく立派な道路がドーンとつくられているということでございます。したがって、あまり立派過ぎる基準をそのままにしてつくられると、効率性という観点からは批判もされやすいということになりますので、もちろん地方がちゃんとした道路をつくりたいということであれば、それは地方の自己決定だから全く構わないわけですが、基準の選択の余地を認めるということが非常に大事ではないかと思います。

 それから、もう一点だけ申し上げたいのは、公共事業のむだというところで言われるんですが、縦割り行政……。国レベルでは縦割り行政になっておりますので、例えば農道とか、林道とか、道路法上の道路というのがございます。下水道も同じで、下水道と農業集落排水みたいな農水の管轄のものもあるわけですけれども、同じような目的のものでいろいろなものがございます。

 農道であろうと、利用者から見てみれば、実は同じでございます。ところが国の縦割りがそのまま入って、補助金等々の観点に入りますと、どうもそれが一体として、道路網としてカウントしにくいという問題がございます。国レベルは縦割りであっても、地方に行けば総合行政が可能なはずでございますので、地方が道路網を計画するときには、林道であろうと農道であろうと、道路であればうまくつなげて、今ある道路の実態を効率よく利用できないかということをぜひお考えいただきたいと思います。

 もちろん、中央省庁レベルでも連絡等々で改善の余地はあると思いますが、地方に行けばなおさら、まさに総合的な観点からこういうむだを省けるのではないかと思っております。

 そろそろ、これで大体20分の私の時間は経過いたしますが、このような形で公共事業はむだだとか、もっと効率性をという議論があります。そこの効率性の議論に、地方の自己決定ということを重ねることによって新しい展開が生まれるのではないかというのが私の基調講演の全体の趣旨でございますので、これをたたき台にいたしまして、この後たくさんの知事さんがお出でになっておりますので、現場の声等々でパネルディスカッションが熱く展開されることを期待して、私の基調講演を終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。(拍手)

【司会】
 小幡さん、どうもありがとうございました。
 皆様、いま一度大きな拍手でお送りください。(拍手)
 それでは、ここで一たん10分間の休憩を挟みまして、午後2時より第2部パネルディスカッションを再開させていただきます。
 なお、お化粧室は皆様の右手入口を出られまして、左手奥にございます。開演前になりましたら、お早目にお席にお戻りいただきますようお願い申し上げます。
(休憩)


【司会】
  お待たせいたしました。ここからは、読売テレビ報道局解説委員、岩田公雄さんを進行役にお迎えしまして、パネリストの方々とパネルディスカッションをしていただきたいと思います。

 パネリストには、第1部で講演いただきました小幡純子さん、プロデューサーの残間里江子さん、国土交通省技監、大石久和さん、そして梶原岐阜県知事、北川三重県知事、木村和歌山県知事、片山鳥取県知事、橋本高知県知事の5県知事です。

 各地でご活躍中の県知事がこのようなシンポジウムに一堂に会するのは非常に珍しく、きょうは各知事より貴重なお話をお伺いできるものと思われます。
 それでは、パネリストの皆様にご登場いただきます。皆様、どうぞ拍手でお迎えください。

 先ほどご講演いただきました、上智大学教授、小幡純子さんです。(拍手)
 続きまして、プロデューサーの残間里江子さん。(拍手)
 国土交通省技監、大石久和さん。(拍手)
 岐阜県知事、梶原拓さん。(拍手)
 三重県知事、北川正恭さん。(拍手)
 和歌山県知事、木村良樹さん。(拍手)
 鳥取県知事、片山善博さん。(拍手)
 高知県知事、橋本大二郎さん。(拍手)
 最後に、本日コーディネートしていただく読売テレビ報道局解説委員、岩田公雄さんです。(拍手)

 それでは、ここからの進行は岩田さんにお願いいたします。
 岩田さん、よろしくお願いいたします。

【岩田】
 会場の皆さん、本日は、お暑い中――ほんとに猛暑で東京は今ごろの時間に34度か35度になるのではないかと。お集まりいただきましてまことにありがとうございます。これより、岩手県、岐阜県、三重県、和歌山県、鳥取県、高知県の6県の共同主催によります「地方の実情にあった公共事業の推進」に関するシンポジウムを開催させていただきます。
 私は、本日のシンポジウムのコーディネーターを仰せつかりました岩田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

 本日のシンポジウムには、先ほど基調講演をされました小幡先生、残間さん、大石技監をはじめといたしまして、今、マスコミで最も注目されております5つの県の知事の参加が実現いたしました。実は、ここに来るまでにも打ち合わせをさせていただいたんですが、きょうの猛暑と同じように大変熱っぽい議論が既に行われておりまして、後ほどさまざまな公共事業に関するお話を聞かせていただければと思っております。

 実は、事前のご案内にありましたように、当初、岩手県の増田知事にもパネリストとして参加していただく予定でありましたが、緊急の所用のため、まことに残念ながら欠席となってしまいました。増田知事からのメッセージをお預かりしておりますので、後ほどご紹介させていただきたいと思います。

 本日は地域の実情に合った公共事業ということです。小泉政権が発足しまして1年4カ月近くになります。聖域なき構造改革と掲げて発足して今日まで来ているわけなんですが、財政再建という問題になりますと、どうしても骨太の改革の中には国民に痛みを求めるということが出てくるというのも事実であります。

 事実、サラリーマンの医療費負担、窓口での負担を3割に引き上げるということを柱としました医療制度改革法案が、きのう委員会で強行採決されて、現在も国会でもめている最中であります。本日のテーマであります公共事業という問題につきましても、小泉総理は抜本的な改革案の取りまとめを閣僚に指示しておりまして、注目されているところであります。

 きょうは、これだけのパネリストの皆さんが集まっておられますので、さまざまな問題をほんとに忌憚のないところで討論してまいりたいと思います。

 それでは、まずパネリストの皆さんから、本日の趣旨を含めましてごあいさつをお願いしたいと思います。小幡先生は先ほど基調講演をされましたので、後ほどまたまとめてお話を伺いたいと思います。最初に残間さんからよろしくお願いいたします。

【残間】
 残間でございます。日ごろは物事、特に新しい価値観の創造を目指しまして、いかにしてうまく新しい価値観が広く、深く伝わるかというようなことをなりわいにしております。

 きょう、ここにお並びの知事たちもそうですが、今日、知事というのはいろいろな形でブームになっております。私も一種、流行化現象をつくるというような仕事もしているんですが、こうした知事の動きの先駆けになったと言ってもいいのが、私も参加させていただいたんですが、98年につくられた「地域から変わる日本」推進会議です。

 きょう、ここにいらっしゃる橋本さん、北川さん、梶原さん、そして増田さんも入っていらして、8県知事で98年の10月に立ち上げて、今も年に1回ずつ互いの県を訪問して、いろいろなことを話し合っています。

 近ごろ、都市と地域の、もう一度改めての対立構造というんでしょうか、VS構造みたいなものがあちらこちらで再燃されているかのように言われております。私個人は98年からずうっと同じ思いなんですが、ここまで来ると、日本は地域がそれぞれの個性を発揮して強くならない限り、新しい日本の夜明けというか、未来はないんじゃないかと確信しております。

 本日は日本を代表する、いわばオールスターキャストの知事の皆さんですから、いつもそうなんですが、何が飛び出すかわからないというよりも、きょうも何人かの方が既に心の内に爆弾発言を持っているんじゃないかと期待して、私はきょうはその辺のあおり役で伺わせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

【岩田】
 どうもありがとうございました。爆弾発言を胸に秘めているということなんですが、何が飛び出すのかと私も大変関心を持っているというか、楽しみにしております。私は記者でありますので、司会というか、後ほども、こういう話が聞きたいということがありましたら、率直に聞かせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは続いて、岐阜県の梶原知事にお話をいただければと思います。

【梶原】
 何分間ですか。

【岩田】
 二、三分ぐらいいただければ。

【梶原】
 まず、このシンポジウムの「地方の実情にあった公共事業の推進」に向けたシンポジウムというタイトルはあまり気に入らないんだね。こんな生っちょろいことでは改革にならない。地方中心の公共事業の推進ということでなければいかんと思います。

 今、残間さんがおっしゃたように、これからは地方、地域中心でやっていかないと日本はよくならないと思います。それが聖域なき構造改革の最たるものだと思いますが、なぜかそれにあまり手がつけられていない。地方分権一括法で、国と地方は対等になったはずだけれども、最近、むしろ軽視されているんじゃないかと思うんです。これでは日本の新しい夜明けはないと思います。

 公共事業を地域主体に切りかえるということがどうしても必要だと思います。受け皿はどうかということですが、私たちは平成元年度から行革をやってきまして、平成改革の草分けだと自負しているんですが、そのスローガンとして、早い、安い、ガラス張り、納得と四本柱を立てておりまして、その精神で公共事業も事業期間、コストを改革しているということでございます。

 我々の考え方として、まず、事業期間は半分にしてしまう。地域の住民に任せますと、ルート決定も早いんです。岐阜県の七宗町というところで、十何年停滞していた事業を、地元でルートを決めてくださいと。私は当分決まらないから予算をつけなくてもいいと思っていたら、あに図らんや、1年ほどでルートが決まって、しかもどこにベンチを置くとか、どこに緑を植えるとか、そんなことまで地域の皆さんが決めてきたんです。びっくりしました。そういうふうに地域中心のほうが事業期間は短縮できる。

 安いという点では、平成11年度から20%事業費縮減方針を出しまして、13年度で19.9%までいきました。年間300億円に相当する事業費節減です。やればできるんです。それから、都市計画街路の見直し。建設省は反対したんですが、町中の狭いと考えられている道路を無理やり幅を広げるというようなことはもうすべきじゃないということで見直しをしました。県下28路線で3,200億円の金が浮きます。やればできるんです。コストも半減できると思います。

 ガラス張りという点では事業選定です。公開の中で新規事業の選定をするというルールにしております。
 納得という点では説明責任。当事者主義ですから、さっき申し上げたようにルート選定とか、いろいろなものに地域住民が全部タッチしています。だから、納得できるわけです。

