東南海・南海地震に備える沿岸4県シンポジウム-地震津波防災と「命の道」高速道路-

公開日 2007年12月08日

更新日 2014年03月16日

東南海・南海地震に備える沿岸4県シンポジウム-地震津波防災と「命の道」高速道路-

平成15年7月14日(月曜日)13時 00分から15時 30分(東京都 都市センターホテル)

主催:三重県、和歌山県、徳島県、高知県


基調講演
 『東南海・南海地震と社会基盤』 土岐憲三立命館大学教授(中央防災会議専門調査会座長)
                  
パネルディスカッション  
 コーディネーター 山崎 登  (NHK解説委員) 
   パネリスト     中村英夫 (武蔵工業大学教授)
             白石真澄 (東洋大学助教授)
             佐藤信秋 (国土交通省道路局長)
            野呂昭彦 (三重県知事)
            木村良樹 (和歌山県知事)
            飯泉嘉門 (徳島県知事)
            橋本大二郎(高知県知事)
 アドバイザー    土岐憲三  (立命館大学教授)
      
共同記者会見(アピール)          
 


【司会】
 皆様、大変お待たせいたしました。
 ただいまより「東南海・南海地震に備える沿岸4県シンポジウム-地震津波防災と『命の道』高速道路-」を開会いたします。
 申し遅れましたが、本日の司会進行を務めさせていただきます、門脇昌子と申します。よろしくお願いいたします。(拍手)
 まず初めに、主催者を代表いたしまして、木村良樹和歌山県知事よりごあいさつ申し上げます。
 

【木村和歌山県知事】
 本日、東南海・南海地震に関係のある、起こると大変被害が及ぶであろう関係4県がそろってシンポジウムを開催することになりました。お忙しい中、皆様方にお集まりいただきまして、議員の方、市町村長、たくさんお集まりでございますけれども、心からお礼を申し上げる次第でございます。

 このシンポジウムは、「東南海・南海地震に備える」ということでございますけれども、ご案内のように、去年の7月に「東南海・南海地震対策特別措置法」が成立いたしました。これは発案されてから大体2カ月でできた画期的な法律なわけでございますけれども、その法律がこの7月には施行されるということでございます。

 それから今年の4月には、東南海・南海地震の被害想定が出ました。これは驚くべき内容でございまして、全壊する家が大体63万戸、そのうちの半数弱が本日参加している4県で担うという言い方がいいのかどうかわかりませんけれども、4県でそうなってくるということ。それから全体で2万人ぐらいの方が亡くなるというように想定されたのですが、そのうちの1万7,000人、約8割の方がこの4県で亡くなるというふうな想定、大変ショッキングな結果でございます。

 この4県は地形的によく似ておりまして、山が海に迫っていて複雑な海岸線を持っている。そういうところに点在しながら人が住んでいるということで、前回の東南海・南海地震でも津波による大変大きな被害を受けたわけでございます。

  そういう中で、私どもは、この法律を契機といたしまして、いろいろな防災対策を考えているわけでございますけれども、実はこういうデフレの大変厳しい経済情勢の中で、本当に効率的な人の命を救える対策というのは何かということを見極めていかなければならないという気持ちでおるわけでございます。ソフトの事業も大事です。そして、ハードの事業も大事です。

 そして、我々の県には国道が海岸沿いの低いところに1本だけ走っているという状況も同じで、大きな地震が起こったときに、これが分断されてしまうと、手の打ちようがなくなるというような状態も非常によく似ているわけでございます。

 きょうのシンポジウムにはいろいろな話が出ると思いますけれども、このシンポジウムを契機として、昔、手前みそになりますが、和歌山県で浜口梧陵という偉い方がおられて、これは地主の方なんですけれども、津波が来るというときに、自分の稲を、乾いたのを燃やして、それで「ああ、庄屋さんの家のところで燃えている。

 何かあったんだろう」ということで皆が応援に来て、それで津波から逃れたという、これは戦前の国定教科書には載っていたという話なんですけれども、このシンポジウム、いろいろ内容豊かなものになると思いますので、それが現代の稲むらの火というようなことのきっかけになるようなシンポジウムになればと祈念している次第でございます。

 皆様方、お忙しいと思いますけれども、最後までご清聴いただければ本当にありがたいと思います。きょうはどうもありがとうございました。(拍手)
 

【司会】
 ありがとうございました。
 続きまして、本日、ご来場いただきましたご来賓の方々を代表いたしまして、国土交通省大臣政務官 鶴保庸介様よりごあいさつを頂戴いたします。
 鶴保様、よろしくお願いいたします。
 

【鶴保政務官】
 本日、東南海・南海地震に備える沿岸4県のシンポジウムがこのように盛大に開催されますことを、心よりお祝いを申し上げたいと思います。
 今朝ほどもご挨拶をさせていただきましたが、近畿自動車道紀勢線の促進協議会でもやはり高速道路の促進には欠かせない視点として、来るであろう災害に備えるという視点は忘れてはならないことであろうと思います。

 昨年、あるいは一昨年来、今後30年の間に40%の確率で東南海・南海大地震がやってくる。こう言っておりましたけれども、もう1年経ちましたから、29年の間に40%以上の確率で来るというぐらいの、刻々と危機感を募らせているところでございます。

 中央防災会議におきましても、とりわけ津波による被害が大きいと報告されておりまして、沿岸を通る緊急輸送道路の寸断によって、沿岸市町村の孤立が懸念されているところでございます。先ほど木村知事からもお話がございましたが、主となります沿岸地域は山がちでございまして、その孤立に関する危機感というのは非常なものがあろうかというように我が省としても認識しているところでございます。

 最近におきましては、本年3月17日の落石災害によりまして、徳島県と高知県を結ぶ幹線であります国道32号線が通行止めとなった際、並行する徳島自動車道及び高知自動車道を迂回路として通行する3,700台の車両に対し無料通行措置を行って、地域交通の途絶を回避することなど生命線機能を確保するよう努力をしてまいりました。

 しかしながら、これは今朝ほども申し上げましたが、高速道路の整備供用区間というのはまだ全体の6割、7,233キロに留まっておりまして、まだまだ整備途上であると認識しております。今後も、皆様には、道路整備をはじめ高速道路の整備につきましては、多大なるご協力、ご支援のほどよろしくお願いいたしたいと思います。

 災害におきましては、災害が来てから道路の整備、あるいはインフラの整備というものがあってはならない。すぐにすべてをしなければならないというぐらいの危機感を持ってせねばならんというように考えております。

 整備が遅れて、あのとき整備をしていたらよかったと後悔することのないよう、我が省としても全力を挙げて、この視点をもって頑張っていきたいと思いますので、今後ともご指導のほどよろしくお願い申し上げ、一言、お祝いのご挨拶に代えさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
 

【司会】
 鶴保様、 ありがとうございました。
 続きまして、本日ご臨席賜りましたご来賓の方々を受け付けされた順番にご紹介させていただきます。
 なお、時間の都合で一部のご来賓のみのご紹介とさせていただきます。ご了承ください。
 まず、衆議院議員 西博義様。(拍手)
 そのほか代理の方々にも多数ご出席いただいております。

 続きまして、ただいまごあいさつをいただきました国土交通省大臣政務官 鶴保庸介様。(拍手)
 国土交通省道路局高速国道課長 横田耕治様。(拍手)
 内閣府政策統括官付参事官 入澤宏様。(拍手)
 日本道路公団高速道路部長 田中裕治様。(拍手)
 そのほか、幹部の方々にも多数ご出席いただいております。また、多数の祝電も頂戴しております。ありがとうございました。

 さて、ここで本日のプログラムをご紹介させていただきます。
 この後すぐ、立命館大学教授の土岐憲三さんを講師にお迎えして、基調講演をいただきます。土岐さんは、地震工学・自然災害科学を専門に研究なさっていて、中央防災会議専門調査会の座長も務めていらっしゃいます。

 本日は、「東南海・南海地震と社会基盤」をテーマに、地震の発生から地震動や津波の予測、さらには地震による被害の予測までを中心にご講演いただきます。

 休憩を挟みまして、第2部はコーディネータ、ゲストパネリスト、さらには三重県・和歌山県・徳島県・高知県、4県の知事をお迎えして、「地震津波防災」や「『命の道』高速道路」をテーマに4県の実情を踏まえてのパネルディスカッションを行います。

 閉会は3時ごろを予定しております。
  皆様、最後までごゆっくりとご聴講ください。
 それでは、早速、立命館大学教授 土岐憲三さんをお迎えして、「東南海・南海地震と社会基盤」をテーマにご講演いただきます。
 土岐さん、よろしくお願いいたします。
 皆様、どうぞ拍手でお迎えください。(拍手)


【土岐】
 ご紹介いただきました土岐でございます。時間も限られておりますので、早速、本題に入らせていただきます。

 日本で地震を起こす元凶というのは、ここにありますような日本海溝、それから南海トラフ、ここに潜り込んでいるプレートであるということは、皆様方、よくご承知であろうと思いますので、それは申しませんが、きょうの主題であります、南海トラフ沿いの地震というのは、ここに東海地震、南海道、それから南海地震という3つの巣があるわけであり、これが繰り返し繰り返し地震を起こしているわけでございます。

 それからいま一つ、ここに中部山岳地帯と近畿地方に内陸の活断層というのがございますが、きょうは主題でございませんので、この話はいたしませんが、先ほど申しました3つの南海トラフの地震というのが歴史的にも何回も活動しているわけでございますが、特に1707年の宝永の地震というのは西日本全域に被害を生ぜしめたような大災害になっており、この赤いところが震度6以上ということであります。

 先般の神戸の地震の場合でも震度6ということになりますと、大変大きな被害が生じたところであり、いかに巨大な災害を引き起こした地震であったかということがわかります。

 その後、1854年には、安政の時代でありますが、東海地震と南海地震が2回、実は32時間という時間差を持って起こっておりますが、先ほどの宝永の地震よりは、2つ合わせても被害の範囲は少し狭いかなということであり、中にはご記憶をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、昭和の東南海・南海地震はさらにマグニチュードが、先ほどのものはいずれも8.4でございます。

 この前も8.4でございますが、昭和のものは少し小さいというわけであり、エネルギー的に見ても半分ぐらいでしかないということであって、まだエネルギーを吐き切っていないというところが実は問題であります。

 こういったような東海地震、東南海地震が歴史的にどの時代に動いてきたかというのをこの絵が一目でわかるように示してくれておりますが、この絵を見ましても、この緑の色というのは動いたかどうかはっきりしないというところでございます。

 この絵だけでも南海地震というのは常に動いていたように見えますが、つい1週間ほど前でしょうか、札幌で開かれております地球物理関係の国際会議でこれがどうやら動いたらしいということが発表されました。津波のときに運ばれてきた土の成分を分析して、どうやらこれは間違いないということになったそうでありまして、こうやって見ますと、南海地震というのは常に動いている。

 今、どうやら東海地震ということがやかましく言われているわけでありまして、ともすると東海地震が起こって、しかる後に東南海・南海というふうに誤解があるように私は思います。決してそうではございませんで、むしろ一言で言うならば、南海地震は常に動くということであり、決して東海地震が先ということではなかろうと思います。

 私が言っています後先というのは、1年、2年というのは、人間にすれば一、二年ですが、地震から見れば、そんなものは目じゃないですから、一緒にというように考えたほうがいいのかもしれません。

 東海地方の東海地震と東南海・南海地震の扱いが少しばかり国において違うわけですが、これは言うなれば、よって来るところは歴史的な経緯がありまして、今から30年ほど前に地震学者が東海地方で地震が起こるかもしれないと発表し、これをきっかけにして地震予知ということが国家事業として取り組まれ始めたわけであり、その後しばらくして、25年ほど前になりましょうか、こういう法律が制定されたということがずっと神戸の地震まで続いてきたわけであります。

 ところが、神戸の地震でもって東海地震だけ見ていたのではまずいのではないかという反省が至るところに起こり、その後、それではということで南関東と中部近畿圏を見直しましょうということに至ったわけであります。

  その流れとして、先ほど木村知事さんからお話がありましたような、東南海・南海地震にかかわる地震防災対策の推進に係る云々ということで昨年制定されて、今月末施行予定であります。これが整いますと、ごらんのように、東海地震、あるいは東海地方と同じ並びになるということです。

 ただ、少し性格が違うところがございまして、上が東海地震で、こちらが東南海・南海地震ですが、よくご覧いただきますと、「大規模地震対策」となっています。こちらは「地震防災対策」であります。「防災」という言葉が入っています。

 ここが性格の違うところでして、こちらはここにありますように、地震予知を前提としてやってきたわけですが、今、地震予知というのは必ずしも技術的に完成されたものではないということで、東南海・南海地震のような場合にも、地震予知がされる前に突然来るかもしれない。

