第4回地域自立戦略会議

公開日 2007年12月08日

更新日 2014年03月16日

第4回地域自立戦略会議

平成15年12月19日(金曜日)10時00分から12時00分(東京都 ルポール麹町)

(メンバー)
 浅野史郎(宮城県知事)
 梶原拓(岐阜県知事)
 片山善博(鳥取県知事)欠席
 北川正恭(早稲田大学大学院教授)
 木村良樹(和歌山県知事)
 國松善次(滋賀県知事)欠席
 神野直彦(東京大学大学院教授)欠席
 月尾嘉男(前東京大学教授)
 堂本暁子(千葉県知事)
 橋本大二郎(高知県知事)
 増田寛也(岩手県知事)
 西村幸夫(東京大学大学院教授)

(地域自立戦略会議)
 本来の分権社会達成には地域の自立が必要との観点から、地域の自立を目指した具体的政策の検討を行うため、高知県知事をはじめとする8県の知事有志及び学識経験者により創設(平成15年4月22日)



 月尾:
  第4回の地域自立戦略会議を開かせていただきます。今日は全国知事会が12時からあるということなので、11時50分で終わらせていただきますことをご了解ください。

 今日は二人から話題を提供していただいて、自由に議論したいと思います。最初は北川教授がポスト・マニフェストということで、自立戦略を構想されておりますので、それをご紹介いただいて、議論させていただく。

  それから、ヒトの自立ということを橋本知事からお話いただきたいと思います。これまで地方自治体は国の政策を受け入れるとか、東京にある大手シンクタンクにお金を払って政策を作ってもらっていたのですが、これからは戦略とか政策を自前で作る必要があり、そのためには人を育てていかなければならないだろうということです。

  橋本知事は地域での人材育成のために高知工科大学を作られたり、高知総合研究機構を作られたりして来られましたので、そのようなことを背景にしてお話いただきたいと思います。それでは最初に北川教授からお願いします。

北川:
  おはようございます。地域経営1000万人というのは、前申し上げたことで書かれたんだと思いますが、若干これは変えていただいてですね、環境経営というかね、地域経営でもいいんですが、言葉に限定を持たせたくないので、環境経営、地域経営どちらにするか皆さんと後ほど相談によって決めていきたいと、そう思っておるんです。

  それはどういうことかというと、この月尾勉強会でですね、地域から変わる日本ということで、この国の形を含めまして地域の形はどうあるべきか、たとえば自立だとか、あるいは地産地消だとか、あるいはですね、それぞれのエコマネー、あるいは分散型のエネルギー資源というようなことで、それぞれ各県を回ってですね、そこで情報発信をしながら今日の知事会議の原型ができてきたという大きなインパクトを与えたと、そう思います。

  そこでですね、一旦そういった形で一つの形が出来上がったんではないかということから、月尾先生がですね、総務省の審議官あるいは東京大学の教授を辞められて名誉教授になられるという形になったときに、世の中に少し問われたのが、縮小文明の展望ということです。千年の彼方を目指してというので、百年単位を超えて千年のですね、彼方を目指してという物の見方もあるのではないかということを提唱されました。

  その中ではですね、拡大成長、増大増加、こういったことが世の中の進歩発展ということで、日本では特に政治も経済もそういう方向に行きましたが、本当に21世紀を踏まえて千年の彼方を目指したときに、拡大は縮小、あるいは増加は減少、あるいは拡張は撤退という発想があってですね、いわゆる我々の資産である地球資源というものをこのまま本当に無制限に食いつぶしていっていいのかという問題を提起されたところでございます。

  そこで、縮小文明の中では資源の制約もあるだろう、あるいは様々な資源の転換ということもあるだろう、あるいは限界ということもあり、もはや喪失してしまったものもあるだろうということからですね、私どもは21世紀の初頭に立って千年単位で、ものを考えたらどうかということが一つの考え方でございまして、千年の彼方という千年の発想、そして8県の知事の皆さんで地域から変わっていったら、千葉県の堂本さんもいらっしゃいますから1000万人は超えるわけでございますけども、1000万人地域の皆さん方が捉えれば国が動くんではないかという意味の1000万です。

  さらにですね、月尾教授のこの理論なんかを、それぞれもう具現化していらっしゃる知事さんがそれぞれの形で、たとえば木村知事は緑の雇用事業ということでですね、林業をもっと多角的に捉えてというようなことでございます。あるいは岩手県ではがんばらない宣言ということで、それぞれ独自の理論をお持ちですけれども、この考え方はですね、

縮小文明というようなこと、あるいは環境経営、環境と経営が20世紀対立していましたが、これからは同軸でやっていこう、win-winの関係でですね、ものを捉えてやっていったらどうかというようなことからいけば、理論はかなり成熟してきていると思いますから、その理論をムーブメントで、いわゆる皆様方が立ち上がって行動していただくことによって、日本全体を変えていくことになればですね、いいのではないか。

  そこで、コンセプトはそうでありますが、各県の取組みについては、それぞれの県の事情を一回整理いただいて、独自にやられること、あるいは統一してやられることがあっても結構だと思いますけれども、そういったことに取り組んでみませんかというのが、私の今日の申し上げたいところでございます。

    したがって、千年の彼方、そしてここにおられる地域の方々が代表になれば1000万人以上の動きができて、地域から日本がまた変えられることになる。そして、1000万人という一つの単位でムーブメントを起こしていけばですね、いいのではないか、これが第一点でございます。

  もう一方で1979年に物の豊かさと心の豊かさが指標によって変化して、1979年の物に期待する幸せ感は40.3%で、心の豊かさを求めるのが40.9%だったそうです。1979年に、約25年前にチェンジしました。そして2002年、去年ですね、指標でいくと物の豊かさがやっぱり幸せ感というのが27.4%でございましたが、心の豊かさを求めるのは60.7%と圧倒的に心の方へと傾斜をしているということなのです。

  先日、橋本さんなどがずっとやっていらっしゃったエコプロダクトというですね、東京大学の山本良一さんとか、ピーター・ピーダーセンさんがやっている勉強会で、講演を頼まれて行ったわけでございますが、そのときにですね、従来のGDP信仰ですね、総生産といういわゆるプラス志向の拡大こそが成長であるというGDP神話がありましてですね、

我が国の政治もあるいは行政もオール拡大というところで、今までの県の文化というものを殺すことによって、その資源を喪失することによって、それを見返りに産業成長をしてきたというようなことを考えたときに、GDP神話だけでなしにですね、GPIという、Genuine Progress Indicatorという本当の進歩の指標というものをどう捉えるかということが提唱されていました。

  私も橋本さんも一緒にずっと勉強してきた中でですね、やっぱり環境と経営というものが対立で捉えるんじゃなしに、お互いがwin-winの関係でやっていけばということになれば、GPIでいえばいろんな指標があると思います。月尾先生の指摘の中にもいろいろな指摘はありますが、ある意味で環境というものに特化してもいいであろうという感じがいたします。

  そこで我々の運動は、現職の知事の皆さん方でありますから、この運動を大きくしていくためには、いわゆる二項対立で環境か経営かということや、成長か保存かというような前時代的な発想を超える、いわゆる両者良しというような形で新しい、いわゆるサステイナブルな千年持続できる体制というものを我々は作っていったらどうかということになろうと思うんです。そうなれば地産地消であるとか、この地域自立戦略会議の、地域が自分たちで自立をしてやっていこうという一つの形も出せると思います。

  あるいは、月尾教授の本来の仕事といいますか、ITですね。いわゆる産業革命的なことが今日の地球資源を食いちぎってきたということから、逆に今度はIT産業がそういったことを守るという科学文明に育てることもできるであろうと思います。すなわち分散型の地域自立戦略とグローバル型のITとをミックスすることによって、我々はサステイナブルなですね、社会を作っていくことができるのではないかと、このように考えます。

 そうしますと従来産業革命は労働生産性をいかに高めるかということがメインテーマでありました。我々はそれを認めつつもですね、いわゆる資源生産性、限りある資源をどうやって最大限有効活用していくかという問題に、もう一歩ですね、いわゆる国や世間と比べてもう一歩踏み込んだ提言なり活動が、この会議を通じてできていかないかなというふうにも思います。

 GDPの戦略というか基本的な考え方は、フロー、所得ということに重きをおいて、資源は食いつぶしてもいいという大前提があったと思いますが、それをいかに、何を使いこなしても所得を得ようということでございましたが、私はかねがねからずっと思っていたことは、政治行政の役割はフローも大切ですけども、しかし本来の仕事はストックではないか。

   パリとかローマとかウィーン、あるいはそこはかとなくですね、いわゆる優れた市民や優れた経営者がいた、政治家がいたと思いますが、やっぱり東京はそれらに勝てない。すなわちストックの仕方が違った、ものの考え方が違ったというようなところへ行かないといけない。そして可能な限りフローはですね、民間に任せていこうというようなことになるんだろうなというようなこともね、ここで勉強しながら一つのものが形づけていければと、そういうことで提案をさせていただくわけでございます。

  先日、経団連の会長の奥田さんが本を出版されて、経団連の会長としての本でありますが、彼もですね、環境立国宣言というようなことをもう言い始めております。環境税まで踏み込むと様々な意見はあると思いますが、しかしこの国がですね、環境立国で行こうというのは、経団連会長も出され始めていることも踏まえてですね、