 期間は半分にする、コストは半分にする、透明性は倍増、アカウンタビリティも倍増という半減倍増方針と称したものを進めていますし、これからも進めていきたい。

 それをやっていく上で、3つ隘路があるんです。一つは全国一律発想。日本にはもう道路は要らないんじゃないかとかいうばかなことを東京の連中が言っていますけれども、地域個別発想にしてもらいたい。岐阜県の中でも飛騨と美濃では全くニーズが違うんです。岐阜県の中でもです。ましてや全国で高速道路が要るとか要らないとか、東京から、遠いところから望遠鏡で地方を眺めるような発想をしているから資源の適正配分ができない。日本国民の設備投資に相当する社会資本整備もできない。

 2番目は、東京決定主義から地域自決主義に転換すべきだ。何でも現場音痴の東京の人が決めていくという、こんな不合理なことはない。地域自決主義、道路でいえばユーザーがガソリン税を払って道路を走っているわけです。納税者の立場からしても、当事者、ユーザーが決めるべきです。治水でいけば、自分たちの命にかかわるんです。そういう人たちに決定させるべきだ。東京で決めるべきではない。

 3番目は、責任不在構造から自己責任構造に切りかえるべきだ。ガソリン税でいえば、我々が岐阜県で1,000億円以上税金を納めているんですが、その大半を東京に吸い上げられて、補助金で来るということで、だれが一体責任を負うか不明確です。納税者にとっては不透明でわからない。

 補助金だと国の方針通り使わなければいけない。一体、決定はどういうメカニズムで決められたか不透明です。こういう責任が明確じゃない。道路でいえば、林道、農道、国土省の道路とバラバラでやっていた。これがむだを生じた。いろいろな批判のもとである。下水道もそうです。県でやれば、縦割りを横割りにして、道路も下水道も総合計画のもとにやっていけるということなんです。

 以上、3点。そういう隘路があって、半減倍増方針はなかなか実現できない。我々は半減倍増のメカニズム、システムはつくりまして、権限も財源もいつでも引き受けられるという21世紀型の公共事業の原型をもうつくって待っているということです。絶対に大丈夫だということでございます。
 きついことを残間さんに乗せられて言おうと思ったんですが、今の間は自己抑制しておきます。(笑)
 以上です。

【岩田】
 どうもありがとうございました。
 自己抑制ということですが、後ほど、今の3点の問題も含めてお話を伺いたいと思います。
 続きまして、三重県の北川知事お願いいたします。

【北川】
 皆さん、こんにちは。三重県知事の北川正恭でございます。
 きょうは、「地方の実情にあった公共事業の推進」という、「公共事業」を「社会資本の整備」に置きかえるとわかりやすいのかという気もいたしました。

 2年前に地方分権一括法案が通りました。地方分権も国にしていただく、市町村合併も国が言うからという長い慣習にならされて……。地方自治体も猛烈に大反省して、自主自立で、自分たちこそがさまざまな分権を主体的にやっていかなければ、花の都の人々が分権ができるわけはないわけですから、主体的にほんとうに我がこととしてやっていくという習慣が身についていかないといけないのではないかと、まず思います。

 そうしますと、社会資本の整備、あるいは公共事業という問題を考えたときに、例えば、従来、国が構造令等々で一括でしていたのを、地方でほんとうに見やすいようにすべきではないか。新しく物事を始めるとか、変えるには大変な勇気が要るわけです。

 しかし、従来、機関委任事務が圧倒的に多いときには、国に対して説明責任をすれば知事は済んでいたわけでございますが、地方分権一括法案が通って、今度は主権者である県民の皆さん方に私どもはきちっと説明責任を果たさなければいけませんから、もめごとがあったら簡単に裁判にいきますということにならざるを得ない。

 したがって、国全体で変えるときに勇気が要るならば、この中に変わった知事がいっぱい来ていますから、そういう知事たちがまず実験してみるというような勇気も必要ではないかということを感じるわけでございます。

 もう一つは、やっぱりやめるというのも勇気が要るわけです。国はよかれと思って従来やってきたということだと思います。そのおかげで経済大国になれたとか、いろいろなことがありました。国から地方へさまざまな権限移譲する、やめるのは勇気が要ると思いますが、これは地方のほうがはっきり物を申して、対等で、対立だけでなしに、ほとんどは共同といいますか、あるいは協力ということになり得るわけでございます。両々相まって、対等協力の関係で公共事業の本来のあるべき姿をはっきり見せていく。

 一番はっきり見せやすい姿、情報公開の最もいい姿は地方分権で、基礎的自治体にどんどん仕事を移せば、市民の間ではいわゆる受益と負担が一番見やすいわけですから、公共事業、あるいは社会資本の整備というのはほんとに重要なんだというところまで話を戻してしまわないと、悪玉論だけではなかなか本来の国の力強さが戻ってこないだろうと考えているところでございまして、今後、地方発の構造改革の一つのと大きな目玉として、公共事業のあり方は私ども知事も発言もし、実際に我々がまずかったことはどんどん直し、国にも正々堂々の発言をし、一緒に変えていくことができればと思って、きょうは参加させていただきました。

【岩田】
 どうもありがとうございました。
 大変、変わったというか、元気のいいのがというふうに北川知事よりお話が出ていましたが、続きまして、和歌山県の木村知事にお話をお願いいたします。

【木村】
 ただいま、変わっているという話がありましたが、僕は一番ノーマルだと思っているんです。そういうことなので、ノーマルな話をいたします。今、公共事業がいろいろ言われていて、特に地方の道路とかは、例えばタヌキやキツネが通っているとかいろいろなことを言われて、非常に批判されているわけです。

 僕は知事になってから、そんなことはない、非常に大事なものをつくっているんだと強弁していたんだけれども、あるとき、田舎の橋の開通式に行ったら、ものすごく大きな橋があるので、そこの町長か、村長がいたので、こんな大きな橋がどうして要るんですかと聞いたんです。

 そうしたら、そんな大きな橋は自分も要らないが、ただ、国の補助基準から採択されるためにはこの大きさがいい、大きければ、大きい背広はいくらでも小さい体でも着れるから、地元の業者も潤うし、これはいいことなんですと言われて、僕はその人の言ったことはなかなか正しいと思ったけれども何か変だと思ったんです。

 というのは、これはミクロで見ると正しいことだけれども、国家経済ということから考えると非常にむだがあると思ったわけです。公共事業がいろいろ言われているけれども、自分らもある程度反省して、地方のほうからの基準というようなものをつくっていかないと、かなりむだがあるんじゃないかということで、今の公共事業がどうかということを考え始めたのがこの問題を考え出したきっかけだったんです。

 よく考えてみると、やっぱり都会の人を中心に公共事業が要らないと言われる原因は、一つはあんまり必要のないものをつくっている。これは土木建設業の人には大変必要があるものなんだけれども、住民の人にはあんまり必要のないものをつくっているということがあるんじゃないか。それから、必要かもしれないけれども、今言ったようにそんな大きなものが要るのか、適切な規模でつくっているのかという問題がある。

 もう一つは、中国と比べるのは悪いけれども、あんまり金がかかり過ぎているのではないか。先ほど梶原知事のお話にもありましたけれども、何か日本は何回も景気対策といって公共事業にどんどん金を突っ込んで、今、国と地方で700億円の債務があるということだけれども、何もいい橋ができたりはしていないということで、金がかかり過ぎているのではないかと。中国でやったら100倍ぐらいの公共事業ができているのではないかと、皆、素朴に思っていると思うんです。

 もう一つは、都市のほうだと思うんだけれども、時間がかかり過ぎる。30年前に都市計画決定した道路が、法線は決まっているけれども相変わらずできていないというようなものが結構ある。

 こういうふうな隘路を打開していかないといけないと思うんです。今まで、日本の国は非常に高度経済成長だったから、こういうふうないろいろなむだを包含しながらでも公共事業をやっていくゆとりがあったわけだけれども、これからの日本の国はそこまでのゆとりはないと思うんで、金を使う以上は、目的に合った効用を十二分に発揮するような仕組みにしていかなければ国際的にもやっていけないんじゃないか。

 どうしたらいいかということを考えましたら、今まで日本の国はキャッチアップ型の国だったので、全国一律の基準でいろいろ公共事業をやってくることが効率的だったわけですが、これからの時代は、それが非常に非効率になってきているので、むしろ地方の実情に合った分権的なスタイルで公共事業をやっていくようなことを考えていく必要があると思うわけです。

 一つは、例えば制度の問題です。今、下水道でも幾つもの省庁に分かれていろいろな制度があります。農道と一般道も、農道でもどんどん車が走っているのに、何でこれが違うのかというようなことで普通の人は疑問に思っています。海岸も、いろいろな管理によって違う海岸があったりして対応も違うとか、こういうふうな制度の問題がいろいろある。一つはこういうことを考えていかなければならない。

 それからもう一つは、この間ちょっと変わったんだけれども、手続面、土地収用なんかでいろいろあるんだけれども、今、地価がどんどん下がってきているのに、相変わらず道路をつくったりする土地収用も時間がかかっている。こういうのも土地の値段という意味が日本の国で変わってきているにもかかわらず、対応があまり変わっていないようなところがあるので、こういうのもやっぱり思い切った見直しをしていかなければならないんじゃないかという感じもします。

 道路でも、北海道の広々したところにバーッと法線を引いて道をつくるのと、和歌山みたいに山があって、つくるときはトンネルを掘っては橋をかけ、歩道なんかはあまり要らないというふうなところの基準と同じでいいのかどうか。今は自然を大事にしないといけないということで、和歌山県でもできるだけ材木などを公共事業に使っていこうと思っているんですけれども、材料の基準などについても画一的なものがある。

 こういうふうないろいろな画一的なものをこれから地方の側から、例えば国土交通省へ、農水省へ、いろいろ問題提起をしていって、なぜそうしたところが変わることができないのかということを徹底的に討論する中から、新しい形での分権型の公共事業というものをつくっていくと、社会的なコストが減ってくるんじゃないか。