 そのためには防災ということにちゃんと意を尽くさなければいけないというところから「防災」という言葉が入っているわけでして、予知をずっと待っているわけにはいかない。そこが大きな違いでして、予知がもし行われるようになれば、こちらに移行すればよいわけです。

  そういうことで、こちらのほうも当初は予知が行われた場合ということをすべて前提にしておりましたが、その後法律を手直しして、地震予知が行われなかった場合にもこうだというふうに考え方を少し改めております。言うなれば、地震予知がされないままに、それこそ明日来てもいいように備えをしましょうということが、国としても姿勢が表されているというように理解していただければいいのではないかと思います。

 そういう対策をするために、内閣のもとにこういう専門調査会が平成13年10月からできており、昨年の12月24日、それと今年の4月17日だったと思いますが、中間報告のような形で被害想定を出しております。まもなく最終報告を出す予定で作業を進めております。

 この調査会では、南海トラフの地震のみならず、先ほど今日は話さないと申しましたが、この内陸の地震というのが今度は京阪神地方にとっても大変大きな影響を持つということで、これも検討を進めているところでございます。

 この検討調査会が現在対象としていますのは、冒頭でお見せしましたような東海地震、東南海・南海地震、この3つの地震の組み合わせが5通りあります。実際考えれば6つ出てくるわけでありますが、そのうちの5つを考えて、最も大きなものを対象にしておこうということが、一言で言えばそういうことであります。残りの3つの枠がありますように、もう少し細かい検討もしておりますが、そのところは今日は省かせていただきます。

 その5つの可能性というのは何かと申しますと、ここにあります先ほど申しました3つでして、1つは、先ほどの宝永の地震のように、いわば3連発であり、3つが同時に動く。一番怖いケースですが、これ。

 それからこの2つ、この2つ、それから1、2、3と、合計6つあるはずなのですが、東海地震につきましては、先ほど申し上げましたように、別途先に走っておりまして、答えが出ておりますので、残りの5つの組み合わせをやろうということで、検討調査会でこれを調べているわけで、そういう意味では、私どもがやっております検討会での主たるターゲットでございます。

 地震動がどういうふうになるか。あるいは津波がどのくらいの高さになるか。さらには被害がどの程度になるかというようなことをはじくためには、揺れ方がどうだということを知ることが第一なのですが、これにつきましては、現在、私どもの手にし得ることのできる技術的な、あるいは学問的な見地から最も先端的なものを利用して進めております。

 その中身については、時間もありませんので省略いたしますが、手法としましては、ここにありますように、宝永、安政、それから昭和の5つの地震の被害の震度を過去にさかのぼって、大体見当がつきますので、それを全部重ね合わせてしまいます。したがって、過去五、六百年の間に起こった地震を考えれば、これより大きな地震は多分ないと。

 その地震を再現するには、どこに断層を設定すればいいのかということでありますが、そういうことを調べてまいりますと、このあたりに断層を設定するべきであるということになります。

 これが南海トラフであり、南海トラフのすぐ内側に断層があるということであり、これが3連発になった場合の揺れであり、赤く茶色に見えるのが6強でありまして、黄色いところが震度6弱。ですから黄色になれば、もはやこれは災害を免れないというふうにお考えいただくほうがよいかと思います。赤いところは大変強い揺れになるということであります。

 東海地震の場合には赤いところが大変多くございますが、これは実は断層といいましても、断層の中のさらにエネルギーを吐き出すところがこういう濃い色を出したところが続けてあるわけですが、アスピリティーと申しますが、それが東海地震の場合には陸上にかかっております。幸いなことに東南海・南海の場合には、それが陸地から少し離れたところにあります。東海地方よりは揺れが少しは軽くて済むかという原因がそこにあるわけでございます。

 先ほど申しましたように、今度は東海を外して東南海・南海の地震によってどういう揺れ方になるかというときには、これを外して、このアスピリティーからどんなエネルギーが出るかということを調べればよいわけでして、これが昨年の12月24日に公表いたしました東南海・南海地震による震度の分布でございます。先ほど申しましたように黄色から茶色、この辺のところは相当な被害を覚悟せざるを得ないという地域でございます。

 もう少しクローズアップしてみますと、三重県の場合でしたら、志摩半島、さらには、ところどころには震度7を超えるようなものが散見されます。大変うれしくないことではありますが、あるいは櫛田川でしたか、その辺の流域沿岸、それから和歌山に目を転じますと、白浜から田辺、あるいは串本といったあたりが随分揺れそうだということです。

 もちろんこういう絵を描くときには、距離だけではなくて、地形、地質、その他も克明に調べ上げて、そういうデータに基づいて検討しているわけでございます。一つ一つを1キロメートルのメッシュで書いております。

 徳島県でしたら阿南方面、あるいは高知県なら高知市からさらに南西方向にずっと被害が起きそうなところが広がって出てまいります。ちなみに、これは関西地方で内陸の地震が恐れられているわけですが、あるいは高槻ということになりますと、このぐらいのエリアが似たような被害域になろうということであります。

 これも先ほど木村知事さんからお話がございましたが、私どもの検討会で出した数字であり、非常に不都合な状況になれば、60万棟ぐらいは被害を受けるかもしれないと思っておりますが、この数字をこういうように公表いたしますと、数字だけが勝手にひとり歩きしてしまいますが、決してこの数字というのはそれほど信頼度の高いものではございません。

 先ほど申しましたように、土地の揺れがどうなるか。これはかなり信じていただいても結構ですし、また、津波がどのくらいの高さになるか、これもそれほど怪しいものではございませんが、被害となりますと、状況によって随分変わります。建物と言いましても千差万別でありますから、克明に調べてはおりますが、なかなか確たるところではございませんので、ひょっとしたらこれは何割か多くなるかもしれませんし、幸いにも半分で済むかもしれない。

 そういうぐらいのものだとお考えいただいたほうがよろしいかと思います。人命にしましても、神戸の地震の場合の2倍から3倍というのが現在の大まかな数字でございますが、これも多いほうにも少ないほうにも動き得るというようにお考えいただかなければいけないと思っております。

 では、被害の様相というのはどうだろうかということに相なりますが、時間が余りありませんので、これを細かく申し上げるわけにはいきませんが、建物や交通、ライフライン、こういったものの被害については、あまり昔のことを言っても、世の中が変わっていますから参考にならないとして、先年の神戸の地震のときにいろいろなことを経験していますから、多少のことはその延長上で考えられますが、一つ違うのは津波の問題であり、津波だけは神戸のときに経験しておりません。それが一つの大きな眼目であります。

 では、阪神・淡路の大震災とどこが違うだろうか。これは皆さん方のメモリに入っているわけでして、それとここはどこが違う。そのポイントは、事細かく言い出せば切りがありませんが、大きく言えば、どこが違うか。要するにこれは都市直下の大地震であり、時間もたかだか10秒間で破壊が終わっております。10秒間です。

 ところが、今度の場合はそうはいきません。大体150キロぐらいありますから、断層が壊れる速さは1秒間に3キロぐらいでございます。ですから150キロあれば50秒間かかるわけです。

 そのぐらい時間がかかって断層の破壊がなされますから、おまけに海の中で遠いところからやってきますから、短いガタガタっとしたような振動はだんだん減ってきて、ゆさゆさと揺れるような成分が多く残ってまいります。そういうところが違います。もちろんエリアがこちらの場合はとてつもなく広いということは、先ほどの絵からもごらんいただけたことではなかろうかと思います。

 それで、私どもが一番気がかりなことは、実はここにある時間差の問題でして、東南海地震と南海地震が同時に用意ドンと、あるいは続けて一気に起こってくれればよいのですが、これは必ずしもそうではなくて、別々に起こる可能性がございます。昭和の東南海地震と南海地震は2年ずれて起こりました。それから安政の地震の場合には32時間ずれました。

 先ほど申しました、つい1週間ほど前に明らかになった1498年の地震は、これは2カ月あいて起こったということです。時間があくということは、最初の地震で傷めつけられて壊れかかっているような家とか、そういうものにもう1回同じような地震がくるわけですから、これはひとたまりもないということであります。

 あるいは災害の復旧だとか、救援だとか、そういうことをいろいろな人がたくさん集まってきてやるわけですから、そこに再び二度目の地震が、ひょっとしたら前より大きいかもしれない地震がやってくるわけですから、これに対してどう対処すればいいのか。

 これは実は私どもにも経験のないところであり、果たしてどんな問題が起こるのか。これは想像をたくましくして、それこそ洞察力を発揮してどうするんだと。好まざることであっても、避けては通れない、考えていかなければならない大きなテーマだと思っております。

 もう少し丁寧に見てまいりますと、例えば道路の場合でしたら、神戸が中心でしたから、いろいろなネットワークが入り組んでいたわけですが、今度の場合には、主要な道路というのはいずれも海岸沿いに走っているわけであり、1カ所切れたら、もうそこから先は通れない。

 あるいは下手すると両側でブロックされて真ん中が孤立してしまうということがあります。あるいは鉄道の場合も、神戸でしたら、JRがあり、阪神があり、阪急がありましたが、今度はJRしか多分ない。

 あるいは港湾の場合でも、神戸は日本を代表する国際貿易港でしたし、非常に丈夫な耐震岸壁などというものもありました。あらかたやられましたけれども、こういうところもありました。しかし、今度はそうはいかないでしょうということがありまして、被害の様相というのも相当違うかもしれません。

 ここから先は、今日は地元の方も随分いらっしゃるようなので釈迦に説法かもしれませんので、余り細かいことは申しませんが、例えば和歌山を取り出しますと、先ほど申しましたように、白浜とか田辺あたりで強く揺れそうでありますが、ちょうどここです。

 そうすると、42号線のここから先はだめ。山間部はまずいろいろなところで、がけ崩れなどで通れない。こちらの三重のほうからも来れないとなると、42号線の南紀のあたりはほとんどのところが孤立してしまうのではないかという心配があります。

 そんなことは過去に事例が幾らもあるわけでして、海岸沿いの道路というのはご覧のとおりです。これは神戸の例ですが、大規模な地滑りもございましたし、あるいは割合最近ですが、こういう地震のときに直撃を受けるというようなこともありました。こういう例は枚挙にいとまがないわけでして、あるいは、これは航空写真ですが、ここのところが滑ってしまって通れないというようなことがありました。

 これは地震ではございませんが、鹿児島の水害の事例であります。これはJRの駅に危険だというので列車を止めて避難していたところ、駅の両側で地滑りがあって通れなくなってしまったということで陸伝いには避難できなくなって、結局、翌日でしたか、海から六百何十人の人々が脱出せざるを得なかったということがございましたが、こういうことが至るところで起こるのではないか。

 これに対してどうするんだということをあらかじめ備えておくべきではなかろうかということでして、これはごらんのような被害状況であります。要するに幅員が8メートル、10メートル以下のものであれば、通れないところが非常に多くなるということであります。

 神戸の場合には、主として倒れた家、そういうものによって通れなかったわけですが、今ここで問題になっておりますような海岸沿いの道路というようなことになりますと、これに加えて、こういうところでも道路の脇に家がありますから、崖崩れというようなものが出てまいりますから、これより条件が悪いのかもしれないというように思います。

 それから目を転じて、今度は津波の問題ですが、これも津波の後、船が陸上に乗り上げるということがありました。この当時より今はもっと船の数も多いでしょうから、果たしてどんなことになるのか。

 あるいは津波ですから、津波の後に火事が起こるなんてちょっと信じられないんですが、ずぶぬれになったところで何で火事だということですが、現実にこういう火災も起きているわけでして、決して水が通った後だからということで油断はならないですし、一旦入った水は、今度は外へ抜けないということも大問題であります。あるいは鉄道も、これは築堤ごと津波でさらわれてしまったというようなこともありました。

 津波につきましても、津波の高さがどのくらいになるかという予測をしておりますが、これも地震の揺れと同じように、過去の津波の高さを全部痕跡を調べまして、全部重ね合わせて一番高いところを塗って、この津波の高さを再現させるためには、それぞれの地震の断層のそれぞれのところでどれだけ動かせばいいか。

 そうしますと、一番左のところですと8メートル、ここですと10メートル、ここは4メートルほどずらさなければ、先ほどの被害が説明できないということで、そのようにしてずれる量を確定しておいて、そしてこれを再びずらして、今度は克明に、先ほどのは非常に簡単な推定法ですが、ここから先は現在の最も進んだ手法でもって、最終的には50メートルぐらいの細かいメッシュによって津波がどのくらいの高さまで上がるかということをはじいているわけでして、赤い色がついているところは5メートル以上の津波が襲ってくるでしょうということでございます。

