公開日 2007年12月08日
更新日 2014年03月16日
知事対談「高知の山、日本の山」
平成15年4月24日(城西館)
(対談者)
熊崎実(NPO緑の列島ネットワーク代表理事)
橋本大二郎(高知県知事)
(司会)
小池一三(OMソーラー協会理事長)
日時:平成15年4月24日
場所:城西館
主催:OMソーラー協会(第18回全国経営者会議)
(小池)
対談ですから私がいるのはおかしいんですが、進行役といいますか、呼び水役をさせていただきます。話が弾めばお二人でやり取りをしていただければと思います。
受付の時にこれまで高知にいらっしゃった方はと、質問をいたしましたところ47%の方が初めて訪れたと回答してくれておりました。富山の頼成工務店さんと朝朝食を一緒したんですけれども、夜中の2時の列車に乗って、飛行機に乗って大阪から来たというわけであります。
ここには、北海道から鹿児島まで、350名の工務店経営者が集まっております。そこで、まず最も贅沢なガイドであります橋本知事の方から、高知県の御紹介を少ししていただいたらと思います。
(橋本)
ご紹介いただきました高知県の知事の橋本でございます。このたびは、北は北海道から南は鹿児島まで工務店の皆様方ようこそ高知県においでくださいました。心から歓迎申し上げたいと思います。
これだけ、大勢のお客さんがいると滅多な話は出来ないなと、緊張しますが、何も準備をしないで来ましたので、どういう話になるかなと思って若干心配でもございます。
高知のご紹介をということですが、高知は地図を見ていただければわかるように東は室戸岬、西は足摺岬という岬が両手をつきだすような形で太平洋を抱えた形になっています。ですから全体で700キロを超す長い海岸線を持っていますし、桂浜には太平洋を望む形で坂本龍馬の銅像が建っていますので、海の県、海の国というイメージが強うございます。
実際、今も漁業も盛んですし、鰹の一本釣りや、それを使った鰹のたたきなども名産品です。さらに昔から鯨の漁もあった県でございますので、今も大敷という定置網に鯨が引っかかったりする。それを食べるという鯨の食文化も残っております。ただ、これは外国の方が来られるとなかなか紹介をしにくいので、最近は気を遣うことが多ございます。
このように、海の国というイメージがございますが、実際は山の国でございます。高知県は、県の面積の84%が森林、全国で一番森林の比率の高い県でございます。今日のお話しのテーマもその一つかと思いますが、なかなか山の木材の価格が下がって手入れが行き届かない。
ということから森林環境税という税を考えたり、もうちょっと木に親しみ、木を活かしていこうと、木の文化県というふうな構想でいろんな取り組みを進めたりといろんな事業を進めています。今日こうして皆さん方が高知に来ていただくきっかけになったのも、こういう木の文化を考えようといろんな取り組みの延長線ではないかと思っております。
山と海を繋ぐ川も非常に多くて、四万十川に代表されるような良い川もいっぱい残っております。この川の流域をどうしていくか、そうして山の環境をどのように今後考えていくか、更にそれと繋がる海の資源をどのように活かしていくか。
例えば、最近は、魚だけではなくて海洋深層水という室戸の沖合の海底から汲み上げている海の資源を使ったいろんな産業も出てきておりますので、こうした海、川、山という自然の資源をどのように今後活かしていくのかが、本県の課題かなと思っています。
あわせて、さっき坂本龍馬のことをちょっと言いましたけれども、歴史文化という面から見れば、明治維新を支えた志士がいっぱい出た県でございます。なかなかそれをうまくテーマとして、使い切れていないというところはございますが、そんなことから、来年ちょうど高知空港の滑走路が延長されますので、それを機会に高知空港を龍馬空港と名前を変えたらどうかという運動を県内の方がされております。
で、6万人くらいの署名が集まったといって、一昨々日、知事室にお見えになりまして、「うんうんそれは良いね」と申しましたら、早速県内から「私は坂本龍馬が嫌いだ。龍馬空港となったら私はどっか県外にでたい」と、おばちゃんからメールが来まして、さすが反骨精神といいますか、いごっそうハチキンの高知県人らしいと思いました。
まあそのような高知県でございます。お時間も限られているかとも思いますが、是非いろんな所を見ていただきたいと思います。明日は、梼原などのオプショナルツアーもあると聞いておりますので、是非この機会に高知県の自然、歴史風土を少しでも感じ取っていただければ幸いでございます。
(小池)
ありがとうございます。皆様のテーブルの上には、今お話しにありました室戸の海洋深層水マリンゴールドがおかれています。お飲みになりながら対談をお聞きください。
今、知事から、高知は海の国だけど、山の国であるというお話しがありました。熊崎先生は、世界の各地の山、日本の山もあちらこちら探訪されておられます。高知の山の印象なりも含めて、日本の山の持っている、抱えている問題といったことについて少しお話しいただけたらと、思います。
(熊崎)
私も高いところに上げられて少し緊張していますが、橋本知事と会ってこれからどういうお話しになっていくのか、ちょっと不安もありますけれどもよろしくお願いします。
僕、あまり高知県のことは知らないですけれども、何回か森林調査に来ましたし、少しだけ僕の印象を述べさせてもらいますと、高知県にはすごい天然杉がありまして立派な林業経営、僕がよく参ったのは山本さん、今、山本速水さんになっていますか、先代の山本さんにいろいろ教わったことがございました。
全体としては、高知県は戦後すごい森林資源を造り上げた。人工林比率も高いですし、蓄積も大きい。ただ、全国的なあれから言いますと高知県は木材の出口が少ないという印象を非常に強く持っています。
今回ですね全国に先駆けて高知県が森林環境税をお作りになり、国産材振興にむけて非常に精力的な取り組みをおやりになっている。また、今回こういうことで、高知でOMのこういった大きな大会が開かれる。僕は一つの画期的なことではないのかと思います。
今、僕の頭を一番占領しているのはどういうことかと言いますと、日本の森林と林業をどうやって建て直したらよいかと良いことですね。日本の森林林業ほど、こんな惨めな状況になっているところは、ヨーロッパ各地を歩いてもどこにもないんですよ。