 そうすると、今、地方の公共事業は要らないのではないかと言っている国民も、なかなかいいものをつくっている、この間田舎へ行って走ってみたけれども、真っ当な道をつくっていたとか、真っ当な工事をしていたと、そこから初めて国民全体の理解ある公共事業の進展ということがあるのではないかと思っているんです。

【岩田】
 どうもありがとうございました。
 和歌山ではいろいろ整備の問題がまだあるとお話が出ていましたけれども、後ほどまたいろいろ構想も伺えればと思っております。
 続きまして、鳥取県の片山知事、お願いいたします。

【片山】
 鳥取県の片山でございます。
 私は公共事業、それから社会資本の整備ということにとどまらず、今、地方行政をやっていまして、今までの、どちらかといいますと全体的に供給者側の論理、行政を提供するほうの論理から、ベクトルを変えて現場主義にしなければいけないということを痛感しております。

 その中でも、特に公共事業とか、社会資本の整備というのは、それが一番求められる分野だろうと思います。といいますのは、いろいろな公共事業とか、社会資本の整備に批判がありますけれども、当たっていない面もありますが、当たっている面もあるという認識はしなければいけないと思うんです。

 当たっている面は何かというと、ほんとうに住民の皆さん、国民の皆さんのニーズに合った整備をしてきただろうかということであります。もちろん、多くのものはほんとうのニーズに基づいて仕事をしてきたと思うんですけれども、よくよく確かめてみると中にはそうでないものもまじっていたということ。これは全国どこでもそういうことはあるんだろうと思います。

 供給者側とニーズとの間にいろいろなミスマッチがあるんですけれども、例えば中央政府にかなり大きなミスマッチがあると私は思うんです。といいますのは、社会がどんどん変化するけれども、各社会資本の整備の事業ごとのシェアは今日までほとんど変わっていない。

 最近、いろいろな手だてで少しずつ変えたりしていますけれども、基本的な枠組みというのは昭和30年代のころからあまり変わっていないわけで、社会の変化についてきていないという面があると思います。これは中央政府の責任だし、そういう社会の変化を注入できなかった国会の責任でもあると思うんです。両方の責任で大きなミスマッチを全国的にもたらしていることはよく認識しておかなければいけないだろうと思うんです。

 しかし、このミスマッチというのは中央政府とか、中央政界だけの責任かというと必ずしもそうでもないと思うんです。地方の側にも大きな責任があったし、今でもあると私は思うんです。どんなことかといいますと、例えば、中央省庁から陳情の要請があるんです。

 皆さん方も経験していると思いますけれども、今度、何とか大会で陳情してくれと。やっぱりおつき合いしておかないと箇所づけのときに不利になるかもしれないからみんな行こうかといって、ほんとうはその事業はほどほどでもいいのに、みんなと一緒になって東京に出てきて霞ケ関を回り歩くということもやってきたわけです。

 こういうものがバーチャルなニーズであるにもかかわらず、それをあたかも真のニーズであるかのように演出してきたという一つの共犯の立場をとってきたというのは私はあると思うんです。これからはこういうことはやめたほうがいいと思います。地方独自の問題としても、バーチャルなニーズというのは大変多いと私は思います。

 私も知事になって3年ちょっとたつんですけれども、就任したときに、前の知事から総合開発計画を受け継ぐわけであります。そこにはいろいろなものが散りばめられていて、箱物でありますとか、いろいろなハード事業が並んでいるわけです。これを受け継いで、着実にこなしていくのが県政であるというふうに県庁の職員も思っているんですけれども、じゃあ、総合開発計画なるものに盛り込まれたいろいろな事業がほんとに住民、県民の皆さんのニーズに立脚したものであるかどうかというと、決してそんなことはない。

 中にはほんとのニーズであるものもあるけれども、必ずしも全部がそうではない。各県の知事さんがおられますけれども、どこもつくっておられると思うんですけれども、総合開発計画というのはくせ者でありまして、つくる以上は見ばえのいいものをつくらなければいけないし、貧相なものではなくて盛りだくさんなものをつくらなければいけない。

 そうすると、何かないか、あれがあったとか、あそこの県でこれをやっていたとか、いろいろなものを持ち寄って、当面、今の県民は必ずしも必要としていない、欲していないものまでも全部はめ込んでいって、一つのデラックスな総合計画をつくるわけです。そうすると、その段階でほんとうのニーズと総合計画に盛り込まれた、いわばバーチャルなニーズとの間にギャップが生じているわけです。それを例えば5年計画とか10年計画でつくって、日にちがたちますと、年々時間的なギャップ、ずれも出てきているわけです。

 こういうものを、計画に盛り込まれたんだからやっていこうといって各県ともずうっとやってきたんだろうと思うんです。そういうところに、県自身、地方自身が真のニーズから外れて、バーチャルなニーズをやっていくということが生じたんだろうと思うんです。

 ですから、私は前任の知事には大変失礼だったんですけれども、受け継いだ総合開発計画はほとんど見ませんでした。総合開発計画に盛り込まれたいろいろな各種のハード事業とか箱物とかもまた、それぞれ一つずつ吟味して、要るものは要る、要らないものは要らないというふうにやっていきました。

 私自身になってからどうかといったら、一切つくっていません。定見がないとか、計画性がないとかと批判されることもあるんですけれども、実際にそういう自分の認められている任期もさらに通り越したような長い計画をつくるよりは、住民の皆さんが今、何を願っているか、それは現時点だけではなくて、今に立脚して、鳥取県の将来も見越してどういうことを願っているかというニーズをとらえて、それを一種、先見性を持ちながらやっていこうというやり方をしています。そういう意味でバーチャルなニーズをやめて、リアルなニーズに変えていこう。

 それからもう一つ忘れてならないのは、今、交付税制度について非常にいろいろな問題が言われていますけれども、交付税制度の中にもバーチャルなニーズをつくっていく、バーチャルなニーズを実施していくというものが実はビルトインされているということもよく認識しておかなければいけないと思うんです。

 交付税というのは、ほんとうは地方団体がいろいろな選択をして、仕事をしていく上で、それを下支えする制度ですけれども、実はその中にハード事業、特に箱物のようなものをどんどんやりやすいようなシステムがビルトインされているわけです。しかも、それは当面起債でやって、あとで交付税で返してあげますということですから、いわば交付税の先食いが仕組まれているわけです。

 そういう仕組みがあるとやらなければ損だという話になって、ほんとはプライオリティの低い事業であっても、ほかの団体はみんなやって自分だけやらなかったら、実際、損ですから、みんながバーチャルなニーズをつくり上げて交付税の先食いをしながらどんどんやってきて、今、地方財政はこんな破綻状態になっている。こういうことも変えなければいけないと思うのであります。

 そんなことで、これからぜひ、国に対しても地方のニーズをちゃんとくみ取った事業間のバランスをとってもらいたい。前例とか、経緯とかではなくて地方の真のニーズをくみ取って中央政府の間での社会資本整備の各分野ごとのシェアを変化しながら決めていってもらいたいということが一つ。

 しかし、そのためには我々自身もよく自覚して、地方のほうでバーチャルなニーズは排除して、ほんとに住民の皆さんにとって今、必要なニーズをプライオリティをつけて国に要求していく。こういう国と地方との共同作業によって、これから日本の中の社会資本整備が国民から支えられるものに変わっていくのだろうと私は思っています。

【岩田】
 どうもありがとうございました。
 地方のニーズをくみ取るというか、その辺のところはほかの知事さんからも出ているわけなんですが。
 高知県の橋本知事にお願いいたします。

【橋本】
 高知県知事の橋本でございます。時間も限られておりますので、手短にしたいと思います。
 今、片山さんからも県計画をつくっていないというお話がありました。実は私もつくりかけて、途中でやめております。これに対して、県議会からは羅針盤なき県政だとか、いろいろ言われております。今、片山さんが言われたことと同じですけれども、もう一つ、国の補助制度と、地方でやっていきたいという独自の思いとの間にずれがあります。

 そういう中で、計画というものをつくっても、ほんとに地域にぴったり合ったものがやっていけるか。結局、地域に合ったような形をつくっても、補助制度に縛られる以上は、財政的には国の補助を入れたほうが有利だというので、それを取り入れる。そうすると、やはり地域とはかなりずれが起きるということから、うちも県計画は今やめております。

 そういう視点から、きょうのテーマを見てみますと、僕も今、木村さんが言われたように、地域に出ていったときに、これは少しやり過ぎではないかと思う事業はもちろんございますし、特定のものではなくても山間部を走ったときに見事な2車線と歩道つきの道路があったときに、ウーンとうなる思いがあることは事実でございます。ですから、知事になりましたときから、全国一律の基準で全部やっていくのではない、もっと柔軟性が必要だということは思っていました。

 が、その一方でそういうような幾つかの事例を点々でピックアップすることによって、公共事業はすべてむだだとか、地方の公共事業、社会資本投資はもう要らないというような短絡的な決めつけというのも、いささかどころかかなりおかしいんじゃないか。

 もっとバランス感覚を持って、これからの地域、国をどうしていくかという論議がもうちょっとかみ合ってなされなければいけないんじゃないかと思います。そういうところで出てきている現実的な論点が地方の実情に合った公共事業ということではないかと思っています。

 こういうことが話し合われるもとには、地方の側にももちろん問題があります。今、片山さんが言われた、国との共犯という問題もありますし、また地方の側から見れば、先ほども言いましたように、国の補助事業があればそれにこしたことはないという依存体質になります。依存体質になりますと、国の定めた技術基準や採択基準もそのまま受け入れて、あまり問題意識を持たないまま来たということがあろうかと思います。

 これに対して、自分たちでいろいろな基準、スペックを考えていくという時代に今、なってきました。ということからいえば、きょうのテーマは、まさに地方が自立していく一番いいテーマであり、その第一歩ではないか。みずから考える力をどう培っていくかということにかかっていると思います。

 僕は11年前に知事になったんですが、そのころの国への要望を見ますと、ほんとに要望のオンパレードでございました。もうちょっと自分たちで考えて何か提案していくものを盛り込んでいこうという話をして、大きな事業ではありませんけれども、例えば木の香る道づくりという、のり面をコンクリートで固めてしまうのではなくて、そこに間伐材の段をつくってポット苗を入れて、もとの植生をよみがえらせるというような事業も提案しました。