 さらに、これは平均でありますが、満潮になりますと、これにあと何メートルか、その場所によって違うと思いますが、加えなければならないということであります。

 どの辺がどんなような大きさかと申しますと、全域を書いていなくて申し訳ございませんが、この一番上が12メートルの高さでございます。12メートルに達しているのは土佐湾、不幸なことではありますが、橋本知事にとってはうれしくない話なんでしょうが、土佐湾の全域がほとんどこんな高さですね。果たしてこれをどうやってしのいでいくのかということでございます。

 そういう津波が一体いつ来るかということであり、最大になる時間でありますが、赤いところは10分、20分で来るのですが、これもまた土佐湾で恐縮ですが、この辺になりますと、室戸岬のすぐ内側になりますと、2時間も遅れてくるわけです。

 一番強い高い波です。これは非常に危険なことであり、その前にいろいろなレベルの高さの波が来ているわけですから、それが一度引いて、ああ、もう安心だと思う人も無きにしもあらずであり、この後に来るわけですから、これは非常に危険な現象であり、決して気を緩めてはならないということです。これはほかの地震の例ですが、高さが10メートルにもなりますと、1割、2割の方々が人命を失うということであり、非常に恐ろしいことであります。

 どうやら与えられた時間がまいりましたので終わりにいたしますが、最後に、いかに津波に対して心構えが多くの人がしていないか。多分、災害の問題はこのことだけではなく、危険なことは人間だれも余り考えたくないのです。

 だからついつい避けて通る。そこがここにもあるわけでして、これは消防庁が調べたものですが、念頭になかったという人が5割いるのです。念頭にない、念頭にあったけれども、自分は大丈夫だろうと勝手に決め込むんですね。これを合わせると8割超えてしまうわけです。まじめに考えている人は14%しかない。これは非常に危険なことです。

 飛ばしましたが、他の前の地震のときでも同じことでして、奥尻島のように、かつて津波を経験した人、これが経験した人なのですね。そうすると、揺れがおさまらないうちに逃げた、あるいは津波が来ないうちに避難したという人がこれだけ増えるわけです。

 ところが、津波を経験していない人になると、途端にこれだけ減ってしまうわけです。ですから、いかに、経験したか、していないかということが大きな分かれ目でありますが、今回の南海道の津波については、多くの人が自分の体験としてはあまり記憶していないわけですね。

 ところが、記憶していてもまだまずいということがあり、これはごく最近の話ですが、130件にアンケートして、避難した人は数件でしかないのです。おまけに80年三陸沖の津波というのは何万人という人命が失われたわけですが、ほとんどの人は記憶がない。記憶がないということは考えないということなのです。

 頭でだれかに教えられても、「それは大変なことだね」と言うだけで、自分の実感としては持ちたがらない。持たないのではなく、持ちたがらないのです。そこのところが問題です。だから、いかにしてそういう人たちにそうではないのだと、一人一人、自分の命の問題だというように吹き込むか、そこがポイントだと思います。

 それと、もう一つは、これは最近の技術の進展の結果が裏目に出たわけですが、ちょっとした地震がありましても「津波の心配なし」「津波の可能性があるから注意してください」というものがテレビに流れます。このときにはちょっとした手違いで警報が出なかったのです。

 出なかったことを勝手に解釈して「これは問題ないのだ」というように解釈して見に行った人すらいるというわけです。実は12分後に出たのですが、もしもっと地震が浅くて津波が起こったとすれば、この警報が出るより前に津波が来ていたはずなのです。

 ということは、見に行った人はさらわれていたはずです。このように思わざる危険性というのが我々の気づかないところに潜んでいるわけでして、こういうところを一つひとつ多くの方々にご理解いただくように努力しなければいけないというように思っております。以上でございます。(拍手)
 

【司会】
 土岐さん、どうもありがとうございました。皆様、もう一度大きな拍手をお願いいたします。どうもありがとうございました。(拍手)
 それでは、ここで5分間の休憩を挟みまして、引き続きパネルディスカッションを始めさせていただきます。 
 なお、お化粧室は、皆様の後方扉を出られまして、右手奥にございます。
 開演前になりましたら、お早めにお席にお戻りくださいますよう、お願い申し上げます。
 


【司会】
 皆様、大変お待たせいたしました。ここからは、進行役にNHK解説委員の山崎登さんをお迎えしまして、「地震津波防災」や「『命の道』高速道路」をテーマに、パネリストの方々とパネルディスカッションを展開していただきます。
 それでは、パネリストの皆様にご登壇いただきます。

 先ほど基調講演をいただきました、土岐憲三さんにはアドバイザーとしてご参加いただきます。(拍手)
 続きまして、武蔵工業大学教授の中村英夫さんです。(拍手)
 東洋大学助教授の白石真澄さんです。(拍手)
 三重県 野呂昭彦知事。(拍手)
 和歌山県 木村良樹知事。(拍手)
 徳島県 飯泉嘉門知事。(拍手)
 高知県 橋本大二郎知事。(拍手)

 なお、国土交通省道路局長 佐藤信秋さんは、国会の関係で後ほどお見えになります。
 最後に、コーディネーターとして進行役をお願いします、NHK解説委員の山崎登さんです。
 それでは、ここからの進行は山崎さんにお願いいたします。
 山崎さん、よろしくお願いいたします。
 

【山崎】
 今ご紹介をいただきました、NHKで解説委員をしております山崎と申します。私の担当は「自然災害と防災」ということで、東南海・南海地震、それから東海地震の対策にもここ十数年取材活動してまいりました。きょうはコーディネーター役を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。

 では、早速、始めたいと思いますが、先ほどの土岐先生の基調講演の中にもありましたけれども、防災という観点から見ても、社会資本をどう整備していくのかというのは大変に大きなテーマだというように思います。

 この東南海・南海地震というのは、法律ができて社会的な関心が急に盛り上がってきたといいますか、関心が最近になって高くなってまいりました。ということは、これから乗り越えていかなくてはいけない課題が山積しているということになるんだろうというように思います。

  きょうは、まずソフト、ハードの両面からこの地震に対する備えをこれからどうしていけばいいのかというあたりから話を進めていきたいと思うのですが、沿岸の4県の知事がおそろいになって、今日は画期的なシンポジウムということになるのだろうと思いますが、まず、新たに知事になられたお二人から口火を切っていただこうと思います。

 知事になられて、地震に備えるための対策を今どのように考えておられるのかというあたりから、まず、三重県の野呂さんからお願いします。
 

【野呂】
 三重の野呂でございます。私はまだこの4月21日に知事に就任したばかりでありますけれども、地震等につきまして、大変気になりましたのは、去年の4月に三重県も18市町村が強化地域に指定されているところでありますし、東南海・南海地震につきましても措置法ができ、そういう意味では甚大な被害が想定されるということから、三重県においては県民の関心が非常に高まっているというところでございます。したがいまして、これにどう対応していくのかというのは、県政にとって最重要課題の一つだと、こういうふうに認識いたしてきたところでございます。

 それで、実は昨年から三重県ではいろいろな準備を重ねてきておりまして、この3月には三重の地震対策アクションプログラムというのを作っているわけでございます。これは4つのテーマの中で12の柱を設けまして、その中で、50のアクションプログラムを持っております。

 そして具体的には355に渡るいろいろな事業を展開していこうということでありますけれども、特に特徴としては、ハード、ソフト両面の対策が必要でございますけれども、まずは避けられない地震等につきましては、できるだけ被害を減じるという立場から、まず自助、それから共助、公助、こういった中でそれぞれの役割分担をしっかりしていこうと、こういうことが一つございます。

 それからもう一つは、自分で自分を守るという自助の立場、あるいは地域が一体となって地域全体でそれに備えていこうという共助、こういったところに重点を置きまして、それで共同でこの防災社会をつくっていこう。そのための人づくりとか、あるいはまちづくりを進めていこう、こういうことにあるわけでございます。

 そして、具体的な取り組みですけれども、一つは津波シミュレーションに着手しているところでございまして、この中では避難場所とか避難路の点検、それから三重県では海岸部を有する市町村が34市町村ございます。

 そこで住民参加型の検討会、ワークショップ等を持ちまして、市町村の津波の避難計画であるとか、あるいは迅速な避難を促すための避難誘導標識の設置、こういったことを進めていこうとしているところでございます。

 それから先ほど土岐先生のお話にもございましたけれども、なかなか津波の恐ろしさというのが本当に認識されていないというようなことがございますので、三次元のコンピューターグラフィックスを用いまして、津波襲来につきまして、コンピューターグラフィックスの表現で実感して、その恐ろしさがわかるようにしていこうということでございます。

 それからもう一つ申し上げますと、産・学・官・民、共同によりまして、「防災事業推進委員会」というのを設立いたしました。これで検討を加えまして、市町村の防災力の診断とか、あるいは防災の啓発の人材育成のための人材バンク等を構築していこう、あるいは指導者の育成を行いますところの防災教育センターの設置をやってこう、こういうことも考えているところでございます。

 それから観光客とか、あるいは災害時に要援護者の避難をどうしていくのか、こういう避難所の設営のマニュアルや、避難所のネットワーク化など、いろいろな細かい点についても今事業を進めていこうとしているところでございます。今、三重県ではそのような中で着実に進めていこうと考えております。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 それでは、続いて徳島県の飯泉知事、お願いします。
 

【飯泉】
 徳島の飯泉でございます。よろしくお願いいたします。
 先般、会場にも配られていると思いますが、今日のパンフレットを開いていただきましたその見開きの一番右側のところでございますが、中央防災会議のほうから東南海・南海地震による被害想定が出されております。

 この中の想定の死者数というところに徳島の部分があるわけでございますが、この3つの原因によって生じる被害者、死者数というものは、足しますと1,400名に最大限上ると。しかも、その中でちょうど赤字で書いてございますが、津波で1,000名ということでございます。

 行政を預かる立場としては、確かに専門家の皆さんが出された被害想定でございますので、時にはこれを前提にしてということになるわけでございますが、これについては当然ゼロを目指すべきだということで、この1年から2年にかけまして、さまざまなシミュレーションを行いながら、ハード、ソフト両面から対策をとりまして、今、徳島ゼロ作戦ということで、東南海・南海地震、この対応に万全を期していきたいと、このように考えております。

 そこで今、野呂知事からも津波のシミュレーションのお話がございましたが、徳島県といたしましても、津波の浸水予測の調査、さらには地震動によります被害想定、これらを今取りかかっておりまして、これをもとにいたしまして地域防災計画、この見直しを早期に図っていこう。そしてこの計画のもと、まず、ハードといたしましては、今年度中に消防学校防災センター、消防学校と防災センターを合築でつくるものでございますが、これを完成させたい。

 そして従来ですと、そういったものというのは災害時の想定だけということであったわけですが、やはり平時からこれを使いこなす。また、県民の皆様に、まさに地震というものが大変怖いものである、そしてすぐに対応しなければいけないのだということをわかっていただくために、平時におきましては、消防学校としての訓練と同時に県民の皆様に対する災害、特に地震を中心とする災害の啓発、ここで学んでいただこう。

 そしていざというときになりますれば、ここが一遍に本県の災害の拠点になる中核拠点にしていくんだと。平時、そして災害時ともに使っていく。そういう拠点を整備したいということで進めております。

 またさらに、1,000人の津波の被害と。これは1946年にも南海の地震があったわけでございますが、本県は津波でやられております。そういう意味では、まさに県南部の海岸域、ここに対して津波被害にすぐに対応できるように、しかし、地震の発生から津波が届くまで大変短い時間であります。ですから、まずは逃げること。

 そのための避難施設、それも一々そのために例えば防潮堤を全エリアに引くというのはほとんど不可能でございます。先ほど木村知事のご挨拶にもありましたように、とにかく逃げて、そして登れるような施設、これを緊急に対応していく必要があるだろう、このように考えております。

 また、ソフト面といたしましては、いざ同時被害といいますか、広域に被害が起こる場合、当然、徳島県域だけで対応するということだけではなく、隣県、ここにちょうど4県の知事が集まっているわけでございますが、4県で被害協定を結ぶ。あるいは高知の橋本知事がおいでですが、四国の中での応援協定、また、徳島の場合には中四国、そして近畿、全国的には全国知事会との協定というのもございますが、同時被害のところですと、お互いに厳しい部分がございます。

 そこで、同時被害の遭わないようなエリア、例えば本県の場合ですと、山陰地方ですとか、そういうところの皆さんとボランティアの協定を結び、そしていざというときには十分に活動していただくために、日ごろからボランティアの皆さんとお互いの地域でともに地形をわかり、そして対応できるような形、こういう広域のボランティアを育成してまいりたいと考えております。以上です。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 ハード、ソフトの両面からこれから対策を進めていきたいというお話ですけれども、それでは、そのハード、ソフト、それぞれについて、専門のお立場からちょっと課題を整理していただこうかと思います。
 まず、ハード面について、中村先生、お願いします。
 

