岩手・宮城・高知3県知事会談

公開日 2007年12月08日

更新日 2014年03月16日

岩手・宮城・高知3県知事会談

平成16年5月21日

 
  メンバー
    岩手県知事 増田 寛也
    宮城県知事 浅野 史郎 
    高知県知事 橋本 大二郎

  司 会
    毎日新聞社編集委員 加藤春樹

  期 日:平成16年5月21日
  場 所:毎日新聞東京本社
  主 催:毎日新聞社


【あいさつ】

朝比奈豊・毎日新聞東京本社編集局長
 前 略
 国と地方の税財源を一体で見直す三位一体改革は、小泉純一郎首相が進める構造改革の要ですが、04年度は補助金削減などが先行し、税源移譲が進まないという地方にとって不本意な形となりました。来年度については麻生太郎総務相による「麻生プラン」や財務省案が出るなど見直しが進んでいます。
 永田町や霞が関の権益争いのような改革に終わらせないために、3人の知事のみなさんに現状と問題点、今後の課題について議論、提言していただければと考えています。

【会 談】

司 会
 三位一体改革の初年度の結果に、地方は猛烈に怒っていますね。

増 田 
 まじめにつき合った自治体ほど大変な苦境に立たされた。「地方に税源を与え、創意工夫と地方の責任で地域づくりを」という小泉改革に期待感が高まった分「裏切られた」という思いが強かったのでは。私自身、予算編成で県民に十分な説明ができなかった。
 肝心の地方の自由度が増すということが一つもなかった。公立保育所の運営費が(自由に使える)一般財源になったというが、それも税源移譲は不十分。小泉首相に期待した自治体ほど挫折感と不信感は強く残った。2年目は地方財政の自立という三位一体改革の原点に立ち返って、成果を出すよう全国で働きかけていかなければなりません。

浅 野
 「もう悲鳴を上げるのですか」という5月5日付の毎日新聞社説に怒りを覚えた。「三位一体改革」という美しい言葉に酔いながら、実は考え方はバラバラだった。財務省は改革イコール財政再建ととらえていた。(昨年の全国知事会などの提言で)9兆円の補助金削減を我々が言ったのは数年前の状況からみれば驚天動地のことだった。財務省が悪用したというわけでもないでしょうが、向こうはそこ(削減)にアクセントを置いていました。
 2年目は何のための改革かを十分にすり合わせることが必要。達成すべき目標が共有されなければ話にならない。マスコミも含め「地方の自立は二の次で、本当は金がほしいんでしょ」と総括されたのでは、死んでも死に切れない。そう受け止められるような運動はやめようと思います。

橋 本
 せめて小泉首相が約束したことはきちんと実現する必要があります。義務的経費(人件費など)の100%、その他は80%を確保できるよう税源を移譲しようという話はちっとも実現されていないし、検討の跡すらよく見えない。
 高知県は99~04年度で予算規模を22・4%縮小した。全国一の削減率です。人員削減も94年度から10年間で知事部局650人、警察職員や教員などを合わせると1400人を削減し、02年度には収支を均衡させた。しかもその後2年間でさらに600億円削減したにもかかわらず、今年度は地方交付税等の大幅な削減により236億円の財源不足が生じる結果となった。努力が全く報われていない。そういう現状があるのに「地方は無駄遣いをしている」などと言われるのは、我々のPR不足もあるが、心外です。

司 会
 麻生総務相が打ち出した「2年目は3兆円の税源移譲を先行させる」というプランをどう見ますか。

浅 野
 何のための改革か、原点に戻らなければなりません。今回の改革は地方財政の自立を目指すものです。この文脈からして、税源移譲を先にやり、その範囲で国庫補助・負担金を廃止するという麻生プランは当たり前です。ただ「交付税等の一般財源を前年度と同水準に」という部分は「結局はカネがほしいのか」と受け止められる懸念がある。
 一方、地方は無駄遣いしているとの論もありますが、問題は国と地方のシステム的な無駄、縦割り行政が生む無駄です。例えば道路。国道、県道、農道などいろいろな区分があるが(所管する省庁が違うため)農道予算を削った分で高速道を造る、という振り替えはできない。だから自治体は「農道は農道で補助金を下さい。高速道も高速道で造って下さい」と国に要望することになる。
 そういうひも付き財源をやめ、知事の裁量で予算を振り替えられるようになれば無駄は省ける。全国知事会長の梶原拓・岐阜県知事は「地方財政自立なくして財政再建なし」と言っています。

橋 本
 補助金・国庫負担金削減に見合った税源を移譲するのは当然で、税源移譲を先行決定するのは“三位一体”の一体性を何ら揺るがすものではありません。地方交付税の(財源不足を補てんするという)本来の中立的な機能も考えれば、今年度の水準が維持されるのは決して不合理でない。論理的には「余計な金をよこせ」という見方につながらないはず。だが、そう見られるという浅野知事の懸念はわかる。