 それから、2車線で改良じゃなくて、1.5車線的とよく言われますけれども、1車線を少し広げることによって車が問題なく行き違いができるようにする。また、視距改良といいますけれども、見た目でよく前が見えるような改良をしていくような、全部を2車線で改良だという位置づけではなくて、1.5車線というような幅でも改良と位置づけていくことによって、例えば高知県であればあと100年かかるような道路事業が30年でできるというような具体的なこともコストダウンということでいえばあります。

 それで地域の住民の方にとっては十分ニーズに合った仕事ができると思います。つまり、きょうのテーマはそれぞれの地域でどれだけ考える力を持てるか、そしてどれだけの受け皿としての仕事ができるかということにかかっているのではないかと思います。

【岩田】
 どうもありがとうございました。
 ここで、本来ですと岩手県の増田知事に質問が行く予定だったんですが、残念ながら欠席でございます。メッセージをいただいておりますので、読ませていただきます。

 本日の「地域の実情にあった公共事業の推進」のシンポジウムに出席することとしておりましたが、急遽、所用が入りまして欠席することとなりましたことをお集まりの皆様に心からおわび申し上げます。

 地方分権の時代における公共事業はそれぞれの地域に即した、いわゆる身の丈に合った整備のあり方が必要ではないかと考えております。例えば道路についてですが、地域高規格道路であっても交通量の少ない地方においては車線数を4車線から2車線、設計速度は80キロメートルから60キロメートルで整備を進めたり、歩道幅員は3メートルから2メートルにするなど、地域によって弾力的な整備があってよいと考えております。

 今後は、限られた財源の中で社会資本整備を適正に推進するためには、むだを省き、建設費の削減や、整備効果の早期実現のため全国一律の整備基準の見直しと地域住民の要望や意見を反映させながら地域の実情に応じた基準や構造のローカルスタンダードによる真に必要な社会資本整備を進めていくことが大事だと思います。このことは公共事業全般にかかわる課題であり、所管している関係省庁の方々にもご理解をいただき、柔軟な取り組みが進められるようお願いをしてまいります。

 公共事業についてはさまざまな議論がありますが、これまでの枠組みにとらわれないで、これからの時代に合った有益なものに仕上げていくということについての我々の考えをぜひご理解いただき、このシンポジウムがそのために有益な場となりますよう願っております。

 急遽、所用で残念ながら欠席されました岩手県の増田知事のメッセージでした。
 2000年の4月に地方分権一括法案が成立して、中央と地方というのは対等な立場になったんだという話が今までも出てまいりました。地方も反省すべき点があるけれども、共同正犯というか、国からの補助金の問題であるとか、交付税の問題であるとか、やはり戦後一貫してそういう中で、建物にしろ、道路にしろ、橋にしろ、箱物のいろいろな問題があったわけです。

 きょう、先ほど登壇するまで、私が一番いじめられる役になるのかとお話をしておりましたが、ここの流れで大石技監にぜひ、この辺のところを。中央にもやっぱり今までは問題があったんだと――これからでも問題は当然あると思いますので、きょう議論に出てくると思いますが、今までのお話をお聞きになっていかがですか。

【大石】
 国土交通省の技監の大石でございます。よろしくお願いいたします。
 今の知事さん方のご発言でも既に大分厳しいご意見をいただいておりまして、いじめられているかどうかというと、もう既に大分いじめられているような気がいたしております。

 一言で言うと、これからの社会資本整備にしても、他のものも含まれるんでしょうけれども、地方の意思といいいますか、意図といいますか、そういったものをより大切にしていくということになるんだろうと思います。そのためには、地方の側もきちっとした意思といいますか、意図と申しますか、どういう地域をつくり上げていくんだという構想力が求められているということにもなると思います。

 そういう意思に対して、私たちが道路や河川や空港や港湾といったようなもので、どう応援していくのかということをできるだけトータルな姿でお示ししていく。そんなことで地方と我々が対話していくという時代が方向かというようにおぼろげながら思っております。

 その中で、例えば橋本知事、増田知事からもありましたので申し上げますと、東京側がといいますか、地方が言っておられる真のニーズが何なのかというところを我々が時々見間違っていたというところがあるのではないか。例えば高知でいうと、道路を改良してほしい、そうすると最低2車線ですね。5メートル50センチないしは6メートル、歩道をつけるともっと広い幅になりますね。

 結果としてそういう道路ができ上がったけれども、高知のように非常に山が多いところでは大変大きな斜面ができ上がっちゃって、そこに、あの地域ですと年間4,000ミリとか5,000ミリというような雨が降る。そうすると雨が降るたびに交通遮断しなければならないような道路が結果的にでき上がっちゃった。

 そうすると、幅員は狭くてもいいけれども、雨が降ってもちゃんと病院に通える道がほしいと言っておられたニーズにこたえたことにはならない。こんなことがままにして起こっていたのではないかというようなことです。そういう意味でいうと構造も含めて地域の真のニーズが何なのかにちゃんとこたえていく、そういうお互いの意思疎通というのが、これからなお大切だと思います。

 北川知事がおっしゃいましたように、公共事業というのは社会資本整備を単年度で表現した言葉でしかありません。したがって、公共事業が是か非かとかというような議論は本来的には社会資本整備が是か非か、あるいはどうあるべきかという議論から出発しなければならないんですが、どちらかというとこの国では公共事業という次のステップに移ってしまった言葉からスタートして議論がなされているところに、やや残念な事情がございます。

 少子高齢化が進む中で、地域が持っているポテンシャル、力をより発揮する、あるいは、より安全に、より効率的に使えるようにするために、インフラという道具立てでそれを応援する仕組みが社会資本整備なんですが、そこからスタートした議論になっていないことが多いのが残念で、そのことはきちっと我々も主張していくべきだと思います。

 その次のステップである公共事業で申しましても、今、もう既に知事さんからもいろいろ言われましたし、もっと一般的にはある意味でいわれなき批判があったりするところがございます。例えば、国の予算に占める公共事業予算が多過ぎる、したがってこれを削減すべきだといった議論であります。

 そういう議論が多くの皆さん方にすり込まれていますので、数字的に申し上げるとほんとにそうかというように思われる方がおられるかもわかりません。平成10年の公共事業予算は補正を入れた後の数字でありますけれども、一般公共事業は14兆円ございました。

 ところが、平成14年は、昨年10%カットということもございましたので、8.4兆円しかございません。それだけ私たちの公共事業予算は――これは一般公共、つまり国が関与する形での国費でありますが、それだけ下げてきているんです。地方単独はもっと減っていますから、そういう意味でいうと、公共事業は大幅に減っています。そういう中で、公共事業の大きさというものが議論されるべきだが、あまりこういう数字が知らせられないまま議論が起こっているのではないかとか。

 あるいは先ほどのお話にもありましたけれども、財政赤字が600兆円とか700兆円という中で公共事業を続けることが、建設国債、あるいは国債の発行につながっているから、これを抑制すべきだというお話であります。これも我々の調べによりますと、平成6年に私たちの国が発行いたしました国債はトータルで16.5兆円でありますけれども、その中に建設国債が12.3兆円、これは公共事業に回ったお金であります。

 しかし、今、平成14年に発行しようとしております国債はトータルで30兆円、例の30兆円を超えるか超えないかといったその数字です。その30兆円の中で建設国債は6.8兆円しか出さないんです。赤字国債が23.2兆円も出るという状況になっている中で、建設事業、公共事業に向かう国債がほんとに多いのか少ないのかということが十分知らされた上で議論がなされているかというと、国民の皆さん方にこういう数字が全然伝わっていないのではないかという気が私はいたしております。

 また、もう十分だというような議論に対しても、例えば、東京の三環状にいたしましても、地方の幹線道路にいたしましても、もう少し行けばネットワークが閉じるのに、それが閉じないがゆえに、道路でいいますと、極めて非効率な使われ方になってしまっているとかいうような部分をもう少し応援する必要があるのかないのかといったようなこと。

 それから、コストの議論も非常によく言われます。例えば東京湾アクアラインは、スカンジナビア半島とユトランド半島が結ばれたオーレスン・リンクより3倍から5倍高いではないかと言われますが、オーレスン・リンクには地震力を考慮する必要がなく、水深10メートルのところに地上でつくったトンネルを順番に沈めていったらトンネルができ上がっちゃったというわけです。

 我々は東京湾の海面下60メートルのところを径14メートルという我が国が全く経験したことがないシールドトンネルで抜かなければならなかった。そこに地震があるというような条件の違い、地震軟弱地盤、山脈、海峡の存在、その他社会条件もいろいろございます。

 こういったことを十分ご理解いただくための努力をしてきたかというと、これも十分でないところがあって大いに反省はいたしております。当然のことながらコスト縮減努力は続ける必要がありますが、そういう国情、国土の条件もあるということもご理解いただいた上で、公共事業、社会資本整備が一体何を解決しようとしているのかということについてご理解いただく努力をする必要があると、きょういろいろお話をお伺いして改めて感じました。

【岩田】
 どうもありがとうございました。後ほどまた、いろいろお話を伺いたいと思います。
 何しろ、これだけの方が集まっていますから時間もどんどん進んでまいります。
 一つ、私から梶原知事にぜひとも伺いたいんですけれども、今、行われている財政赤字の問題とか構造改革の問題でいうと、社会資本の整備というのが随分言われていますが、昔は国土の均衡ある発展という中で公共事業は進められて、全国一律にという中でいうと、既に道路整備とか、いろいろなものは全国どこへ行っても、ある程度完備してきたのではないか。

 だから、こういう財政赤字の再建の状況の中でいうと、もうそれは我慢しなければいけない部分というのはある程度……。どこへ行ってもでこぼこ道路とか、ああいうのはなくなってきたんだし、もうそれは地方があまりにも言い過ぎている部分があるのではないかというような議論があるわけですけれども、社会資本整備の問題とかを含めて、現場を預かっているお立場からまた、もとは中央官庁におられていろいろやってこられたお立場から見て、現状、そういう議論についてはどのようにお考えですか。