【中村】
 少し高速道路の話を中心にお話ししたいと思います。今、日本中で高速道路はもう要らないとか、あるいはまだ要るとか、そういうような議論が大変多くなされているのはご承知のとおりであります。我が国では既に70%以上の人々が高速道路の利益に浴しているわけであります。しかし、まだ今も3,000万人以上の人たちのところでは高速道路は全くないという状況でございます。

  100人の人がいる。100人の人のうち、70人は食事は終わったと。おなかいっぱいになったと。そうしたとき、100人の人に食事はもっと要りますかと。このラーメン食べたいですか、欲しいですかと聞けば、圧倒的な数が「もう結構です」と言うのは決まっているわけでございます。

 そういうような調査がなされて、そんな結果が出ているというのが今の日本の現状ではないかと思います。しかし、残りの30人、3,000万人の人たちというのはまだまだ高速道路が必要であるというように真剣に希望しておられるわけでございます。

  そうしたとき、どういうような高速道路ならつくったほうがいいのか、どういうものはやらないほうがいいのか、というのをもっと科学的に分析的に決めるべきであるというように考えるわけであります。そんな方法としまして、一つは社会的な効率性といいますか、例えばその道路を使うと、どれだけ交通費用が、時間も含めてですが、節約できるかと。

 それに対してどれだけの費用がかかるかというような、いわゆる費用対便益というもので社会的な効率性を計る。それによって高いものからつくっていく。あるいは高速道路をもし有料道路でつくるなら採算性というのももちろん問題になる。余り大きな赤字ばかり出るような道路では困るわけで、どれくらいその費用を賄えるのかという採算性ということの評価も必要になる。

 この2つは、言うなれば、需要の多いところはいい結果が出るのは、これは当然のことでございます。したがって、そういうようなところからつくってきたのが、我が国もそうですし、我が国だけじゃなくて世界全体でそうだと言っていいと思いますが、東名高速道路をはじめとしての高速道路であるわけです。

 ただ、それだけで高速道路の役割はすべてかというと、決してそうではないということは、皆さんよくご承知のとおりであります。そのために3つ目の要素、これは大変大きいというように思っております。

 それを私どもはその他の外部効果というような言い方をしてまいりました。知事、あるいは市長をはじめとして地方の首長さんに会って話しますと、よく高速道路がないために急病人、重病人を高度な医療を提供できる病院まで連れていけなかった。そのために救える命が救えなかったというような話も聞きます。

 そういったことも含めまして、高速道路があることによって、不時のときに大変大きな役割が生じてくるということは、これは紛れもない事実でございます。その一つが今の医療の問題でもございますし、またもう一つは、防災の問題でもございます。大きな地震、地滑りのために今までの道路は使えなかった。

 そうしたとき、どれだけの損失を受けるのか。そういうようなことをよく調査して、その上で、その道路の必要性について成績をつけていくというのもそれでございます。津波も全くその一つでございます。そういったことをどのようにやるのか。可能な限り科学的に、数字的にやりたいというように思っているわけでございます。

 そのようなわけで、この前の民営化委員会などでも、そういうようなことを提案しましたし、これからもそういうような方向で進むものと私は信じているわけですが、それは言うなれば、大学の入学試験で言いますと、英語と国語と数学の入学試験があると。それを国語と英語だけで決めるわけにもいかない。数学も必要なときは数学の試験もしなければいけないというわけであります。

 あるいは数学のように点数だけでつけるわけにもいかない。場合によっては、例えば歌がうまいとか、絵が上手だとかというようなたぐいの評価もしなければいけない。そういうようなこともひっくるめて総合的な評価をしていくと。そしてどういう科目にどれだけの重みをつけていくのかというのは、これはそれぞれの地域がそれぞれの地域の特性に合ったことでお考えになればよろしい。

 大きな地震があって、津波で大変大きな被害が出ると。これに対してどうしても手を打っておかなければいけないということは大変重要であるとお考えのところは、それに対して大きな重みをつけるべきであるというように考えるわけであります。

 どちらにしても、ただ単純に効率性だけで議論できるようなものではない。公平性も考えなければいけない。ただ、公平性という名前のもとに、きわめて政治的に決められてよいものでもない。そのためには、可能な限り客観性を持った方法で厳密に決めて評価していくことは必要であるというように思っております。

 高速道路の効果というのは、ただそれだけに留まりません。地域振興の効果その他たくさんございますが、また後ほどの機会にお話しさせていただきます。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 中村先生のお話しくださった高速道路の問題については、後ほど、もう少し突っ込んで皆さんからもご意見をいただきたいと思いますが、まず、ソフトの面で課題を、白石さん。
 

【白石】
 それでは、私、しゃべり出しますととまりませんので、きょうは自分に縛りをかける意味でパワーポイントを前半3枚だけ用意してきました。
 私は、地震津波被害に対してソフトの面の防災対策をどう組み込んでいくかというようなことを重点的にお話をさせていただきたいと思います。

 まず、今中村先生からもお話がございましたように、道路をきちんとつくっていき、ネットワークを作り、こうした災害に備えていくことや、建物の耐震化を図り、津波に備えて防潮堤を計画的につくっていく。これはコストに配慮しつつも計画的にやっていくということは、私はすごく重要だと思いますが、最も大事なことはハードの限界を認識しておくべきだというように思います。

 例えば、震度6の被害を想定して建物をいくら耐震化をして不燃化をしたとしても、それを超えるような被害といいますか、地震の大きさが来たときはひとたまりもございません。個人個人がハードの限界を知っておくということ。

 私はこうした防災対策ということは、ここに少し整理をさせていただきましたように、事前、そして災害発災時、その直後、復興期ということでそれぞれ整理ができますが、まず、事前、個人がやることとしては、きちんと防災訓練に参加しておく。先ほど土岐先生からもお話がございましたように、津波というのは100年以上の周期を持ってやってくるもの。

 この恐ろしさについてはだれも知りませんから、過去の被害状況を語り継いでいくということが大事だと思いますし、それぞれが避難路を確認しておいて、津波が来ると真っ先に逃げる。奥尻の津波のときにも、家財道具を取りに行って津波に巻き込まれた方が多かったというふうに聞いております。何がなんでもまず逃げるというようなことを日ごろからきちんと認識しておく。

 そして個人個人が食糧や医薬品を備蓄しておくことや、地域でマニュアルを作成しておく。また、災害発災時などは、具体的な情報提供、それも個人がどうすべきかというような避難行動に結びつくような情報提供をしておくこと。直後については、けが人や被災者を救出して、必要があるのであれば病院に搬送するといったようなこと。

 また、生活や救援物資の輸送などを行っていく。復興期にはライフラインの復興や倒壊した建物の復旧というようなハード整備、さらに個人がもとどおりの生活をしていくための経済的支援、こうしたものが時系列に押さえられてシステム化されていくべきだというふうに考えます。

 さらに、4県を考えますと、私は、高齢社会の地域づくりが専門でございますけれども、平成12年の老年人口というものは全国平均を超えております。これは高知県は24%で一番高いわけですけれども、

次の縦の列を見ていただきますと、働き盛り1人で何人の子どもと高齢者を支えなければいけないかというようなことを考えますと、高知県は100人に対して60人子どもと高齢者を支えるというような、こうしたドラスチックな数字が出てきますし、平成22年にしてみますと、これもはるかに全国平均を超えた高齢者割合。

 高齢者が増えていく地域ということは、日ごろはお元気ですけれども、災害が発生することによって弱者になっていく危険性もございます。情報が届かないということや逃げ遅れる、避難所の長期生活によって二次的な被害が拡大していくということがございます。

 私は、今申し上げたように、ハードの限界があるということ、さらに少子高齢社会の中で災害弱者が増えていくということを考えれば、先ほど野呂知事がおっしゃったように、自助・共助・公助という各主体が今何をすべきかということをいま一度考えていく必要があるというふうに思います。

 個人では、きちんと自分の住んでいる建物の危険性を把握するということや、持ち出し袋を目の届くところに置いておく。そして、電話が輻輳してしまって携帯電話や固定電話は使えません。伝言ダイヤルの存在というものを知っている人は非常に少ないんですね。家族での連絡方法をどうしていくか。地域がつくっていく、自治体がつくっていく防災計画に参加して、自分の住んでいる地域の危険度を認識しておくというようなこと。

 さらに共助、地域で何をするということについては、漫然と避難訓練をするのではなく、消防、警察、そして自主消防団といいますか、地域の専門家の人たちを組み込んで、きちんとその被害を想定した訓練をやっておくとか、京都でやっておりますけれども、日ごろの町内会の活動などが災害時に、どこに高齢者が住んでいるか、障害者が住んでいるかというような情報を把握しておいて、まさかのときの救出活動につながるというようなこともございます。

 お時間の関係でもうやめさせていただきますけれども、こうした個人や地域の自助・共助というものを支援していく役割が行政の役割にあるのではないかなと思います。避難所となるべき体育館や公民館などがバリアフリー化されているかというと、まだまだその数は半数に満たないというふうに聞いております。

 これは地価が下がるというようなことで一部には反対があると思いますが、いざ災害が起こると、どの地域が危険になるかというようなハザードマップをきちんと公開しておくこと。また、障害者や高齢者が増えていく中で、どういう状況であっても避難所生活ができるようにバリアフリーマニュアルを整備していくこと。

 また、福祉セクションが持っているところを防災セクションで共有化することによって、どこに病人がいたり、どこに高齢者がいるというようなことで、初期救助活動が迅速に行える、こうしたことにも役立っていくのではないかなと思います。
 以上でございます。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 

【司会】
 途中ですが、恐れ入ります。佐藤信秋道路局長がお見えになりました。どうぞ皆様、拍手でお迎えください。(拍手)
 

【山崎】
 失礼しました。さまざまな課題が浮かび上がってきましたけれども、ここで先輩の知事のお二人の方に今課題をどんなふうに認識しておられるかをお伺いしたいと思います。

 まず、高知県の橋本知事ですが、橋本知事はNHKの社会部のご出身で、私の大先輩でいらっしゃいますが、取材する側から具体的に進める側に回られて、今課題をどんなふうに。
 

【橋本】
 僕が現場の記者として取材したのはもう20年ぐらい前の話になりますが、こういう災害ということに関して思い出すのは、利根川の支流の小貝川という川が、茨城県ですけれども、水があふれて大洪水になった取材をしたことがあります。

 それから、都市型の局地的な集中豪雨としては長崎の豪雨というのがありまして、これも取材に行ったことがありますが、災害担当のデスクというのをしたことが幸か不幸かありませんでしたが、今、知事という立場になって、責任の重さだとか、ハードまで含みますので守備範囲が違いますけれども、まさに防災担当、災害担当のデスクのような思いで日々仕事をしています。

 本県の場合には、基本として掲げているのは、まず津波から逃げるということ。それから強い揺れから身を守るということ。そしてもう一つは、災害に強い人と地域をつくるということです。津波に関しましては、シミュレーションの話も出ましたが、本県では平成11年度と13年度に、防潮堤とか水門とかが全く機能しなかったときにどこまで津波にやられるか。

 機能したときには、どの程度の被害になるかという2通りのハザードマップをつくって市町村にもお渡しをし、各地域の方々にも自分たちの地域はどういう状況にあるかということを知っていただく形をとっておりますが、津波の被害というのは全部を守り切ることはできませんから、何といっても逃げることを最大の目標にしております。

 このために、この地域は地震が来たらすぐ逃げなきゃいけない危険な地域ですよというようなサイン、マーク、それから避難の経路はこちらですよということを知らせるマーク、そしてこの建物は、またこの場所は避難場所として使えますよというような共通のマークを作って、まだ避難場所だけですけれども、5つの市と町に143ほどの標識を作るということを進めております。

 次は揺れから身を守るということですが、阪神・淡路の大震災でも90%の方は倒壊した家屋の下敷きになって亡くなったというデータがございます。このために公共的な建物や家の耐震の診断をしていく。

 さらに耐震のための手助けをしていくということが大きな課題ですけれども、これも大変守備範囲が広うございますので、まずは学校などの公共的な建築物からやっていきたいと思っていますが、先ほど土岐先生のお話にも津波の被害ということを自分のこととして認識している人が14.2%だという数字がありましたが、

この間静岡の方に伺いましたら、25年間東海地震ということを言っていろいろなことをやってきているのに、耐震の診断を受けてくれる人が補助金をつけても10%前後しか、なかなか伸びないというお話をされておりまして、やっぱり自分自身のことだというふうにいかに理解をしていただくかということが非常に大きな課題ではないかと思っています。

