ゆすはら地域づくりシンポジウム

公開日 2007年12月08日

更新日 2014年03月16日

ゆすはら地域づくりシンポジウム−住民・行政が「つむぎあうまちづくり」を目指して−

平成17年5月15日(日曜日)13時10分から13時40分(梼原町地域活力センター ゆすはら・夢・未来館」2階大ホール)


橋本知事 基調講演内容

テーマ:これからの地域づくりのあり方  
          −住民力による地域の支え合いの仕組みづくり−




 皆さん、こんにちは。本日は、「梼原町の明日を考える会」が主催されます地域づくりのシンポジウムにお招きいただきまして、誠にありがとうございます。
 今、司会の前川さんからもご紹介がありましたように、現在、県では、「住民力」を生かした地域の支え合いの仕組みづくりということを重要なテーマ、課題として掲げております。

 が、地域づくり、また様々なまちづくりという点で、これまで県内の市町村をリードしてきた、またモデルになるような取り組みを次々と手がけてこられたこの梼原町で、この「住民力を生かした地域の支え合いの仕組みづくり」をテーマに、シンポジウムを開いていただけることは、大変、心強く思っております。

 とは言いましても、いつもこうした基調講演をお引き受けして、その日程が迫ってくると感じることですけれど、今回も「講演なんか引き受けなければ良かったな」「パネルディスカッションのパネラーだけに留めておけば良かったな」と、段々と悔やまれてきました。

 と言いますのも、私、割と「立板に水」的な話をいたますので、どんな時でも、すらすらと話が出てくると思われるかもしれませんけれども、こうやって人前でお話をするときには、かなり緊張しながら、また準備をして話をするという癖がなかなかぬけません。

 ですから、今日も時間がない中、「なかなか大変だなあ」という思いがございましたけれども、折角お招きいただきましたのに、ぼやきばかり言っていても仕方がありませんので、今日のテーマでございます「住民力」というものを考え出したきっかけは何だったのか、また、今の時代、どうして地域の支え合いの仕組みづくりが求められているのか、といったようなことからお話を始めさせていただきたいと思います。

 まず、「住民力」という言葉を考えたことや使い始めたきっかけでございますが、それは3年前の平成14年の夏から秋にかけ、この高知県で開催されました「国民体育大会 よさこい高知国体」、そして「全国障害者スポーツ大会 よさこいピック高知」を通じての経験からでした。

 と言いますのも、国体の場合、当時53ありました市町村すべてで、何らかの競技を運営していただく、担っていただくという形をとったわけですけど、過疎、高齢化というような日頃はやや後ろ向きなイメージで捉えられている地域でも、それぞれ地域の住民の皆さま方が手分けをし、また、持っている力を寄せ合って、民泊ですとかお食事の世話、また受付とかご案内、様々なボランティア活動に取り組んでいただきました。

 この結果、県外から来られた選手、役員は勿論のこと、大勢の方から、「とてもあったかいもてなしのすばらしい国体だった」という評価をいただきました。

 このことは、ボランティア活動に携わってくださった地域の住民の方々にとっても、日頃は、過疎だとか高齢化だとか、何か後ろ向きなことを言われるけれど、自分たちもやってみれば、まだまだできるのではないか、頑張れるではないか、そんな自信にも繋がったのではないかと思います。

 とすれば、そういう住民の皆さん方が秘めておられる、まだまだ持っておられる力、「住民力」というものを国体のような一時期のイベント、そういうものですべて使い切ってしまう、それで終わりにしてしまうのではなく、日頃からの健康づくりとか介護のお世話、また逆に少なくなった子ども達を地域ぐるみで育てていくような仕組み、そんな「地域の支え合う仕組みづくり」に使っていけないかなと思いましたのが、この「住民力」という言葉を使いはじめたきっかけでした。

 実は、昨日から今日にかけて、高知市の方で、「ツインバスケットボール」という、いわゆる車椅子のバスケットより、もっともっと重い障害を持った方の特別なバスケットの全国大会が開かれておりますが、この大会の運営も、その「よさこいピック高知」の時に誕生したボランティアの方々が、その後もずっといろいろな形で取り組みを続けられ、そして、新しくそのボランティアの実行委員会を立ち上げて、2日から3日間に亘る大会の運営すべてをサポートしてくださいました。