【梶原】
 高速道路が要るとか要らないということを全国一律の発想で決めてもらいたくないということです。道路の事情は、先ほど申し上げましたように、岐阜県内でも飛騨と美濃では大きく違うんです。世論調査を見ても、優先順位は飛騨のほうが圧倒的に高いんです。そういう地域差があるのに、東京で現場も知らない人が道路はもういいとか悪いとか、そんなことを言ってほしくないんです。

 東京イコール中央というふうに錯覚している人がいますが、中央というのは、国防とか、外交とか、通貨政策とか、そういうことだけに限っていただきたい。公共事業を一つ一つ見てみますと、必ずしも国家プロジェクトと考えなくてもいいものばかりです。すべて、地域住民の生活を支える設備投資です。

 ですから、中央がコントロールするということは公共事業についてはもうやらなくてもいいんじゃないか。道路特定財源、主としてガソリン税から、岐阜県で1,000億円以上税収があるんです。それを国で吸い上げて、再配分している。これは納税者からしたら解せないんです。国だけは全額道路特定財源でやっている。

 県の場合は道路特定財源がわずかですから、その4倍に相当するその他の税金、借金で道路事業をやっているんです。なぜ、自分たちの払った税金を自分たちで使えないか、そして道路は要らないんじゃないかと、そんなことを東京の人に言ってもらいたくないんです。

 飛騨のほうでは、急病人が出て、救急病院に運ばなければいけないときに30分以上かかるところはまだたくさんあるんです。そういうことをもっと東京の人も、地方を望遠鏡で見ていないで、自分の足で歩いてもらいたい。そして、地方と意思の疎通を図らないといけないと今、大石さんはおっしゃったけれども、意思の疎通をさらに超えて、地方に任せてもらいたい。

 今、いろいろなぜいたくな道路づくりの話が出ましたけれども、自分の金ですからむだはしません。自己責任です。自己責任で要る道路はつくる、要らない道路はつくらないというメカニズム、構造にしてもらいたいということです。

【岩田】
 和歌山県の木村知事、道路の社会資本整備でいうと、よく言われるのが和歌山県の場合には、非常に南北が長くてかつ高速道路の整備は実に――私も取材に行っても途中で和歌山を越えてしまって、北のほうに上がろうとすると道ができていない。ということはずうっと言われてきて、不便を訴える人もいるわけです。やはり全国一律の社会資本整備という中でいうと、それは現場のフィールドを持っている人からいうと、まだ極めて問題があるとお考えですか。

【木村】
 今、ものすごく分権ということが言われていて、例えば交付税を減らすとか、補助金をなくすとかいうようなことは検討されつつあるわけです。ということは、その前提として何があるかというと、地方公共団体が自立する力をつけなさいということがあるんです。

 ところが和歌山県が自立までいかなくても、ある程度、ちょっとでも自分で立っているような感じになるためには、昔みたいに工場を誘致してくるというのはなかなか難しくて、いろいろな都市との交流によって、その中から新しい産業を生み出してくるとか、それからまた、観光なんかでも入り込み額を増やしていって、そしてそれを森林とか、そういうふうな今持っているポテンシャルと合わせて売り出していくということしかないんです。

 そういうときに、道路というものは、ほんとの意味での基盤なんです。確かに和歌山の南のほうへ行く高速道路をつくっても、東京と大阪の間の高速道路と比べて、そんなに車は走らないと思います。だけど、和歌山にとってはその道路は発展していく命綱なんです。

 だから、日本の国の中で、「和歌山県は別です。要りません」と言うんだったら、それは一つの考え方だけれども、そうじゃなくて、やっぱり和歌山県も日本の中で一緒に発展していこうというのだったら、6車線とか、すごい高速道路をつくってくれというんじゃなくて、最低のやつでいいんだから、せめて高速道路はやっぱりつくってもらわないと、これからのほんとの意味での分権、自立ということが難しいというふうな考え方を持っているんです。

【岩田】
 分権自立になりますと、やっぱり税の財源問題というのが……。今、対等だという形になったとはいっても、結局、自分たちですべてが自立できるわけじゃありませんね。そういう中で、こういう財政が逼迫している状況では、中央のほうで高速道路の凍結問題であるとか、しばらくは見直すというふうになると、今までつくってきたところは、次に自分の順番かと思っていたものが来ないということは和歌山でもあると思うんですけれども、痛みが伴うというのは小泉政権でもおっしゃっているわけですけれども、その点についてはどう思いますか。

【木村】
 それはものすごく東京中心の考え方なんです。やっぱり和歌山は人が少なくても、ずうっとそれを待ち続けていて、よその県にどうぞと言って先に送っていたやつが、あるときピシッと切られて、しかも今、地方財政も厳しい、21世紀に自立ということを非常に求められているというときに、もう高速道路はいけませんと言われると、非常につらいものがある。

 だから、確かに東京のほうから見たら、どうしてあんまりたくさん人の走らないような高速道路をつくるんだという話になるけれども、むしろ、高速道路をつくって人が走るようにしたいわけです。皆、今の数字から言うんです。例えば関空の2期工事でも発着の便数が少ない、予想も少ないからもうつくらないということで……。

 むしろ、2期工事をしてイメージを上げてたくさんの人が来るようにしていくふうな発想がなかったら、シュリンクしていって、あかんようになるだけの発想です。日本の国だけだったらいいんだけれども、今や中国などもどんどん台頭してきているわけだから、そういう国際社会の中で日本が名誉ある地位をこれからも占め続けたいと思うんだったら、やっぱりそこそこのことはやっていかないといけないし、あんまり財政主導で借金が何ぼになるから、これ以上何もやれませんというふうなやり方では、日本の国は誤るというのが僕の考え方なんです。

【岩田】
 高知県の橋本さん、今の財政事情ばかり見ていると、見誤るといいますか、そういうお話も木村さんから出ていましたけれども、県を預かって、実際やっている立場からいうとどうですか。

【橋本】
 先ほどから道路の話が出ていますので、道路で話をすれば、うちの県の場合、道路の総延長が3,328キロメートルあります。このうち、今の改良の基準である2車線の改良が済んでいるのが1,392キロメートルです。まだ1,900キロメートル以上、残されたところがあります。

 改良率でいうと41.8%です。同じ比率を東京で見れば70.0%ですし、全国平均が53.2%ですから、かなりのばらつきがあります。本県は、特に84%が森林、山というような県ですので、さっき大石技監からお話がありましたけれども、雨で通行どめになるという区間も非常に多くございます。

 平成12年度の数字でいえば、63の路線で103カ所で通行どめがあって、1年間に2,064時間ほど通行どめが起きています。また落石も非常に多くて、全体で192路線のうち131路線、70%の路線では、1年間のうちに何らかの形の落石が起きて、それが通行どめにつながります。

 僕もNHKに入るまでずうっと東京生まれの東京育ちですし、NHKに入った後も福岡、大阪、東京という大きなところでしか勤務しませんでした。ですから、落石は福岡の山の中などに行ったときに経験したことはありますけれども、落石、まして雨で通行どめになるなんていう経験は自分自身、全くありませんでした。そういうことをどれだけ肌身にしみて都会の方は感じておられるかということを思います。

 病院への搬送の時間も全国の平均を見ますと27.8分で搬送できています。全国平均ですから非常にばらつきがあります。本県の場合には、35.8分かかっております。つまり、全国平均よりも8分以上かかる。しかも、それでも都市部の高知市などに人口は集中していますから、もっと田舎のほう、四万十川のある幡多地区に行けば、病院に行くまでにも一、二時間というのが平均的な数字になります。

 そういうような格差というのは、社会資本としてきちんと是正していくべきで、ただそれを2車線、歩道つきでやらなくても、先ほど行ったように1.5車線というふうな形でいけばできると思います。

 あと、先ほど計画として県の計画は持っていないということを言いましたが、道路に関しては、坂本龍馬が船中八策というのをやりましたので、それをもじって道中八策というものをつくっています。

 高速道路から市長村道に至るまで、向こう10年間どういう形で整備していきますということをお示ししたもので、都会の方にも見ていただいて、都会から払った金が補助金で使われてこんなものをつくるのはおかしいということがもしあるのであれば、言っていただければいい。それに対して、なぜ必要かということはきちっと説明できる道路整備の予定表をつくって情報公開もしています。そういうようなことも、私どもとしてはやらなければいけないことだと思います。

 道路というのは、もう地方では要らないとか、むだだとかいうようなことは明らかにおかしい発想だし、地方だけに限らず、東京の場合にやはり新しい環状が必要だということは多くの方が感じておられるだろう。ただ、それにはまた莫大な金がかかってどうするか。

 このことは、別に何が必要かということを考えた上で、それをどうしていくかということを考えるべきだろうと思うんです。今の高速道路の民営化の話も何を目標にしているのか、民営化ということは目標じゃないはずです。何かの成果目標があって、その成果目標を達成するためにどういう手段がいいかという議論があるべきなのに、全然そういう議論が見えてこないというのが、今の日本国の怪しいところではないかと僕は思います。

【岩田】
 鳥取県の片山知事に伺いますけれども、今の構造改革については小泉さんのおっしゃっていることについてはある程度理解できる部分はあるというふうに、今までもお書きになったものとか、お話しになった中でも伺っていますけれども、例えば道路の民営化の問題であるとか、公共工事の道路の問題とか、一律で凍結しようとか言ってくると、鳥取を預かっているお立場から見るとやっぱりそれは違うところがあるという意見でしょうか。

【片山】
 構造改革というものについて、まだあんまり国民全員の中に一致した概念というのはないと思うんですけれども、小泉内閣になってからいろいろな改革が行われていて、それをどう評価しますかという話になると、私は是々非々だと言っているんです。是は是、非は非、いいこともあるし悪いこともある。

 例えば、いいことは、今まで我が国の政治とか、中央官庁の行政というのはあまりにも硬直的であって、変化に乏しかったわけですけれども、小泉内閣になってからかなり変化するようになった。いろいろな評価がありますから、その変化の方向のよしあしは別にしまして、政治も中央官庁の行政も変わり得るんだということを示したのは評価していいと思うんです。

