平成19年度の県政運営にあたっての知事講話

公開日 2007年12月08日

更新日 2014年03月16日

平成19年度の県政運営にあたっての知事講話

平成19年4月3日(火曜日)13時30分から13時55分(高知県庁 正庁ホール)

 県庁の皆様方を前に新年度のあいさつをするというのは、私にとってこれで16回目ということになりますが、振り返ってみれば、県庁の職員の方への講話だけではなくて、大勢の方を前に話しをする時には、少しでも滑らかに分かりやすく話しをするということを心掛けてきました。  
    
 ところが、先日ある方から
「あんたの話は、確かに聞きやすくてわかりやすいけれども、いつも流れるように話をするので、話の内容そのものも流れていって心に響かないし心になかなか残らない。そろそろ、あんまりきれいによどみなく話をする、ということだけ気にかけるのではなくて、自然体で感情も込めながら、時にはつまってもいいし、時には言葉をかんでもいい、そういう話し方をすることを今年のあなたのミッションにしたらどうか」

と、こういうことを言われました。

 話すことが心に響かないとか心になかなか残らないと言われると、まあ、それもそうかなと思いながらも若干心穏やかでないものがありましたが、今年のミッションにしてはどうかとまで言われましたので、少しでも構えずに自然体で話す努力をしてみたいなと思います。

 この2月の県議会の初日、提案説明の中で、ミッションとパッションという言葉を使いました。

 このため、ミッションという言葉が今、県庁の中では、結構、流行り言葉になっているということを聞きます。

もし、高知県に県内版の流行語大賞があれば、今年度の流行語大賞が狙えたかも知れないと思いますが、それはともかくとして、全国版で言えば、流行語大賞の他に、清水寺の貫主が毎年1年間を振り返って、その年を象徴するような言葉を漢字一文字で書くというのが恒例の行事になっています。

 そこでといっても、県は暦年ではなくて年度で仕事をしていますので、昨年1年間ではなくて昨年度1年を振り返って、何か一言の漢字で表わす字があるかなと考えてみました。

 そこで思いついたのは、憤慨するという「憤」、憤るという字です。

 騙されたほうが悪いと、こう言われればそれまでですけれども、国の財政運営のツケを地方にまわしただけで終わった三位一体の改革によって、地方交付税は大幅に削減をされたままです。

 そうした状況のままで、国が大手の企業の収益をのばすための誘導策に力を入れれば、そこであがった収益をまた地方に再配分をしていくというパイプ機能はもう壊れているわけですから、格差が開いていくというのは当たり前のことになります。

 にもかかわらず、それを承知で今度は「再チャレンジだ」、また「頑張る地方応援プログラムだ」と言って、本来、地方の間の財源のばらつきを調整するためにある地方交付税をあたかも奨励補助金かのようなかたちでエサとしてばらまいていく、こんな無神経なことがあるでしょうか。

 「おんしゃら、なめちゃあせんか。わやにすな」という憤りが込み上げて来ます。

 こうした仕打ちに耐えかねて文献調査をするだけで多額の交付金を受けられるという、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の調査に手をあげた町が県内にあります。

 いわれのない地方交付税の減額によって財政的に窮地に追い込んだ上、今度は多額の交付金をエサに札束で頬をたたくようなことをする。こんな品の無い恥知らずな国のどこが美しい国なのかと。

 「おんしゃら、なめちゃあせんか。わやにすな」という憤りがさらにひろがってきます。

 そもそも、ボンバルディアという飛行機のトラブルの制御も十分にできない。また、飛行機という機械のフェイルセーフ(※注1)を十分にすることもできない。

 そんな人間の科学技術の中で、人類全体を死滅させる、全滅させる危険のある毒物を1万年も2万年も安全に閉じ込めておくことができますなどと、誰が自信をもって言えるんでしょうか。

せめてボンバルディアの安全性ぐらい確立してからにして欲しい。

 「おんしゃら、なめちゃあせんか。わやにすな」というやつあたりにも似たような憤りが込み上げてきます。この憤りということも、パッションの源になります。

 私は、これからの1年、こうした様々な不合理なことに対する憤りを、自分のパッションの火を灯す一つの原動力にしていきたいと思っています。皆さんも憤りをパッションにかえていくのもいい。