 こうした形で、国体や「よさこいピック高知」の時のボランティアの力、「住民力」がまだまだあちこちに引き継がれているということを大変心強く思っています。

 では、こうした「住民力」を活用した地域の支え合いのしくみというものを、今の時代、なぜ必要なのか、求められるのかと言う事情、背景ですけれども、その第一の理由は、県も市町村も大変、財政が厳しくなってきました。

 また、これからもそういう厳しい財政が続いていくということが予想されます。このような財政事情が第一の理由というか、背景にあろうかと思います。

 例えば、高知県の場合、平成10年から、全国の都道府県に先駆けまして、財政の改革ということに努めてきました。その結果、2年前、3年前といいましょうか、平成14年度の当初には、収支がほぼ均衡する予算を組むことが出来ました。

 けれども、平成16年度、昨年度の当初に、地方にとっては最も大切な財源である地方交付税、臨時財政対策債といったものを、一度期に、また大幅に削減をされてしまいました。このため平成16年度当初で、263億円というような膨大な財源の不足、収入の不足ということが生じました。

 このため、平成16年度の一年間を通じまして、職員の給与カットの検討ですとか、また、財政の支出の見直しというと聞こえがいいですけれど、いろんなサービスの削減に努めました。

 にもかかわらず、今年度、平成17年度当初で、なお150億円以上の財政の不足、財源の不足が生じています。が、国では、まだまだ、国の財政運営のつけをさらに地方に回していこうという姿勢を崩していませんので、こうした厳しい状況は、今後も続いていくということをある程度覚悟しなければいけません。

 それだけに、これまでのように何から何まで、行政に頼り、予算に頼った仕事をしていく、また、そのサービスを受けていくというのではなくて、地域の住民の皆さまにも立ち上がっていただき、そしてできることをお互いの助け合い、地域の支え合いで、いろんなサービスを作っていく、そんな取り組みをしていただくことが、地域の元気さを失わせない一つの大きな課題ではないかということを思っています。

 などと言いますと、財源が厳しくなったから、言い方を変えれば懐具合が苦しくなったから、地域に任せますよ、こうゆうふうに聞こえるかもしれませんし、そうゆう面も一面ないわけではありません。

 けれども、こうした住民の力を使った地域の支え合いの仕組みというのは、何もそんな財政が厳しくなった、追い込まれたというマイナスのイメージのことだけでなくて、もっともっとプラスの、これを長所に活かしていく可能性も秘めていると思います。

 と、言いますのも、行政が一律にいろんなサービスをするということよりも、住民の皆さま方の力を借りる、また、民間のいろんな団体の力をお借りする、そのことの方が、地域の実情にあったきめの細い、より柔軟なサービスに繋がるということが考えられるからです。

 例えば、行政がいろんなサービスを行う時、よほどお金を、人件費をかけないと、やはり公務員の仕事の時間の制約ということがあって、サービスの時間が制約されるというようなことがあります。

 また、県がいろんな事業をかまえるようとすれば、それは、県内一律のサービスということになりますので、それぞれの地域、地域の特色、実情に合わせたきめの細かいものにならずに、そこに何となくずれが生じるようになります。

 これに代って地域の「住民力」を生かした支え合いの仕組みによって、これまでの公共サービスに変わる、いろいろな地域サービスを作っていくことができれば、より地域の実情に合った住民の皆さん方から見て、受けての側から見て、より良いサービスを作っていける、そういう可能性が十分にある。そんなプラスの面もあると考えています。

 ただ、だからと言って、「さあ、もうこれからは、地域の皆さん方にお願いしましたよ。地域の皆さんでそれぞれ勝手に支え合いの仕組みづくりを作っていってくださいね。」と言っても、それだけで事が動き出すものではありません。

 やはり、地域に入って行っていろんな活動の芽を見つけて、それを育っていくとか、悩み事をお聞きして、その問題解決のお手伝いをしていく、そんな「つなぎの役」というものは、必ず必要になってきます。