私どもはGPIといいますか、あるいは千年の彼方までサステイナブルなということを意識して、我々は未来から預かったこの地球をよりいいものにして渡していく。先祖様から預かったこの地球を劣化させることなくですね、もう一回我々はそれを再生し未来につなげていくと、こういうことでやっていったらどうかなというところでございます。

  もう一回言いますと、我々は今までは、たとえば使用者側と労働者側の対立だとか、環境と経営は対立軸だとかいうことから、お互いがコラボレーションしてwin-winの関係で千年持続可能な、この地域から作り、そしてそれが日本の国を変え、やがて私は地球を変えていく、世界を変えていくという月尾理論ですね。

   たとえば日本のアイデンティティーはなんぞやというときに、一つの切り口として若年で隠居生活をしてきちっと次に渡していくと、月尾教授も私も還暦近くなって落ちこぼれたんですが、これは二人とも才能がなかったわけで、もうちょっと才能があったら30歳か40歳でリタイアして隠居と、こういうことだったと思いますが、そういう文化があった。

   あるいはですね、宇宙とか地球を盆栽という形で一つにまとめている。あるいは五七五のですね、17文字の俳句というようなこと、あるいはですね、侘び寂びの茶室というようなことは、縮小とか撤退というものを追求してきた一つのDNAというんですかね、そういったことを持っている数少ない民族ではないかというのが、この本に書かれているわけですが、そういったことで我々が問題提起をして新しい21世紀の文化というものを作り上げることができればということでございます。

  そんなことを問題提起して、40分ほど皆さんでご議論いただきながら一つのまとめる方向が出ればなと、そんなことを思って提起をさせていただきましたので、どうぞよろしくお願いをいたします。以上です。

月尾:
  ありがとうございました。一つは環境というものが切迫した問題になっているので、千年単位の視点で地域の行政とか経営を考えていきたいということ。もう一つは、それを実際に進めるために、たとえばGPIのような新しい指標を考えていこうというようなことをお話いただきました。

   基本的には全部の地域が同じことをやるというわけではなくて、各地域がそれぞれの条件に応じてやるということだと思います。自由にご意見をいただきたいと思いますが、環境問題は堂本知事が参議院議員時代から検討して来られましたので、堂本知事からお願いします。

堂本:
 チャンスいただいてありがとうございます。千年の単位とおっしゃったんですが、私が参議院時代から言い出したのは、億の単位でございます。なぜかというと地球が誕生して46億年、生物が誕生して40億年、そしてオゾン層や地球の周りの大気を作るのに30億年、その大気が出来上がったおかげで海中の生物がやっと陸上に上がれるようになったのは僅か5億7千万年前で、億の単位で考えるとよいと思う。

   それを、おそらく産業革命以後のここ300年、オゾン層ということでいえば、昭和基地での観測でその破壊がはっきりしたのが、ここ3?40年でしょうかしらね。IPCCという温暖化の世界的な研究機構の中で示されているのは昭和基地での観測なんですね。人類というのは、海中の生物の光合成によって30億年かかってできた大気を、僅か100年以下の短さで壊してしまった。

  前、浅野知事が出ておられた子どものシンポで話してたことなんですが、その地球規模でのこの速さ、億という単位に対して僅か数十年という速さは恐ろしいことですけれども、その中で日本は、戦後の高度経済成長の速さがもう幾何級数的で、イギリスやなんかの大体4倍の速さで、人口とか今お話のあったGDPなんかもそうですけど、全部伸びた。

   日本は今バブル崩壊というようにみんな言ってらっしゃるけれども、むしろ、その速さゆえに私は非常な貧しさを経験しているんだと思っています。今お話に出た心の豊かさをそういう形で失ってしまった。

  自分たちの持っていた正に縮小の文化かもしれませんが、永いこと伝わってきた日本の文化も伝わらず、生活の文化も伝わらず、そして何よりも一番恐ろしいことは、そういった文化が伝わらないのと一緒に、環境の破壊を非常に早いスピードでやってしまった。

   これをどうやって縮小していくのかということだと思いますが、縮小の文化もまたあまり速いと過激になってしまう。とすれば、ご本に書いてあるのかどうか分かりませんが、億の単位から数十年の単位というスピード、それに対して私たちがムーブメントの中で具体的にどのようにやっていくのか、やり方とスピードの問題があるんではないかということを、私は環境の問題として提言させていただきたい。
  特に、私は生物のことをやっていましたから。今、山本良一先生によると7分に一つの種が絶滅している。

月尾:
 15分という説もあります。
 

堂本:
  そうですか。いずれにしてもすごいスピードで、日本の野生の植物はもう6種に1種が絶滅の危機に瀕しています。私たちはそのことをあまり認識していないけれども、私たちの土台から生態系が崩れていってしまうことは、おそらく非常に危険なことになっていく。という中で、どうやって循環型の社会を構築するかというテーマに入っていくだろうと思います。どうもありがとうございました。

北川:
  千年というとね、すぐね、変わった人はね、百万年単位とか億年単位とか、堂本さんに言われてそのとおり。実はですね、ここに書いてあるんですけれど、地球46億年を1年間に縮小したらということがのっております。それで地球時間を1年間でやってみますと人類が出来てですね、2分間ですかね。そして、産業革命以降では僅か2秒だというんです。

   その間に人は2,000キロカロリーを使用し、それが農業革命で12,000ぐらいになるというんです。現在25万キロカロリーぐらいを使うから、大体1人で100人分ぐらいの召使を使うぐらい、個人はエネルギーを消費しており、人口が1,000倍でエネルギーの使い方が100倍ですから、かつての10万倍のエネルギーを1人で使っているということになると、これは地球資源を本当に食いつぶしているということですから、太陽と地球の関係からいっても、もうカウントできるぐらいに劣化しているということが書かれている。そういう視点がね、あってもいいと思います。

  かつて、昭石の社長さんがですね、私が我々百年単位、千年単位っていったら、彼は百万年単位で考えてるとこういっていました。堂本さんが億年とおっしゃいましたが、それを地球時間1年間に縮小すると2秒というようなことも、本当に考えていかないけないのかなというのが、ここに書かれているということでございます。

浅野:
  それと全く逆な方向性で、地球レベルというのももちろんありますけれども、その前に地域レベルの環境というのがあるんじゃないかと思います。千年彼方というよりも三年彼方も危ない。

   それは、象徴的にいうと、たとえば経済成長のバブルが崩壊して我々の地域にまだ何とか残った里山です。里山というのはストックですが、たいしたことのない名もない里山が、今ちょっとこわれるスピードが遅くなってきましたけれども、あの成長が続いていたら今この日本に一体いくら残るんだろうかということもあります。

  それで問題提起したいのは、土地利用規制の問題なんですね。象徴的にちょっと感じたのは、7月26日に我が宮城県では宮城県北部連続地震というのがありました。1日のうちに震度6以上の大揺れが3回来たという地震です。幸いに死者はなかったんですけれども、限られたところで建物が千戸以上全壊しました。

  その視察をして感じたことの一つが、急崩壊地です。里山というか、あの辺の山ともいえない小山というか、その前が農家なんですね。やられたところは今回農村地帯ですから、農家の家が結構貼り付いているんです。そこは、家自体は幸か不幸か倒壊しなかったんです。家自体は倒壊しなかったんで、実はこれ何の援助も得られない。ところが、そこには住めないんです。なぜかというと、地震がまた起こるかもしれない。もう1回起きたらその山が崩れてきてその家がもたない、という本当に危ういところを私は現場で見てきて、恐怖感でこれは住めないだろうなと思いました。

  そうすると、当然新しく家を作りたい。目の前に自分の農地があるんです。今減反で32%は我が宮城県でもお米が作れないとなっている。その平らなところに土地がある。しかし、今のままではそこに自分の家を作れないんです。まず、農地転用の許可をもらい、縦覧期間なんかがあって、最低3カ月ぐらいかかったりするんです。というようなことで、少し矛盾を感じました。これをもっと大きく考えていくと、しょっちゅう崖崩れや水害で多くの人命が失われます。それは地図で見ると、谷あいのところに家がべたっと貼り付いている。それこそ前には農地が広がってるというようなところです。

  それから市街地でもあるように、ニュータウンといってどんどん山腹が削られて家が張り付いていく。日本はそんなに土地がないんだろうかというと、実は土地はあるんです。平らなところが。しかし、そこが優良農地といわれて、農地以外には使えないという状況になっている。

   それは、農地をちゃんと確保しておかなければという大義名分ももちろんあるんですけれども、その一方において住宅を作る需要というのはどんどんあるわけで、本来住宅には適さない危険な急傾斜地の前とか、それから山を崩す環境問題、そういうことでどんどん侵食され、危険を増大させている。これはやはり、限られた土地を使いこなしていかなければならない日本の宿命としては、極めて大きな矛盾を抱えているんではないかと思うのです。

  昭和43年から44年に都市計画法ができて、農地法がそれを追っかけてということで、ある意味では霞が関の中で土地の陣取り合戦をやったという、その後遺症をまだ今まで引きずっているのではないか。今、地域経営1000万人運動で地域ということを考えていったとき、環境の中に土地利用というのは当然文脈の中で考えていかなければならないのではないかというふうに思ってまして、これは今手を付けるべきだろうというふうに感じています。