例えば、日本とスウェーデンというのは森林面積は同じくらいなんです。蓄積も同じくらいなんです。そうでありながら、今から50年くらい前、1950年頃であったら、スウェーデンというのは、だいたい4千万立方くらいの木材生産をしているんです。そのころ日本は、6千万立方木材を生産していました。
今それがどうなっているのか、スウェーデンは6千万あるいは7千万立方近く木材生産している。ところが日本は2千万立方以下に落ち込んでしまっている。今、日本の木材自給率は、たったの18%と言いますから、イギリス以下なんですね。ほんとに世界でも低い方になっちゃった。
今、木質バイオマスのエネルギー利用ということがいろいろ言われているんですが、例えば、スウェーデンの場合ですと、ペタジュールという単位で表すんですが、バイオマス燃料というのは、230ペタジュール生産しています。それはエネルギー消費全体のどのくらいかと言いますと、まあ、いろんな算定の仕方があるんですが、2割近くがバイオマスでエネルギーを稼いでいる。
ところが、日本の山からでてくる、あるいは廃材を使ったエネルギーはどのくらいあるかといいますと6ペタジュールしかない。それは、正に総エネルギー消費の中からいうと0%。日本の木材循環の非常に特異点があるわけです。
今から30年40年前だったら、例えばアメリカの場合だったら、非常に乱暴な木材の使い方をしていた。原生林から伐ってきて良いとこだけ使ってあと全部捨てるような非常に無駄の多い利用の仕方をしていました。
その頃日本はどうかといいますと山から降りてきた物は全部利用していたんですね。枝葉まで燃料に使うくらい集約的に使っていたんですね。その日本が今は良いところだけ伐ってくるが、後は全部山に捨ててくる間伐しても伐り捨てという状況になっている。
ところが今アメリカに行きましたら、ほとんど捨てるところはないと言っていますね。山から降りてきた物の最終の行き場を見てきますと、やっぱりみんなエネルギーになっているんですよ。
アメリカの場合、4億立方、5億立方の木材を伐っているんですが、そのうちの22から23%が建築材なんです。32から33%はパルプです。残りの47%は、みんな燃料になるんです。良い物から順番順番とっていって、何もとれなくなったらみんな燃料になっている。その循環が成り立っているんです。
日本の場合には、パルプ材はみんな外国から入ってきますし、燃料はみんな化石燃料ですので、山は本当に利用されないという状況です。それが手入れ不足になり、それで日本の山は動かなくなっている。これをこれからどうやって動かしていったらよいかが、僕は一番大きい課題ではないかなと思います。
(小池)
熊崎先生に緑の列島ネットワークに是非参加してくださいと申し上げたのは私であります。街側の我々は取り組みであります。山側というか、特に世界の山をいろいろ見てこられた先生の見識といったことを、我々、街の側の人間も良く知ってかからないといかんということもあって、先生に御出馬いただいたわけです。
今、お話しの中で高知県は、森林資源が実に豊富なんだというお話しがありました。高知県の山について少し知事の方から、先ほど全体のご紹介がありましたが、山について少し踏み込んだ御紹介をいただけたらと思います。
(橋本)
なかなか難しいご質問でございますけれども、高知は、昔から非常に良い天然木、天然の森林が数多くございました。一番名前として有名なのは馬路村の魚梁瀬杉という杉の銘木です。これは今も高知県の県木、県の木のマークになっています。
こうした銘木が数多くありましたから、古くは平安宮の造営などにも高知の木材が使われていますし、また、江戸時代、1615年といいますから江戸幕府が出来てまだ間もない頃だと思いますけれども、大変、山内藩の財政が厳しかった。
そこで、白髪山から吉野川を通じて大阪へ木材を運んで、それを大阪で売って3年間で藩の財政を立て直したという歴史があります。今、我が県も財政に苦しんでいるので、うらやましいなと思いながら、その歴史の話を読みましたけれども、そうしたことから今も大阪には白髪橋ですとか、土佐堀とか高知ゆかりの名前が残っております。つまり、そのころは大阪にとって高知というのは御近所にある山のような役割だったんではないかなということを思います。
そういうふうな歴史の積み重ねの中で、現在の四国森林管理局、昔の高知の営林局、これは、全国の営林局がどんどん赤字になる中で、最後まで黒字でやってこれた局でもございました。現代では、西本願寺さんの造営ですとか、それはヒノキなんですが、いろんなところに高知の木が使われています。
戦後は、それがどんどん人工林に変わって参りました。そして、その人工林が、今、熊崎先生からお話がありましたように、外材が利用されるということ、また、国内の流通体系がなかなか昔ながらのまま変わらないとか、いろんな事情の中で、どんどん手入れが行き届かなくなるという、これが高知の山でも同じような現状であろうと思います。
今、魚梁瀬杉という馬路村の天然木のお話しをいたしましたが、この馬路村でも天然木はどんどん減りましたので、間伐材をどう使っていくかということで、今日この「共有」という号外を見ましたら、その中に松澤さんが設計をされたエコアス馬路村という第三セクターの会社の工場(アンテナショップ)が、土佐派の家の事例としてでています。
このエコアスというのは、エコロジーつまり環境で明日を考えようという単純な命名ではございますけれど、つまり間伐材を使ったいろんな木製づくりに取り組んでいる会社でございます。
例えば、間伐材を非常に薄く切って、それを目が重なるように3枚重ねて、それを使ったトレーですとかお皿ですとか、そういう物を造る、そんな新しい、まだビジネスとしてはいろいろ価格競争の問題がありますので、きちんとした収入の上がるビジネスには育っておりませんけれども、
様々そういう工夫をしながら、天然木の時代はそういう意味では終わって、経済林としては、人工林をどう活用できるかどうか、まさに熊崎先生が投げかけられた課題が、そのまま高知県にはぴったり当てはまっているなという感じでございます。
(小池)
熊崎先生の方で、先ほど「資源が豊富な割にまだまだ出口が」ということでありまして、高知県、私が知る限りにおいても、それを普及する専任の人をですね、県の職員の中で配置されていたりということで、非常に積極的な取り組みをなさっていると思います。