 勿論、一番身近なところでは市町村の役場の職員の方々も、そういう役割を担っていただく方々です。けれども、それだけではなくて県の職員も地域に出かけて行って、地域の現場でそういうお手伝いをできるようになりたいな、こんな思いで設けましたのが、先ほどのお話にもちょっと出ました「地域支援企画員」、つまり通称「地域の元気応援団」と呼ばれている取り組みです。

 最初の平成15年度には7人の職員を、そして昨年度、平成16年度には50人の職員。そして、今年度、平成17年度には、60人の職員を地域の現場に出していますが、従来の役所の中の縦割りの業務に縛られるのはなくて、それぞれの現場に入っていって、いろんなご相談に応じる。

 また、それが必要な場合は、役所の、行政の仕事に繋げていく。また、その地域の人が考えておられるような取り組みでの先進地の事例をご紹介し、それを支えていくような支援の先があれば、そういうものをお知らせしていく。そんないろんな仕事をしています。

 このように、この地域支援企画員の仕事の主な目的は、地域の支え合いのしくみづくりを手助けし、それを広げていくことになります。けれども、それだけではなくて、こうした仕事を通じて、県の職員にもっと現場に目を寄せて、新しい視点で仕事を見つめ直してもらう、そんなきっかけにも繋げていきたいなということを思っています。

 というのは、県の仕事というのは、これまで国と市町村の間に挟まれた中2階的な役割で、そこで補助金のお世話をする、いろんな書類づくりをする、こうゆうような仕事に追われてきました。このことは、決してすべて否定されるわけではありませんし、これからもそういう仕事は必要です。

 けれども、これだけ予算繰りが厳しくなってきている中で、そうしたことだけに明け暮れているのでなくて、もっと地域の現場に出て、地域の問題点というものを自分自身で感じて、それを解決する。そんな働きをしていく。つまり予算だけで物事を動かすのではなくて、県の職員の人の力、また知恵の力でいろんなものを動かしていく、そんな取り組みが出来ないかな、そういう県庁に変わっていきたいし、そのきっかけをこの地域支援企画員の取り組みを通じて作っていきたいなということを思いました。

 ただ、こうした新しい取り組みというものは、なかなか、すぐに理解してもらえるというものではありません。ですから、そうした応援団といっても、「その動きが良く見えないなあ」とか、また、「これまでに実際、どんな成果があったのですか」というような、いろいろと厳しいご意見も伺いました。

 そんな時、梼原の中越町長さんに、この地域応援団は、大切な取り組みだということを認識し、また発言していただいたこと、とても心強いことでしたし、また、実際に地域の現場に出ている職員も、これまでの役所の中で書類を作る、それだけではなくて、現場でいろんな物事を考えていく、その大切さということを感じて、仕事の仕方を変える、そんなきっかけが少しずつ、広がってきているように思います。

 ただ、そうは言いましても、それぞれの現場に出ている職員ひとり一人の力の差とか、思いの差というものもあります。また、市町村と連携がうまくできているかどうかといった問題、また、応援団長との間のチームワークのこと等々、いろんなご指摘を受けるような問題点があることも事実ですので、そういったことを真摯に受け止めて、これからこのような取り組みが地域で定着していくように、今後も努力をしていきたいということを思っています。

 そこで、こうした応援団の取り組みということを踏まえて、それぞれの地域で、地域の支え合いの仕組み、どんな活動が起きていますかということを、いくつかの分野に分けて、ご紹介をしてみたいと思います。

 その一つは、自主防災の取り組みで、例として挙げてみたいのは、越知町の谷の内という地区の例です。この谷の内という地区は、標高が400メートルくらい、つまり、梼原より少し低いということになりましょうか、400メールくらいの地域にある全戸の戸数が37戸という小さな山間の集落です。

 が、もともと地すべり地帯に属していますので、この37戸のうち、27戸の住宅、集会所などが地すべりの防止地域に指定をされているという地域です。

 ですから、大雨ですとか、大きな地震、そういう大きな災害が起きたら、地域全体が孤立してしまう、そういう恐れがありますから、防災に対する関心は、もともと非常に高かったと思います。