   どこからどういうふうにやっていけばいいのか分からないんですけれども、これも地球ではなくて地域、千年ではなくて三年の、非常に限定されたところではありますけれども、我々に突きつけられた一つの問題ではないかというふうに思っています。

北川:
  私どもみたいに現役を去りますと、三年とかそういうことではなしに、千年、万年になるんです。その点はぜひご記憶をいただいて、それこそが我々の価値でございますが、西村教授におたずねしますが、先ほどの土地利用も重要な問題ですが、まちづくり的な西村教授がずっとやられて来られたことについて、ちょっとご見解を。

西村:
  まず先ほどの土地利用に関しては、今までの計画は住み続けたところにはその既得権でとにかく守るということが非常に大きくあったと思うんですね。それでこれから先人口がどんどん減っていって、地域が多少縮小していくとすると、今までと違うことを考えないといけないんじゃないかというのは、たしかにあると思うんです。

  たとえば今既成の市街地のおそらく7割ぐらいは氾濫源に立地してると思うんですね。そういうところに川がありますから、水害を防ぐという意味ではですね、とにかく早く川の水を海に流すということで、堤防を高くする。なるべく高く高くしていって、そこにある土地を守っていくということだけで今考えられているわけですね。もう一回そういうところは具体的にどういう水害があり得るのかということは、なかなか市民に知らされない形で今までずっときたと思うんですね。

  ようやく最近になって、実際そういうとろにハザードマップみたいなものをですね、実際どこにどういうリスクがあって、そこに住むということは、そこに住むことを選択した人はですね、そういうリスクまでそろってやらないといけない。そういう情報を行政にしてもきちんと開示することによって、これから先どういうところに本来住まないといけないかという議論がやられ始めてくるという時代じゃないかと思いますね。

  今まではとにかく圧力が高かったので、なかなかそういうことができなかった。それができるような時代になってきたんじゃないかと思うんですね。ただ先ほどの急傾斜地が難しいというのはありますけども、逆にいうと日本は古来ずっとその山裾に人住んできたんですよね。そこはやっぱり歴史があって、そこはうまく水を獲得できたりですね、裏側に山があって前に農地があるから、農業的に非常にうまかったと。

   そういうところに山野辺の道ができてですね、非常にいい風景がやっぱり展開してきたということも事実だと思うんですね。ですから、もちろんそれが急傾斜地の場合は問題があるかもしれないけれども、全体としては、大半の場合は、そういうところは非常に安全なところに立地していることが多いので、もう一回歴史の中で、そこにその建物がありそういうものがあることの検証をしていかないと、やっぱりいけないんじゃないかと思うんですね。

   ですから今のような事情もあるかもしれないけども、それは特殊な事情であって、全体としては地域の歴史的な文脈みたいなものを考えていくと、大体の方向はですね、見えてくるのではないか、そこをこう切ってしまってですね、制度の中でこう色分けしようとすると、なかなか難しくなってくるという問題があるんじゃないかと思うんですけどね。

月尾:
 江戸時代までは住んではいけないところに人は住んでいなかったのですが、明治以来、人口が100年で3.5倍に増えたために、氾濫原をはじめ、以前は人が住まなかったところにも住み始めたというのが原因だと思います。

  小渕内閣のときに、広島で崖の下に住んでおられる方々が土砂崩れのために何人か亡くなられました。そこで小渕総理が、民有地であっても、住宅建設を規制したらどうかということと、浅野知事が言われたように、そういう場所に住んでいる人を別の場所に移すための制度を作ったらどうかということを検討するように指示されました、その後をフォローしていないのですが、地方で人口が減っていくということを考えると、西村先生が言われたように、何百年という単位で安全な場所に住むという政策を、それぞれの地域で作ったらどうかと思います。

北川:
  土地利用はとても重要なことだと思うんですね。だから今まで平面的だったものを、本当にバリアフリー、ユニバーサルデザインにするときに、本当はですね、立体的にやった方がよっぽど土地利用というのはうまくいく場合もあると思います。というところは勉強していったらどうかなとも思います。

月尾:
  梶原知事から説明していただいたらいいと思いますが、90年代に、経済企画庁が新国民生活指標を作ったときに、岐阜県や埼玉県が下の方になったので、烈火のごとく怒られて、岐阜県が一番になる指標を作られたりしたことがあったんですが、北川教授が言われたように新しい指標で地域を評価していくというようなことについて御発言をお願いします。

梶原:
 北川教授が、顔つきもしゃべり方も中身も、なんかもうすっかり大学院教授に変わり、もう変わり身が早いなと思ってね、感心しておったんです。
 教授がおっしゃった、心の豊かさということ、だから「何が幸せか」という物差しが変わってきていると思うんですね。岐阜県は東京病にまだ決定的に侵されていない、ということは、21世紀の一番の先進国だと、先進県だと、そういうふうに物差しを切り替えなきゃいけないということを県民の皆さんに申し上げて、今、「温故知新運動」というのをやっているんです。

  それから、「もったいない運動」ですね。「もったいない」という言葉は、皆さんお若いんで記憶がないかもしれませんが、我々が子どものころは、ご飯粒一つでも「これはお百姓さんが、汗水たらして作ったものだから、絶対に無駄にしちゃいけない」ということをしつけられてきたんですね。盆栽の話とか俳句の話とか省資源的なコンパクトな世界というのは、日本人の特性であり、今日地球環境問題が論じられることになったら美徳ではないかと思うんです。

  住宅をどこに建てるかという問題ですね。都市計画法とか農地法がないころに、建物がどう建っておったかというと、大体その土地の庄屋さんは、小高い山腹、日当たりのいいところ、後ろに北風をさえぎる山があって、地すべりは起こしそうにない、なだらかな山を背景にして、田園地帯を見下ろすところに建てるんですよ。

   我々貧乏人の祖先は、谷川に近いところですよね。ですから、都市計画法とか農地法以前の問題として、土地の歴史の情報をどれだけ持っているかということが問題で、新しくそこに来た人は、過去の災害なんか知らないものだから、我々が見ても、危険な沢のところに建てているんですよ。

  そういう俗にいえば古老の知識というものが地域で共有されない、そういうところに問題があって、温故知新運動にも関連するんですけども、日本人の持っているいいところを見直していくということが、即そのまま地球環境問題に通じるんですよ。何も新しいこと言わなくても、我々の先祖が生活したライフスタイルというものが、全く地球環境に適した地球環境を守るライフスタイルなんですよ。そういうようなことも考えていくべきじゃないかなと思います。

  それから産業との関係では、岐阜県では地場産業、焼物だとか家具だとか刃物だとか和紙だとかアパレル、これを再活性化しないと若者の職場が失われちゃうんです。誰もが、ITやバイオで飯が食えるわけじゃないし、観光産業を育成したりして、幅広い雇用の場を確保しなきゃいけない。我々が今やっていることは、海外進出なんです。

   ついこの間の10月、ニューヨークのメトロポリタン美術館で古田織部展を開いたんです。ニューヨークタイムズという辛口の新聞が、もう絶賛に近い記事を大々的に書いてくれました。「オリベ」という言葉が、ニューヨークではもう通用するというぐらいのインパクトを与えまして、まだ展覧会は1月までやっているんですが、茶会をやった、クラフト展をやったりして、ニューヨークで地場産業の飛騨の家具とか美濃の焼物を売っていくという、そういう戦略をスタートさせたんです。意外に売れるんですよ。今回は、売れる見込みができたという自信をつけました。

  日本のマーケットは、家具にしても焼物にしても刃物にしても、消費者の戸棚の中の入れ場所がもう一杯なんですよ。国内マーケットはもう飽和状態。ですから海外展開をしなきゃいけない。海外展開は中国のようなところと、アメリカ、ヨーロッパのようなところとでは違うんですけども、やっぱり日本の伝統文化に関わる産業については、ヨーロッパ、アメリカが巨大マーケットだということが分かったんですね。

   岐阜県でも画一大量生産で焼物を焼いたりなんかしていました。これは全く資源を濫費して、そして低価格で勝負して、儲けは少ない。これが環境を破壊しているんですよ。ですから多品種少量生産、しかも文化による付加価値の高いものを生産すると、それが欧米で通用するものなのです。ニューヨークの方は、安く売っちゃ困るという金持ちが多いんですよ。

   分のところの居間に飛騨の家具だとかを置いて、お客さんが来られ、これハウマッチと言われたときに、あまり安いと具合が悪いんですよ。ですからそういう低価格競争という発想を捨てて、高価格競争というふうに発想の転換をしないと、環境問題もよくならないし、地場産業も活性化しない。文化というのがこれからキーワードじゃないか、しかもグローバルマーケットを相手にしなきゃいけないと考えています。

  地場産業の問題は和歌山県とか宮城県に、それぞれおありかどうか知りませんが、これからどんどん中国物に圧倒されたりして、地場産業が崩壊していく中で、それを守ってかつ若者もそこで働けるようなことをするというのは、少なくとも岐阜県とっては大きなテーマなんですよ。国際化と文化と差別化というキーワードで、我々は地場産業の海外展開戦略を始めたんですね。

  1000万人運動は非常に結構ですけども、やはり浅野さんが言われたように、地域、地域でやっぱり考えていかなきゃいけない。堂本さんおっしゃるその億年単位というものを念頭に置きながら、地域、地域で個別具体的に積み上げていって、それが億年単位のあるいはグローバルな地球環境問題に通じるんだよと、これは女性の方にはそのことが非常に分かりやすいんです。