しかし、木をどういうふうに多くの人に使ってもらうかというのは、工業化社会の中で非常に難しい面を持っているのではないかと、その当たり、木の使われかたの問題や出口をどういうふうに広げていくかというか、持っていくかの点について、熊崎先生の方で少しお話しいただけますでしょうか。
(熊崎)
僕は、長らく教師をやっていたもんだから、すぐ教室の講義のような形になっちゃって、あれかもしれませんけれども、先ほど言いましたように日本だけが、日本の森林林業だけがヨーロッパに比べて全然しょぼくれている。
いったいなんでかというのがいつも課題なわけなんですね。それを比較していきますと、まず、他の国々と比べて、はっきりと遅れているというのは、木材産業の集約化と統合というのが、本当に進んでいない。
日本の場合、まだ、小規模の製材工場とかいうのが、まだばらばらになってて、それが統合されてないというのが目立ちます。それから、川上の森林の所有規模が小さいというのは、日本の宿命なんですけれども、ヨーロッパだって、同じように小さいところいっぱいあるわけですね。
そういう小さい所有単位から、安定して日本の場合、材が流れてくる仕組みが出来上がってないんですね。山から安定して材が流れてこないもんだから、だから、下の方の下流の木材産業も統合集約化のやりようがないということになる訳なんです。
実は、木材の完全なカスケード利用というんですか、一番良いものは製材工場に行き、それからその次に悪いものはボードの製造、パルプに行き、一番、どうにもならんとこだけエネルギーに行く。
そのエネルギーを使って、低質材の木材を乾燥し加工するというその循環を成り立たせるためには、ある程度、木材産業の集約化、統合がなされにゃいかんわけですけれども、ところが、それやろうにも今度は川上の方から安定して材が流れてこないという。今、そのジレンマを抱えているわけです。
僕はね、岐阜県の生まれなんですけど、ずっと東京の方にいまして、今度新しい学校が出来ましたもんだから、岐阜に来まして、それで見てましたら岐阜も高知と同じように造林やってすごく山を造ったわけですよ。
それで、今見てますとね、間伐の補助金もいっぱい出しているんです。だから補助金やるから間伐しなさいといいますと誰か手を挙げる人はいるんですよ。あっちでぽつん、こっちでぽつんあるんだけど、そんな細かい間伐をやってたらコストは高くなっちゃう。とても出してくるあれにはないわけですね。
だからどうしても伐り捨てということになっちゃうわけです。また、そういう格好で、お金が山持ちさん所に入らないもんですから、山持っている人たちも山への関心を無くする。無くしたら今度は山の管理放棄ですよね。
管理放棄が今どういう状況になっているかというと、一部の人は山を経営しているんだけど、後みんな管理放棄の山ばっかが増えていくわけです。そうすると、山が完全に動かなく訳ですね。
で、先ほどいいましたように日本の木材生産といいますのは、どんどん下がっているんですけれども、僕は岐阜に居て、すごくこれは怖いなと思ったのは、今のようなふうに、動かない山がいっぱい出来ちゃったらもう川上から材が流れてこなくなるんじゃないかということですね。そこに重要な問題があって今までは、山の経営というのは山持ちさんに任しといたらそれで良かったわけです。それなりに管理してくれたわけです。
ところが、今のような格好で、それが管理できないということになりますと、管理放棄の山ばっかりが増えていっちゃうわけですね。山持ちさん達が管理できなくなったら、それに替わって、誰が管理していくのか、日本の山にこれだけの沢山の資源が出来たわけだから、それを安定した流れを造ってですね、建築材に加工するなり、それからもっとバイオエネルギーとして利用するなりそういう格好で何か動かしていくような仕組みを造らない限り、なかなか山は動かない。
それから、僕は、今、あれですね、先ほどちょっと小池さんが紹介してくれましたように、「近くの山の木で家をつくる運動」というのは、建築家の皆さんがイニシアとって始められたわけですね。
その動機というのは、今まで建築やっていた人たちとも、日本の山がこんな風になったら大変だという発想があったと思うんです。だから、建築家のサイドでも山何とかしなきゃいかんという危機感があったと思うんですね。だからそういう運動の中へ、僕も入っていった訳ですけれど。
今度は、山の方としても、建築家の皆さん、あるいは工務店の皆さんの日本の山を何か利用したいという、それに応えて、もっと僕は山の方の条件も整備して行かなくてはいけないと思うんですね。
その整備をやっていく上で一番大事な点は、今のような格好で、動かなくなる山をこれからどうやって動かしていくかというのが、それが非常に重要な点になって、おそらくこれから高知県の森林というのも、今回出来た森林環境税なんかを契機にして、おそらくそういう格好で山を動かしていこうとする意図があるのではないかなあ、と思っているんですがいかかでしょう。
(橋本)
今、先生おっしゃっていただいた山への関心というのが、森林環境税というのを考えた最大のポイントというかキーワードでございます。で、この森林環境税というのを考え始めたきっかけは、地方分権一括法といういろんな法律改正があって、法定外の普通税、法定外の目的税という、ちょっとややこしい名前になりますけれども、地方でいろんな税金を造るのが、自治省、現在の総務省のいろんな手続きを経ずしてですね、割と簡単に出来るようになったということがきっかけでした。
三重県の産業廃棄物の税ですとかいろんなものがそこから出、高知県でも、何か、この新しい制度を使って出来ることはないかと考えました。いろんなアイデアがでたんですけれど、考えて見るとですね、県の財政が厳しくなった、だから地方分権という流れを活用して、
なんか新しい税金をつくって収入を増やすということを始めますと、県民の皆さんから見ますと地方分権で、どんどんどんどん税金ばかり増えて、これは地方分権というのは、誰のため何のためのもんだということになりはしないかと思いました。
そこで、高知県の場合はですね、新しい財源を求めるということよりも広く薄く負担をしていただくことによって、これまで、関心を持てなかったことに何か関心を持って築いていただく、そういうきっかけになるような税が作れないかということを思いました。そこで、考えたのが森林環境税というものです。
