公開日 2007年12月08日
更新日 2014年03月16日
全国知事会議での橋本知事の発言
平成18年5月30日(都道府県会館)
今日は、全国で最も財政窮乏の県の知事として、意を決してお話をしたいと思いますので、自らを引き締めるという意味で、立ったままお話をさせていただきたいと思います。
西暦2000年の4月に地方分権一括法というものが、施行されました。丁度、その1年後の2001年の4月に小泉政権が発足をいたしました。それから、5年、6年という期間を振り返ってみると大きな変化があったと思います。
一つは、地方分権という言葉がだんだんだんだん薄れてきて、それに対して財政再建ということが前面に押し出されてきました。
もう一つは生活者重視という言葉がほとんど消えてしまって、それに替わって、市場原理、競争原理に基づく成長重視という時代がまた逆戻りをしてきたというふうに感じています。
その結果、先ほどのご議論にもあったように、人口と面積で交付税を配分していこうというような、高知県のような県、また、その県の山間に暮らしておられる地域の住民の皆さん方が拠りどころにしている町や村は、もう無くなってもかまわないよという本音に裏付けられたような考え方というものが、公然と語られるようになってきていると思います。
これに対して、私たちの側は、やはり、その時その時、目の前にある課題に対応していくということで、だんだん議論が細分化をされ、また、あるときは矮小化をされ、地方交付税のあるべき姿、その攻防という局地戦に陥ってしまっているのではないのか、ということを思います。
私は、今こそ地方分権、また、生活者重視という原点、さらには、この国が戦後の民主主義の中で培ってきました、どの地域に生まれても機会均等を保障していく、というこの国の形の原点というものを見(つめ)直すべきではないかというふうに思います。
しかし現実はそうはなってはおりません。機会均等の保障ということに替わって、マクロの財政再建ということが、前面に押し出され、機会均等云々ということを無視することのほうが、むしろ競争原理や、また、自由競争の原理の中で正義だというような議論が正論かのように戦わされるようになっています。
こんなことでいいのでしょうか、ということを思います。くどいようですけれども、もう一度、国、ということよりも、地域住民の暮らしを守っていくという立場から、国は何をすべきか、私たち地方は何をすべきか、ということをもう一度きちんと整理をすべきではないのかというふうに思います。
今、時あたかも教育基本法の中で、愛国心ということが論議の的となっています。子供たちに、この国を愛してくれということを求めるのであれば、私は、その子供たちに、君達の、あなた達の機会均等は保障しますよと、いうことを示していくことが教育の基本ではないかというふうに思います。
ところが、現実には、出産から、育児、保育、また教育に至るまで、地域には、地方には大きな格差が出てきています。
また、それが教育の格差ということを通じて、次の時代にその社会の格差が拡大再生産されようとしています。
私は、自分の子供や孫の世代が、この社会の大きな格差という坩堝の中で、1920年代以降の日本が辿ったような、そういう道に陥ってしまう、それをただ漫然と見ていることは非常に忍びないという思いがいたします。
間もなく、自由民主党の総裁が決定をされます。事実上、国の新しいリーダーが決まるという時でございます。私は、知事会として、できればその新しい国のリーダーになるべき方々に、先ほど申し上げた、地方分権なのか、それとも財政の再建なのか、また、生活者の重視なのか、成長の重視なのか、きれいな答えが返ってくるとしても、私は、それぞれに問うてみていただきたいなということを思います。
この全国知事会は、闘う知事会ということを標榜し、旗を掲げてきましたが、だんだんと、やはりその旗が少し色あせてきてしまっているのではないのかということを思います。そうした中で、目の前の議論だけしていたのでは、結局、終わった後に、いろいろ地方の抵抗勢力がいたけれどもご納得をいただいた、ご理解をいただいた、ということで丸め込まれてしまうのではないか、というふうに思います。
こんなことを言いますと、財政窮乏の県の知事が、遠吼えを上げているというふうに片付けられてしまうかもしれません。しかし、私は、ドンキホーテになったとしても、高知県という、私を育ててくださった県の、その地域の住民の皆さんのために、このことだけは、申し上げておかなければいけないということを思いました。
最後になりますけれども、今、私たちは、特に高知県は崖っぷちにあります。
いろいろ細かいことを議論している場合ではないんじゃないか、議論を封じ込めようという意味で申し上げる訳ではないですけれども、今こそ小異を捨てて大同に付く、そして、戦術立てということで大きな戦う知事会として、また一歩を歩みだしていただきたいということを申し上げまして、大変格好のいいことを申し上げましたけども、私の意見の表明とさせていただきます。(拍手)