 もう一つの災害に強い人と地域ということですけれども、ちょうど2年前の秋に県の西南部で大変な集中豪雨があって大きな被害が出ましたが、幸いなことに亡くなった方がありませんでした。

 これは消防団だとか、地域のきずなというものが強くて、あそこにはひとり暮らしのおばあちゃんがいるとか、あそこの家は手助けしないと危ないということをみんなが知っていて、お互いが助け合ったために亡くなった方がいなかったという事例です。

 こういうことから、自主防災の組織づくりということが非常に重要だと思っていますし、また、子どもたちに防災教育をして、そして子どもたちを通じてお父さん、お母さんやおじいちゃん、おばあちゃんにこうだねという話をしてもらうということも災害に強い地域づくりのために必要ではないかと思っていますが、なかなか県だけでハードからソフトまでやり切ることができません。

 東南海・南海地震の被害想定を見ますと、52兆円ほどの被害が起きる。こういう想定になっていますが、阪神・淡路の大震災が13兆円ということでございますから、これはこの4県のような地域の問題ということではなくて、国全体の大きな損失、国家的な災害ではないかと、そういう位置づけで、ぜひ国家的なプロジェクトとして取り組んでいただきたいなということを思っています。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
  それでは、最後になりましたが、和歌山県の木村知事、お願いします。
 

【木村】
 もう3人も話されたので、何にも言うことがないのですけど、何か考えなきゃいかんので、今ちょっと考えていたのですけれども、一つは、この4県に共通するのだと思うんだけど、僕は田舎型の地震対策ということを考えないといかんと思うのです。阪神・淡路のことも非常に大事なのだけど、やはりこの地域は高齢化が進んでいるということもあるし、それから人が1カ所に固まらずにぱらぱら住んでいるというような特色もあると。

 だからそういう時代に合わせた、仮に通信でいろいろな伝達が行っても、お年寄りだったらなかなか敏速に反応できないかもしれませんよね。だからそういうふうな今の時代に合わせたものを考えないといかんということと、それからもう一つは、今、お金の話をしたらいかんのだけれども、人の命とお金は絶対に比較できないのだけど、デフレで低成長で非常に厳しい時代にあるわけです。

 そういう時代には、地震対策ということも突っ込んだお金だけの値打ちが上がるようなものを考えていかないといかんというようなことで、これはハード、ソフト、どちらもそうだと思うんだけど、ちょっと一味違うようなものを考えていかないといかんというように思うんです。

 それからもう一つは、津波と地震というようなものがみんな言葉の上では分化しているのだけれども、何となく同じようにとらえられている。だけど、地震というのはぐらぐらぐらっと揺れたときに倒壊したりして死んだりする。津波というのは、ちょっと後から波が来るわけです。だからやはり分けて考えるような物の考え方というのもこれから、僕は専門じゃないのだけど、しておかないといかんのだろうなと思うのです。

 それからもう一つは、東南海・南海地震というのは昔来ていて、それで現に前のは体験した人がいるわけです。ところが、先ほどの土岐先生のお話でもわかるように、前と今度は一緒じゃないわけです。

 だから前はこうだったから、今度もこれでいけますよというようなことがあまり広まってしまうと、逆に大変なことになる可能性もあるわけです。だから当然のことながら、前の経験は十分に生かしながら、それより大きいものが来るかもしれないという認識も常に持ってもらわないといかんと。

 それから最初に言ったことと関係するのだけれども、こういう非常に経済的にも厳しい時代なんだから、各県が勝手にいろいろなことを考えるのではなくて、さっき感心したのは、全然地震が来そうにないような県とNPOみたいなことであらかじめ、おたくが大変なことになったら応援に行くよというような協定を事細かに結んでおくというのは、なかなかいいアイデアだと思うんですね。

 だからこういういろいろなことを先進的に考えたものをお互い共有して、それから先ほど橋本知事が言われたような、ここはどうだというような認証みたいな、和歌山なんかでもやったらいいと思うのですね。いいことは皆一緒にやっていく。発注も一緒にすれば、ひょっとしたら単価も下がるかもしれない。このように思うのだけれども、そんなことを考えないといかんと思うのです。

 それからもう一つは、これは次の第2部のほうへ移っていかないといかんので、こういうようなソフトのようなことは僕らも一生懸命考えられるんだけれども、実際問題として、例えば和歌山をとっても非常に財政的に厳しい。

 県下の市町村も非常に厳しいわけです。やはりこれは、ナショナルプロジェクトといったら何かいいことが期待さるような感じで少し合わないのだけれども、こういう大変な人の命にかかわることはナショナルプロジェクト的に考えてもらって、

ハードなどの面ではそういうところも力を入れてもらうような仕組み、東海地震については、老舗なのでいろいろなことが行われているわけだけど、この東南海・南海というのはまだ認知度も低いし出始めなので、まだそこまではいっていないと思うんだけど、これをそういう方向へ国にも大いに働きかけていかないといかん、このように思います。
 

【山崎】
 ありがとうございました。皆さんにハード、ソフトの両面から東南海・南海地震の課題を整理していただきましたけれども、話をこれからもう少し具体的な方向に進めていきたいというふうに思うんですが、きょうはタイトルが「『命の道』高速道路」ということになっておりますが、中村さん、防災の観点から交通の問題をもう少し踏み込んでお話しいただけますでしょうか。
 

【中村】
 私、司会者が考えておられるストーリーよりも先走って高速道路の話をいたしました。道路とか、地域問題とかは専門ですのでそっちのほうが話しやすいし、また、私の友人の土岐先生、地震の大家がおられるので、そっちの話は専ら土岐先生にお任せしようということでございます。

 ただ、道路というのは、ともかく何か起こったときというのは、これがなければ全く地域は機能しないだけではなくて、一次災害、二次災害、あるいは長期的にその被害が出てくるわけで、それは言うまでもないことでございます。そのためにも高速道路の整備というのはそういうふうな地域では特に大きな意味を持っている。

 日本の海岸線、特に今の4県の海岸というのは、これは世界の地域でも最も美しい海岸線を持った地域であると言っていいかと思います。ただ、そういうような地域というのは大変土地が狭い、山が迫っている。したがって、昔からの漁村というのは狭い土地に本当にはいつくばるようにしてできているわけでございます。

 そこをつないで昔からの国道が走っている。その国道をさらに改修することは必要なんですが、これが容易なことではない。また、たとえ改修しても曲がりくねっていて、なかなか短時間で地域を結ぶことはできないということになるわけです。

 したがって、そういうような地域をつくるのは、既存の道路の改修は、すなわち高速道路になってくる。だけど、その高速道路というのは、決してトラックや何かが1日10万台以上も走るような東名高速道路のような道路である必要は全くないわけです。ただ、高速で走れる。そして地震があったときには、それは全く損傷しないで、いつも同じように機能する道である。そういうようなものが必要であろうかと思います。

 したがって、今まで考えていたような4車線とか、そうした大きな道である必要はないし、2車線であっても安全な道であって、そしてインターチェンジも東名高速道路のような複雑なものである必要はない。もっと簡単なもので、だけど、もっと短い距離で自動車が乗ったりおりたりできると、そういうものであることは必要であろうかと思います。

 こういった方向で今道路の計画はどんどん変わりつつあると言っていいと思います。それと同時に、そうしてできた道路を有効に活用するということを考えなければいけない。道路づくりというのは、決してそれ自体が目的ではなくて、地域の人々の生活をよくすることでございます。

 地震、津波から安全にするというのも、もちろんその一つでございますが、それと同時に地域の所得を上げる、雇用をつくるということも大事であります。そういうふうに世界でも有数な美しいところ、ただ、交通が不便なために今までそういうふうな、特に観光というふうな面から取り残された地域、この地域のそうした道路を有効に活用して、より多くの観光客がそこへ来る。そしてその地域の生活が向上する、雇用が増えると、そういうようなことにもつないでいくということも必要だと思います。

 そしてまた、その高速道路はただ何か起きたときにつなぐというだけでなく、そうしたところの高速道路というのは、当然のことながら高いところを走るわけでございます。しかも、今の高速道路ですから、大概の地震には全く安全であると言っていいと思います。

 そういうようなところは、例えば津波のときには人々が逃げ込めるような場所、そういうようなものも日ごろから準備していく。階段をつけるとか、いろいろことがあろうかと思いますが、そういうようなことでも日ごろから準備しておくということも必要になるのではないかと思います。
 

【山崎】
 ありがとうございました。それでは、交通の問題をソフトの面から見たときにどんなふうにお感じになっておられるか。白石さん、お願いします。
 

【白石】
 それでは、2巡目の発言、高速道路をどう災害に生かすかというお話をさせていただきたいと思います。
 今、中村先生のお話にございましたように、道路の役割というのは適切に情報提供して道路を活用して逃げる避難路として機能できるということもあると思いますし、災害時の人命救助に大きな役割を果たす。また、災害地域を迂回して救援物資や復旧資材を被災地に早く届ける。

 こうしたことを考えますと、地域の生活や安全を支える不可欠な社会資本で、1日当たりの通行台数とか、コストで算定していくことだけではとらえられない不可欠な社会資本だというように思います。

 とりわけ災害大国の我が国では、今年5月に起こりました宮城沖の地震のときに、東北新幹線は高架橋が壊れて3日後に通常運転に戻ったわけですけれども、この間、高速道路を活用してバスを通常の3便に増発して、たくさんの人や物を運んだ代替機能を高速道路が担っていたということからも明らかなように、代替性というものが非常に求められます。

 さらに、きょう4県の知事がここにおそろいで、みんなで助け合おうというようなアピールをしていらっしゃるように、こうした広域的な地震津波被害に対しては地域ブロックを越える連携が必要なわけです。

 私は、道路に関してもハードとソフトを組み合わせ、せっかくお金をかけてつくった道路を利活用していく発想が必要だというように思います。これは一例なんですけれども、山形自動車道で、上り線ですが、退出路をつくって山形の県立中央病院に搬送できるように、救急車がリモコンを持っていて退出路の扉をあけられるようにしたんですね。

 そうすることによって、高度医療機関に約8万人が30分圏内で行けるようになったというようなことを聞いております。せっかくつくった高速道路をこうした医療機関とどういうように結んでいくかという視点とか、今後、気象庁などで検討が始まるというように思いますけれども、私が不勉強ながら聞き及んでおりますところでは、震度5というようなランクになったときに、高速道路はいったん通行止めで、安全が確保されると、通常の通行再開というようになるのですね。

 そうすると、いったん震度5になったときに高速道路がそこで閉鎖されてしまうと、その間、国道を通っていた人がどう高速道路を使って逃げるかというようなことを考えられなくなってしまうのではないか。

 こうしたときに、高速道路を地域の避難計画や普及計画の中にどう位置づけていくかという、この高速道路の位置づけについて議論していく必要があると思いますし、今後ITSなどを活用して、例えばバスやトラックというプロのドライバーに情報を提供していくことによって安全に避難させる。高速道路がいったん通行止めになって国道におりてくるのであれば、どこに逃げるべきかという情報を伝えていくようなことをしていくべきなのですね。ぜひこうした情報システムを高速道路にも組み込んでいただければというように思う次第でございます。

 また、高知県で先ごろ平成10年に集中豪雨があったときには国道32号が閉鎖されたわけですけれども、そのときに高速道路を無料開放した。国道を通っていたものを高速を通過させて人流物流を確保したということで、高速道路をどう災害時に利活用するかというような計画をつくっていくことが必要なのではないかなと思います。
 以上でございます。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 それでは、ここで4県の知事の皆さんに地域の実情を踏まえて、交通の問題、それから防災の問題をどのように考えているのか。社会資本の整備、交通のところにちょっと絞り込んだ形でお話をお伺いしたいというように思うのですが、今度は最初とは順番を逆にして、和歌山県の木村さんから伺いたいと思います。お願いします。
 

【木村】
 今度は全部僕がしゃべってしまうかもしれない。それは冗談ですけれども。先ほども言いましたように、この4県というのは本当に地形が似ている。昔、道路の専門家じゃないからよくわからないけれども、海岸沿いの一番つくりやすいところに国道をつくったのだと思うのです。

 だから今でも台風の時期になったら、越波というのかな、道路へ波が打ち寄せて削られたりするのが、和歌山でそれに対してお金を使うというのが結構多いのですけどね。本当に地震が来て、津波が、これ1波じゃないのです。津波というのは何回も揺り戻してくるのだけど、そういうときに、港、船だまりにたまっているような船というのが道路へ打ち上げられるのですよ。

 昔の打ち上げられた写真を見ているから間違いないのだけれども、そんなのがあちこちで起こってきたら、本当に僕は和歌山42号線だけでどうなるのかしら、というふうにぞっとするのです。ところが、一ついいのは、例えば和歌山県で高速道路をつくるとすると、どうしてもその道の横につくるのではなくて、ちょっと内陸になるのです。