先ほども申し上げましたように、84%が森林という全国一森林の比率が高い県ですし、また、大変手入れの行き届かなくなった山も増えてまいりました。そうなりますと、勿論経済林としての木材価格云々の問題もございますが、環境面で考えましたときにも、これまではたしてきた山に水を蓄えて、じわじわと川に流していくという水源を涵養する効果がどんどん薄らいできます。
そうなりますと、山に降った水がいっぺんに川に流れ込んで下流に行くということで、これまで予想もしなかったような洪水が起こる危険もでてくるわけです。また、一方で、夏場、水がかれるという現象も、高知県でも起きてまいります。
更に今問題になっております地球環境の温暖化の原因でございます炭酸ガスを吸い込んで酸素を出すという役割を森林が果たしているわけでから、そうした公益的機能がどんどん薄らいできます。
これは勿論、全国的な問題ではありますけれども、また、高知県でも全県的な問題でありますが、それを、なかなか都市部の方、高知県でも高知市の方などが、意識を持って関心を向けられないような状況になってきておりました。
そこで、先ほどもいいましたように、年間、一つのご家庭当たり500円という程度のものでございますので、財源というほどのものにはなりませんけれども、広く薄くご負担いただく、そのことによって、そのまさに山主に任せておいた、
だけど任せておけなくなった山の管理のことを、みんなの問題として、所有者の問題とか、森林関係の仕事をしている人の問題ということではなく、また行政だけの問題ではなく、みんなの問題として考えるきっかけとして森林環境税を創りました。
で、山の日というのをですね、今、7月20日の海の日もございますし、9月には空の日もございますので、山の日というものを高知県としても設けて、山の日には、みんな一斉に山に入ってですね、仕事の出来る人はボランティアなどをしてみる。
また、出来ない人は、良い森林に行って森林が如何に健康にも良いか、環境にも良いかということを感じていただく。また、悪いというか手入れの行き届いていない森林に行って、これはこのままだったらえらいことになるなということを実感をしていただく。
そこから、何かこう上流と下流を繋ぐ新しい取り組みが生まれてくればなということを思いますし、また、高知だけでなくて徳島、香川、愛媛もですね、同じような取り組みをしてくだされば、四国という島全体で新しい動きが起こせるんじゃないかと。
そういうことができれば、まずは、観念論的な総論的な動きかもしれませんけれども、先生が心配をされている山への関心等ものを少しこう、興すそんな動機付けが出来ればなあというふうに思っております。
(熊崎)
その場合に、一つ引っかかっているといいますか、問題なんですけど、森林の所有権とは何かということですね。今までだったら、先ほどちょっと言いましたように、森林持ってる人たちが非常に良く管理してくれてたと思うんです。
特に日本の森林所有者のモラルというか、道義心というか、それは非常に高いものがありまして、木を伐った後に植えないなんてことは、今まで、歴史的に本当になかったことです。木を伐ったら必ず植えるという道義心でずっと支えられてきた。
ところが最近になって、背に腹は代えられなくなって、伐採したまま木を植えない。全然手入れしないで放置しておく。僕は、そこに非常に重要な問題があると思うんですけど、今、知事言われましたように、森林というのはただ単にプライベートな財産という枠からはずれているんですね。
人間が生きていく以上、我々が生きていく以上、子々孫々、共通して使うものであり、地域の資源であり、ベースなわけです。だから、それを、森林を所有しているからといって、山どうしてもいいということにはならんと思うんですね。そこにもう一つこれから森林の問題を考えていく場合に、今までとは違った考えを採らざるを得ない何かがあるんではないかと。
そういたしますと、さっきスウェーデンの話をしたんですけれども、スウェーデンの森林所有者というのは意外にいろんな規制がかかっているんですよ。伐ったら植えなければいかんとか。
山を沢山持ってて蓄積が出てきたらある程度伐採しないといけないとか、そういうような片一方では義務というのがあるわけですね。そうすると、これからある程度、地域的な視点で森林を整備していく場合、今のような所有権の問題を、そこをこれからどう解決していくかが問題だと思うんですが、知事その点はどうですか。
(橋本)
それは、仰るとおりだと思います。ただ、法制度を変えていかなきゃいけないということが根本にあろうと思いますので、なかなか地方独自にそこまで踏み込んでというところはしかねる面があります。
僕が知事になった時から、山のことは大変大きな問題ですし、間伐を何とかということで、手入れの行き届いてない森林を間伐をしていく救急隊をつくろうというようなモデル事業をやり、検討してみたこともあります。しかし、やはり森林所有者の許可を得ずして、その財産に手を付ける。一つは損害を与えてしまうということもあります。
また、一方では行政が勝手に手を入れることによって森林の価値を高める、個人の財産価値を高めることに、如何に公益性があると言っても、行政がどんどん手を入れていくことがどうかという議論があって、なかなか県独自ではやりかねた面があります。
今回の森林環境税でも、手入れの行き届いていない森林、しかし公益的に急を要する森林、これを行政が直接強度の間伐をしていくという事業を、その税の使い方として入れていますが、やはり森林所有者の了解ということが前提になっていかざるを得ません。
そこをですね、やはり森林の果たす公益性、また、国土保全というような国としての安全という面から、何か法制度、今、スウェーデンの山主さんへの規制というか義務づけというのは初めてうかがったんですけど、そういうものが日本としても考えられて良いときでしょうね。
ただ、そういうことを理念的にいっても、なかなかまだ理解してもらえない状況だと思いますので、例えば森林環境税のようなことでいろいろな動きを起こし、それが全国広がっていって、そうなったらもっと森林のことは山主さんだけでなくて、また山主さんにも一定の義務を負わせながら、国全体として考えるべきだという流れに繋がっていくのを、もうちょっと待たないとですね。
(熊崎)
まだ時期が早いと?