浅 野
 財務省は「廃止する国庫補助・負担金の対象事業のうち、引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものは税源を移譲」と言っている。最も分かりやすいのが義務教育の国庫負担金。この2兆6000億円を廃止するなら税源移譲する、と財務省は言っている。
 逆に言えば(義務的でない)奨励的補助金を3000億円分廃止しても、それに見合う税源は来ない。我々は(財政の自由度を高めるため)負担金より補助金、義務的補助金より奨励的補助金を廃止しようと言っている。財務省のいうことと全く逆で、議論がかみ合わない。

司 会
 義務教育費国庫負担金の廃止が見送られ(使途を地方の裁量に委ねる)総額裁量制となった。知事さんの間でも扱いを巡って意見が分かれているようですね。

増 田
 基本線は同じだが、04年度の結果を踏まえて05年度はどう攻めるか、という短期的な意見の違いです。

浅 野
 霞が関では、総額裁量制で「文部科学省はよくやった」とウワサになっている。「ああいうのを作れば(補助金や国庫負担金の)廃止リストから外されるのか」と。厚労省で言えば、細かい補助金をまとめて「総合福祉交付金」にすれば廃止を先送りにできるとか、そんなふうに利用されないか。

橋 本
 本来は義務教育の国庫負担金も廃止されるべきだというのが大多数の意見だと思います。また、ああいう義務教育費国庫負担金のようなものもできなければ、他も進まないのではないか。だが、改革初年度が期待とは全く違う形になったため、本当に(廃止に見合った)財源が保障されるのかという強い不信感がある。

司 会
 国と地方の税財政改革論議は、結局は地方交付税改革に行き着くと思います。交付税制度の財源保障という仕組みが地方財政を堕落させたのではないでしょうか。財源不足を補う財源保障機能より、不均衡を是正する財政調整機能に徹し、透明化すべきでは。

浅 野
 総論は賛成です。モラルハザードの原因は国にもある。景気対策のため国が「こういう事業をやれば地方債を発行していい。その(返済資金の)7割は交付税で出すから」などと言って第2補助金化してきた経緯があります。

 ただ「財源保障機能はやめて財政調整機能だけに」と言っても、そんなに簡単に分けられるのかどうか。また、交付税をめぐる「東京対地方」「都市対地方」という対立構図は非常に不幸です。「東京で集めた税金を田舎に回している」という趣旨の石原慎太郎・東京都知事の発言に怒りも感じるが、気持ちは分かります。問題は、そういう発言を喜ぶ人々がいること。国の省庁が「交付税も我々がマネジメントしないと、あいつらはけんかする」と。石原さんが言うのは「議論しよう」ということです。交付税は総務省に配ってもらうのではなく、我々地方同士が分け合う仕組みにしなければならない。

橋 本
 過去にモラルハザードを生んできたという指摘は当たっていますが、現在、財政がひっ迫している自治体にモラルハザードはあり得ない。過去のことは反省しなければならないが、交付税の機能そのものがモラルハザードの原因といえるのか。
 国として必要な仕事のうち、地方が担う部分は財源として保障されるべきです。交付税を改革する場合、国と地方の仕事が重なるところを整理し「地方が担う分野はこれ」「(国と地方の)公務員の配分をどうする」ということを同時に明確化しないといけない。過去の役割に負の側面があったからといって、交付税を悪者にして削減すれば解決するというのは誤りです。

増 田
 「地方交付税は地方固有の財源」ということを押さえておく必要があります。国が交付税のさじ加減一つで地方を動かし、麻薬のように使ってしまったのは間違いです。内需拡大を求める米国の外圧を受け、国は地方に公共事業をするよう圧力をかけた。その時、償還を交付税で面倒みると言った分は国がしっかりと責任を果たしてほしい。

 国が地方に対し一定の行政サービスを義務付けている現状では、交付税の財源保障機能も考えないといけない。今すぐ財政調整機能だけにはできない。10年、20年先に交付税の果たす役割が大きく変わり、我々が組織を作ってシェアする形がきちんとできた時の話です。

 交付税改革は将来の全体像とともに毎年の確実な方向を示さないといけない。そうしないと自治体は予算編成に不安を抱えることになる。結果として地方は改革に抵抗し、いつまでも変わらない。これは大変不幸なことです。

橋 本
 交付税の透明性を高めることは今すぐ必要ですが、国と地方の仕事の役割分担の整理がないまま財源保障機能をやめ、いきなり単純な人口割り(による配分)などに変えてしまったら、少なくとも高知県はやっていけません。単純化は次のステップだろうと思います。