 これは地形的にも内陸につくらざるを得ない。トンネルを掘って、橋をかけて、高速道路をつくって、これがなかなか今まで進まなかったような理由でもあるのだけれども、逆に言ったら、海からちょっと遠いというので、うまくやっていけば一番いい避難場所にもなるし、それから当然のことながら救援物資とか、避難とか、そういうことの、ここで「命の道」という言い方をしていますけれども、それになる可能性が非常に高いと思っているのです。

 高速道路、費用対効果ばかりで議論されて、田舎の道はもう要らないのだというような冷たいことを言う人がいますけれども、人の命はやはりどんなときでも重いわけです。それでこの高速道路があったら、何千人という人が救われるかもしれないわけです。そういう観点から、私はこれから高速道路の必要性ということを訴えていきたいな、このように思っています。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 それでは、高知県の橋本知事、お願いします。
 

【橋本】
 高知県もまさに地形的には和歌山県などと同じですけれども、84%が森林林野、それだけ山の多い県です。残された平地の海岸部に徳島側からいうと55号という国道が、そして高知を過ぎて愛媛県側に向けて56号という国道が1本延びているという現状です。

 こういう厳しい地理的な条件の中にできている道ですから、これまでも大きな雨が降れば、自動的に通行止めになってしまうというような箇所もありましたし、また、しばしば土砂崩れなどで通行止めが起きるという現状です。

 例えば阪神タイガースがいつもキャンプを張っております安芸市という市がございますが、ここにある大山岬という地域は土砂崩れなどで道がとまってしまいますと、代替の路線が全くありません。このため、そういう状況のときには、そこから東側の室戸市とか東洋町とか、そういう場所に新聞を運ぶのにトラックが行けずに船で新聞を運ばざるを得ないというような現状が今もあります。

 こういうような道路状況ですので、例えばご自宅から最寄りの一定の水準以上の総合的な病院に運ばれるのにどれぐらいの時間がかかりますかというデータがありますけれども、この救急搬送の時間のデータを見ますと、全国平均は27.8分でございます。

 これに対して、本県の県内の平均が35.8分で、それだけでも8分多いわけですけれども、さらに四万十川などのあります幡多地域という西南部の地域は117分、つまり1時間57分と。全国平均に比べれば、1時間半近くも最寄りの大きな病院への搬送時間がかかるという現状です。

 つまり、災害などが起きなくても、日常から安全・安心という意味では大きなハンディキャップを背負っているということになります。これがこの地震などの大きな災害が起きたときには、ただハンディキャップと言っていられないほどの命取りのいろいろな現象が起きるのではないかということを思います。

 第1回目のお話の中で津波のシミュレーション、ハザードマップの話をしました。第1次のハザードマップとして、平成11年度に防潮堤とか水門とかという防災の施設が全部機能しなかったときに、どこまで被害を受けるかという図をつくったという話をしましたが、

それをもとに55号、56号がどういう状況になるかというものを見てみますと、高知市から東洋町という徳島県境までの55号の場合に延べ17キロ、7カ所が寸断される。また、逆に愛媛県側に行きます56号が延べ47キロで8カ所が寸断されるという状況になります。

 また、一般の国道の場合には、昭和の南海地震のときにも、例えば須崎市というところで貯木場にあった木がうわっと上に流されて国道が全部とまってしまったというようなことがあります。今はいろいろな経済的な状況が違いますから貯木場の木じゃないかもしれません。

 しかし、今も人家がいっぱいある真ん中を通っている国道部分がいっぱいございます。そうなりますと、倒壊した家屋で国道が通れなくなるというような場所は数多くあって、このことは被災者を救出していくという意味でも、またさまざまな救援物資を送る、また救援の人が行くという意味でも大変大きな問題ではないかということを思います。そういう意味でやはり高速道路、高規格の道路というのは、ぜひとも本県のような県にとっては必要なものだということを思っています。

 今、国でも高速道路、高規格道路をつくるときの基準をどうしていきますかということをご検討中だということを伺っておりますけれども、この東海・東南海・南海地震への備えということは大きな基準になっていくべきではないかなということを思います。

 きょうご参加の方の中でも、4県の地域の方々は釈迦に説法でよくわかっていることですが、例えばマスコミの方などがこういうテーマを見ると、東南海・南海地震というのは衣であって、その下に道路というよろいが隠れているのではないかという目で見ていらっしゃる方もいると思います。

 地域から考えれば、決してそのようなことはなく、何のよろいだとかいうものでもない。ほんとうに切実な問題だと。今もなおそういう地域がいっぱい残されているということをぜひ多くの方々に知ってもらいたいな。その思いでございます。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 それでは、徳島県の飯泉知事。
 

【飯泉】
 本件の南海地震の想定される、特に津波対策のエリアですね。ここにつきましては、つまり海岸沿いということになるわけですが、実は四国横断自動車道といいますか、本四連絡橋からずっと入ってまいります。

 鳴門市から、そして県都の徳島市、そして小松島市、そして阿南市という本県4市がすべて海岸縁沿いにあるということでございます。その大動脈、都市機能の集中するこのエリア、国道11号、そして県都の徳島市から阿南市、そして県南のほうへと、ここは国道の55号線という大動脈が走っております。ですからこのエリアについては大変都市機能が集中しているということ。人口の密集地域である。

 また、徳島の場合は東洋のベニスというぐらい川が大変多くございます。大河吉野川をはじめといたしまして、那賀川、それぞれの支流ということで、大動脈である11号、55号、ここに橋が多くかかっているということでございます。

 ですから、当然津波の被害ということもあるわけですが、それ以上に地震動によりまして橋が大変落ちやすい。ですから、この大動脈1本を、これでもって被害の復旧路、あるいはここの緊急輸送路という形で、もしやるとすると、かなり橋に補強していかなければならないということになります。

 また、先ほど中村先生からもお話がありましたように、海岸縁の道路だけやっていくというのは技術的にほとんど不可能なんだよというお話もございました。ですから、本県としても、川がたくさんあるという状況、そして本県の大動脈であり、都市機能、人口集中しているこの55号、11号のエリア、ここに対しては必ずバイパスが必要であるということが言えるかと思います。

 その意味では、本県の場合、先ほど冒頭で申し上げましたが、京阪神から入ってまいります鳴門、それから明石海峡大橋、本四架橋でございますが、ここから入ってくる四国横断自動車道、それがずっと鳴門から南下して参る。

 そして四国縦貫道、徳島でぶつかるわけですが、さらにここから県南、小松島、阿南、そしてさらにそこから今度は県南エリア、今、橋本知事からもありましたが、高知県境へ結ばれていく阿南安芸自動車道という、まさにバイパス機能も果たす新たな大動脈、これが絶対に必要であるということが言えると思います。

 また、災害時は、いつ起こるかわからないわけではありますが、やはり通常時、平時におきましても、本県のまさに大動脈ということ、高知、そして近畿との、また香川への玄関口という意味でも、平時においても、そしていざという災害時においてもこの高速道路、四国横断自動車道、そして阿南安芸自動車道、これが不可欠であるということを申し上げたいと存じます。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 では、最後に、三重県の野呂知事、お願いします。
 

【野呂】
 いろいろ高速道路の必要性等について、皆さんからお話がありましたので、三重県の場合には、一つこれまで地震ではないけれども、言ってみれば少しの雨で陸の孤島化したときに、どういう現状であったのかというようなことも少しお話を申し上げたいと思います。

 昨年の9月に秋雨前線に伴う大雨が原因で尾鷲市の北部で土砂崩れがございまして、その土砂崩れで約50時間通行止めになったということがございました。このときには、いろいろなところに産業活動や、あるいは市民生活に大変な影響が出ているわけです。例えば三次救急医療施設の三重大の病院、これは津にございますが、ここへ救急患者の搬送ができなくなったということがございます。

 尾鷲市には総合病院がありますけれども、人口透析を受けようとしている患者の皆さんが、実はその道路で近い尾鷲の病院に行けなくなった。そこで松阪まで長時間かけて行かざるを得なかったというようなこともございます。それから地域の災害拠点病院に指定されている尾鷲の病院で看護婦さんが交代するのに、実は通勤できなくて、その手配が困難になったということもございました。

 それから尾鷲市内のスーパーでございますけれども、ここでは野菜等の生鮮食料品でございますけれども、ふだんの3割程度しかそろわなかったということもございました。それから極早生ミカンの出荷の最盛期でありましたにもかかわらず、雨がおさまった後、別の道を迂回して大変な時間ロス、そういったことがあったということもございます。

 それから鮮魚が出荷できなくなっただけではなく、間に合わないということで、今度はキャンセルが相次ぐというようなことで大変な損失があったということです。

 なお、郵便物等も大変遅れたということがございました。このように市民生活、住民の生活にとっては少しのことで大変な影響が出てくる。それは何かと言いますと、この地域は、先ほど来話がありますように、三重県ですと、東紀州地域というところでありますけれども、後ろは山、前は海、そしてまともな道路は国道42号線しかない。そして迂回しようと思ったら熊野古道伝いに歩かなきゃいかんと。こういうふうな事態になりかねない、そういうところなのであります。

 そういう意味では、どうしても高速道路というのは、こうした地域にとってはバイパスとして、そして生活を守る安全・安心を確保するための道としてどうしても必要になる。いわばこういうところの道を、高速を遅らせていくということについては、この地域の人の命を切り捨てるに等しいことだと、こう思っておるところでございます。

 そういう意味では、何としても今後の道路行政の中においては、安心・安全という面からの災害の問題を大きな物差しにしっかり押しはめていただかなければならない、こう強く思っているところであります。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 避難の面でも、それから緊急輸送の面でも、それから救急搬送の面でも、それからふだんの生活の面でも道路の問題は大変重要だという、それぞれの知事の皆さんのご発言ですけれども、ここで国の立場から道路の問題をどのように受けとめておられるのか、考えておられるのか。国土交通省道路局長の佐藤さん、お願いします。
 

【佐藤】
 今までお話を伺っていまして、あまりいい立場じゃないなと思っています。申し上げたいことは、中村先生のお話にほぼ尽きるかなと思ったりしています。もともと中村先生にいろいろ道路行政のご指導をいただいて、昨年も提言をいただいたところであります。そのとおりに一生懸命やりますと、こう一言で逃げていくのが一番いいかなと思いますが、せっかくですから3つぐらい申し上げます。

 一つは、今お集まりいただいている知事の皆様は、わりと遠慮なさりながらご指摘をいただいているんだろう。日本の道路整備を本格的に進め始めていましてから大体50年近く、中でも高速道路の整備という問題で申し上げても、昭和31年ぐらいから高速道路の計画自体をつくり、道路公団を昭和32年につくって、7,600キロの計画は昭和42年でしたけれども、要は40年以上は高速道路の整備も進めてきているはずである。はずであるではあるのですね。

  そういう中で最初に申し上げたいことは、恐らく知事たちは、そんなに長い間時間をかけているのに、何でこうした必要な、ほんとうに待ち焦がれている地域にいまだに高速道路ができなのか、こういうお話なのだと思います。

 私自身、反省申し上げますのは、中村先生のお話にもありました。それぞれ55号、56号、42号、あるいは房総半島で言えば127号、自分で今の国道をどうやって直そうかと計画を立てようとしてみても、これはおそらく普通のバイパスや拡幅にはできないのです。

 拡幅したり、普通の小さなバイパスをつくると、周辺の集落や町がなくなってしまう。それで内陸のほうに追い込まざるを得ない。こういう状況ですから、そして雨のときには交通規制し、あるいは崖崩れが頻繁に起き、そして地震が来たらどうするのだ、津波が来たらどうするのだ、こういうお話がいまだに残る。

 これは道路行政をあずかる立場としましては、大変やわらかくおっしゃってくださっているので私も救われる思いではありますが、こんなことでいいのか、こういうお話だと思います。直そうとしたら、高速に近い、あるいは高速そのものを整備するしかないではないか。こういうことであるんですね。おっしゃるとおりだと思います。

 そこで高速道路の整備をどうするか。こういう議論になりますが、一昨年来、道路関係4公団の民営化、こういう議論の中で、昨年民営化推進委員会のご意見もいただきました。私どもはこういう考え方であります。基本的な考え方は、採算性という問題と、それから高速道路の必要性、これは別ですよ。

 必要性という面からいけば、費用と広い意味での便益、あるいは効果を比較して、大きければ、それはやっぱり国民全体にとって必要なんでしょう。それは採算がとれるとは限らないというか、そもそも自分で採算がとれるようなそういう道路というものは日本の場合にはありませんよ。

 もともと採算というよりは本当の必要性のあるものは、そうした国民全体にとっての費用と便益は十分か。こういう観点をきっちりと考えるでしょう、こういうことだと思います。