   だけどね、大体中高年の男性というのはそういうことを言ってもね、「銭にならん」ということだけです。釈迦に説法ですけども、年代層、性別に合わせて、きめ細やかに運動というのは展開しないと、うまくいかない。我々行政の責任者としてはですね、地場産業をどうするかというようなこととを、地域・地域である程度短期的に考えていかないといけないと思うんですよ。大学教授は、のんびりやってもらえばいいんだけど、我々そういうわけにいかないんだからね。

月尾:
  ありがとうございました。北川教授が言われたように、目指す方向はこういう会議で議論して、具体的には地域で政策にするのがいいと思います。細かいことですが、温故知新について、土地を買う場合に二冊の本に投資するべきだと言っています。一つは原書房から出版されている『日本災害年表』という本ですが、過去に、どの地域でどういう災害が起こったかを年表にしたものです。それを見るとね、あの土地は危険だというようなことが分かります。

  もう一冊は東京大学出版会から出版されている、全国の活断層を地図にしたものです。この本は神戸の大震災の後に売り切れてしまったのですが、現在では再版されています。その二冊に投資をすると、温故知新で地域の危険な箇所が分かります。あと3人のご発言のない知事からお願いします。

木村:
  北川教授の先程のお話を非常に興味深く聞いていましたが、私もGPIという考え方が非常に大事だと思います。日本人はGPIというと今度GDPは何の関係もないと、いうふうな二項対立の発想になってしまいますが、両方をどういうふうに兼ね合わしていくかということが、非常にこれからの時代に重要であると思います。

   私は、ケーブルテレビの放送を見ることがありますが、古い日本映画が好きなので日本映画チャンネルをよく見ています。そうすると、日本の原風景のような、これも昭和20年代から30年代ぐらいの映画だったら、決闘鍵屋の辻なんかもスタジオセットじゃなくて屋外で撮っていました。

北川:
  鍵屋の辻ってご存知ない方は。いやいや知らないよ。鍵屋の辻を知っている人、手を上げてください。

木村:
  決闘鍵屋の辻って知りませんか、荒木又右衛門が主人公のものですが。

北川:
  これはね、梶原さんの世代だと知ってる。昔は、次郎長か忠臣蔵か荒木又衣衛門。荒木又右衛門の36人斬りで、三重県の伊賀にありまして、鍵屋の辻と。

木村:
  日本にはもうそういう風景が少ないということを痛切に感じています。その他に私は、「英国アンティークショー」という番組と、それから「名探偵ポアロ」も見ますが、イギリス人は、骨董品を大変大事にして、番組の中で、いろいろなものが出てきます。ポアロの劇は今撮っていると思いますが、アールデコの撮影なら、イギリスならどこでも撮れるのです。

  イギリスでは自然や歴史的遺産がトラスト制度で守られたり、さっきフローとストックという話が出ましたが、本当にストック型の社会として成熟している部分があります。

  日本はあまりにもフローだけで生きてきて、フローの価値によってのみいろいろなものを判断してきた。先程の「もったいない」というのも正にそういうことで、多量多消費ということから、もったいないを忘れてしまったのですが、そうした意識ばかりでも、消費が減少し、景気がますます悪くなると思います。逆に、そのもったいないを生かしながら、どうやって付加価値の付いたものを少量消費し大事にしていくかという、ような新しいやり方を考えないといけない時代になりつつあるのです。

  和歌山県も、その発想で、物事を考えていかなければ、発展は望めません。たとえば農業団体の会議に出席した時、役員の方が、農業は生産性が低くて、海外からの輸入に押されて、後継者の育成が難しいという話を聞かされます。しかし、そんなことは以前から指摘されていることなのです。

   そうではなくて、少ないものに付加価値を付けて作って「心の豊かさ」を売ることのできる新しい産業だというような感覚に切り替えていくべきだと言いながら、施策をいろいろ展開しています。発想の転換が、デフレ時代には必要です。そこから、私は、今までの大量生産大量消費と違う、日本の発展、地域の発展ということがあると思います。

  それから和歌山県は山ばかりで、今までは、過疎というのはだめなところというイメージでしたが、逆にこういうところは、環境保全地域だという発想を大事にしないといけません。

   来年夏頃、和歌山県は、高野・熊野地域が世界遺産に登録されますが、それに合わせて原風景を回復して、場合によっては「ラスト・サムライ」のような素晴らしい映画も日本の各地で撮れるような状況を作っていくという取り組みをすれば、またそこに富を生み出すわけです。
 だから、常に経済的発展とこのGPIということを一緒に考えていくという視点でいろいろなことを、構築し直したら、日本の国もまた面白くなるのではと思います。

月尾
  『ラスト・サムライ』はまだ見ていないのですが、冒頭は長崎県の九十九島で撮影したそうです。それから先ほどの話では、フランスなどでは、家庭で使っている皿とか茶碗は200年前の祖先が使っていたものだというのが普通です。素晴らしいことは、現在でも同じものを作っているので、割れたとしても1個だけ補充できるというわけです。

増田:
  先ほど月尾先生から崖崩れの話がありましたが、国の方で新しい法律(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)をつくりました。この法律の施行により、地域指定を行い、土地利用規制が強化されることになっており、本県では来年度から指定を予定しています。

  岩手県で、その新しい基準に従って4,000箇所危険地域を指定しますが、今まで何十年間も費やして僅か三百何十箇所しか整備できていません。だから区域の整備を完璧にやろうと思えば100年以上もかかってしまう。そういうこともあり、ソフト事業で併せて対策を講じているわけです。

  国の補助制度としては、5戸以上連たんしている場合は急傾斜面にコンクリートを塗り固める急傾斜地の崩壊対策事業があります。5戸以上連たんの場合に、斜面の急傾斜地に厚いコンクリートを塗って、それでがっちりと守るという発想を切り替えて、危険箇所にお住まいの1戸か2戸の住民の方に危険であることを説明し、なんとか移転していただく。これは現在は公共事業としては実施できないので、別途具体的な事業手法を工夫することにより、自然も相当守られる。

  いろいろな場面において、1.5車線的な発想が考えられる。先ほど浅野知事さんから地震の話がありましたが、昨年釜石で、2人土砂崩れで亡くなられた。そこは、急傾斜地があり、お住まいの方もそれほど多くない。そういう反省もあり、先ほど申し上げた「公共事業の手法ではなく移転方式で対応することが必要ではないか」ということを考えたわけです。

   人命に被害が出るようなところではないが、田畑に被害を及ぼす河川の氾濫原がうちの県にたくさんあります。そのため、地元から河川改修事業の要望が多く出されていますが、それは大局的に考えるとあまりいい選択ではない。川や土地の改修工事ではなく、住居移転の補償理論により、自然に、昔のナイル川のように氾濫を自然に受け入れるような方向に発想を切り替えていかなければならないと思っています。

  そのためには、そういった方面に非常に詳しい、あるいは哲学を持っている先生にお集まりいただき、住民の啓発も兼ねて、委員会を立ち上げたいと考えているところです。ぜひ月尾先生、西村先生、北川先生に委員になっていただきたいと考えていました。

  それから1000万人運動ですが、それぞれの地域ごとの特徴的な取組みをつなぎ合わせていくようなことと思っています。先ほど梶原知事さんから温故知新、もったいないの話がありましたが、うちの県でいうと「がんばらない」ということになります。要は東京の価値観をただ追うことだけはやめようということです。その次の段階として、どういうものが地元にあるのか、それにより何を我々は作り出していくのかという課題があります。

  たとえば和歌山の木村知事さんは先ほど面白い話をしておられました。介護の分野でいうと、岩手では、大都市とは違って「地域の介護力」があります。調べてみると、東京の場合、高齢者への配食サービスは、ビジネスとして成り立っているようですが、1食1,000円程度の価格設定になっており、ある程度の所得がある高齢者の方でなければ利用することは難しいようです。

   盛岡の場合、まだ1食500円で成り立つのは、その一番コストがかかる部分、すなわち個々の高齢者の家庭に弁当を温かいままで届けるところを全部ボランティアの方々が担っているからです。そういった1食500円で成り立たせ得る「潜在的な介護力」を、どのように行政として引き出していくのか。

   東京の西東京市にあるNPOで同程度の料金でサービスを提供しているようですが、多分自治体から補助を受けているに違いないと思って調べたら、西東京市から1食あたり約650円の補助を受けて、それで何とか価格を岩手並に下げてやっているようでした。ちなみに先ほど申し上げたのは、NPO法人「もりおか配食サービス」ですが、ここは行政から一切補助を受けていません。

  「がんばらない」の次にどう展開していくかということですが、今申し上げたように盛岡のようなところにはまだ「地域の介護力」があるわけです。各県庁所在地でも「地域の介護力」をつなぎ合わせていって、岩手モデル、盛岡モデルとしての新しい高齢者サービスの仕組みを作っていくというのはいかがでしょうか。岩手だけですと140万人にしかなりませんけれども、そういういわばモザイク状のような運動論がつなぎ合わさって、それで1,000万人。