また、昨日は、新採の職員の入庁式が開かれましたが、皆さん方も何十年か前を思い起こして、入庁の時に胸に抱いたパッション、それを思い起こしてみるのもいい。

 それぞれの自分流、自己流でいいから、この1年、パッションをどうやってもう一度燃え上がらせるか、そのことを是非考えて欲しいと思います。

 次に、ミッションですが、第一のミッションとして申し上げたいのは、県庁が一丸となって雇用の、地域経済の問題を考えていく。一人一人の職員が、雇用・地域経済のことを考える県庁にしていくというミッションです。

 雇用ということには、いろんな要素・条件が絡み合いますので、県庁、行政だけが全ての責任を負って片付くという課題ではありません。

 例えば、昨年お亡くなりになった、長く関東高知県人会の会長を務められたプレス工業の柳井清澄さんは、繰り返し高知県という県がおかれた極めて不利な地理的な条件というものを起業家の目で語られていました。

 また、民間の力の弱さとか意欲の弱さということも要素の一つとして考えなければいけません。

 室戸市の吉良川に工場をもっている井上特殊鋼というグループ企業があります。

 先日、この吉良川とともに奈半利に新しい工場を増設されました。それと同時に、これまで高知の県内にはなかった熱処理の優秀な技術をもつ企業を大阪から誘致をして下さいました。

 このことによって、県内で誕生した製品をいちいち県外に出して熱処理をしなくても、県内で熱処理をして県内の機械加工の会社で製品化をするということが可能になりました。

 ところが、この井上特殊鋼グループの井上会長によると、県内の企業の中には、この井上グループから発注をされる単価が安すぎるという声があるという話を聞きました。

 そこで、井上会長さんが、そうした企業をまわってみると、あまりにもゆっくりゆっくり仕事をしている。これが県内だとか身内の中だけで物をまわしていく、そういう時代であればそれでもよかったろう。

だけど、全国相手に仕事をしている、競争している今の時代に、あんな仕事の仕方では企業そのものも伸びていかないし雇用も伸びない。こうした民間の力の問題もあると思います。

 さらに本県では、公の経済、公経済に依存をする体質、ここから抜け出なければいけないということが何十年も前から言われてきました。けれども、今もってこの公経済への依存体質からなかなか抜け出せない。こういうような要素もあると思います。

 ということから雇用の問題は、行政が、県だけが全ての責任を負ったからといって、それで片付く、解決をするという問題ではありません。けれども、県としてもっと思い切って手を突っ込んだほうがよかったんじゃないか。

 また、手を差し伸べるほうがよかったんじゃないか。さらには、何かの方向性を示す旗をもうちょっと明確にしたほうがよかったんじゃないか。そういう反省点がいくつか思い浮かんできます。

 そうしたことから、今、6月を目処に産業振興ビジョンをつくるということを掲げています。といっても、どの業界のことも何処かに一行ずつ出てくるというような、そういうようなビジョンをつくってもあまり意味がありません。

 また、そのビジョンに出てくることが、そこに関連する業界が、「ここに出ているから補助金くださいよ」と言って、その要求をしてくる。そういう根拠になるようなビジョンをつくっても意味がありません。

 そうではなくて、もっとイマジネーション、想像力を働かせて付け焼刃でない、場当たりではない、高知県の将来の道、可能性を探る、そんな旗をいくつか探って欲しいなと思っています。

 一方、もっと身近な雇用の情勢への対応ということでは、雇用対策チームを立ち上げました。

 このチームでも幾つかのテーマごとに部局の壁を越えて連携して仕事をしていくことにしていますが、先日、各部局長さんにも雇用に関するミッションをお伝えをしました。

 それは、直接、雇用だとか地域の経済産業振興に関わりのない部局でも、また、そうしたことに関わりのない職場でも、一人一人の職員が地域の雇用だ、経済だということを頭におきながら仕事をする、そういう仕事の仕方をして欲しいというミッションです。

 どんなに小さな予算でも、それを執行する時に、地域の雇用のために、地域の経済のためにプラスになるような運用の仕方というのはあるはずです。

 どうすれば、それでは地域の雇用にプラスになるだろうか、そういうことを是非考えながら仕事をして欲しい。

 事業を組み立てる、色んな仕組みを作る、そういう時にも、どうすれば地域の経済、地域の雇用に少しでもプラスになるかな、そういうことを、直接雇用だ、産業だということに関係のない職員の方もいつも気にしながら仕事をしていく。