 ですけれども、やっぱり是は是、非は非で、非もかなり多いというのが率直なところです。例えば高速道路の問題にしても、私は何か変な議論だと思ってしようがないんです。といいますのは、高速道路だけが何か非常に悪者のように位置づけられて、その中でつい二、三日前に、通信簿みたいに黒字の路線と赤字の路線とが出ていまして、黒字の路線はいいにしても、赤字の路線をつくったのはだれの責任だという話になるんです。

 私の感覚では、そもそも高速道路というのは、日本の中に無数の道路があって、その中で一番必要で、緊急性の強いものを有償資金を入れて、道路公団という組織を一つの手段にして早目に整備していこうということなんです。したがって、道路の中では非常に優先度の高いものなんです。

 ところが、道路公団の高速道路の中で赤字の部分は全部、悪だと言われています。実はあれだって幾ばくかは稼いでいるわけです。あれ以外に、他に何にも稼いでいない道路が日本にはいっぱいあるわけです。道路公団の道路は赤字だと言われつつも、少なくともある程度収入を稼いでいるわけです。

 その点を評価してあげなければいけないと私は思うんです。議論の場を道路公団の中だけに限って、その中でいいものと悪いものとを区別して、悪いものはやめてしまおうというような非常に近視眼的な物の見方というのは何かなじめないと私は思うんです。

 なぜ、赤字になるかというと、それは有償資金だけでやっているからなんです。むしろ無償資金を投下すれば赤字にならないんです。にもかかわらず、道路公団からまた3,000億円を召し上げて、ますます赤字体質になるようにするという、何か政策としてちぐはぐだという感じがします。

 政治とか行政というのはもうかるとかもうからない、採算がとれるとれない、それだけで決めるのは絶対におかしいと私は思うんです。採算だけでいくならば政治も行政も要りません。どうして高速道路の採算だけがあんなに言われるのかというのが非常に不思議です。

 皮肉を言えば、この間、ものすごく豪壮な首相官邸ができましたけれども、あれは果たして採算はとれているんでしょうか。あれは全部無償資金を入れているから赤字だとか言いませんけれども、あれを有償資金でやったら大赤字です。それはさておくにしても、あの投資にふさわしい政治をやっているのかどうか、そういう意味での採算性を見ても、果たしてどうかという気はするんです。

 ちょっと長くなりますけれども、もう一つ、私は日本海に面したところの知事をやっていますけれども、今、日本海は随分様相が変わってきたんです。昔は、東西冷戦のフロントでしたけれども、北朝鮮はちょっと別にして、今は日本海は交流の海になりました。物流とか、人の流れというのはすごく変わって、盛んになってきました。そうすると、今まで裏日本と呼ばれた地域がこれから変わってくるんです。これは日々、ひしひしと感じます。

 対岸に行くと、韓国の東海岸は片側2車線のすばらしい道路ができています。あっという間にできました。東海岸とソウルとを結ぶ大動脈も高速道路があっという間にできています。そういう国家戦略として必要なインフラ整備を、採算がどうだ、一本ずつの路線がどうだなんて言わずに、国家的な大きな視野の中で、今、韓国はもう始めているわけです。

 中国もそうです。吉林省にとって北朝鮮の港が日本海に出るふさわしい出口なんです。そこを通じて日本と貿易をしようとなるわけですけれども、そことを結ぶ高速道路もどんどん整備しているんです。それに日本のODAが入っているんだったら、私たちは非常に複雑な気持ちがするんですけれども、そういうことを国家の意思としてやっているわけです。

 ところが、我が日本国政府だけは東京だけに縮こまって、一本ずつ赤字だ、黒字だといって、わけのわからない人たちが近視眼的な物の見方をしている。そういうことに私はすごく危惧を感じます。

【岩田】
 新しい総理官邸の仕事場に私もよく通っていますけれども、確かに税金の投入という中であれだけの立派なものを、政治もそれだけのものにたえ得るものをやっているかどうかというようなお話も出ました。北川知事、国政の場におられて地方の知事をやっておられて、いろいろな事務事業の評価制度であるとか、さまざまなことに取り組んでおられたわけです。

 今、起きている問題、いわゆる国家財政の赤字問題、地方でも財政では皆さん苦しんでおられると思うんですけれども、今、痛みをある程度国民に求めなければいけない、ここでちょっと我慢してもらって、財政再建というか、いろいろなものを考えようというようなことが小泉さんのお考えにもあると思うんですけれども、一方で県民の期待にもこたえなければいけない、道路整備もやらなければいけない、緑の公共事業は和歌山県の木村知事ともやっておられるようですけれども、今までの知事のお話をずうっと伺って、北川知事はどのようにお考えですか。

【北川】
 構造改革という言葉が、今、大分使われたんですが、いいことだと思うんです。例えば、道路を1.5車線にするとか、構造令の幅員を8メートルから5メートルにするとか。三重県は伊勢湾に注ぐ川――鉄道が走っていますから、河川局はかたいですから絶対に何十年確率とかいうので……。あれをとってくれたら3つできるところを5つにできちゃうんだがということがいっぱいあるんです。そんなことを言ったら国交省にいじめ抜かれてね、大石さん。地方公共団体はそういうことを言うのはばかだったんです。

 ところが、一括法ができましたから、構造改革というのは、今、話が出ているように、大石さんもほんとに目を開いてくれていますから、もう我々に任せと。そして、そういう地域社会をつくっていって、一番身近な市民なり、県民に、「この社会資本整備、公共事業は皆さん、どうですか」と聞いて、どんどんやっていく。

 今まで我々は、県民を見るよりはむしろ国交省を見ていないと、補助金は来ないわ、何もしないわということになりますから。統合補助金とかいったことを具体的にスピード感を持って、素早くやろうと。国も大分、目を開いてくれたと僕は思っております。

 きょうもこれだけいるし、技監もいるんですから、そういった構造改革を約束しよう。そういうスピードが必要なんだ。そういう話を今までできなかったから、するべきだと思います。今まで、我々はどういうことで泣かされてきたかというと、縦割りで、国交省と、昔でいえば建設、運輸、農林の間で……。

 世間の批判は建設省の道路と農水省の道路はスーッと並んでいるんです。ばかにされるのに決まっているわけです。我々は総合行政ですから、そういう国の縦割りの弊害を取り除く努力を国もしないと。大石さんが言われたけれども、いわれなき批判もあるけれども、いわれある批判はいっぱいあるわけです。

 対立ばかりじゃなく、ほんとに虚心坦懐に対等、協力の形で、堂々と議論できる雰囲気ができてきたことを私は大変喜んでいますし、ほんとにそれをやらないと我々ももたないし、国ももたないというのは、もう目に見えているわけです。今までは農水省と国交省が一円でも負けないという、絶対的な省益をかけての戦いに終始していたのが、もう両方とも滅びそうなんですから、ここで話し合いをしてということをほんとにやってくれないと、地方から当然反乱は起きるし、我々はもたないですということを僕は言っていますけれども、実はできつつあるんです。

 だから、そういうことをほんとうにやろう、そして具体的に日程に乗せて、いついつまでにこれとこれはできる、これは地方がだめ、これは国がだめ、こういうふうなことでやっていかないと、いわれのある批判、すなわち公共事業はむだ遣いというようなことを言われても仕方がない。

 我々も含めて、今まで公共事業担当者が一番反省しなければいけないんです。やっぱりいわれある批判があるわけです。自分たちが変わって、そしてほんとに社会資本整備はこういうことで必要ですということを見事にご提示申し上げない限り、公共事業にあすはないわけですから、我々自身が変わりましょう。

 国ばっかりとは違います。地方自治体も国を見て、地域社会を見ていなかったというのは中央集権の一番悪いところだった。だから、そこは我々も決意するから、大石さん、一緒にやろうよということで、きょう、これでポーンと大石さんがほんとにやると言ってくれたら、きょうの意味はすごく大きいな。(拍手)

【岩田】
 大石さん、どうですか。一緒にやろうよと言われていますけれども。

【大石】
 北川知事のおっしゃるとおりだと思います。

【北川】
 約束や、これは。(笑)

【大石】
 今、言われたように、霞ケ関、あるいはその周辺で、いろいろの角の突き合わせだけをやっていたら、その角の突き合わせをやっている土台そのものが沈んでいくような焦燥感みたいなものも私にもあります。おそらく、我々の相手側にも同じような気持ちがあるんだ思います。

 ただ、インフラ整備に関して、国の役割が全くなくなったかというと、それはそんなことはなくて、もちろん北川知事もそんなことをおっしゃっているわけではなくて、国が果たさなければならない役割が何なのか、それこそ民間でできることは民間にという言葉のちょうど裏には、国でやらなければならないことはきっちりやるんだというのが含まれているんだと思われます。国は一体何をすればいいのかということをよく考えるという意味で、北川知事にそのように頑張りますとお約束させていただきたいと思います。(笑)

【岩田】
 ここまでの知事、大石さんの意見もですが、私もここに座っていても、多分、数年前に同じことをやっても、全然違う関係ではなかったかと思います。発言も含めて、非常に皆さんが自信にあふれているということと、今後、いろいろな変革に動き出そうとしているのがわかるわけです。

 小幡先生、先ほど基調講演でもお話しされたようですけれども、国と地方の関係、きょうは中央政府などという単語が出てくるぐらい、やっぱり皆さんの自信の裏づけだと思って聞いておりましたけれども、その点はいかがでしょう。

【小幡】
 知事さんのおっしゃることは、ある程度集約できると思うんです。それに大石技監がどういうふうにこたえられるかということであろうと思います。

 結局、私が申し上げたことでまとめられると思うんですが、ナショナルミニマムからローカルオプティマムへという流れで、国がやっていて、これからも多分やろうと思っている役割の中に基準づくりがありまして、それを見直してくださいというのが地方からの声として大きくあるということでございます。

 おそらく国交省としては、基準づくりは自分でやらなければいけないものだと多分思われていると思いますが、その基準づくりの背景にある、ナショナルミニマムの考え方が変わってきている。それがまさに地方の住民の声であって、地方の現場の知事さんたちからの声だ思います。