 そういう意味では、私どもは1万4,000キロの高規格幹線道路網の計画、あるいは1万1,520キロの高速自動車国道の計画、これは国民にとってどうしても必要なものでしょう。こういうことでお決めいただいているわけであります。

 交通量とか、費用とか、建設費とか、いろいろ見直していますので、今その最中ではありますが、私どもはそういうことで、採算という観点ではなくて、必要性はほんとうに国民経済全体にとって国民の暮らす社会にとって必要か、こういう点をしっかり押さえるのが大事なことだろう、このように思います。

 そこで、1万1,520キロの高速自動車国道の計画の中で既に整備計画が9,342キロ出ています。これをしっかりと、公団を民営化しながらと言えばいいんでしょうかね、きちっとした整備を進めますということが必要でしょうということで、今度の国会で、従来のように、この9,342キロ、有料道路でやっていきましょう。公団でやっていってもらいましょう。

 こうしてきたわけではありますが、今度の国会で地方と国で費用を出して、税金を出してでも新直轄方式ということで建設を進めようという部分を、おおむね建設費でいけば3兆円、どのくらいの延長になるかという問題はありますけれども、おおむね3兆円ぐらいを目安に、とにかく早くちゃんと国と地方で負担してでも、国費を負担してでも整備を進めましょうということにして法律を通していただいたところであります。

 そういう意味では、高速道路で言えば、整備計画が出ている中で、おおむね20兆円がこれから残る。しかし、コストもカットとして16兆円ぐらいにしよう。残り13兆円ぐらいをまた建設ができるように、公団と新しい会社で建設ができるように、これからまたいろいろ制度設計をしなければいけない。

 これはこれからの課題で残ってはいるわけですけれども、そうした形で有料道路制度と、それから新しい直轄制度ということで両方で整備を進めていこう。こんなふうに今いろいろな制度を検討を進めているところであります。

 最後にもう一つ、そういうことで骨組みはきちっとつくっていきましょう。大事なことだと思いますし、それからもう一つの問題としての津波等の、あるいは緊急避難して逃げる。

 こういう問題からいけば、身の回りのそれこそ海岸から山の手に逃げる道といいますか、避難する道、こういう問題も大事なことだろうということで、道路行政のそれも大事な課題の一つとして取り組んでいく、こういうことにしています。
 以上、3点ほどとりあえず申し上げまして、これからの物の考え方みたいなものをご紹介したわけであります。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 それでは、時間のほうも残り少なくなってまいりましたけれども、きょうのシンポジウム全体を通じての感想を、まず中村さんから。
 

【中村】
 皆さん、津波対策のためにも高速道路、高規格道路の整備は大変大事であるということではご意見が一致していたと思いますが、ただ一つ、私はさらにそれにつけ加えたいのは、つくる高速道路というのは早くやらないとだめだと。あまり長いこと、遠い先の話まで待っていたのではだめだと。

 さっきの白石さんの話のように、今議論している地域は、もちろん高齢化はどんどん進みました。さらにこの先、一層人口減も進んでいくわけでございます。そんなわけでゆっくりやっていたのでは、そっちのほうが先に進んでしまう。ともかくそれを阻止するためにも、そこをまた元気にするためにも早くやらなければいけないというのが一つ。

 もう一つは、道路づくりというのは、あくまでも地域の人々のクオリティー・オブ・ライフ、生活の質を高めるためにやるのだ。だからこそ津波対策もその他の安全対策も最重要課題であるということでございます。それと同時に、生活の質を高めるためにもそこを美しく快適な魅力あるところにすると。

 そしてそこに住んでいる人の生活もよくなる。あるいは都市とも近くなる。都市の人も来るようになる。都市へも行けるようになると。そのようにして、その地域全体の人々の暮らしを高めるんだと。それがあくまでも第一義であると。そのために高速道路というのは大変有効に機能するのだということかと思います。
 

【山崎】
 それでは白石さん。
 

【白石】
 手短に。きょうのタイトルは「東南海・南海地震に備える」というような、わりと中長期的にいつ来るかわからない、近いかもしれないですけれども、来るかわからないものに備える道路というような誤解を受けやすいんですが、きょう4県の知事のお話を伺っておりまして、私は4県の方々がちょっとした集中豪雨とか、土砂崩れで不便な生活を送っていらっしゃるということがよく把握できました。

 今、中村先生がおっしゃったように、地方の人にも都市的な生活を享受する権利があるわけでございますし、生命の保障というのは何をもってでもしなければいけない。私は、この4県の災害対策のために道路を日常生活の利便性を享受し命を守る、さらに災害にも強い高速道路を早期に完成すべきだというように感じました。
 以上でございます。
 

【山崎】
 ありがとうございました。
 それでは、最後に基調講演をなさいました土岐先生にシンポジウムの感想をいただきたいと思います。
 

【土岐】
 司会者ほうから5分ほどで感想を言えということなのでありますが、感想というわけにもいきませんので、お話を伺っていて気づいたことを二、三申し上げようと思います。

 一つは、地震に対する揺れの問題なのでありますが、これに耐えるためにはハードで対応せざるを得ない。津波はソフトで対応せざるを得ないということでありまして、要するに揺れて、それで道路が非常に大きな損壊を受けるであろうということは、先ほど申し上げたとおりでありまして、これを避けるためには、あるいは津波から洗われないというためには少し内陸へ引かざるを得ないし、内陸に引きますと、大体が急峻なところですから、勢い高いところになります。

 そうすると、津波にも大丈夫だし、あるいは小規模な崖崩れだとか、そういうものは50メートル、100メートルの高いところから落ちるわけではありませんので、高いところになれば、それだけ被害を受ける率も少なくなるということで、やはり在来の道路をつくり直すというよりは、そういう新しいところをつくるというのがハードの対策としてもいいのであろうと思います。それが高速道路になるのか、在来の道路の改修なのか。そこは私は語る立場にはございませんが、それが第1点。

 それからいま一つは、津波の問題はとにかく逃げるにしかずです。例えば高知県のように10メートルも来るところは、全県、海岸から河川から全部防潮堤を築くということは、これは不可能であります。ちょっとでも抜けたところがあれば、そこへ水が回り込んでくるわけですから、これは逃げるしかない。

 ところが、知事さん方のお話を伺っておりましても、いろいろなシミュレーションをして、皆さんに怖さを教えるというお話ですが、それは大変大事なことでありますが、残念ながら、私はそれだけではほとんど機能しないと思います。

 要するに日本人というのは、災害というのは天災という言葉を使いますように、ほとんどあきらめみたいな気持ちを持っています。頭で理解しても、それが自分の問題だとはどうしても考えない。考えたくないというところがあって反応しないんです。そこのところはどうしてもぬぐい去れない。

 あるところで、私、今、「日本人の災害観」、そういう問題をいろいろ議論しているんですが、どうしてこういうふうに日本人というのは、こうすればこうなって災害から免れるということがわかっていても、そこに手を出そうとしないのか。これは非常に不思議なところなんですね。

 先ほど、どなたでしたかね、知事さんから静岡県の耐震診断のお話がございましたが、私が今おります京都市の場合は、これは市が耐震診断に補助するんですが、150万の市民がいて、年間耐震診断を手を挙げてやる人が数十人しかいないんです。

 百数十万で数十人、いかに必要なことがわかっていても一歩踏み込んでやろうという人がいないかということなのですね。こういう人間の性癖というか、そこのところをよほど理解しないと、私は危険ですよという映画を見せてもだめだと思うのです。津波が来ると聞けば、自動的に逃げるような、そこまで追い込まなければいけない。

 脱線するようですが、この間、「NEWS WEEK」という雑誌がありますが、読んでいておやっと思ったのは、アマチュアのゴルファーとプロゴルファーの違い。要するに左脳をプロゴルファーは全然使わない。左脳というのは分析をしたり、思考したりするところなんですね。

 アマチュアのゴルファーは打つときに強烈な脳波が左側から出ているのだそうです。プロゴルファーは何も出ない。要するに何も考えていないのです。何も考えないところまで自分を追い込んでいるのですね、常日ごろの訓練でもって。そこなんです。

 だから津波が来るよと言えば、途端に逃げ出すようなところまで何らかの方法で、一種の社会全体を催眠術にかけるような仕方でもいいから、そこまで追い込まないと、私は頭で危険ですよと言ったって、そうですかということで、結局、自分は関係ないよと。私はそこだと思うんです。先ほどスライドでご覧に入れましたけれども、あれが日本人の姿だと思うのですね。ひどいのは見に行くと。冗談じゃないと思うんですが。そこを何とかしなくてはいけないというように思います。

 それからいま一つ、これはきょうのテーマだけに限ったことではございませんが、よく考えていただかなければいけないのは、起こらなかったことを想像たくましくするということが、これまた日本人はなかなかできない。

 一つの例は、あるいは重要な例は、神戸の地震のときにいろいろな災害が起こって六千何百人もの命を亡くしたということで、社会全体がいろいろな勉強をしました。教訓として生かして、それを現在我々のシステムを改めるのに、日本の国のシステムを改めるのに生かしております。

 されども、あの地震が1月の明け方6時前に起こったという非常に特殊な状況なんですが、そのゆえをもって災害にならなかったことがいっぱいあるわけです。それを幸いとして、そういうことを全然生かそうとしていない。

 例えば、人がたくさん集まる地下街に昼間であればたくさん人が集まっていたに違いない。そのときにどういうことが起こったか。恐ろしいことが考えられますが、地下街でどんなことが起こったかということを、その後研究でも技術の分野でもほとんど手を出さない。

 あるいは高速鉄道が走っているときに地震が起こったときどうなるかということは皆さんだれも頭に浮かばないはずはないのです。だけどそれをどうするかということを具体的に考えようとはしない。多少恐ろしいです。恐ろしいけれども、だからといって逃げていてはいけないはずなのです。逃げていたら絶対対策ができない。

 そこのところを、嫌なことだけれども、想像をたくましくして、そしてそれに対して事前に対応するということができるかどうかがある種の教育を受けた人の責任であり、指導的な立場にある人の責任だと思うんです。そこのところを私はぜひ考えていただきたいというように今日の話を伺っていても、再び同じことを考えました。
 

【山崎】
 ありがとうございました。東南海・南海地震については、私もこのところの動きも含めて随分取材させていただきましたけれども、やはり大きな被害をもたらすおそれがあるのは津波だというように思います。

 その津波から身を守る防災対策を考えるにはどうしたらいいのか。これは素早い避難しかないということは、放送の中でも何度か申し上げました。そのためには、地域の実情を踏まえて、地域の力を結集して、ソフトの対策をつくっていくということは大切なことだと思います。

 その一方で、今日お話の中にもありましたけれども、被害が起きた後の緊急物資の輸送、あるいは救援、それから復旧、復興を考えたときには、社会資本の整備も大変に大切な問題だというふうに思いますし、道路の確保も同じように大切だというふうに思います。

 私がここ十五、六年ずっと災害の現場へ出かけてきて感じたのは、災害というのは地域性もあるし、いつも想定を超えて、マニュアルを超えてやってくるなということだと思います。

 その問題にどう備えていくかということがとっても大切な問題だと思いますが、NHKにとって災害報道というのは、人命、それから財産に直結する問題ですので、決して後ろ向きであることは許されない報道だというように思っております。これからも皆さんと一緒に防災の課題を考えていきたいと思います。

 きょうは沿岸の4県の知事にもご参加をいただいて、大変有意義なシンポジウムになったのではないかと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
 

【司会】
 パネリストの皆様、山崎さん、ありがとうございました。
 それでは、ここでパネリストの皆様が退場されます。会場の皆様、いま一度大きな拍手でお送りください。(拍手)
 以上をもちまして、「東南海・南海地震に備える沿岸4県シンポジウム-地震津波防災と『命の道』高速道路-」を終了させていただきます。
 皆様、お忘れ物などございませんよう、お気をつけてお帰りください。本日はご来場いただきまして、誠にありがとうございました。
 




【司会(大山部長)】
 お待たせいたしました。ただいまより共同記者会見を始めさせていただきます。
 本日のシンポジウムは公開形式で行いましたので、シンポジウムの内容につきましては省略させていただきます。
 まず初めに、三重県、和歌山県、徳島県、高知県の共同アピールを4県を代表いたしまして、橋本高知県知事よりさせていただきます。
 

【橋本高知県知事】
 それでは、きょうのシンポジウムを受けての共同アピールを読み上げさせていただきます。

 東南海・南海地震に備える沿岸4県共同声明「『命の道』高速道路の早急な整備を」
 本年4月、国の中央防災会議により東南海・南海地震の被害予測が明らかにされ、震源に近い海域に面した三重県、和歌山県、徳島県、高知県の4県は、特に津波による甚大な被害が憂慮されている。