 そういうことを是非、徹底をしてもらいたいと思います。これが、雇用に関するミッションです。

 次は、県の仕事の仕方に関するミッションですけれども、内に向けては、本格的で実質的なアウトソーシングをすすめていくということ。そして、外に向けては、市町村との壁、また、市町村間の垣根を取り払うことによって、広域行政の新しいサービスのかたちをつくっていこうということです。

 アウトソーシングに関しては、17年、18年、そして今年度19年度、3年間で30%という目標を立てました。けれども、スリム化のこのアウトソーシングにカウントをするという判断をしました。

 このために、結局は、現業職の方々、また非常勤の方々、そういう職を廃止をする。スリム化でほとんどのカウントをかせいで、実質的なアウトソーシングは8%しか進まないという現状にあります。

 スリム化は組織の仲間として大変辛い事ですけれども、しかし、時代の流れの中で進めていかなければいけない課題です。
 
 けれども、アウトソーシングという名前でスリム化をすすめていくことで、

 「アウトソーシングと言いながら結局は弱い職場を切り捨てているだけじゃないか。また、アウトソーシングによって民間に仕事をつくっていくと言いながら、そういうかたちになっていないじゃないか」

という批判が出てきます。

 また、そのことによって、実際に職場を失われた方々からは、「これがアウトソーシングなのか、わやにすな」という憤りの声をぶつけられるかも知れませんし、また、このままのかたちでアウトソーシングを続けていれば、アウトソーシングというものが歪んでとらえられ、伝えられることになってしまいます。

 そうなってはなりません。

 そこで、19年度、本年度が終わってから、新たな取り組みをすすめるというのではなくて、今年度前倒しをして、本格的な実質的なアウトソーシングをすすめる、そのためのアクションプランを各部局につくっていただくというのが重要な次のミッションです。

 5月21日から6月4日まで、各部局順次ヒアリングをさせてもらうことになっていますので、その時に、そのアクションプランを説明をしてもらいたいと思います。

 受け皿がなかなか見つからない、どうやって発注したらいいかわからない。また、成果品の評価の仕方が定まらない等々、やらないための理屈はいくらもでも出てくるだろうと思います、考えられるだろうと思います。

 けれでも、そういうことにパッションをそそぐことはやめてもらいたい。そうではなくて、どうやったらできるのかというイマジネーション、想像力を是非働かせてアクションプランを作っていっていただきたいと思います。

 次に、外に向けて市町村のとの壁、市町村間の垣根を取り払うということでは、まず第一に、県と市町村の役割分担というとてもきれいな言葉が、地域の住民から見れば、県と市町村との縦割り行政の壁にしかうつらないという問題点が一つあげられます。

 もう一つ、市町村の間の垣根を取るということで言えば、自治体経営の広域化による規模のメリットを活かすことによって、市町村合併を待つまでもなく、県も入って新しい広域行政のサービスをつくっていけるのではないかというテーマがあります。

 前段の市町村との間の壁ということでは、今年度、各福祉保健所ごとに五つあるわけですけれども、地域に居る市町村や県の資格を持った人的支援、そういう皆さん方にどういうかたちで一緒になって仕事をしていったらいいだろう。その仕組みづくり、チームづくりというものを検討してもらうことにしています。

 これは、県内、5ヵ所一律ではなくて、それぞれの福祉保健所ごとにその地域にあった、テーマにあった表情が、顔があっていいと思います。

 もう一つの、市町村間の垣根を取り払って、その自治体経営の広域化による規模のメリットを活かすということは、今回の合併構想の中にも具体的な目標として書き込んでいます。

 消防の分野、保険制度の分野、また広い意味での福祉の分野、教育の分野が、こうした新しいかたちの広域サービスの目標になるのではないかと思いますが、県内どこでも、今、申し上げたような分野で一定のサービスが保障できる、提供できる、そんな高知県方式の広域サービスのかたちを是非、構築をしてもらいたいと思っています。

 先日、企画の担当の職員の方と、今日のこの会の進め方について話をしている時に、担当の職員の方が、

「ミッション、パッションときたので、もう一つ、ミッション・パッション・何とかションと、こういうような三大話しになる言葉があるといいと思って考えたけれども、なかなかいい言葉が思いつかなかった」