  次の展開として、ぜひ共通の話題として各県の皆さん方にも考えていただきたいのは、先ほど浅野知事さんからお話がありましたが、土地利用規制の問題です。あとゴミの問題ですね、堂本さんのところも大変ご苦労されておられるようですけれど。こういった問題をどういうふうにしていくかということが、1,000万人を超えて、東京都も含めた何千万人とか、億単位の運動につながっていくのではないかと思います。

橋本:
  お聞きをしていて、住んでる場所とその危険の問題が先ほどありました。自分ももう何年も前になりますけれども、矛盾を大きく感じたのは、高知の安芸市というところですけど、漁港を作ったら、漁港によって砂の流れが変わるわけです。それである地区の前にあった砂浜がどっと流れていって、このままの防波堤ではもたないというので、少し高めの防波堤を作った。

   それでも越波してくるので、ブロックを置いてくれといって数メートル先にバババッとブロックを並べるわけです。それでも大きな台風が来ると、下を洗われてついに防波堤が倒れて、今度は離岸堤を遠くへ置いてくれと、こういうわけです。これを全部足してくと、もうそここまでで既に100億は超えていて、離岸堤を作るとそれだけでまた数十億ということになります。それで守られる人の数が何世帯かというと、もう本当に1人1億円を差し上げて移ってもらった方が安くつくぐらいの数なんです。

  というような公共事業システムがもたらした問題というのが、ひいては環境にも関わり、その住む場所の問題にも関わって起きてきている現象というのが、各地区にあるんではないかなと。今申し上げたようなことは、相当の反省の下に、お金もなくなっておりますので二度と繰り返さない体制にはなっていますけれども、こういうことはもう一度基本として考え直していくべきことではないかなということを感じます。

  それから併せて土地利用にも関わりますけど、中山間地域で、農林水産省は農業で皆さんを飯を食わせよう、林野庁は林業で飯を食わせよう、国土交通省は、というように考えてそれぞれ事業をされてきたと思いますけれども、そんなことはもう地域ではありえないわけですよね。

   とすれば、それぞれがよくいわれますけど縦割りで対応していくんではなくて、もう全く違うシステムを入れていかない限りは、地域というものを守っていくこともできないし、それは人も守れないし環境も守れないということになるんではないかなというので、中山間特区で無茶苦茶に法律をなくしちゃうことでも提案したらどうかと言ったら、担当からそれをやったら膨大な書類づくりをしなきゃいけないので、勘弁してほしいといわれて、それもそうだねと言ったんですけれども、そういうことをもう考えなきゃいけないときに来ているんではないかなと思います。

  併せて、森林についていえば、相続のあり方を今のように分割分割でやっていったら、森林というものは絶対もたないですよね。もちろん憲法にも関わることですし、所有権法のもう根幹に関わることなので、一概に簡単にいえることではないですけども、それぐらいの発想というのを持ちながらでないと、向こう千年か百万年か億年か分かりませんけれども、もっていかないんじゃないかなということを思いました。

  ただ、東京とは違う指標を作ってということをうちでもやってみましたけども、なかなか定着しないということがあります。それは我田引水になってはいかんというようなことももちろんありますけれども、少しでもやっぱりプラスにつながっていくものが、最初に北川さんが言われたように、環境と経済が両立をしていくと、単にお金が余ったらそれに使えばいいねというんじゃなくて、何かそれが地域にもプラスになっていくという、少なくとも見通しぐらいないと、なかなかみんながこれだけ厳しい経状状況の中でついてきてくれないということも思います。

  僕は、例の京都議定書などをロシアとかが批准をしてということになっていって、環境税などができて排出権の取引というものが進んでいくことを考えたときに、この排出権取引に使えるようなものをどうやって作っていくかということも、これは住民にも将来間違いなくプラスになって、今少しプラスアルファのお金がかかっても元が返せる、しかもそれで先進県だといわれてグレードもアップしますと、いうようなことを、何かいいアイデアが思いつかないんですけれども、将来必ず戻ってくるような可能性のあるものをそろそろみんなで考えて、できることはやっていくというのが、具体的に取り組めることではないかなということを思っております。

月尾:
  ありがとうございました。時間の関係で十分には話いただけませんでしたけれども、第一点は北川教授が長期的な視点で地域を考えることが必要だと言われたのですが、それは一致して同じことをやろうということではなくて、北川知事時代にカナリヤ政策という言葉ができたように、他地域が実行して成果があがれば、自地域で取り入れていこうというような方針がいいと思います。地域ごとに長期的な見通しの中で何ができるかということを実行していただいて、考になれば真似をしていくというような方法で進めていければと思います。

  もう一つはヒトの自立ということで、地域が独自の政策を構想しようとか、地域が独自の経営をしていこうというときに、中央政府依存とか中央シンクタンク依存では限界があり、それをどう解決していくかということについて、橋本知事からお願いします。

梶原:
  ちょっとすみません、いいですか。今橋本さんがおっしゃったことに関連して、結局地域環境を守ろうと思うと、地方分権をしなきゃ駄目だということなんですよ。おっしゃったように縦割りの弊害による土地の分捕り合戦、水の分捕り合戦ですね。水でいえば治水、それから農業用水、工業用水、上水道用水、もう一つ一つ役所が違うんですよ。

   地域にとってみればどれも水なんですよ。相互流用というのは地域でやればいいんですよ。縦割りになっているものだから、環境を守るために水を使うとか、そういうようなことは、今の固定した制度ではなんともならないんですね。だから今地方分権をやっていますけれども、縦割りで補助金を交付金に変えようという動きが各省庁にあるんですが、交付金にして自由度は高まるけども、省庁を越えた相互流用というのができないから、おそらく無駄なお金を使うことをまたやりますよ。

  だから地方分権とこの運動とはものすごく大きな関わりがあると思います。一例をあげますと上水道、簡易水道について、よそのところは全部整備できてますか、全部パイプでつなぐのを止めて、谷水なんか使ってるでしょ、あれを浄化すればいいということにしようじゃないかと考えたのです。ものすごく金が安く上がるんですよ。もうどんどこどんどこパイプ延ばしているものだから、莫大な無駄をしている。

   それで個々に集落単位で浄水すれば、もう極めて安くなる。今まで補助金をもらっているからできなかった。今度その補助金が移譲の対象にたしかなっていると思うんですけど、そうするとね、集落単位の浄化施設で足りるんです。たまたま岐阜県で、岐阜県の技術者が抗菌砂という、銀を使った砂で安く浄化できる技術を開発しました。温泉の循環は、塩素でやっているでしょ。

   そうじゃなくて、より簡単に浄化できるんです。分権すれば縦割りもなくなる、いろんな技術を地域・地域で使っていけばいいと、こういうことになって、地方分権とこの課題と裏腹にあるということを、ぜひ、ご理解いただきたい。今まで地方分権という言葉が一つも出てないもんだから。

月尾:
  偶然ですが、来年4月から国土交通省の土地・水資源局が水資源の長期展望を検討する委員会を作って、私が委員長をやることになりましたおんで、梶原知事のご意見を反映するような政策を検討させていただきます。

北川:
  これは梶原さん、そのとおりだと思ってください。エコマネーでもエコエネルギーでも地域分散型というので、地域自立がないとグローバルにもならないということを前提に、これをやってるというふうにご理解いただいて結構かと思いますね。

堂本:
  千葉県の場合は、かつて工業用水に使おうと思った水が今は余っていて、それを上水道に替えようと思っても、工業用水と上水道の補助金の役所が違うものですから切り替えができなくて、100億円単位で大変今困ってます。そこは月尾教授にぜひよろしくお願いをしたい。本当に、今梶原知事がおっしゃったのと違った意味で、私どもの県は下流なものですから、いろいろ水利用で困っているので、水の総合的な使い方、これから新しいスローライフの一つのキーだと思います。

月尾:
  それでは橋本知事、お願いします。

橋本:
  梶原さんにですね、数カ月前に補助金の削減、廃止で具体的に何がどう変わるかというのを、マスコミにいたお前が分かりやすく国民に説明をするものを作るようにと言われて、やろうと思ったら、選挙がちょっとああいう状況になりましたので、手付かずでございますけれども、

   今日の話を聞いていて、さっき増田さんの言われた砂防での1.5車線、砂防、地すべり、いろんなことがありますが、今、梶原さんの言われた簡易水道だとか、いわゆる1.5車線的なものをどうやってたくさん作っていくかということが具体的に取り組めることだと思いますので、ぜひ、まとめ役をやれと言われればやりますし、取り組んでみたらどうかなと思いました。

  ヒトの自立に移りますが、今申し上げたようにちょっと選挙がございましたので、こういうテーマでタイトルをいただいていることをすっかり忘れておりまして、今日ホテルを出るときに何かしゃべらなければいけないと思って考えてきたんですが、ここに来て月尾さんにですね、この自立の意味は国からの自立だと言われました。

   僕は地域の人が行政から自立をするとか、行政の人も従来の行政型の仕事をすることから自立をするという趣旨かなと思ってちょっと考えましたので、私の思った趣旨のことを少しだけ話をさせてもらいたいと思います。

  今回の自分の選挙、いろんな対立軸というか、様々な考え方の違いということをこう区別できるんですが、その中の一つに、行政がやっぱり何かやってくれるだろうとそれを待ってる、または行政がやってくれないからこんなに地域も自分の仕事も駄目になったと、こう思っている人、こういうグループがどこの地域にもおられます。