 昨年7月に制定された「東南海・南海地震に係る特別措置法」を受け、現在、沿岸の4県では、地震防災対策の推進に懸命に取り組んでいるところであり、中でも津波の被害に備えた緊急輸送道路の確保が、4県の共通した喫緊の課題となっている。

 紀伊半島南部においては国道42号が、四国の太平洋沿岸では国道55号と56号が地域の唯一の幹線道路であるが、いずれも海岸沿いに位置しているため、津波に対して極めて脆弱であり、数多くの箇所で被災し、沿線の市町村は分断され陸の孤島となる。

 このため寸断された国道に代わり、救援・復旧活動を支え緊急物資の輸送道路としての機能を果たす高規格道路が不可欠であり、地震の規模が極めて大きく、近い将来の発生確率が高いという差し迫った状況下で、早急な整備が必要となっている。

 ついては、今後の高速道路等の整備にあたり、昨年来、議論されてきた採算性や効率性の観点だけでなく、国の責任で、国民の生命や財産を守るといった、生活の最も基本となる防災対策の観点からの必要性、緊急性を高く評価し、下記について、国に積極的な取り組みを求めるものである。

1.東南海・南海地震の地震・津波災害に備え、「近畿自動車道紀勢線」、「四国横断自動車道」、「高知東部自動車道」、および「阿南安芸自動車道」などの高規格幹線道路等を「命の道」として早急に整備すること。

2.道路公団の民営化に伴い、今後の高速道路整備の具体的な制度や整備路線の検討にあたっては、「東南海・南海地震に係る特別措置法」で指定される地域の高速道路が、特に防災対策として重要性、緊急性を有することを十分評価すること。

3.高速道路以外の高規格幹線道路等についても、整備に係る評価手法の検討にあたっては、このことに十分配慮すること。

 平成15年7月14日
 以下、4県知事の名は省略させていただきます。
 以上です。ありがとうございました。
 

【司会】
 橋本知事、ありがとうございました。
 それでは、続きまして、多少の時間ではございますが、質疑応答に入らせていただきます。
 なお、この記者会見はシンポジウム主催の4県共同の記者会見でございますので、ご質問は本日の議題に関連する項目のみとさせていただきまして、各県個別に係るご質問もご遠慮いただきますようお願いいたします。

 また、ご質問される方は、最初に社名とお名前、さらに答弁を求める知事をご指名の上ご発言くださいますようお願いいたします。
 それでは、ご質問のある方はどうぞ挙手をお願いいたします。いかがでしょうか。

【タツミ】
 共同通信のタツミと申しますが、高速道路、高規格道路の必要性につきまして、地震に対して比較的強いのではないかという話がシンポジウムの中でもあったのですけれども、地震が起きると、阪神の場合でも橋脚が倒れるという高速道路そのものが崩れるような事故もあったかと思うのですが、その辺の信頼性が一般の国道よりも高いというあたりは、それぞれ皆さんどのようにお考えになっておられますか。一言ずついただけたらありがたいのですが。
 

【野呂三重県知事】
 これについては、先ほどいろいろ専門の先生方と少し話しておりましたときに、かなり設計等も十分に考えられて、そういう意味では防災という意味に非常に強い構造になっているということで、究極の意味からいくと、一般道というより、防災面を強調して考えていくと、やはり高速道路のような形しかないのではないか。専門家もそういうご指摘でありますので、私はそういう意味では十分信頼に足るものだと、こう思っています。

【木村和歌山県知事】
 今の野呂知事の話とそのままなのですが、ちょうどタイムリーなことに、これを議論していたんです。僕がとにかく高速道路はこれから田舎のほうへ行くものは、構造とかを簡素化して、余りお金がかからないで早くできるようにしないと、国民の納得も得られないだろうという話をしたんですね。

 そうしたら、専門家の方が、確かに簡素化はするのだけれども、例えばセメントを薄くしたり、継ぎなんかをもろくしたりするようなことはないので、そういうところはちゃんと耐震性などに合わせてやるのだけど、例えば4車線だったところを2車線にするとか、インターチェンジを簡単にするとか、そういうことで安く上がるようにしていくというお話をされていたので、そういうようなことになると思うから、阪神・淡路大震災のときに、阪高の桁がひっくり返ったような話はならないと思っています。
 

【飯泉徳島県知事】
 シンポジウムのときにも申し上げたのですが、例えばこの東南海・南海地震のエリアですと、やはり海岸縁、そして山肌が迫っているということで、当然、徳島なんかですと、橋げたの問題、また山肌の側では当然山腹の崩壊の問題と。

 これも構造的にはなかなか修復が難しいという中村先生からのお話もあったように、大規模なバイパス道として、しかも高速道路という形で、ただ、災害時というだけではなくて、当然、社会資本整備ですので、平時にもきっちりと使えるという一石二鳥をとる。そうなると、やはり高速道路しかないだろうということでございます。
 

【橋本高知県知事】
 技術基準としては、僕は全く問題はないと思います。ただ、100%絶対大丈夫かと言えば、それはどういうマグニチュードで、どんな震度の地震が来るかわかりませんから、場所によって何かが起きるかもしれません。けれども、可能性としては一般国道を使うということよりも、はるかに「命の道」としての役割を高速・高規格の道路は果たしてくれるということを思っています。

 また、今の一般国道のままであれば、先ほども申し上げましたように、昭和の南海地震であれば、貯木場の木が来た。これは和歌山でも、木村さんが同じようなことを言っておられました。今は林業がこういう状況ですから貯木場の木は来ないかもしれません。

 けれども、船が津波で山に押し上げられる。また、倒壊した家屋の廃材などが道路をふさぐ等々のことで一般国道が使えなくなる可能性は非常に高いと思います。ただ、水につかるというだけではなくて、相当長期間使えなくなる可能性が高いと思います。

 その可能性から言えば、高速道路ははるかに技術基準からいっても、それから高速道路、高規格道路を整備する地形、その場所からいっても、今申し上げたような危機管理の対応として非常にすぐれた基盤整備だと思います。
 

【司会】
 よろしいでしょうか。ほかにご質問ございませんでしょうか。どうぞ。
 

【高橋】
 NHKの高橋と申します。皆さんがこのようなシンポジウムを開かれて、高速道路の整備を早急に求めていくということに対して、国側のお答えというのが、先ほど出席なさっていた局長さんの答えになっているのかどうかちょっとはっきりわからないのですが、お話かというふうに思います。

 それで、今後、高速道路を建設する中では、地方も一定の費用負担というのを求めていくというようなことになるのですけれども、その点いかがでしょうか。ちょっと従来と違うような手法で建設を進めていかなければいけないという場合もあるんですが、その場合、各知事さんはどういうふうに「命の道」としての高速道路整備に取り組んでいかれようと考えているのか。一言ずつお願いします。
 

【橋本高知県知事】
 新しい直轄の制度として従来の高速に当たる高規格の道をつくっていくときに、地方が負担をしていくということは、私は、本来ならば、国の責任ですべてやるべきだとは思います。けれども、諸般の事情から地方が負担をしてでも整備をしていくべきだと思いますし、そのことには何の異存もありません。地方が負担してでも、少しでも早く整備をしていきたいと思っています。
 

【飯泉徳島県知事】
 当然、災害、先ほどありましたが、30年で例えば40%とかいう話ですが、来年来るかもしれない、あした来るかもしれないということでいきますと、早急に整備をしなきゃいけない。

 そのためにはやはりスピード感を持ってということになりますれば、今橋本知事もおっしゃったように、国・地方の財源をあわせて早くやっていく。ただ、新直轄方式だけではなくて、新しい会社でやるという方式もございますので、それをきっちりと、どの区間をどういう形で進めるのかという点については、国のほうでもきっちりと答えを出していただきたい、こういうふうに考えています。
 

【木村和歌山県知事】
 僕はちょっと実は意見が違うので、国の骨格的な道路というふうなものはやはり国がやるべきだろうと。国というか、今までの方式で全部やるべきだろうという気持ちは持っています。

 ただ、そういうときに、窮余の一策というのかな。今度財源的には地方にそんなに負担をかけないような形で、一応地方も財源を持つというふうな形の新直轄方式というのができたんだけど、これはこれで短期のやり方としては仕方がないという面はあるのですけれども、だけど、一方では国が実は裏で面倒を見て、地方がお金を出したという形のやり方というのは、地方分権という形からは、こういうことばっかりが続いていくとまずいので、本来はやはりどっちの責任だということをほんとうは明らかにしないといかんのだろうというふうに僕は思っています。

 ただ、そうだと言って、そんなことばっかり言ってできないようになったら、それこそさっきの人の命が失われてしまう可能性もあるので、この面については、僕は渋々ながらということだし、また逆に、そういうような形で国が裏から面倒見るような形じゃなかったら、とっても今の地方財政ではこんな道路の財源を見ていくということはできないので、そういう今の地方財政の制度そのものを改める方向、今、三位一体の話が出てきているわけだけど、ことがやっぱり根本的には大事だろうと思っています。
 

【野呂三重県知事】
 私は高速道路・高規格幹線、こういったものについては、これは国が直接やるべきことであるということから、本来的に地方にその負担の一部を求めるということはいかがなものかと思っております。

 しかし、今までお話がありましたように、スピード感を持って緊急に整備をしていかなきゃならないという状況の中で、きわめて厳しい財政の中でどう取り組んでいくかという知恵のあり方としてはいろいろな検討があるのかなと思っています。

 ただ、気をつけなければなりませんのは、安易に道路の建設の一部を地方に転嫁した場合に、実はその道路ができた後の維持管理費、これがかなりかかるわけでございまして、実はこういったところの維持管理の費用負担についてもどうしていくかということがありますから、きわめてこれはしっかり慎重に議論して結論を出していくべきことだと、このように考えております。
 

【司会】
 よろしいですか。ほかにご質問ございませんでしょうか。いかがですか。よろしいですか。どうぞ。
 

【宮崎】
 朝日新聞の経済部の宮崎と申します。今、木村知事から地方財政の三位一体の根本改革が大事だというお話があったので、少々道路とずれるかもしれないのですが、差し支えなければ、橋本知事と野呂知事にお尋ねします。

 今回の一連の三位一体改革で、私、何人かの市町村長とお話しする機会があったんですけれども、必ずしも市町村から見ると、都道府県は改革を引っ張ってくれる存在であると同時に、反面、都道府県の規制があったりとか、都道府県からの補助金にからめ捕られたりとか、思うに任せない部分もあるというような指摘を何人かから聞いたのですけれども、そうした点について、県知事のお立場からどのようにごらんになっていらっしゃるのかと。それからもし改善等すべき点、何かお考えだったらお聞かせください。
 

【橋本高知県知事】
 総論と各論があるので、今、宮崎さんがお聞きになった市町村長さんがどういう事業について県との関係で言われたかわからないと、少し答えにくいところがあります。しかし、総論で言えば、私は国と県との関係でも補助金等のあり方を大幅に見直すべきだと思いますから、当然、県と市町村との間の関係でも、まず隗より始めよで見直していくべきだというふうに思います。

 そのことは、単に上下関係だとか、規制、縛りをなくして自由度を高め、地方分権につなげていくということだけではなくて、さまざまなむだなとは言いませんけれども、そのことによって発生する事務作業をなくして、ほんとうに実のある仕事に県なり市町村の職員が集中できるということにもつながりますので、私は今のお話であれば、宮崎さんが多分考えておられるような方向に県と市町村の関係も変わっていくべきだというふうに思います。
 

【野呂三重県知事】
 私もその市町村長さんのお話が具体的にどういうことを指しているのかというのはわかりにくいところがありますけれども、しかし、一般的にそういった少し議論の混乱等があるとすれば、これはやはり国の役割と地方の役割、県の役割、市町村の役割も含めて、そういった議論がきちっとなされていない。そういう意味では、いわゆる将来の国の姿としての理念の議論が欠けているというところに一つは原因があるんだろうと、こういうふうに思っているところであります。

 それから今、三重県におきましては、市町村との関係につきまして、そういった議論が出てくることを少し前向きに県のほうからもやっていこうということで、今地方分権の推進方針を持ちまして、その中で地方との、地方というのは市町村と県との補助金のあり方、包括的権限移譲のあり方、それから物によっては市町村と県とが一体的に仕事ができるのではないかというようなことを含めて、市町村の内発力を増すための検討をやっておりまして、そういう中では市町村の方と県の者と一緒にミーティング等を持ちまして、これからそういうところを具体的に詰めていこうと、こういうことにしております。
 

【司会】
 ほかにございませんでしょうか。よろしいですか。
 ご質問がないようでしたら、以上をもちまして、共同記者会見を終了させていただきます。どうもありがとうございました。
 


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