と、こういう話をしていました。自分もそこで、考えてみましたけれども、その時はいい言葉が思い浮かびませんでした。

 けれども、その後色々考える中で、今、足りないもの、必要なもの、それはイマジネーション、想像力ではないかということに思い当たりました。

 先ほどから、産業振興ビジョンの中で、また、アウトソーシングの中で、イマジネーションという言葉をあえて使ったのは、その伏線の意味を込めています。

 先日、フットサルというサッカーの競技の、西日本レディースの大会が開かれた時に、その大会のオフィシャルスポンサーをしてくださっている日本トリムの森澤社長から、

 「まだ全国の中で水のビジネス、水の研究ということを旗として掲げている県はどこにもない。けれども、21世紀、水は世界的にも最も重要なテーマの一つだし、また、高知県には四万十玄武岩から出てくる水、また、深層水といった水の資源がある。

 しかも、その上、そうした水の資源のデータも蓄積をされてきている。だから、ここらで、全国どこもやっていない水ということをいち早く旗として掲げてみたらどうか、そういうイマジネーションを働かせてみたらどうか」

というご提案を受けました。

 振り返ってみると、環境保全型の農業というのも、これからの時代、農業はやはり環境保全型じゃないかなというイマジネーションから、窪川に環境保全型の畑作振興センターを立ち上げました。

 そして、色んな努力を積み重ねる中で、マルハナバチを使った受粉、また、天敵を活かした害虫退治といったようなIPM(※注2)の技術を普及をしてきました。

 それに土佐町にできた土佐自然塾といったものの開校等があいまって、今、環境保全型の農業のトップランナーを目指すということが言えるまでになりました。

 同じように、水ものという言葉があるように、水は科学的な知見の解明がまだ十分なされてはいません。

 けれども、だからこそ、また、どこの県も手を上げていない、だからこそ、この水というものを地域資源と結び付けて大きな旗にしていくといったようなイマジネーションが今、求められているのではないかと思います。

 「宮崎県には絶対に負けない」と大見得を切ったおもてなしも同じことだと思います。

 観光部だけが考えるものでもないし、観光業界の人だけがおもてなしを意識し考えるものでもありません。

 皆が一人一人、「おもてなしってこんなことをするんじゃないかな」、「こんなことをやってみたらどうかな」というイマジネーションをふくらまし、広げるところから始まっていくのではないかということを思います。

 先ほども言いました様に、アウトソーシングもそうです。また、市町村との垣根を取り払うということもそうです。

 従来の仕事の発想、延長線上では、新たなものは出てきません。是非、イマジネーション、想像力を働かせて、新しい一歩を踏み出して欲しいと思うんです。

 昨日、新採の職員の入庁式の時に、僕が知事になった時、多分、小学校1年生ぐらいであっただろう、その若い職員の皆さん方に「田舎の小役人になるな」というメッセージを伝えました。

 実は、大変失礼ながら、このメッセージは、皆さん方にも通じることだと思います。「何を言うか、コノヤロー」と、憤りを感じる人は、是非その憤りを仕事のパッションにぶつけてもらいたいと思います。

 けれども、県の職員が従来の仕事の考え方から抜け切らずに、田舎の小役人になってしまったら、そして、今言ったようなイマジネーション、想像力というものを発揮しなければ、これからの自治体間の競争の中で高知県は多分、埋没をしていくでしょうし、また、国との色んな戦い、やりあいの中でも負けていってしまうのではないかと思います。

 攻撃は最大の防御という言葉があります。そうならないため、つまり、埋没をしない、敗北をしないために、イマジネーションを発揮をして、どんどん全国に情報発信をしていきましょう。

 そして、とても美しい国とは言えないこの国の今のやり方に対して、また、様々な不合理なことに対して、
「おんしゃら、なめちゃあせんか。わやにすな」という気概をもって、この1年間、一緒に頑張っていきたいと思います。

 ということで、話を終わります。ありがとうございました。


※注1 fail safe:なんらかの装置、システムにおいて、誤操作、誤動作による障害が発生した場合、常に安全側に制御すること。

※注2 Integrated Pest Management:耕種的、生物的、化学的、物理的な防除法をうまく組合わせ、経済的被害を生じるレベル以下に害虫個体群を減少させ、かつその低いレベルを持続させるための害虫個体群管理のシステム

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