(橋本)
いや早いとは思いません。もう手遅れくらいの状況だと思いますけれども、なかなかそれを動かすのは難しいだろうなと、そうゆうことは是非、提言はしていきたいと思うんですけれども、現実に動くのはどうかなという想いと言いますか悩みもございますね。
(熊崎)
今、僕の描いている夢というのは、高知の山、どの山でも、例えば人工林だったら、5年であるとか10年に一回は必ず間伐で手が入るような、放っている人の山も、そういう格好で管理できるシステムだと思うんですよ。
それは森林の所有権を侵害するということじゃないんです。持っていることは良いんだけれど、そこでみんな皆伐やっちゃうとか、植え替えちゃうよということになったら、これは問題だけど、だけど少なくともそれを間伐で健全な山にしていく。
それだけは森林所有者の義務でもあり、そういう格好で、5年か10年に一回は必ず間伐が入るようにすると、所有権は森林所有者だけども、その森林については、地域に一括利用権みたいな、それを地域で設定することはできんだろうか。
そこからある程度安定した材が降りるようになったら、そしたら例えば間伐材であっても、板にし乾燥し、間伐材というのはいろんな欠点があるもんだから、それを集成材にするような格好で、それも利用していける、そういう何というか循環の道が、そういうことによって開けていく。一括利用権のような何かをね、今度の森林環境税とセットのような格好で、いずれは考えていただけるようになれば良いんじゃないかという感じはするんですけれども。
(橋本)
それは是非考えてみたいと思います。先ほどの先生のお話で、語り尽くされていることですけれども、日本の森林の問題を一つずつ上げていけばいくつも課題というか問題点はありますけれど、流通経路がきちっと出来てないと言いますか、古い流通経路はあるわけですけれども、近代的な流通経路が全然どこの県もどの地域においても出来てないというのが最大の課題だと思います。
先ほどからいわれますバイオマスも、是非やっていかなければならないと思って、いろんなシュミレーションをやったりモデル事業をやったりしていますけれども、今のような形ですと、使う材もですねなかなかまとまった量のものが出てこない。
工務店さんに関心を持っていただいて、是非買おうといっていただいても、ちゃんと必要な時期に材が届くかというと、まだ届いてないぞというふうなクレームが来たりとか、それから年間まとまって、きちんきちんと少量であってもロットをまとめて出していくという力が、本県は特に弱いんですけれども、他の県なかなかできていない。
ですから、良いところは工務店さんに使っていただいて、あとの残った部分を例えばバイオマスということを考えていった場合にも、バイオマスの仕組みを作って、それを動かしていくことも勿論、物理的、科学的には十分可能です。ですけどもそれを集める、そのコストがかかってしまって、それでなかなか他のエネルギーと競争できないというのが現状だと思います。
つまり全て、その物を集めていくロジスティックスが、流通のロジスティックスが一つの大きな問題ではないかなと、いつも感じ続けています。
(熊崎)
僕は今一所懸命バイオマスをやってまして、知事いわれたんで一つだけ今のバイオマスの関連して、正に今いわれたとおりなんですね。スウェーデンで全体のエネルギーの2割ぐらいがバイオマスで賄うといいましたけど、スウェーデンで何であんだけ伸びたかと言いますと、旧来の森林の伐採の仕方、木の出し方というのが根本的に変わったわけですね。
だいたい工場で出てくる残材というのは、比較的工場の規模が大きいもんだから工場の中でエネルギー利用全部されちゃうんです。今一番伸びているのが山から降りてくる未利用の間伐材とか、木を伐った後の枝葉なんですけど、山で木を伐って、枝みんな落としといて、その落ちている枝だけ拾ってくるなんてことになったら、コストかかるの当たり前なんです。
スウェーデンでそれが伸びたというのは、木の伐り方であるとか、木の出し方がみんな変わちゃったわけです。今だったら枝の付いたまま道路際まで持ってくるとかして、そこで、機会で枝を落とすもんだから、黙っていても枝がいっぱい燃料の木がたまっちゃうわけですね。
だから新しいシステムでやりましたら、燃料用のバイオマスを山からおろしてくるのにコストかからなくなったわけです。規模がある程度集積されてきているもんだから、それで安定して流れて来て、廻っていく訳なんです。
日本は、その昔たしかにエネルギー利用していたんですけど、昔と今とは違うんです。昔だったら、かまどにくべたり、風呂にくべたりしていたわけだけど、今はやっぱり電気の時代であり、ガスの時代だもんだから、それに対応するような利用のシステムとか、材の流れてくるシステムを作らないと、昔みたいに山に行って木を拾ってくるというわけにいかないですから。
今言われるとおり、まさにバイオエネルギーでもそうなんですけど、先ほど言いました木材生産がすごく萎縮しているのも、新しい時代に対応した、そのシステムが出来ていないんですね。古い物がそのまま残っちゃっているところが一番大きい。そこをどうやって造っていくかが大変な問題になっている。
(小池)
街の側から言うとですね、かつて材木屋さんが、それぞれの街にあって、材木置き場というのがあって、そこで、滞留するというか留め置かれたわけですね。留め置く、つまり材料がおかれていることによって、一種の、物流そのものが乾燥システムにもなっていた
ということもありまして、大工さんの伝統的な家の作り方と、生産システムというものと乾燥ぐわいというものの時間の流れ方が実に巧みに、日本の社会というのは造られていたんではないかと、ところが、材木屋さんというのは経営が立ちゆかなくなって、マンション建てちゃえてなもんで、マンションなんか建てられちゃってですね、それで、加工する場所も大工さんも失われていったという経過もあるわけですね。
そういう点で、ある面で生産者と消費者というか、工務店というのはある面でいうと消費者の代表みたいな立場でありますから、工務店、消費者との新しい繋がりの在り方みたいなことが、これから望まれるんではないかなと思っています。そこの構築がまだ不全であるというか、十分で無いという問題があるんではないかと。
今までの山の運動というのは、ほとんどが山の側から仕掛けられるんですけれども、なかなかそれがうまくいかなかったという問題がありまして、今回「近くの木で家をつくる運動」というのは反響はすごいんですね。ところが、実態はなかなかそう簡単には進まないという問題でもあります。
小さなネットワークでも良いから、とにかく山と街が繋がって、街の人たちがバスで木を見に来るということで、この土佐でも大阪の私どもの工務店のグループだけでなくて、メンバー達が土佐の山に見に来て、そこでいろいろものを見て実感が生まれる中で、土佐の木で家をつくろうという流れも生まれてきていると思います。