 このため、越知町などの働きかけ、そして、県の危機管理・防災課とか、越知土木事務所、さらに地域の支援企画員を束ねております地域づくり支援課などが入って、昨年から年4回の防災の学習会というものを開きました。

 この学習会を開催するにあたっては地区長が統率力を発揮し、日程の調整のみならず地区内の全世帯への連絡、出欠の確認など、地区住民が積極的に学習会に参加できるように尽力していただきました。

 第一回は、そもそも災害とは何か。というような災害そのものを知るというところから始めましたけれども、話し合い形式でしたから、その中で、「自分たちの地域が地すべり地域と言われているけれども、実際、どんな問題が起きているのか。そういう現地を見てみたい」という声、また、「何か起きた時、私達でも応急手当なんかができるのだろうか。そんな勉強をしてみたい。」という声がでました。

 そこで二回目は、その地すべり地帯の実際のいろんな地形が動いたあとなどの現地を見て、そして、そういう現地の調査をもとに、地元の地図の中に自分たちが「災害が起きたときは、こういうところが危険だね」と思う所を「危険」として落とし込んでいく。それを37戸の地域の住民が全員の共通認識にしていくという取り組みをされました。

 そして三回目は、消防士の方を呼んで、意識の不明の方が出た場合は、その呼吸を保っていくための気道を確保する、そういう手当ての仕方とか、いざと言うときに担架がない、そんな時に机を担架の代わりに使っていくような、そんな仕方の訓練、講習を受けました。

 さらに四回目は、今度は、地震ということに絞り込んで、各ご家庭の見取図、その中に家具などがどういう風に置いているか、各自がそれぞれ持ち寄って、それをもとに、この置き方は危険だねという風なことをそれぞれ話し合うということをされました。

 こういうことをもとに、今年度は、実際の防災の訓練、また災害弱者と言われている者達への対応などを考えられていかれることになっておりますけれど、こうした防災の訓練というものも、何もしていない中で行政が構えて、いきなり「何月何日が訓練ですよ」という形でやるのと、このように一年間ずっと、いろんな学習をし、それを積み重ね、意識も高まったところで、そういうことに取り掛かるというのでは、その効果も大きく違ってくるだろうと思います。

 ということをお話しますと、「それはそれですばらしい取り組みだと思うけれども、うちの地区では防災ということにはあまり関心がないな。」とか、「そうした取り組みが次にどういうな広がりを持ってくるだろう」とか、いろんな疑問を持たれる方もいると思います。が、ここで大切なことは、自主防災の取り組みという、一つの切り口、とっかかりであって、手始めのテーマは何でも良かったなと思うのです。

 それはどういう意味であるとか言いますと、この谷の内は、先ほども言いましたように、もともと地すべり地域で、災害に対する関心が強かった。だから、37戸をまずまとめてみるという時に、自主防災の話をしていくのが一番テーマとして良かったということになります。

 が、こうして、とっつきやすいテーマで、地域の人が集まれば、日頃、段々希薄になっていた地域の皆さん方が、男だけじゃない、幹部の方だけじゃない、女性を含めた皆が寄り合っての話し合いの場ができますし、それによって、段々弱くなってきた地域のコミュニティー、地域社会の繋がりがまた強くなるということになります。

 そうすれば、その次には、今後は、介護のことであれ、健康づくりのことであれ、地域おこしであれ、色んな別の支え合いの仕組みづくりを話し合っていく場ができますし、それが広がりやすくなるのではないかと思います。

 つまり自主防災ということを例にあげましたけども、それは一つのきっかけであって、どんなテーマでも、自分たちの地域が関心を持つことをテーマに、いろんな話し合いのきっかけを作っていく。

 それによって地域の弱りかけていたコミュニティーというか、地域社会というものをもう一度、積み上げていけば、またいろんなことに展開していけるのではないかということを思っています。

 もう一つ、付録みたいな話ですけれど、谷の内という地区では、先ほど申しましたように、地すべり地域、つまり地下水がいろいろ悪さをしておりますので、地下水を汲み上げていくわけですが、この汲み上げた地下水、排水を飲料水だけに使うのではなくて、小水力、発電に生かしていこうと、全国でも珍しい取り組みをしています。そして、実際に地すべりの観測の装置の電源に使っていくということもやっています。