 ですから、これはちょうど地方分権改革推進会議の中でも早急に、直ちに検討、措置すべき課題というところに入ってございますので、例えば道路構造令等の基準、地域の実情に応じた道路整備を弾力的に進める観点から早急に講ずべき措置ということで、まさにその基準、国の役割であるべき基準づくりについてナショナルミニマムだけではない、ローカルオプティマムを入れていただく。そこが非常に大事なのではないか。

【岩田】
 今後の動きとしては、例えば国としては、中央はいわゆるこういう基準というものをある程度つくって、あとはすべて地方に、具体的に創造性に任せて、もちろん財源の問題というのはあるわけですけれども、そういう形にだんだん移行してくるという。国と地方の関係はどういうふうになってくるんですか。

【小幡】
 国と地方の関係は、一応、この前の地方分権改革で地方自治法の中にも盛り込まれております。国の果たすべき役割は全国的な見地からどうしてもやらなければいけないもの、公共事業でもそういうものに限られるということになりまして、当然、道路網を全国的見地からというところで、国がある程度の役割を果たさざるを得ないと思いますが、道路はつながっていますから、広げ出すと切りがないというところがございます。そこら辺はお考えいただかなければいけないことではないしょうか。

【岩田】
 今後は、自治体レベルでいったら、県連合であるとか、いろいろな形が出てくるものと思われます。
 残間さん、さまざまなシンポジウムを含めて、皆さんとのおつき合いがあると思うんですが、ほんとにこれだけの知事の方がお集まりになってというのはなかなか機会がないわけですけれども、今後、中央対地方という、あんまりそういう図式でとらえる必要はないと思うんですけれども、自信があふれていて、いろいろ改革しようと思っていらっしゃるんですけれども、どうですか。

【残間】
 きょう、ずうっと聞いていて……。例えば道路も今、分科会の中間取りまとめという段階に入っているんですが、すべてが要る要らないの峻別のときなんです。道路も経済効率なのか、あるいは安心とか、安全とか、生命とか、生活というのなのかというのは今の基準ということとつながるわけですが、なかなか難しいんです。

 もっといろいろなだいご味を感じるチャンスのある催しだと思うんですが、きょうは時間が短かったこともあって……。今、ずうっと考えていて、こちら側の立場からすると、変なものをつくられるのも嫌だけれども、変な人にお金を使われるのはもっと嫌だという、つまり知事たち、リーダーも峻別のときなんです。

 さっき、橋本さんが考える知事になろうみたいな話をされたけれども、47都道府県を見て、考えられない人も、できない人もいるんじゃないかと思うんです。今、十何人のこういうオールスターキャストがだんだん出てきて、ブームの後にはこれが定着しなければいけません。

 だから、もちろん選挙民が問われることだと思うんですが、峻別のときに、一つ説得力があるのは、あの人が責任を持って使ってくれるのなら渡そうということはあると思うんです。これは非常に情緒的に聞こえるかもしれませんが、ここにいらっしゃる知事たちが勝負を張って、ほんとに自分たちをかけてきちんと使うというときには、やっぱり任せるべきであろう。

 人物峻別というのはもっと難しいかもしれませんが、そこはもう、かけですね。こういうところに出てきて、発言を聞いて、あの人ならばというようなところに我々も……。今、大石さんに「使われるのも、使われないのも、人によるよね」と言ったら返事をされませんでしたけれども、ちょっとえらくなると返事をしないんですね。それはしようがないとして。

 知事も峻別のとき、事柄も峻別のときというので、これだけのそうそうたる知事が出てくると、やはり知事を選ぶ基準も変わってきます。これから私たちが選んでいくという側でいうと、事柄を選ぶことも大事ですけれども、それを責任を持って遂行する人間を選ぶという目ききにならなければいけないと。知事たちが問われるんですね、北川さん。

【岩田】
 北川さん、峻別のときですから。

【北川】
 残間さん、知事だけの基準じゃなしに、国と地方の基準も変えることを我々はやろうと立ち上がっているわけです。今までのように予算をくださいとか、国交省の範囲の中でくれてやるというようなことばかり続けていて、ほんとに地方の時代は来ますかということを申し上げていて、私も大石さんに嫌われるのは嫌だけれども、長いつき合いだからお許しをいただいて、一緒に戦うときは戦い、お互い協力するときは協力して……。

 戦うときは議論です。議論を遠慮していて、新しいパラダイムなんてできっこないと実は僕は訴え続けているわけです。そのかわり、我々も責任を持つ。我々も責任があった。しかし、今までは国交省に逆らったら補助金で必ず意地悪される。そういうことをみんな知っているんです。だから怪しいと思っているわけです。それに甘えて我々もそうだった。だから、ほんとにお互いがきちっと対々の関係で議論して、お互いのやるべき範囲をきちっと決めて、そして自己決定、自己責任をしておかなければ……。

 今まで機関委任事務8割、補助金がほとんどといった場合には、県議会も全部スルーだったわけですから、県が見えないというのは当たり前のことだったんです。だけど、分権一括法案ができたら、我々は県民に対して説明責任を果たさなければいけないというように、はっきり状況が変わったわけですから、我々は今、国に対して要望するだけでなしに、我々自身も変わる。そこの基準、あるいはパラダイム、今までの前提といったことを変えない限り、部分的な改善だけではだめだと思っております。

 私自身、国が大分変わってきているということを感じます。だから、こういったことを通じて、我々もこういったことを言うのは勇気が要ることですが、勇気を持って、情熱を持って言い続けて、そして議論して、お互いが変わるという雰囲気、ダイナミズムが行政とか、政治の場に戻ってこないと、きのうの続きはきょう、きょうの続きはあした、あっちの政党とこっちの政党の利害調整、こっちの団体とこっちの団体の利害調整がずうっと来られた時代は終わったと私どもはほんとに思っているところでございます。

 こういう場に国交省の技監が出てくるようになったわけですから、大出世だと思っています。ほんとにそういう意味で、私どもも真摯に対応して、我々も変わらなければいけないということを前提に、きょうの会議が前へゴトッと、システムが変わったな、制度が変わったなというところまで行く。それはスピード、タイムリミットも決めて、やる。

 こういうシンポジウムといいますか、会議なり、議論を通じてどんどん変わっていく、それが行政に、あるいは公共事業政策に国民や県民の方が信頼を戻してくれる一番のもとだ。だから、我々が、志といいますか――政治家を長くやっていて、恥ずかしい話です。だけどほんとにやれとなったら必ず変わると私は思っています。

【岩田】
 大石技監、さんざん名前が出ていますので、ぜひ。
 当然、中央も地方も変わらなければいけない中でいいますと、対等の中でかつ新しい発想、残間さんから出ていました峻別というのは、当然、国も問われていると思うんです。きょうこういう場にお越しになって、感想を最後に伺いたいんですが。

【大石】
 中央政府が縦割りなのは、どこの国も皆、同じなんですが、縦割りの弊害があってはいけない。縦割りがあってはいけないと縦割りの弊害があってはいけないというのは、言葉の遊びではなくて、結構大事なポイントだと思うんです。

 縦割りの弊害があってはいけない。せっかく国土交通省が生まれたんですから、空港と道路の間、道路と鉄道、あるいは港湾との間にいろいろなそごがあってはいけないというのはその通りです。しかし、もう一方、地域の側に我々を落としかえてみたときに、今度は地域割りの弊害があるんです。県と県の壁が高過ぎて――急に反撃しているみたいですが、(笑)そのことでまたいろいろな問題が起こっている。

 したがって、例えば空港、港湾、高速道路、一級河川みたいなイメージをしていただくと、県の中で閉じ切れないというものもあるわけで、そうなりますとブロックである意思を決めていただくとか、四国でいうと、高知ではとめ切れないで四国で考えていただきたいというようなレベルのものもあって、そういうところの意思決定といいますか、合意形成のあり方についても知事さん方の中でうまい仕組みができ上がるといいし、行く行くそういうブロック制のほうに向かうのかどうか、これから大きな政治的イシューだと思います。そんなこともインフラにはあるということで、そういった意味で国が果たすべき役割もあるのかという気もしています。

【岩田】
 どうもありがとうございました。
 何しろ、これだけの方が集まって、これを1時間半で全部言い尽くさなければいけないというのは、多分、無理であります。ほとんど時間が来ているんですが、この後記者会見も用意されているようですけれども。

 今後、出てくるのは、やっぱり自治体がどういう連合体を組んでいろいろなことをやっていくのかということで、今、大石技監から四国のお話も出ていました。

 梶原知事には最後に締めていただくことにして、橋本さん、今後、そういう面でいうと、地方の連合というか、いろいろな形のものというのは大事だと思うんですが、それは道州制とか連邦制の問題とか、我々はいろいろ言っているわけですけれども、こういった議論を含めて、延長線上にはどのようなことをお考えですか。

【橋本】
 一つは、きょうは時間がなくてできなかった財源の問題があると思います。国から地方への財源の移譲の中で、国庫支出金も対象になるわけです。それは、うちの県から見れば、例えば片山総務相が出された試案でいけば、最終的には当然入ってくる部分は減ってくるということになります。

 きょうの「地方の実情に応じた」ということでいえば、減ってきても、自由度が深まる分、いいという面もありますし、そこは知事としてバランス感覚を持って取り組まなければいけない微妙な点があります。こういう点を各県レベルで少し本音で話をしてみるということも、これからの課題だと思います。ちょっと抽象的な言い方ですけれども。

 それから、今、四国というお話がございました。四国の4県でも、4県の知事でかなり話ができるようになりました。これからは地方独自のやり方ということで、例えば、高知県の場合、高規格の道路で中村宿毛道路というのを、従来であれば4車線が完成の形ですけれども、最初から2車線を完成の形にするということを国土交通省で決められて、もちろん県も賛成して、そういう形でやっていただくようにしました。

 こういうことを四国島内全域で、これからやっていくものを国幹道も含め、高規格道路もそういう形がどうだろうかというようなことは、当然、四国全域でやっていかなければいけないことだと思います。