   一方でやっぱりそうじゃないいんじゃないか、自分たちでやっぱり何かをやらないとどうにも変わらないんじゃないかと、そこにどうやって行政に支援をしてもらうかということを考えてかなきゃいけないんじゃないかというふうに思ってるグループというか方々がおられて、今申し上げた後者の方の方々から、多く私は支持を得られたというふうに思います。

   それからいうと、さっき増田さんも介護力のことで言われましたけれども、地域にあるいろんな力というものをどうやって使っていくか、今回の選挙で住民力という表現をしましたけれども、住民力を生かしていくということが、一つの僕はキーワードではないかということを思うんです。

   というのは、それを思ったのは去年の国体の時ですけれども、いろんな事情で極めて国体そのものは簡素化しました。けれども、その分地域の人が民泊だとかボランティアだとかいろんな活動に参加をしてくれて、県外から来てくださった方々にはとても暖かい、いいおもてなしだったとこう言っていただいたわけです。

  と同時にですね、そういう活動に参加をされた方も、日頃は過疎だとか高齢化だとか、こういうイメージで語られて、そうかなと思ってるけれども、やればできるじゃないかと、こういう思いを多分持たれたと思います。とすればですね、そういうやればできるという自信だとかやりがいだとかいうものを、国体が終わって1年、2年経ってまたどっかに行ってしまったねというんじゃもったいないので、こういうことをこれからの地域のいろんな支え合いの仕組みに作っていけないかなと。

  たとえば、私の県も和歌山県も三重県も、東南海とか南海地震への備えという大変重要な課題を抱えております。これは津波対策ということが一番肝心で、ハードではやはりなかなか守りきれないだろうと思います。とすれば、いかにそのとき逃げますかという訓練をする、そのためのいろんな情報交換をする、自主防災という支え合いも必要になります。

  それから、お年寄りが増えてくる中で、長寿になってよかったねと、こうみんながその社会を迎えるためには、元気でがんばっていける、いろんなことに参加できるお年寄りを増やしていかなきゃいけない。

   また、そのことが医療費だとか介護保険の費用というものを低く抑えてですね、せっかくできた社会制度を破綻せずに済むということにもなるということからいえば、健康づくりの支え合いというのも必要だし、一方その逆で、少子化が進んで大都市部だけでなく田舎でも、若いおかあさん方が孤立をして、なかなか相談する場所がない、子どもにあたるというような現象が起きるということからいえば、

地域ぐるみで子育てを支援をしていくふうな仕組みも必要ですし、もっと単純にいえば道路や河川の管理というものもすべて行政が全部何から何までやるんじゃなくて、どこまでは地域の人でできますねと、そのできますねもただボランティアじゃなくて、そこにうまくお金も回っていくようなものを考えていく、等々の支え合いの仕組みというのは、いくらでも考えられます。

  そこに行政の側も、上から物を見るんじゃなくて、地域の人と同じ目線で仕事をしていくような形に変わってうまくかみ合っていけば、まだまだできることはあるんではないかということを思いました。大昔を振り返ってみれば、堤防を作るでも畦道を作るでも、みんな自分たちでやっておられたと、それが近代社会に行政というものができて、逆に住民の側から行政にいろんな仕事がこうアウトソーシングされてきたのが、近代史だと思います。

   それは明治の富国強兵から昭和の高度成長に至るまで、右肩上がりのときはそれがプラスに作用してきたけれども、今もう時代が転換をした。北川さんの言われた物から心へというような、いろんな指標でも明らかに転換したときに、もうそういう仕組みでは仲々いかないんじゃないかと。

   もう一度、行政に来たものを住民にお返しをする、そのことによって、住民の皆さん方も行政から自立をしていかれる、また、行政の側もこれまでの行政のやり方からまた自立をしていくということが、今必要ではないかなと感じております。

  ただ、そのためには、行政の側もその役所の中で補助金を相手に書類を作って、もう夜遅くまで時間外を積み重ねるんじゃなくて、もっとやっぱり現場に出ていかなきゃいけないんじゃないかというので、本県では今年から7つのブロックにその地域の元気応援団長という名前で人を出して、地域のものを何でもいいからやれと言ってやらしておりますが、

来年はぜひ50人の職員を出したいと、再来年は100人の職員を地域に出して、ミッションはもちろん与えますけれども、与える前に地域の方々からそういう職員が出てくるんだったらば、こういうことを一緒にやりたい、先ほど申し上げた支え合いの仕組みとかいろんなことがあると思いますけれども、今そういうことの提案募集をして、地域にぜひ出していきたいということを思うんです。

  それによって、鶏か卵か分かりませんが、地域の方々も自立をした人というものが、増えていくのではないか。逆に職員の側も単に机の上で書類を作っていろんな事業予算を組み立てるというだけではなくて、もっと地に足の着いた仕事ができるようになる。

   そのことが、先ほどの第一のテーマで語られ、最後に梶原さんが言われた地方分権ということを、具体的にそれじゃこういうことをやっていかなきゃいけなんじゃないかと、最後に申し上げた1.5車線的なものをもっといろいろ作んなきゃいけないんじゃないかということに、つながっていくんじゃないかなということを思っております。

  月尾さんから投げかけられた政策総合研究所という県のシンクタンクなんかも、従来県議会からずっと何をやっているか全く見えないと言われました。たしかにまあ見えないのかもしれないけれども、見えない仕事というのが必要なんじゃないかなと、それを通じて人を作っていくということが、僕は必要ではないかなと思います。

   時間がないのでもう途中は省きますけれども、森林環境税というものを作りました。これをプロジェクトとして2年間動かしていた職員も、このシンクタンクで2年間研究員として学んだ職員です。そういうことをやることによって、新しい挑戦をしていく自立をした職員も育っていくのではないかということを感じています。

  また、工科大学のことも投げかけていただいましたが、工科大学も5つの学科があって全部にシステムという名前を付けています。その意味は何かというと、工科大学ですから専門性をもって勉強していかなきゃいけません。けれども従来の専門性、つまり役所でいえば縦割りの、部局別の縦割りということでは解決できない問題がもう一杯あるわけです。

   とすれば、学校でいえば学際的なそういう物の見方、また考え方のできる人を培っていかなきゃいけないじゃないかという思いで作りました。それなりの人材も育ってきているというふうに感じています。

  これからは、地域ももちろんなんですけれど、役所もそういうふうに学際的じゃないですけども、部局の壁を越えて物を考えられる、そういう職員をどう育てていくかということ、人の自立ということでいえば、それができるかどうかということが、先ほどの第一のテーマにあった、地方から環境ということを切り口にしてこれからの国づくりを訴えていくというふうなことを動かすにしても必要でですね。

   人がその国からも、また行政たよりというようなことからも自立をしていけるかどうか、そのための仕組みをどれだけ作れるかということが大きなポイントかなということを思っております。

月尾:
 ありがとうございました。橋本知事から提起いただいたように、自立には二種類あり、一つは国から自立して政策を作れるということで、もう一つは住民が行政から自立していくということです。これは北川知事時代に主権在民ということを言われて、県民を説得されてこられたのですが、それについて御説明していただければと思います。

北川:
  さっきの千年単位の話もそうなんですが、たとえばマニフェストの話で、選挙公約がでたらめで上がってきた政治家というのは絶対信用できません。これは私は皆さんのことを言う資格はありませんが、私は9回自分で選挙をやってきたから言えるんです。だから政治家を信用するなよと。全く同じことが住民にも言えるのです。

   総理が公約破っても怒らなかった、マスコミも怒らなかった、国民も怒らなかったから、それはそっくり住民にその責任を負わさなければいかない。それが民主主義で、だから民主主義というのはすごくもろいもので、ちょっと間違うと100兆円の借金はすぐに出来てしまい、700兆円の借金というのはここにおられるみんなの責任なんですね。それは住民の責任なんだということを言い切らなきゃ、それは衆愚政治になるということです。

  もう一つは、民主主義がなければ独裁国家になってしまう。ものすごく危ないと思いますね。だとしたら、やっぱり自立してですね、やっていかなければということを、これから強烈にいっていかないといけない。皆さんは立場があるから、僕はプータローだからということで、がんばって一遍本当にそれを思い切って言い切っていこうと思います。それが自立だと。

   それが分権につながって、町のレベルは町長さんが駄目とか役場が駄目というのは町民がそれだけのレベルだということですよということを、本当に思い切って言い切らないと、いわゆるデモクラシーのグローバル・スタンダードに合わせていかなければ終わってしまうのではないかというところを言いたいのです。

   そうするとガバナンスの形がすっかり変わって補助金の分配業とか、許認可分配業が仕事だと思っているこのガバナンスの形が、全部コラボレーション、協働という格好に変わって、お互いよしというwin-winの関係をどう作り上げるか、それができたら今の定数とか予算は半分で何倍もの仕事が簡単にできるというパラダイムに変わっていくと思っています。

  まず県庁の中が駄目だと思います。財政と人事の規律だけで生きているのは、内部規律だけです。外には全然向かっていないから、財政がどうだとかね、人事がどうだというパラダイムで動いていると320万人の地方公務員はオール犯罪人になってしまう。例えばカラ出張をやったという犯罪は、内部規律だからやったわけですよ。あれが外部だったらとっても許されない。そんな公務員を誰が日本人が信用しますかということを、強烈に公務員の方も反省しないといけない。