 まだ、実際に実験をしたのは、冬場の水の少ない時期ですから、20ワットぐらいの出力しか出ていないのですけれど、豪雨の時期には、600ワットぐらいまで出力が伸びるということですから、一機だけの発電機を二機、三機と増やしていけば、集会所の電源を賄う等々、地域の皆さん方の要望に応じた、もっと柔軟ないろんな取り組みもできるのではないかと思います。

 と言っても、今申し上げたその発電に生かすというようなことは、予算もかかる取り組みですし、「地域の支え合いの仕組みづくり」そのものに直接かかわっているわけではありません。

 けれども、こうした支え合いの仕組み、つまり、地域のコミュニティーというものが出来上がっていけば、何か、そういう新しい取り組みしたときの、その維持管理の仕組みにも、行政に頼るのではなくて、地域の皆さんに関わっていただけるという可能性が広がってくるのです。

 つまり、こうして何が切り口でもいいから、地域のコミュニティーを作っていく、再生していくという取り組みができれば、ただ今後は、予算を伴ったいろいろな新しい試みをそこに入れていく、そんな環境も整っていくのではないかということを感じています。

 もう一つ、今度は、地域の公共交通が段々無くなってきた後、地域の足をどう確保していくか、交通システムに関わる支え合いの仕組みづくりの事例をいくつかお話をしてみたいと思っておりますが、例えば、土佐市の宇佐とか、新居という地区は、塚地トンネルというトンネルによって、土佐市の中心である高岡地区と直接結ばれるようになりました。

 ところが、お客さんの減少によって、その直行のバスは、もう廃止をされてかなりの年月が経っています。このために、宇佐や新居の方は、高岡に行こうとすれば、一旦、高知市へ向かうバスに乗って、また途中で降りて、そして乗り換えなければならないという面倒がありました。

 このため、去年の3月、3000の世帯全体に住民のアンケートをしました。お答えは、3分の1ぐらいしか返ってきませんでしたので、少ないアンケート結果なのですが、それでも、その半数以上の方々が、高岡行きの直通バスがあれば、是非使ってみたいという結果になりました。

 ただ、かと言って、市がお金を出して従来型のバスを走らせたのでは、とても採算があいません。そこで空いているタクシーを使って何か新しい仕組みが作れないかということから、住民の皆さんが入り、タクシーの事業者も入り、学校や病院の関係者も入り、委員会を作って具体的な計画をつくることにしています。

 今年度、そのタクシー業者に、空きのタクシーを使った委託の事業、実験の事業をしてもらい、その中で、どのような料金体系で、どのように走らせれば、市が財政負担をしなくても、回っていくような支え合いができるかということを検証していくことにしています。

 同じように、この地域の足ということでは、須崎市の久通で、須崎市が買ったワゴン車を、この地元の部落会が無償で借上げて運行するという事業が4年間ほど、続いています。久通の地区は、5年前の国勢調査では、既に人口が124人という大変小さな集落です。

 けれども、こうした仕組みによって、その利用料金の中から、燃料費や運転手さんへの報酬も賄っていける。それで、週3回、須崎市の病院やショッピングセンターに行き帰りするようなバスを運行する事業が続いています。

 ただ、今申し上げたような、交通システムということを考えます時には、土佐市の事例であればタクシー事業者が乗合タクシーという許可を取らなければいけません。また、須崎市の例では、須崎市が道路運送法上の包括許可というものを取る必要があります。

 また、よく各地域で問題になりますけれども、社会福祉法人など、福祉関係のNPOの法人などが、有償で福祉バスを走らせようとする時に、白タク行為との区分けをどうしていくかいう、いろいろ法律上の整理もしておかなければなりません。

 こうしたことは、いかに地域の支え合いと言っても、「さあ地域の皆さんにお任せよ」と言っても、なかなか解決できるものではございません。ですから、こういう時に、また、各地域の支援企画員の力を使って、いろんなご相談をしていただけたらと、思っております。