そういう山と街を繋ぐ在り方みたいなものを、これからどういうふうに造っていったらよいのか。今日は工務店さん沢山集まっていますので、そういう点での取り組みや期待といったことについて、お二人から少しお話し願えたらと思います。
(橋本)
今の話で、ふと子供の頃のことをちょっと思い出したんですが、私、東京生まれの東京育ちでございまして、小学校から、中学、高校くらいまで六本木の近くに住んでおりました。
東京の工務店さんも数多くいらっしゃるんじゃないかと思いますが、六本木に今も花屋でゴトウという花屋がございます。ゴトウのたぶん隣だったと思いますが、材木屋さんでした。で、板や丸太が立てかけていました。そういう風景を六本木あたりでも、私が子供の頃は、日常から見ておりました。
そういう風景が全く街では消えてしまいましたから、その風景を今から造れと言っても無理ですので、それに変わるものをどうやって広げていくかということが、街と山を繋ぐことではないかなということを思います。
そのためには少しでも多くの工務店さんに、高知だけではございませんけれども、木材を活用してそれが見えるような家を建てていただくことが必要で、しかもそれを材木屋さんが街から消えたその代わりにみんなが見れるような、見ていただくような流れというのが必要かなと思います。
非常に細かい事例で恐縮ですが、本県でも土佐の木造住宅の普及促進事業という形で、たぶんパンフレットの形で、観光パンフレットと一緒にお配りをしたんじゃないかと思いますが、県外の工務店さんが、高知の県産材を使って家を建ててくださったとき、
そのお家を使って、構造の見学会だとか内覧会だとかされる場合には、その場合には、工務店さんに、「土佐の木材を使ってます」と言っていただく宣伝料として、まあわずかなものですけれども10万円を差し上げるということ。
またそういうふうなことで、お家を利用させていただいたお施主さんにも、5万円相当の木材の製品を差し上げるということをやっておりますし、また、明日、オプショナルツアーがあると聞いておりますが、梼原という町の森林組合が、FSCという資源循環型、持続可能な森林経営をしている森林認証を受けております。
こういうFSCの木材を使って建てていただいて、それをまた宣伝をしていただいた場合には、更に県と町からそれぞれ10万円ずつ出すというふうなことをやっております。
つまり少しでも街から消えた材木屋さんの代わりにPR宣伝をしていただく、その後押しを行政としてやっていくというのも、非常に小さな一歩かもしれませんけど、街と山を繋ぐ一歩かなと思っております。先生はいかがでございましょう。あんまり良いアイデアでも何でもないですか。
(熊崎)
いやいや・・・・。先だって、長野市でシンポジウムがあったんです。長野県でも、田中知事は、例のダムをやめちゃったもんだから、こんどは森林の機能を高めていかないかんわけですよ。
それで、新しい森林条例を造らないといけないんじゃないかと、今、検討しておられんですけど、それと関連して長野市でシンポジウムがあったんですね。やっぱり抱えている問題は、長野も同じような問題を抱えている。
それで、長野の木をどうするかということになりまして、そのシンポジウムで、北海道で「木の城たいせつ社」というなかなか元気のいい建築をおやりになっている山口会長が、もったいないという精神でおやりになっている非常におもしろい方なんですけれども、その方と僕対談したんです。
山口さんが、非常に競争力が強い理由はなにかと言いましたら、今、水平レベルで競争しているから、どうやってやったって、国際競争に負けちゃうっていってるんですよ、中国から安い物いっぱい入ってくるし、そんなもんだから、山元は素材の段階で、製材は製材品で、建築材料は建築材料で水平レベルで競争したら何やっても負ける。そうすると水平方向の競争でなく、縦の統合で解決していくしかない。
縦の統合というと、先ほど土佐派の家の部分で松崎さんが言っておられたように、林業から製材、乾燥、運搬、全部を視野に入れて、そこで一つに繋げて統合していく。その中に、活路を見いだしていくしか無いと思います。
ネットワークを造ることも、結局そのことになっていくのではないかと思います。その場合に、一つは消費者の皆さんに、つまり木材を使う人たちもただ材木を買うという事じゃなくて、材木を買うことが、これが地域の山にどういう影響を与えるか、そこまで考えて買っていただきたい。つまり、物だけでなくて、小池さんの表現でしたら、そういった考え方も一緒に付けて買ってもらうようなことをするのが一つの方法だと思います。
ただ、山の方から言いましたら、山側もそういった消費者の要望に応えるには、これから本気になって改革していかないと、見放されるんじゃないかという危機感を非常に強く持っています。それは、今まで木というのは、何でもいくらでも売れる時代があったので、非常にいい加減な事になっている。
先ほどのようにある程度山から降りてくる材を安定した流れを造くるとか、最低限、ちゃんと乾燥なら乾燥をして、使ってもらうような信頼関係を、山と、木材を生産する方と使う方、その信頼関係が今まで切れちゃっている。そこをこれからどうやって取り戻していくか、そのために今ような土佐のようなネットワークを造っていくことがすごく大事じゃないかと思います。
(小池)
この10万円、5万円というのは、県外、例えば東京の工務店さんが土佐の木をお使いになる場合でもOKなわけですね。
(橋本)
そういう意味でございます。県外の工務店さん用の事業でございます。今、先生のお話しにございました信頼関係が一番大切だと思いますね。木の場合には、消費者は、最終消費者は、例えば木材でお家を建ててくださるお施主さんだと思いますけれども、その消費者の前の、今日お見えの工務店さんが、私達から見れば最大の消費者でございます。
そういう皆さん方との間の信頼関係を、どう創っていくのかということが一番大切なポイントですね。これまでの行政の仕事というのは、森林・林業だけではなくて、農業でもそうなんですけど、JAならJAという組織、森林組合なら森林組合という組織を県内で相手にして、そして物づくりということに非常に力を入れてきました。
良い物を造るとかいうことには大変力を入れてきましたけど、それを如何に売っていくか、しかも消費者の皆さんの、木材のことで言えば工務店の皆さん方のニーズに如何に合わせていくか、また、ニーズをきちんとマーケティングをして、それに合わせた生産体制をとっていくかという、その販売とか流通の面が、非常にやはり行政の視点としても弱かったと思うんです。
これは、ここ4、5年本県でも大きく変わってきましたし、林業関係の職員の人も、とてもそのことを意識してもらって、実際、県内から出ていく山側の人たちと一緒に、大都市のマーケット、工務店さんを回ってお話しをしていくとか、それは県としての信用力を一緒に担保していくという意味もありますけれども、そういうような仕事もさせていただいております。