  しかし、そのようなパラダイムを続けさせたのは国民の責任でもあるのです。非常に非効率な団体を組んでパターナリズムでやってきたわけですから、それはお互いが犯人なのです。よって、700兆円の借金は我々の代で返そうよとかね、環境に負荷を加えた者は直してから次の世代にわたしていかないと、本当にこの国が終わってしまうというところへ持っていった方がいいのではないかなと、そんな感じが僕はするわけです。

   自立というのはそういうことで、国までいってしまったらぼやけてしまって、税制もそうですけれども、だからこそ皆さんがやっていただいてコンセプトを一点にしぼる。一点突破、全面展開ができたらなという、そんな感じですが、行き着くところは、橋本さんが提起されたそこに行って、住民力というか、そこの能力だと思います。訓練の差、そこに行き届かなきゃいけない。

  デンマークに行ったときに、税金という大切なことを政治家に任せてはならない。公務員になんで任すんだと言ってましたよ。だから我々が政治家を動かすのだと、よって投票率は90%ですよ。by the peopleなんですね。だからそこまで行くためには、地域が本当にがんばってやってですね、そういう政治家が選ばれたら、公務員は優秀だからやりますよ。政と官をうまい関係にもっていくのは、これはもう本当に知事たちの、あるいは政治家のですね、重要な役割ですね。

 僕は増田さんの話はよく世間で例に出してるんですけどね、増田さんが進歩したわけでもなんでもないわけですが、マニフェストを出したから、だから公務員が30%の公共事業カットということを、土木部長が知事が言う前に持ってきたというビヘイヴィヤーにしないといけない。せっかくの機会ですから思いのたけをしゃべらせていただきました。

月尾:
  ありがとうございました。浅野知事。

浅野:
  北川教授の過激な発言に乗せられないように、少し穏やかに別な観点から。橋本さんの話を聞いて、私も橋本さんの選挙を付き合って、同じことを言ってらしたので、ああいうことをちょっと選挙民に言うのは、本当は投票行動にはつながらないのではないかと思っていました。行政にいつまでもしてもらってはいけませんということを大上段からおっしゃる。

  それからも感じましたが、私ちょっとパブリック、公ということについての概念と行動規範というようなものを考えるんです。今の橋本さんの話でもありましたが、我々日本人は今の状況で、パブリックというのはほとんど行政が代替をしている、独占しているというちょっと幻想があるんじゃないかと思うんですね。だから、なんか公のためになることは行政がお金を出し、また規制をし、法律を作り条例を作って公務員が執行する。それを住民はお願いをするという、そういうふうに捉えられているのではないかと。

  しかし、パブリックというのは行政とはもちろん違う概念であって、私、プライベートとは区別されますけれども、それは何も行政イコールではないという当たり前のことを理解すべきではないか。それで、それぞれの国民、県民がパブリックということについて自分ももちろん関わっていけるということをちゃんとやっていくというのが、自立ということの一つの条件だろうと思うし、これは意識ではなくて行動だと感じております。

  それで、ちょっと二つのことを提案というかお話したいと思います。一つはNPOです。アメリカはですね、今のアメリカどうなっちゃったんだろうということもありますけれども、しかしそれでもアメリカの強さというのは、やはり民衆の強さ、一人ひとりの強さで、パブリックというものを意識し行動している。アメリカでは今1,000万人を超える人が広い意味でのNPOで食べています。職業として食べています。アメリカがやはり非常に底力があるというところは、これらに支えられているというころがあると思います。

  日本も早くそういうところにいかなくてはいけない。NPO法ができたというのは、本当はそういうところも私なんかは期待したんですが、ちょっと期待が裏切られているという状況になっている。これは、私は非常に大きいのは税制だというふうに思ってます。寄付税制で、正にそのアメリカなんかでは税金を国に払うかNPOに払うかという選択を国民にさせているということがあるんですね。

   だから、いい事業をやっているところには、自分で寄付をすればその分が税控除されるということですから、正にそういう図式になっているわけです。ですから、最初言ったパブリックというのもこれが如実に現れているわけですが、パブリックになるようなことをやってもらうのに、国なり県に税金を払う代わりにNPOにやらせるというのは、正にパブリックということの概念を広げているということにつながるわけです。

  NPOに立派なことをやられるとなると行政も顔色を失うので、それを意識しつつはりきるということで、実はNPOの存在と活動は間接的に行政を応援するというか、カウンターパートという立場になっていくというのが一つと、それから、NPOが自分で仕事をやっているのと対比の上で、行政もこんなふうにやったらいいのではないかということを、迫力をもって迫っていくことができるということからもいいんです。

  それはちょっと別のことで、パブリックにあたることをNPOがやるということを広げていくための税制改正を、この前も聞いていただいたが、このメンバーというかその辺から少し運動を起こしていかなくてはいけないのではないかな、という気がしました。

   財務省は当然ながら税を独占したいということですから、どうせNPOにたっぷりはいかないんですが、少しでもいくということに本能的な恐怖感を感じるというのは当然ですけれども、今のパブリックということをこの日本にちゃんとやっていくための大きな仕掛け、有効な仕掛けがNPOだとすれば、これは決して国の力を弱くするのではなく、強くすることにつながるという哲学をもって、このNPOの税制の問題、寄付税制の問題というのに関わっていいのではないかというふうに思います。

  二つ目の提言は、ものすごく具体的なことで申し上げますけれども、500万人トーチランというのがちょっと頭にあります。500万人トーチランというのは、元内閣総理大臣のご夫人の細川佳代子さんがやっているものです。これは、実はスペシャルオリンピックスという、ケネディ大統領の妹さんが始めた運動というものを支援をするということなんです。

   スペシャルオリンピックスというのは知的障害を持った人にとってのオリンピックス、日常的なスポーツ運動で、それを全国レベル、国際レベルでやるということを展開中です。ご存知の方はご存知ですが、ジョン・F・ケネディ大統領の一番下の妹さんは知的障害を持っていました。ということもあって、そこから発展して、今や世界165カ国がこれを運動し、ちょっと人数を忘れましたけれど、ものすごい人数でスペシャルオリンピックスというのを運動しています。

  実は2005年の2月26日から何日間か長野県でスペシャルオリンピックス冬季大会の世界大会が開催されます。その世界大会というものを日本の長野県が引き受けましたが、そのスペシャルオリンピックスというのを国民にちゃんと知ってもらわなければ、ちょっとした運動会で終わってしまう。

   今、パブリックということをどうやって国民が感じるかというときに、ボランティア活動とかあるんですけれども、ボランティア活動が広がらないのは、実はその対象となる魅力ある活動がないということも一つあるわけで、それで500万人トーチランというのを今言っております。

  500万人トーチランというのは、実は松明、聖火を持ってその地域で走るというだけのことなんですけれども、それはスペシャルオリンピックス世界大会というものを盛り上げようというための運動として目立つように、共通のTシャツを着ながら走るんですね。それからそれはファンドレイジングでもあって、500メートル単位で走るんですけども、走るためには1000円お金が要ります。1000円取って走ってもらう、それがファンドレイジングにも当たります。

  実はアメリカで、警察官、消防士、森林保護員というローインフォースメントに関わる人たちがこれを一生懸命支えているということがあります。500万人トーチランというのは、500万人の人に走ってもらいたいのではなくて、沿道でそれを見て「あれ、これはなんだろう」と思う人も含めて、スペシャルオリンピックスという名前と活動が広がる対象を500万人増やそうという運動です。そんなことで、実は宮城県でも、これは市町村単位でそうやって走ってもらおうというふうに思っておりますので、また別な形でお話をさせていただきたいと思います。

  実はこれ、アイルランドで今年あった大会がちょっとだけエピソード的に面白いんでお話します。アイルランドは、人口何百万人だったか忘れましたけど、ちょうど165の市町村があるんです。それで、スペシャルオリンピックスの世界大会で、165カ国から来る一つ一つにそのホストとして市町村を割り当てたわけです。この町は日本をと。

   そして、ホスピタリティーのコンテストをやったんですね。そして、ホスピタリティーコンテストで日本を受け入れたところが165の市町村の中でトップになったんです。1カ国だけ来なかった、待ちぼうけを食ってしまった町があった。すぐ予想がつくと思いますけれど、来なかった国はカメルーンなんです。そういうこぼれ話もあって、長野でやるときも、今度は参加国数が少ないんですけれども、そうやって各国受け入れようと。ある村は「よし、うちはカメルーンを呼ぼう」というふうにしたという話もありました。長くなりました、ごめんなさい。

堂本:
  浅野知事がNPOのことをおっしゃったんで、この法律を作るのに3年間関わった者として申し上げたいんですが、税制のことも大事じゃないとはいいません。しかし、寄付税制に関しては大変難しい問題で、ほかの財団とか学校法人も全部関係してくるので簡単ではないんです。むしろ基本的なことは、これは民法の特別法という形で位置づけられているんですけれども、当時、その民法34条を変えることの方が大事だと思っていた。

   だけど公益法人とか学校法人とか、ほかの非営利の団体が反対をして、どうしても民法の34条を改正することができなかったので、特別法を作った。今でも、たとえば生協は、千葉の場合で1,000億ぐらいのすごく大きなマーケットを持ってるわけです。

