国土交通省 社会資本整備審議会道路分科会「基本政策部会」への知事の意見

公開日 2007年12月07日

更新日 2014年03月16日

国土交通省 社会資本整備審議会道路分科会「基本政策部会」への知事の意見

平成14年5月13日

「1.5車線への思いと知恵」

1.5車線という言葉を、ご存じだろうか。従来、道路の道幅を改良するときには、二車線化が原則だったが、これでは時間もかかるしお金もかかる。そこで、せめて車がすれ違えるようにと工夫されたのが1.5車線への道幅の改良だ。ただ、これは、あくまでも原則の枠外だから、道路特定財源ではなく地方独自の財源で取り組んでいる。乏しい懐から、ひねり出した工夫だが、中山間地域での集落間の移動時間短縮には効果がある。

 「たぬきしか通らない道」といった、地方への冷やかしの声が強まる中で、こんな話を切りだしても、都会の方にどう映るのか自信はない。が、例えば年とともに高齢化が進み、医療機関との時間距離が切実な課題になっている、日本全国の地方の思いにも、もう少し耳を傾けてもらいたい。

 もちろん、地方の側も、”地方族”といえるような依存体質から、脱却しなくてはいけない。だから、さまざまな分野での構造改革には大賛成だ。だが、その際には、大都市と地方の対立といった視点ではなく、二十一世紀の国土を考えた、バランスと話の道筋が必要だと思う。

 道路特定財源も然りで、長い歴史からみても、見直しの論議は当然だ。だが、その財源を幅広い事業に使うというのなら、そもそも納税者との約束とは違うから、まず課税そのものを白紙に戻して、税のあり方として議論をすべきだろう。一方、大都市の渋滞解消や地方での市町村合併の推進といった、今後の課題を進めていくときに、道を抜きに、またそのための財源を抜きに、国の政策が形づくれるのだろうかとも思う。

 大づかみなことしか書けないので、わかりにくいかもしれないが、大都市、地方を問わず、目前にせまる課題や、分権型社会での地域ビジョンへの取り組み、といった国民の暮らしぶりを直接、左右する道だけに、そのあり方や進め方はもちろん、満足いくサービスを、どう持続させるか、そのための分かりやすく公平な仕組みはどうあるべきか、の整理を礎に、その実現手順としての長期計画を、まず国が示すことが必要だと考える。

 この長期計画を示すことを、国民と行政の間の契約と認識すれば、「どれだけのサービス水準を、いつまでに、誰の責任で、」の明示は欠かせないはずである。

 確かに、財政構造改革は大変重要な課題だが、だからといって、国民の暮らしに密接にかかわる道づくりがないがしろにされて良い訳はない。その時々の経済情勢に、過剰に振り回されて、道についての政策が場あたり的になってしまっては、地域や国民の将来図が描けなくなるし、気持ちも縮む。

 道のあり方を、「量とか質」で捉えようとするのではなく、道の先につながる都市の暮らしぶり、地方の暮らしぶり、として捉える視点を持ちあえば、対立の構図にわい小化のされることなく、国民の期待する構造改革に、つながっていくのではないかと思う。

 1.5車ではないが、すき間を埋めていく知恵が、特に大都市と地方との間の、思いのずれを埋めていく知恵が、今求められているのではないだろうか。

 例えば、高知県では、今、中山間地域の2地区で、突然の道路崩壊により、400名以上の人達が孤立に近い状態にあり、医療や生活物資の調達という生活の基本ですら辛抱しながら、2車線の道路でなくても安全で安心な道路になることを願いながら、現実と向きあっていることを、ご存じだろうか。

 このすき間、なかなかに厄介なすき間だと、感じてならない。が、基本政策部会でのご議論に、大きな期待を寄せていることだけは、すき間とならないように願っている。


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