これに対して、まだまだ、私も言いましたし、先生もお話しになったように、きちんとまとまったロットが、限られた必要なときに来ないとか、十分な乾燥が出来ているのかとか、質の問題、量のロットの問題、そして、きちんきちんとスケジュール通りやっていく進行管理の問題、いろいろそういうところの問題が、まだまだ数多くあります。
そのことを少し我慢をしながらお付き合いをいただいて、工務店の皆さん方からクレーもという形で、また提案という形で、これだけの方がいらっしゃれば、たぶんニーズもクレームもそれぞれ全く違うと思うので、それをうまくまとめられるかというのは、こちら側の力量でもあり、これからの課題だと思いますけれども、
少し時間がかかっても、そういうやり取りをさせて中で、先ほど小池さんが言われたような、街と山を結ぶ関係が出来てくるのではないか、正に先生がおっしゃった信頼関係をそういうやり取りの中で如何に造って行けるかと、そうすると水平の競争でなくて、縦の一貫した生産体制と流通販売体制で、付加価値が付けられて、中国のような所と競争がしていける力を持てるんじゃないかと思います。
(小池)
ちょっとよろしいですか、今、10万円という金額を聞いて、会場にいらっしゃる方が、コストダウンというにはちょっとまだ少ないかなとお思いになった方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私は、大変なことが始まったなとは思っています。県外の方に、高知県が、県外の工務店にお金を出してくれる。こんな事が今までかつてあったでしょうか。むしろこれは仕掛けといいますか、この10万円をどういうふうに使うかということを私なんぞは考えるわけです。
それは、街の人たちをここへ連れてこようということに使っていただくのが一番良いのではないかと思います。そのことによって、注文が取れれば工務店にとって一番大きいわけですよ。ただ原価が、ちょっと安くなったというのじゃなくて、そのことによって、こちらに人が来る。山の人たちと会う。
街の人たちがどんなことを望んでいるのかがわかる。という関係がそこで生じていくわけです。接点が生まれていくわけです。その仕掛けなのじゃないかなと、私は受け止めまして、凄いこれはアイデアだな。金額ということ以上の話だなあと、我々街側が受け止めなくてはいけないなあと思ったんです。
山というのは、それぞれの山によって小さい生産者が多い山もあれば、大きい山主がいらっしゃる山もあります。この間、熊崎先生に天竜の山へ行っていただいて、比較的小さな中でちゃんと経営を成り立たせている林業者の話を先生にご覧いただいたんですが、そのあたりのこともちょっとお話しいただいたらと思います。
(熊崎)
あれは特殊な例かもしれませんが、凄く丁寧な間伐をおやりになっているんですね、金指さんという方で、37ヘクタールという小さな山なんですけれど、みんな家族で、家族労働だけなんですよ、それで丁寧な枝打ちもやって、ちゃんと回していっているんですね。
お子さんも大学を卒業して入って、37ヘクタールで独立してやっていけるかなと思っていたんですけど、OMの職員の方に案内していただいて、いろいろ聞いてみましたら、あれは、山主さんだけの努力ではないんですよ。
みんなの協力といいますか、立派に枝打ちやって良い材を造っているんですが、それをちゃんと評価できるようなふうに使ってくれる設計者がいないとダメですね。また、そういうふうにちゃんと仕立ててくれる製材工場もないとダメなんですね。
だから、今工業化の流れの中で、材料買ってコストダウンということもあるんですけれども、日本の家の伝統的なきめの細かい技術、それで、良い材を造ったら良い材を造ったなりに使ってくれて、そうゆうふうに加工してくれる。それが有りさえすれば、このような格好で成り立っていくということがあるということですね。
それも、例えば、これは山の方で何ヶ月か葉枯らしをして、それから一旦加工をして、それでまた製材工場でも自然乾燥をして、そういったことで良い材を造って、それはかなり高い値段で、ちゃんと需要があって売れていく。ああいう物というのは、労働集約的な日本の林業の一つのネットワークの在り方だと思います。
(小池)
コスト問題でいうと、立木が40年前の価格であったりします。卵と木だけが、あがらない物の代名詞のごとく言われているわけです。「緑の列島ネットワーク」のもう一人の代表理事でもある長谷川さんは、「山から木を高く買う運動」ということをおっしゃっている。
それは、工務店はなかなかそういう風には簡単にはいかない面もあるんですけれども、そういう心意気みたいなものもないと山は守れないという問題もあろうかと思ったりもしています。その辺を含めながら、お二人様に、時間があれですので、締めの話というか、期待や何かを含めて話をお願いいたします。
(熊崎)
一番最後の締めは知事にやっていただいて、僕は、今、大量生産の工業化時代というのが終わりつつあると思います。均質な物を造ってみんながそれを買って、コストさえ安ければいいという時代が、ある程度終わりつつあると思います。
日本なんかがグローバル化の流れから絶対抜けられないんです。その中に有りながら、だけどもこれからの消費者の好みはずっと多様化していくと思います。
自分の満足のいくもの、これ主観的な満足なんですけれども、そういう物に強い嗜好が出てくるということになりますと、木材の場合も単純にマスプロで、コストダウンしたらよいということから、もっと木材の個性を生かすとか、主観的な好みで勝負するというような、そういう行き方っていうのが大きい流れになってくるのではないのかなという感じがするんです。
そうすると、それはまた凄く大事なことで、今、いろんな所で多様な山づくりをやれっていわれている。多様な山づくりとはどういうことかというと、多様な木材がはけていかないと多様な山づくりはできないんです。
そうするとやはり、これから建築家の皆さん、工務店の皆さんにもお願いしたいんですけれども、そういった、日本の山から出てくる個性の有る木を上手に建築の中に活かして使ってください。
それをやっぱり消費者にも木はすごく良いんだよということを宣伝していただくとか、また、今の社会の状況というのは、そういうようなものを消費者の方も受け入れるような、それが出来つつあると思うんですね。
そういうことも含めて、このローカルなところで、消費者と山を造る人たちとが、連携しながらやっていくということが、これから望ましいことでもあり、僕はそんな時代になっていくのではないかなと思っています。
(橋本)
木をもう一度見直そうという気持ちは、行政の側だけじゃなくて、住民の皆さん、国民県民の側にもずいぶん広がりつつあるんじゃないかと思います。ただ、消費者の側から見たときに、木の製品というのは、従来ある石油化学製品だとかスチールの製品に比べてコスト高いんですよね、日本の場合には。