   アメリカと同じように、ほかの団体は一杯やってるわけです。ですから税制もさることながら、全体の動きとしてはやはり民法を改正して、その中で一元化した形で非営利の団体として位置づけない限り、私は税制だけだったら本当に力のあるいくつかの団体は寄付控除をもらえるかもしれないけれど、それ以外はできないだろうと思うので、ちょっと意見を申し上げたかった。

  それから、福祉のことをおっしゃたんで、もう一つだけ短く申し上げます。元の厚生労働省から県庁へ来たその指示が、こういうことしろ、ああいうことしろと非常に高圧的に読めたわけです。私たちは逆転の発想で、そうじゃなくて当事者、目の見えない人とか聞こえない人とか車椅子に乗った人に県の支援計画を全部作ってもらおうということで、1年前からやり出しました。

   そうしたら、本当に言葉の使い方から違うし、すべて違うんですね。千葉県の場合は、あの大きな県で一つのうねりができてしまって、知事はもうとっても大変。なぜならば、こちらが何もオルガナイズするわけじゃなくて、地域地域で実行委員会を作って、そして我々は逆にタウンミーティングに呼ばれていくわけですね。障害者の方が会場費まで自分たちでカンパして作って、これこそ私はGPIだと思った。今日持ってきているので、皆様におみやげに差し上げようと思います。時間がないので、これはもう話にはしません。

  それから三番瀬も2年かけて、西村先生も関わってくださったそうですが、住民が参加して実際に工事をするところまで、やっとたどり着きました。やればできるんだということで、今やそういううねりは出てきつつあるということを申し上げたくておみやげを持ってきました。以上です。

月尾:
  ありがとうございました。浅野知事が最初に言われた公共という概念については、この会議の前身の「地域から変わる日本」の初期に話題になりました。これから地方分権になったときに地方行政がやるべきことは何かということを明確にする必要があるということで、テーマとしてはあがっていたのですが、そのままになっていますので、この会でも来年には議論したいと思います。

梶原:
  今の公共とかパブリックという概念について、日本は非常に誤った認識になっているんじゃないかと思うんですね。本来的にはパブリックというと、ぴたり一致しないけどコミュニティと考えてもいいんじゃないかと思っております。今の日本では公共というと、お上という認識があり、それが公共の福祉というような概念を非常に歪めて、国民に受け取られてしまった。その原因はですね、明治維新で、コミュニティの仕事まで国が吸い上げちゃったんですね。

   そこでそういう乖離が出ちゃったんですよ。これを元に戻すためには自己責任社会を作っていかなきゃいけない。個人個人の自己責任、それから地域社会の自己責任ですね。自己責任で運営していく地域コミュニティ、これがパブリックだといってもいいと思うんですよ。地方分権運動で、本当の意味のパブリックという考えを地域・地域で確立していかなきゃいけない。そしてそれぞれの地域社会が自己責任で、地域を経営していくと、こういうことでなきゃいけないと私は思うんですよね。

  それで、橋本知事がおっしゃった山林の相続の問題について、相続税でもなんでも僕は地方税にしちゃったらいいと思う。高知県とうちが比率では日本でトップクラスの森林面積なんですが、金持ちが山を持っている限りは、山は大丈夫なんですよ。貧乏人が山を持つと荒れちゃって、困っちゃう。

   ですから、一定規模以上の森林所有者の相続税は免除するとか、そういうふうなことをやれば、山は守られていくんですよね。投機的な考えで、分割、分割して細かい山林の所有者が山を荒らしているんですよ。しょうがないから我々とか市町村が金を出して間伐やっているんですよ。

  これは、やっぱり税体系の問題が根本的にある。基本的にはもう国税は廃止して全部地方税にして、そして、人口比とか何かで物差しを作って、税金の種類は何でもいいから、国にはこれだけ自治体から金を出してくれと、共同税といいますかね、そこを目指すべきじゃないかなと思うんですね。

   税金のあり方について、我々岐阜県民の方といろいろ話していると、税金を取られて、どこで使われているか分からない、それよりもちゃんと使われ先が分かる寄付の方がいいとおっしゃいます。

   たとえばあの図書館、あの美術館ですね、あの道路のために寄付をすると。その分の税金は免除するというようなことにすれば、これ浅野さんが言われたのかな、実質、日本全体のためにものすごくプラスになって、税金は無理して徴収しなくても地域は、より少ないコストでよくなっていくと思うんですよね。だからパブリックとか公共の概念をしっかりしていくことが非常に大事なことではないかなと思うんですね。

月尾:
  寄付税制は、堂本知事からも話がありましたように、最初はNPO法案にも盛り込まれていたのですが、結局そこだけ削除され、現在、その議論が復活している状態です。これは財務省も反対だし、族議員も反対しています。それから、現在、恩恵を受けている既得権益も反対ということで大変ですが、梶原知事が言われたように、地方分権の中で進めていったほうが早く実現すると思います。
  最後になってすみませんが、木村知事と増田知事からお願いします。

木村:
  先程の橋本知事のお話には非常に感銘を受けました。住民から行政へのアウトソーシングから、今度は、行政から住民へのアウトソーシングをしていかなければならない、正に私もそのとおりだと思います。その時に、日本の国というのは、公務員法というものがあっても、そのなかで公務員は何かという定義がないのです。公務をやる人が公務員ということになっています。

   こういう牢固たる考え方が、長い間、いろいろなものを縛ってきているということです。やはりパブリックと民間というものを、もう一回新たに構築し直すことが必要で、それに併せて公務員制度なども、考え直す必要があると、私はいつも和歌山で言ってますが、日本の国には、公務員世界と民間世界という別々の宇宙があって、それぞれは発注や受注などの部分的なことでのみ関係を持つということは今の時代にはマッチしていないので、みんな商売人感覚でやれと言ってます。大分改善されてきたと思っています。

  もう一度そういう考え方を再整理し直す必要が、日本にはあるのではないかということが一つです。
  それから国からの自立ということなので、三位一体改革の話を申し上げると、これは梶原知事も全国知事会長としてがんばっていただき、一定の成果を得たと思いますが、、その中で公立保育所の運営費の補助金が一般財源化されることが決まりました。今度はこれを受けていかに、一般財源化されたことで地域住民にとってよくなったか、たとえば幼保一元化みたいなことが進んだかということを、地方で示すことが必要です。

  いつも文句ばかり言っても、だめなのです。今度ようやくその風穴が一つか二つ開いたわけだから、地方としても、これだけできますということを示すことが大切です。他にも挙げてる100や200のものも、地方から理想的な形を示し、今度はこちらへ投げかけられるようにする必要があります。今のところ、そういう観点はなくて、改革の内容が不十分だとかいう話になっていますが、これからは、地方の責任は重いなというような感じがしています。

北川:
 ちょっとね、増田さん申し訳ない。コミュニティというのを日本語でどう訳すかというとね、ない。

月尾:
  以前は地縁社会といっていました。

北川:
  ということになるでしょ。それで私はですね、あらためて自ら名乗るもおこがましいが、公共経営の教授なんです。僕は公共を本当に定義しなきゃいけないというので、公と共というのをどうやって分けるんだということと、公と共と民との関係でね、私はアカデミックな力はないのですが、日本のそういう公共経営学者を今寄せてですね、1年間かけてやろうと思っています。

   ぜひ皆さんが、現場のですね、具体的なことを公務員法であるとか、そういったことも私がアカデミックに処理しますから、皆さんがポリティカルな発言を一つよろしくお願いをしたいと、そう思っております。公共は決定的に今やらなきゃいけない。

梶原:
  別の表現でいくと、利益共同体、ゲゼルシャフトからゲマインシャフトへの回帰というかそういうのがあると思うんです。

北川:
  県庁はゲマインになってるんですよ。国の中央もゲマインになってるから逆にいけないのですね。

梶原:
  三重県は特にそうだったかな。いろんなものを作ったとき、「なんとか村」というのが非常にぴたっとくるんですよ。本能的にね、そういう「村」という運命共同体的なものに回帰現象があるんじゃないかなと思うんですけどね。

月尾:
  ありがとうございました。増田知事、お願いします。

増田:
  皆さんが触れられていますが、要は「自立」、自ら立つと同時に、内在的に自ら律するを併せてもったそういう自立が大切だと考えています。自立するためには自らを律する必要があるし、自らを律するから自ら立てる、自立できるということにつながるということを、改めて感じています。

月尾:
  ありがとうございました。時間が限られていて失礼なこともあったかと思います。今後のことですが、今年の4月22日に最初の会議を開いたときに、15年度内に4回開くということで、東京で3回と岐阜県で1回開かせていただいて予定どおり終わりました。来年度ですが、今年度と同じく4回ほど開催したいと思っております。前年を踏襲して3回を東京で、1回を地方で開催したいと思っております。

  実施時期はなるべく均等に1年間に分散して開きたいと思っています。テーマは今日の議論でも出てきましたので、整理して順番に議論していければと思います。もう一つ、東京以外で開くということについては、岩手県の増田知事から、岩手県でというご提示もありますので、そうしたいと思います。時期は私のカヌーの都合もあって6月ぐらいになると思いますが、三陸海岸で開かせていただきたいと思います。
  事務局は岩手県の東京事務所で引き受けていただいておりますが、そちらから三月になったらご連絡しますのでよろしくお願いします。
 


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