 地域の支え合いということで言えば、この梼原でも、中山間の直接支払などを用いた集落経営のいろんな取り組みも出てきていると思います。また、グリーンツーリズムの取り組みでも、先端的な取り組みをしていただいています。

 こうしたことは、これからの中山間地域で、とても大切なことですし、また、高知市など町のほうでは逆に、商店街の空き店舗をどう活用していくか、今、いろんな形での支え合いの仕組みが広がりつつあります。

 グリーンツーリズムで言えば、まだまだ点の状態、小さなものがぽつぽつという状態ですけれど、それでも、梼原などで先端的な取り組みをしていただいた結果、現在、県内の28の市町村で、34地区でこうした試みが始まりました。

 このように、この地域の支え合いの仕組みづくりというものは、これまでいろんな地域で、様々な形で広がってきています。ですから地域を取り巻く環境が大変厳しい、その現状は確かにあります。

 けれども、「厳しいね」、「だめだ、だめだね」と後ろ向きになるのでなくて、「何かできないかな」、「何かやってみようよ」というような思いで、一歩踏み出していただければ、そこからまた新しい動きがでてくるのではないかと思っています。

 しつこいようですが、先ほどの交通の足の問題にしろ、そういうときには、法律や制度の問題というものもいろいろ絡んできます。

 また、他の地区での成功の事例、失敗の事例、さらには、そういういろいろな取り組みをしていく時に、どんな支援制度がありますかということも、当然、ご存知になっていた方が良いと言う意味で、県との関わり、市町村との関わり、また、その繋ぎ役をしていく地域の元気応援団の役割というものがでてくるのではないか。

 ぜひ、そういう話をお気軽にしていただいて、そんな動きをあちこちに興していただければと思っています。こうした地域おこしという観点で、梼原町を見ますと、先ほどでましたグリーンツーリズムの取り組みもそうですし、また、先ほど昼食でいただきました「鷹取キムチ」の取り組みもそうです。

 いろんな元気を興していく、地域の特産品を作っていくというような取り組みでは、ほんとうに県内をリードするモデル的な事業をいろいろ手がけていただいています。

 さらに、これに地域の支え合い、そういうものも、もっともっと広がっていけばこれからも、更に高齢化が進み、過疎も進むでしょう。だけど、その中で、地域が元気を失わず、皆がやりがいを持ち、ふるさとに誇りを感じられる。そういう地域をつくっていけるのではないかということを思っています。

 例えば、交通の足の確保ということで言えば、梼原の場合、まだ高陵バスのおかけなどで、まだまだそれほど切迫した問題を感じておられないかもしれません。

 しかし、5年後、10年後、20年後、どうなっていくか、「転ばぬ先の杖」と言いますか、「備えあれば憂いなし」、そういう意味でいろいろ他の地域を勉強しながら、幹線の道路とその中山間の集落をどう繋ぐかというようなことを今から考えていただくことも大切なことでないかと思います。

 また、自主防災ということでも、この梼原のような中山間の地域ですと、海部の町のように津波がどうだ、こうだという津波に対する心配は確かに弱いと思います。

 しかし、先ほども言いましたように、テーマは何でもいいわけですから、その地域地域に切迫した、こうゆうこうをやりたいというテーマをきっかけに地域のコミュニティーというものを、また、つくり上げていってもらえれば、そのことがいろんな支え合いの仕組みづくりに繋がっていくのではないかと思います。

 特に、梼原は、町から区へ、そして区から各集落へという組織の体制がきちんと整っている町です。ですから、どこかで、何かいい例だねというものができたら、それをいち早く町全体に繋げていく、そうゆうこともできる県内でも珍しいというか、力を持った町ではないということを思っています。

 ですから、そうした意味で、梼原の皆さんには、元気興しというだけでなくて、いわゆる地道な地域の支え合いの仕組みでも、県内で、モデルになるような取り組みを是非、進めていただきたいと思いますし、そうした取り組みを、県としてできる限り応援をさせていただくということを最後に付け加えまして、ちょうど時間となりましたので、私からの基調講演のお話とさせていただきます。
 ご静聴、ありがとうございます。

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