本来安くあるべき物がコストが高いと、そのために資源循環という意味合いからすれば、木の方が良いし、また、日常の生活でもシックハウスや何かの問題を考えれば、うまく木を使っていくが大切だということがみんなわかりながら、手が出ないという面もあろうと思います。
で、水平の競争ではかなわないとは言いながらも、このコストの問題というのは、もう一度真剣に考えていかなければならないことで、そのためには一つは技術開発ということ勿論あると思います。それから行政が先ほど言われたような規制を緩和をしたり、逆に規制を、ある意味では環境的な規制をかけたり、
それから税制面での支援をしたり、財政面での支援をしたり、というような行政が関わることによって、コストダウンを図っていくということもあると思います。もう一つは、やはりマーケットを広げていく、そのことによってコストを下げていくということが重要なポイントではないかなと思っています。
例えば高知の県庁でも、少しでも木材の物を取り入れようというので、大正町という町の森林組合が集成材の机とかいろんな製品づくりをしております。これをもっと県庁の中に入れようということをやったんですけれども、今はもっと価格は下がっているんですけれども、当時ですね、コクヨさんなんかが造っておられるスチールの事務机ですと、2万何千円という価格で入る。
それと同じくらいの大きさのものが、その集成材を使った県内の物だと9万円台というふうなですね、4倍くらいの価格差があると、これではなかなか自然に優しいと言っても、税金使う立場からすると、県民の納得が得られないねということで、技術開発をして5万円台くらいにするということを一方でやり、
一方で、そうであれば県庁とか行政で、もっともっとそういうものを買い込むことによってマーケットを広げようというのが、今グリーン購入という形で木材製品を少しでもグリーン購入の項目に入れて木材のマーケットを広げる取り組みに繋がっています。
そういうことを行政の立場からいえば、これからもっともっと踏み込んでやってコストの面でも、いわゆる先生の仰る単純な水平の面でのコスト競争ということじゃないですけれども、全体的なコストがせめて2割3割くらい高で、資源循環ということを考えたときに、他の代替製品と競争できるような状況を作り出すことも、僕たちの役割かなあと、そんなことを感じております。
(熊崎)
ちょっと一つだけ、付け加えて良いですか。僕もその通りだと思うんですが、何で日本の農業と林業というのが他の国と比べて、こうあれしちゃったんだろ。日本というのは、どっちかというと原材料というのは輸入して、安い原材料を輸入して、それで、電気製品なり自動車なり輸出して、回っていく経済になれちゃったような気がするんですね。
だから原材料を造るというのが、あんまり力入れなくなったもんだから、それで、今のような結果になってきているのではないか、だから林業であるとか農業もそうですが、食料も木材も外国から入って来る。だから、農業や林業は、救済策というんですかね。
衰退していくから救済していくというだけで、本当の意味での産業政策というのが無かったのではないか。今はっきりしてきているのは、国際競争の中で努力している林業と、もう救済策だけになっちゃった林業との落差がどんどん開いていって、だからそれがコストに現れていているから、
やっぱりこれもバランスの問題だと思うんですが、ローカルをある程度重視しながら、その、ものすごく開いちゃったコストを山の方でもある程度下げていくような格好にしなきゃいかん。そうすると、先ほど冒頭に申しましたように、一括利用権のような格好で、ある程度組織的に山を回していくようなやり方をもっていかないと、そういうのがなかなか出来にくいのではないかと、我田引水になりましたが、そう思います。
(橋本)
仰るとおりだと思いますね。補助金、補助金でやってきた政策が、まあ公共事業全体もそうですし、特に農業、林業、漁業などではその力を弱めてしまった。必要な物もあることは勿論あります。
農業の場合には、構造改善をしていくということは生産性を高める上では欠かせないことですから、そういうことを行政として支援していくことは必要なことだったと思いますけれども、バランスが崩れてしまって補助金に頼っていく。
まあ、山の場合にも細かくいろんな補助金がありますし、補助金をもらうためにいろんな計画づくりをやっていくと。で、それこそ林業の県の職員もいますから、悪口に聞こえちゃいけませんけれども、補助金をもらうためには、少々まああんまり必要性というか、実効性を伴わないと思っても、計画づくりに膨大な時間も費やさなければいけない。
本当はそういう時間をもっと山に直接出ていって、地域の方々と一緒にやっていくという仕事に費やしていければ、実入りが減っても、その方が、ここまで厳しくなればよりプラスに転じるんじゃないかなと。
冒頭御紹介いただいた、山本さんという県内では大手の山主さん、山本速水さんなんかも、最近はいつもその話をされます。いい加減、国の仕事を請け負うのはやめて、金は少なくても良いからもっと県独自で自由ないろんなことをやろうじゃないかということをいわれて、そういうことを思いっきり、ここまで財政も厳しくなりましたから、そろそろ思いっきりそういう方向に転換していく。
そして一番の消費者である工務店の皆さん方と、連携をして、それこそ先ほどの10万円を使ってきていただくのも良いし、また森林環境税なんかも一部、そういう街と山を結ぶというのも県内だけじゃなくて、大阪や東京都の消費者の方々、山に関心を持ち、また木造住宅に関心を持つ方を、それで少しお呼びをして何か新しい動きを造るということが出来れば良いなと、今お話しをうかがっていて思いました。
(小池)
山と街、特に工務店の側から山の問題というのは、まとまることによって共同購入とか安くとかいう話が結構ずっとあったかもしれません。しかし、私はなかなかそれではうまくいかないでのないかと思ってまして、大きいネットワークを造ってまとめようということより、小さいネットワークを無数に積み重ねていく取り組みがむしろ大事で、2者、3者という形の単位で、高知にも沢山の山があります。
高知県全体と組むというのではなくて、高知のある山のある人とという関係を、小さくどんどん無数に造っていく事が大事じゃないかと。今日は高知だけじゃない東京の林業家もいらっしゃったりしています。
それぞれがそれぞれの場で、ネットワークの新しい作り方というか家づくりというか、家づくり運動というか、そういう形の中で、木の問題を工務店の側からは考えていけたらいいなと、そのことがひいては、それぞれの工務店の経営の問題にも、この景気の中で、消費者を自分たちが造りたい住宅にあった消費者を生んでいく取り組みにもなるんではないかと思いました。
大変、熱心なお話しで、とても良い対談をしていただけたんじゃないかと思います。どうもありがとうございました。