 それから、よく言われる緑のことに関しても、うちでも水源税というふうなものを考えて取り組んでいます。これも徳島、愛媛、香川も含めて、皆さん、関心を持っていますので、そういうことを一緒にやっていくことによって、また別の視点からの公共事業というのか、社会資本投資というものもできていくのではないか。そういう方向はぜひ進めていきたいと思っています。

【岩田】
 この間も、北川さんたちが出られた地方分権の研究会へ行ったら、知事連合とか、いろいろな単語が躍っています。今後、いろいろな連携をとらないといけないのではないかというお話が出ていましたけれども、片山知事自身はどのようにお考えですか。

【片山】
 必要に応じて、それぞれアドホックに連携したらいいと私は思うんです。固定的な薩長連合とか、奥羽列藩同盟とか、ああいうのではなくて、それぞれ機能別といいますか、分野別でやったらいいと思うんです。

 もう一つは、地域単位で広域的に連携をとるということは必要だろうと思います。先ほど、大石技監が……。地方にとってグサリとくることなんです。県境で地域割りになっているのではないかというのはほんとにあるんです。今、47のユニットで日本の内政をやっていますけれども、それぞれの47の一つ一つの単位が自分のところにいろいろなものをフルセットでしつらえようとするんです。それが全国的に見たらむだではないですかということはあると思うんです。もうちょっと連携できるものは広域で連携しよう。

 実は、中国地方でも、そういう話を今、していまして、例えば試験、研究の機関などを中国5県で1つずつ、5つ持つよりは、もっと連携して機能分担したらどうだろうかとか、最近、海外事務所なども各県がいろいろなところに持ったりしているんですけれども、これも日本の国内だったら鳥取県と島根県は違うんですという話をしても意味がありますけれども、海外に出てまで、お互いの県のアイデンティティーを強調してもあまり意味がないので、それだったらもっと広域的に共同の事務所を設けたらどうかと、そのようなことを模索しつつある。こういうことが始まると思います。これは、これから大いにやらなければいけないことだと私は思います。

 それからもう一つ、さっき、国の縦割りの弊害が随分出ましたけれども、それは我々も痛切に感じています。国の縦割りの弊害をいけないと言うのは簡単なんですけれども、我々なりに直す努力をしたらいいだろうということで、先ほど道路の話が出ていましたけれども、鳥取県では、広域農道と県道のような道路は同じ課でやることにしたんです。

 ですから、農水省の補助金をもらっても道路課でやるんです。それから、農林水産省の補助事業の治山事業と国土交通省の砂防事業も現場では似たようなことをやっているものですから、同じセクションでやる。それから、港湾、漁港も港湾・海岸課でやるというふうにしたんです。

 それをやりますと、中央官庁との間では結構いろいろトラブルもあるんです。ですけれども、現場で現場を見ながら、一番、現場でふさわしい仕事のやり方をし、しかも効率的に、数少ない技術者を有効に使おうと思うと、一緒にしたほうがいいんです。

 今、そういう試行錯誤もやりながら、霞ケ関の縦割りを前提にして、大石技監の言われる縦割りの弊害を少しでも地方レベルで少なくするためにはどうすればいいのかということを今、模索していますということをご紹介しておきます。

【北川】
 私もそうなんです。公共事業を一元化したんです。農林と建設とを一緒に。そして、そこで評価して、点数をつけてやろうということでございます。だから、我々もそういうことをやらなければ、片山さんが言うように国にも言えないから、我々はどんどんやっていきますから、ご一緒にぜひやっていただかないと。

 最近、農水省と環境省が仲よくなって、緑の雇用事業を一緒にやっていますが、いいことです。だけと、昔、一緒になれと言って、やったら、私はものすごくしかられました。例えば、国土交通省の道路と農林省の農道を一緒にすると言ったら、すごくしかられました。

 あるいは、私どもは道路10カ年戦略というのを立てて、750本の我々がさわるべき道路を10年間で280本ぐらいに絞って、それ以外はさわりませんということをしたんです。そうしたら国交省にしかられました。うちが5カ年計画しかないのに、県が10カ年とはなんだと。そんなことはなしにしようということを言っているわけです。

【岩田】
 一緒にやっておられる和歌山県の木村知事、連携の問題とか、どういうスタンスで今後、各県の知事さんが動いていくかというのは非常に大きな問題だと思うんですが、木村知事はきょうの議論も含めてどのように。

【木村】
 こういうふうな、いろいろな問題について幾つかの県の知事が連携してやるというのは一つ、一番いいことだと思うんです。もう一つ別に、今、例えば交付税の大きな見直しとか、補助金をやめましょうとか、税源を移そうとかいう話が実際問題として小泉総理が指示したとかいって出ているわけです。

 それから、今までだったら考えられないけれども、地方制度調査会で都道府県の合併とかも考えましょうと。こんなことは昔は言わなかったですが、そういうふうなことまでも出てきているという時代なので、きょうは公共事業の話だけれども、やはり地方制度全体ももう少し……。

 今、市町村に合併しろと言っているわけだから、その後は都道府県もどんな形になっていくのかということ、これは意外と早く検討していかないといけない事柄になってくると僕は思います。それは、ただ単に、ちょっとしたことを協力してやるというふうなことではなくて、もっと大きな形での共同関係が出てこないと、日本の国は非効率になっているのではないか。

 この狭い列島の中で一都一道二府四十三県がひしめき合いながら、私の県ですというふうなやり方というのは、ちょっと合わないかという感じは持っています。また、こういうことについて、これから地方の側からも真剣に検討していかなければいけないと思っています。

【岩田】
 梶原知事、最後にまとめというわけではないんですけれども、こういう流れを含めて、今後の自治体、中央との関係は、どのように進むとお考えですか。

【梶原】
 公共事業についても、追いつけ追い越せ型の発展途上国型の中央集権構造から、先進国型の地方分権構造に早く移行すべきだ。先進国でこれほど中央集権でやっているところはありません。やっているとすれば発展途上国です。早く、公共事業についても先進国型に改めるべきである。

 大石技監がおっしゃった、中央省庁の縦割りの弊害を是正する根本的な解決は、総合的な行政のできる自治体にゆだねるということだ思います。例えば岐阜県では、先般、開通しました林道トンネル、林道で4.5キロメートルのトンネルを前後のアプローチを入れて、125億円の林道予算でやりました。

 現在、農道では、前後入れて4キロメートル、2キロメートル以上のトンネルを160億円をかけて、農道予算でやっています。そういうように、総合行政でやれば、最も必要な道路を地域が選んでやるんです。農道も林道も普通の道路規格にするように、県がなけなしの金をはたいて、幅を広げてやっているんです。そういう総合行政ができるということです。

 地域間の利害調整は、我々は、日本真ん中共和国だとか、いろいろな地域連合をつくって、県境を外したいということでやっております。しかし、大石技監がおっしゃるように、中央としてのやるべきことはもちろんあります。あるが、何でも中央だという意識はやめてもらいたい。中央という意識を限定的に持ってもらいたい。

 そうしないと、一地方の利害関係者にすぎない東京の学識経験者と称する人たちが、我々の地方の高速道路まで越権行為で介入したがる。これは中央という意識を学識経験者が錯覚して持っているからなんです。そのためにも、中央という言葉は限定的に使ってもらいたいというのが私の意見です。

【岩田】
 どうしても中央があって、地方という発想でずうっと戦後一貫して来たわけですけれども、徐々にそういう目というのは変わってくるんだという気が、きょうの聴衆の皆さんもしたのではないかと思います。
 残間さん、皆さん非常にエネルギッシュですね。

【残間】
 そうですね。今の時代はやっぱりチャレンジングな響きがないものは全然説得力がないですね。チャレンジングな方たちだから、ぜひとも変えてくれるというより、このままいけば変わるでしょう。変わらないとだめだとも思います。きょうは、もうちょと梶原さんなんかが過激なことをおっしゃるはずだったのが、おとなしかったのが残念でございました。(笑)

【梶原】
 すみません。

【岩田】
 この後、記者会見の場も用意されているようですから。本来ですともう少しいろいろなことを聞きたかったんですけれども、何分にも時間がありませんので……。

 ただ、中央と地方とか大きな問題で対立とかいうのではなくて……。この間サミットに行って思ったんですけれども、7年ぐらい連続して行っていると、日本の存在はだんだん小さくなってきているような印象を受けて、中国だの、ロシアだのという話になってきた場合、やっぱり我々が、21世紀になって、今後どうやってさらに日本を進めていくかということが大きな問題で、これは地方も中央もすべて責任がある。

 地方の首長であれ、中央の総理であれ、政治家、官僚の皆さん、みんなが知恵を出して戦っていかなければいけないというか、立ち向かっていかなければいけないのではないかと思います。こういう議論というのは、多分、また北川さん……。

【梶原】
 岩田さん、すみませんが、やっぱり対立、対決という意識を持たないといけない。地方自治も地方分権も、かち取るという意識じゃないといけない。北川さんはなかなかじょうずな人だから、何とか仲よくと心にもないことを言っていましたけれども、(笑)やっぱり、対立、対決の意識で世の中を変えていかなければだめだと思います。

【岩田】
 わかりました。今後、真剣な対立を期待したいと思います。
 会場の皆さん、長時間ありがとうございました。ほんとは、もう少しお話ししたいところなんですが……。きょうのパネリストの皆さんに拍手をお願いいたします。(拍手)
 会場の皆さんも、きょうはお暑い中、ほんとにありがとうございました。本日のシンポジウムをここで終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。(拍手)

【司会】
 パネリストの皆様、岩田さん、どうもありがとうございました。
 パネリストの皆様がご退場なさいます。会場の皆様、どうぞ、いま一度温かい拍手でお送りください。パネリストの皆様、ありがとうございました。(拍手)

 本日は、ほんとうにたくさんのお客様にご来場いただきありがとうございました。また、一部のお客様にはお席をご用意できず、長時間にわたりお立ち見になりましたことを深くおわび申し上げます。

 これをもちまして、「地方の実情にあった公共事業の推進」に向けたシンポジウムを終了させていただきます。皆様、忘れ物などございませんようお気をつけてお帰りください。本日はご来場まことにありがとうございました。

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