司 会
 地方分権が進み地方財政の自主裁量が拡大すると、どのような社会になるのでしょう。

増 田
 国から地方に仕事と財源も移せば、今の霞が関がそのまま残るはずはない。国家公務員の多くが補助金の配分に携わり、我々もかなりの部分をそこに割いています。

 (三位一体改革は)経済財政諮問会議で議論されているが、もう一段高い場所でなくていいのか。国会の憲法調査会のような場で、国と地方のあり方全体を議論しないと着地点が見えないのではないか。国の地方支分部局(出先機関)に国家公務員が約22万人いるが、その人たちの問題など公務員制度改革を含めた「四位一体改革」に取り組まないといけない。

 地方が東京に顔を向けるのは、まさしく補助金のせいです。ここらで「地方に仕事を任せて大丈夫か」という国側の不信感を我々も払しょくしなければならない。税源移譲で一気に特色ある地域づくりが進むわけでもないだろうが、成果はそれぞれの地域の納税者が受益と負担の関係で判断する。それによって地方が個性と魅力を発揮する「地域の自立ある発展」が図られ、地域のプライドにもつながる。

浅 野
 改革の効果の一つは、住民が鍛えられるということです。2、3日前に出席した厚労省の社会保障審議会障害者部会で「知事会は障害者福祉の国庫補助金を廃止してくれと要望しているが、どういう意味ですか? 浅野さんのように熱心な知事さんがいればいいが、自治体によっては障害者福祉の水準がドーンと落ちてしまう」と言われた。だが「永久に補助金でいいのですか」と聞き返すと、答えない。

 補助金を維持したい団体はみんなこう言う。その親玉である省庁は「我々が補助金でミニマムを保障している」と考えている。この体制をこれからも続けていくのかを考えなければいけない。

 (補助金依存を脱し)政治という場で納税者が鍛えられる過程を経なければ、日本はいい国にならない。補助金をばらまくだけの緊張感のない政治で、どうやって民主主義ができるのか。この改革は本当の民主主義国家になるための条件だと思っています。

司 会
 「もう一段高い場での議論を」という指摘が出ましたが、国の仕組みを再考しようという税財政改革論議に地方の代表が直接参加していないのはなんとももどかしい。政府は地方も加わった大「臨調」(臨時行政調査会)のような場を設置し、不退転の取り組みを目指すべきではないでしょうか。

増 田
 (地方財政自立へ向けた改革は)予算編成の1カ月くらいのドタバタで決める話ではありません。経済財政諮問会議が改革の糸口をつけたことは認めますが、初年度の結果はあまりに拙速でした。今からでも遅くないから覚悟を持った(長期的、全体的な)議論をぜひやるべきです。

司 会
 地方の目指す自治のあり方を実現するには、住民の行政に対する信頼が何よりの力です。県や市町村は尊敬される存在になっていますか。

増 田
 今、地方行政は受益と負担が向き合う仕組みになっていない。国から金を取ってくることが「よくやっている」と評価される。その仕組みを変えて住民と向き合い、住民負担を減らしながら、いいサービスを提供していくことが大事だ。

橋 本
 行政サービスの満足度を高めることは行政の責務ですが、同時に、住民も行政がやってくれるのを待つだけでなく、自ら参加することが必要です。行政と住民が対等な立場で一緒に問題を解決していく仕組みに変えていくことが大事。そのためには情報公開も必要。行政が持っている情報を全面開示し、住民と情報を共有することが、結果としてアイデアを出してもらうことにつながります。

司 会
 参院選が近づいてきました。何を期待しますか。

増 田
 補助制度を温存し、地方にいかに多くの補助金を交付するかではなく、補助金を減らし、地方の自立を高める仕組みに変える政策が選挙で評価されるようになる必要があります。与党はマニフェストを掲げて昨年の衆院選に勝ったが、その後の与党の取り組みは不十分で、知事会としてのマニフェスト達成状況の検証でも指摘しました。一方で野党は18兆円の補助金廃止などを掲げたが負けた。実現可能性のあるものをもう一度、作り直すべきです。

橋 本
 もっと三位一体改革、地方財政の自立に関心があっていいと思うが、すそ野が広くわかりにくいのが残念。政治家の年金保険料未納問題など単純な話題の陰に隠れることが心配です。

司 会
 中央集権から地方分権への進展具合をどう見ますか。

橋 本
 財務省と総務省の垣根論争かもしれないが、論点が出てきたことは一歩前進です。

増 田
 揺り戻しは常にあるが、大きな方向性は変わらないでしょう。

浅 野
 正直、こんなに早い時期にここまで来るとは思わなかった。ただ、中には改革で財政がきつくなり「改革などやらなければよかった」という首長も多い。立場の違いや温度差をとらえて、足元をすくわれないようにしなければ。
 


Topへ